2-8.収穫
収穫と言うのは、この村の裏にある畑から野菜を採取する事であった。
もしゴブリンの襲撃が無ければ高校のグラウンドぐらいの大きさがあった畑だが、今ではその半分。しかし、それでも大きくて広い――1人でやるには、大変な力仕事だ。
「孫を2回も助けてくれた恩人に、こんなことさせるとバチがあたるわ」
日傘をさし、椅子に座ったサブは、しゃがれた声で笑う。
「そんな気にしないで下いよ。俺けっこう力仕事自信があるんですよ」
運動部に所属していたこともあって、体力には自信がある。今ならどんなこともやれそうだ。
「若いっていいねぇ」
サブがお茶をすする。
リーベとケンイチは、手にレザーグローブを付け、葉を引っ張る。
「なかなか抜けないわね」
隣の区間で顔を真っ赤にし、踏ん張るリーベ。葉はそれほど大きくない。何十と生えたクローバーの束を引っ張っている。
「がんば」
ケンイチは澄ました顔で言う。彼が抜いているのは、細くて長い葉だ。力を込める必要はあるけど、コツを掴めばなんてことない。
するりと抜けた葉の先に着いていたのは、白髪のように白くて細い実。どうやらこれは、カランマと呼ばれる野菜らしく、異世界限定のものだ。調理方法は煮るや焼くなど様々であるが、生食はおススメされないらしい。どうやらこの野菜はとてつもなく苦いらしく、本当に食べたくない、とサブが話していた。
「おぉおぉ、抜けたか抜けたか」
手を叩く老人。サブは、興奮気味だ。
「な、なんで抜けないのよぉ」
リーベの金髪はホカホカの土に着き、後頭部が垂れ下がっていた。全身のあらゆる力を込めえるが、三つ葉のクローバーの束はびくともしない。
自分のが終わったわけではないけれど、1個も収穫できていないリーベが可哀そうになってきた。
ケンイチは、一度腰をあげ、
「手伝おうか」
と、提案した。
リーベの顔が赤から紫に変わっている。もうギブアップをするべきではないだろうか。
「自分でやるから……」
噛みしめた歯の隙間からもれたような声で、リーベは拒否をした。
こうなれば頑固である。ケンイチは「わかった」と言って、自分のことに集中したまさにそのとき
「抜けたぁ!!」
リーベは泥だらけであるがそんなこと気にも留めず、子供のように無邪気な笑顔を見せた。
彼女が持っている丸い実は、ララッポと呼ばれる野菜。実は紫色をしており、大きさは人間の頭ぐらい。
調理方法はカランマと同じだが、違う点は生食も可能である。この野菜は果実のようにとても甘い。サブが言うには、子供から大人まで好かれているらしいが、それも納得できる。
他にも用途があり、それは医療だ。ララッポ特有の甘さは、薬や薬草の苦みを抑えられる――とのこと。
「やったな、リーベ」
ケンイチは、拍手する。
「ほんとよ。アタシ頑張った!」
苦労を噛みしめ、その場でガッツポーズする。
「嬢ちゃんおめでとう。でも」
サブが目線を動かし、リーベの周りに生えた草を見る。
「まだまだ沢山あるよ」
目を細くし、欠けた歯を見せる老婆の笑顔は、年相応の暖かさが見えなかった。
「そうだった」
リーベは膝から崩れ落ちる。収穫したことで生まれた希望は、一気に絶望へと突き落とされた。
「先にカランマから終わらせるのもありだけど」
サブが首をかきながら、提案をする。
「それはいいな。リーベそうしよう」
先に終わらせられるほうが効率がいい――ということで、ケンイチはその提案に乗った。
リーベは考えることをせず、
「そのほうがいいわね」
すぐに了承する。
こうして、カランマの収穫から始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇
カランマの収穫は、案外すぐ終わった。まぁ正直言ってララッポと比べれば抜けやすいのだから、当たり前であるが。
「おつかれちゃん」
サブは拍手して、ねぎらいの言葉をかける。
「終わったぁ」
だらけた声を出しつつ、ケンイチは地面に寝そべった。
気付けば空はオレンジ色に染まっており、月が顔を出している。
ズバリ今は17時か、とケンイチは自身の体内時計で今の時刻を判断した。
「ほんと、疲れたわね」
顔や髪が泥だらけのリーベは、大量のカランマが詰められた木の籠を持ち上げる。そしてそのまま端に置いてある荷車にせっせと乗せていた。
「でも、まだ仕事があるんだから起きなさい」
まだ終わっていない――ララッポの収穫も残っているけど、今やるべきことは今日取ったカランマを村まで運ぶことだ。
「はぁーい」
疲労で悲鳴をあげる体を無理やり起こす。
体力には自信があると思っていたが、長時間の中腰が結構響いた。
まだまだだなぁ、と考えつつずっしりと重い籠を荷車に乗せる――それを4往復ほどした頃にはもう空が紫になっていた。
夜が来る――なんて話していると、いつの間にか荷車がいっぱいになっていた。
「これでおしまいっと」
全部で6つの籠が乗った荷車に入るスペースはない。本来であれば同じ状況になった荷車があと5つできるのかと思うと、ゾッとする。
良かった――なんて思うのは罰当たりだとわかっているけど、正直どこか1回で済むことに喜んでいる自分もいた。
なんてことを考えているんだ俺は、リーベが荷車を引こうとしたそのとき「待った」と声をかけた。
「それ、俺がやるよ」
まさかの提案に彼女は、驚いた表情を見せる。
「いいよ。アタシがまだ動けるし」
飄々とした表情をしていたが、リーベにやらせるわけにはいかない。
「いいの、いいの。俺がやるから渡しなって」
半ば無理やりに、ほぼ強引に、荷車の操縦かんをケンイチは握った。
ラロット村の住民に対する罪滅ぼし。そうしなければ、これから数日滞在するこの村に居るのは、あまりにもバツが悪い。
「ケンイチって頑固よね」
リーベは、何かを悟ったような澄ました顔で言った。
気付かれているのだろうか——額に流れる汗を服で拭い、出発した。




