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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
2章 狡猾に笑う緑色人――ゴブリン編
24/52

2-9.リーベの過去

 昨日やり残した作業――ララッポの収穫を2人はしていた。

 この野菜はとても抜けにくく、昔話の<おおきなかぶ>を連想しながら、ケンイチは足に力を入れる。


「……もうちょいよ」


 顔を赤くし引っ張るリーベの腰に手を回し、体を後ろにそらすケンイチ。異世界人と別世界の男女2人が力を入れることでなんとか引っこ抜ける野菜。もしかしたら魔物よりも強敵なのかもしれない――なんて考えながら、抜けた野菜と共に尻もちをついた。



「おっと」


 倒れたケンイチの上にかぶせるように乗ったリーベは、重い。


「やったー!」


 しかし、抜けたことが嬉しいのかリーベは下にいる少年に気にも留めず、じたばたと喜んで見せた。


「ど、どいて。お、重い」


 腹筋をグリグリと押されているからなのか、潰れた声で訴える。


「あっごめんなさい」



 リーベが離れ、ケンイチは起き上がった。

 よし次、と言った表情でクローバーの大群を見る。それは茂みのように生えており、ララッポの葉である。ララッポは、葉が小さく引き抜くには力がいるし、スコップで掘り起こすこともできない。ララッポは髪の毛のように無数の根を張っており、それを傷つければ品質が落ちてしまうからだ。

 つまり、途中までスコップで掘り、ある程度進んだら引っこ抜く方法がい――—と、昨夜夕食を食べながらサブが話してくれた。



「もっと早く言ってくれてもいいのに」


 そうすれば、こんな苦労はしなかったのではないだろうか――2人がかりで葉を掴んだ。



「よぉ元気にやっているか。2人とも」


 後方の声に、2人は振り向いた。

 そこに居るのは、銀髪を耳元まで伸ばしたショートヘアー。今の時期には暑いであろう青い服に首から下が包まれている。後ろ腰にはダガーを添えており、それはその人の得意武器だ。


「エリス」


 後方のリーベがその名を叫んだ。


「よっ」


 手刀を立てて、彼女は挨拶する。

 昨日ザベスが話していた別のパーティーと言うのは、エリスたちのことだ。

 ん、彼女が居ると言うことは――



「なんで、お前らと同じ報酬金なんだよ」


 舌打ちをする波打った赤髪の男性。顎には無精ひげを蓄えており、明らかにケンイチよりも年上だ。それでいて身長も高く180センチ程度。目は鋭く、そこには攻撃が含まれていた。

 白シャツの上に羽織られた服はモンスターの毛皮でできているのだろうか、少々分厚く肌触りが良さそうな茶色のジャケットである。腰にはショートソードを添えており、鞘の隙間から見える剣先が赤く染まっていた。



「ユーリ。邪魔するならあっち行ってて」



 睨みつけて、吐き捨てるようにリーベは言った。

 ケンイチの腰を握る手に少々力がこもる。

 何があったのか、詳しく話してくれなかったけれど、仲が悪い事は知っていた。昨日エリスが少し話してくれたからだ――まぁ、そうは言っても、理由は教えてくれなかったが。



「邪魔なんてしないさ」


 言葉通りするつもりはないらしく、木の幹に体を預けニヤついた笑顔を貼り付ける。



「せいぜい頑張りな。お姫様」


 それは、明らかにバカにしていた。

 流石のケンイチも前に出ようかとしたが、もっと怒りに震えている人がいる。

 リーベである。

 その瞬間、彼女は充血した眼でユーリを睨みつけ、拳を震わせた。



「アンタいい加減にしなさいよ」


 今にも殴りかかる勢いだ。

 まずい、ケンイチはリーベのほうに手を伸ばす。とどいた――かに思えたが、そこに彼女はいない。いつの間にか手が届かない位置に彼女は居て、走っても間に合わない。



「…………」


 ユーリは、以前として蔑んだ目をしている。

 これはまずい、と思ったその瞬間、



「んなこと言わなくていいだろ」


 冷たい声が響く。

 それは、エリスだ。どうやら彼女は、少々ムカついているのか、ユーリを睨んでいた。


「つまんね」


 エリスに怒られたのが嫌だったのか、彼は舌打ちを吐いてこの場から離れた。



「待ちなさいよ、アンタ!」


 リーベの言葉を無視して、森の中に消える。

 静寂が訪れ、ケンイチはホッとしている。しかし、行き先を失った怒りに支配されそうでもあった。


「悪いな」


 エリスは申し訳なさそうに手刀を立てる。


「アンタは悪くないから謝らなくていい。アイツ変わってないのね」


 速足でリーベが戻ってくる。


 

「人間なんてそんなすぐ変わらねぇよ。じゃ、頑張ってな」


 エリスはユーリと同じ方向へと消える。

 厄介な1人が居なくなり、束の間の平穏も訪れた。


「なんでアイツが居るのよ」


 そうぶつぶつ言いながら、ケンイチの腰を握るリーベ。この状況で畑仕事をするべきなのか、と思ったが、どうやら何かしら体を動かさなければ自分の気が収まらないらしい。

 それはケンイチも一緒だから、察してララッポの葉を掴んだ。

 すると、リーベが背中からポツポツと語り始める。



「正直あんまり話したくないんだけど、ケンイチと組む前はアイツのとこに居たの――って知ってるか」


 アハハ、と笑って見せるも悲壮感が漂う。


「パーティーのとき、エリスさんとめちゃくちゃ仲良かったもんな」


「そうなの……」


 リーベが抜けた理由を知りたいが、正直触れないほうがいいかもしれない。人には、触れてほしくない過去があって記憶があるわけだし――とケンイチは、遠慮をした。



「抜けた理由知りたいでしょ」


 遠慮したが、彼女はその話に触れてくる。

 ここは嘘偽りなく――。


「うん、知りたい」


 そう答えた。


「でしょ――まぁ1つは性格の違いなんだけどね。アイツは魔物を虐げながら残虐に殺す。正直、魔物は憎むべき対象だし、許すべきではないけれど、あんな手や足を切り落とし、弱った所を蹴るなどして撲殺するのはどうかと思う」


 おそろしい――が、自分が死んでた世界にもそう言った人は居ただろうし、あまり変わらないのではないか、と感じる。



「もう1つは?」



 ララッポの葉を引っ張りながら、ケンイチは促した。しかし、何故か一向に続きを喋ろうとしない。

 どうしてなのか、と考えたけど1つだけ思い当たる節がある。

 それって、もしかして――



「剣を握れないからよ」


 リーベは苦しそうに答えた。

 予想通りだ。ゴブリンのとき、ワイバーンのとき、彼女は一向に剣を握っていなかったし、レイピアに白い輝きがあった。

 それが何を意味するのか、彼女は魔物と戦えない――ということであった。



「もう気付かれているだろうけど、アタシ魔物と戦えないの。おかしな話だよね。冒険者なのに戦えないなんて、仕事として致命傷だよ」


「…………」


 ケンイチが黙ったのをいいことに、洗いざらい話し始める。彼女にはもうブレーキというのが無かった。


「アイツにも言われたよ<魔物と戦えないなんて姫様みたいだな>って。それが嫌で抜けたのに、どこ行っても結局戦えなくて、誰からも拾われなかった……。まぁ普通に嫌だね。魔物と戦ってなんぼの冒険者が魔物と戦えないなんて。ケンイチも嫌でしょ? だって、メリット無いんだもん。こういうことしかできないし、ケンイチが望む冒険者の仕事はできないから。ごめんなさい」



 いつの間にか、彼女は泣いていた。

 涙を流し、こんな自分を必死に否定している。



「…………」


 ケンイチは、マシンガンのように飛ぶ言葉たちを必死に拾い集め、まるで大切な宝物のように自分の物とした。

 そして、探す。見つけた宝たちを傷つけないための言葉を記憶の中で拾い集める。



「これが終わったら解消してもいいわ。正直もう――」


 それ以上の言葉は聞きたくない。

 ケンイチは、咄嗟に


「嫌だ!!」


 と大声で拒否した。

 全身の筋肉が固くなって力んだからなのか、ララッポが抜ける。それをいいことに、リーベのほうを向いた。

 そして、さっき探していた言葉たちを手探りで外に放出する。



「別に魔物とか倒せなくても、こういう仕事あるんだろ。だったら、別にこのままでいい……じゃないか」


「えっ」


 見つけたものは、必死に固まって文となっている。

 ケンイチは、加工することなくそのまま話した。



「魔物は狩りたいと思ったよ。そりゃ夢の冒険者だもん、願いはするさ。でも、ゴブリンのとき思った。あれはまじで怖い。俺たぶん耐えられないと思う。だからさ――」


 彼女の潤んだ目に太陽の光がささる。

 あぁなんて美しい瞳何だろうか、と考えながら言った。



「このままでいいんじゃねぇか」


 と、こうしてのんびり異世界で暮らす選択をケンイチはする。しかし、それには納得いってないようで、気持ちが変わったケンイチに畳みかけた。



「ど、どうして。あんなに魔物と戦いたいって言ってたじゃない」


 確かに言っていた。2か月間の教習のとき道具屋カヤに帰れば何度もリーベにそう話していた記憶がある。

 あれがリーベを苦しめていたのか、と今反省した。



「そうだけど。さっきも言った通り、俺魔物と戦うの怖いんだ」


「……嘘じゃない?」


 か細い声に対して、力強く縦に首を振った。



「嘘じゃねぇよ。この目に誓う」


 泳ぐこともなく、動揺も映していない――真っすぐと金髪美女を映した瞳に全てをかける。

 リーベは、真実を知るためにじっと目を見た。


「………」


 目と目が合っていることに照れてしまったけれど、逃げる事はしない。耐える。とにかく耐える。


「………」


 数分の時が流れたかに思えたそのときに、ようやくリーベが目を離した。



「わかった……信じる」


 頬を赤く染めながら、リーベは言った。



「でも、本当にいいのそれで?」


 どうやら、不安らしい。まぁこの前まで<魔物と戦う>と言っていた奴が、突然<怖いんで魔物と戦わない>なんて言ったら疑うのも無理はない。

 嘘偽りのない言葉ではあるが。



「問題ないさ! 早死にはしたくないから、なるべくのんびりがいいよな。まぁ必要になったら、俺が戦うし」



 親指を突き立てる。

 例え怖くても、戦うことはできる――実際に昨日それができたわけだし、だから心配しなくても問題は無かった。


「わかった。でも、嫌々で組まなくていいからね」


「あぁそれはもちろんだ。嘘はないようにしよう」


と、言ったところで「やっぱり」と言葉を付け加える。



「ちょっとぐらい嘘は持とう。全てをさらけ出すのは、できないことだってあるしね」


 それは、ケンイチで言う所の別の世界の住人と言う話だ。混乱することを考えて、リーベにも、カヤコにも話していない。


「どっちなのよ」


 リーベはそう言いながら、そこに不信感が無かった。

 2人は笑い合った。今後、冒険者として苦労はするだろうけど、それでも構わない。ただこの世界を生きていければいい――本当にそれで良かったはずだ。

 村人のある声が聞こえてくるまでは――。


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