2—2.馬車に揺られて
「あのとき、俺がチョキを出していれば」
リーベとパーティを組む際、問題となったのがリーダーをどっちがするのかである。代表者を決めるためじゃんけんをし、リーベはグーを、ケンイチがパーを出した。
結果、どうなったか――勝ったからリーダーにさせられたのである。
「普通、負けた人じゃないのかよ……」
握りこぶしを見ながらケンイチは嘆いた。
その様子が耳に入ったのか、揺れる馬車の中で優雅に本を読んでいたリーベが目を向けてくる。
「誰が負けた人と決めたのよ」
「そうだけど、勝った人が決める権利あるじゃんそういうのって」
「敗北者には権利が無いと」
「うっ」
ああ言えばこう言う――仕方がない、ケンイチは折れた。
パーティリーダーとして登録してしまった以上、変えることができない。もし変更をしたいのであれば、一度解除する必要があった。
それは、めんどくさい。時間かかるし、何よりも書類の手続きをまたやらなければならないのだ。
ならば、と高を括るしかあるまい。
冒険者としての自覚を持つしかないだろう。
異世界ならではの職業――それが冒険者である。冒険者とは、冒険者協会に登録された人の事である。一般的には魔物狩りとされているが、実際はまちまちだ。畑仕事、捜索、護衛――などなど、人によって依頼される内容が違い、何でも屋と言ったほうがいい。
また、冒険者1本で生きていく人間はごく少数である。大勢の冒険者は別の職業を持ちながら副業としてやっている人が多く、例えばリーベがまさにそうである。彼女は道具屋カヤでバイトしながら、冒険者をこなしていた。
そうした事実を教習のとき学んでいたから、正直ケンイチは冒険者という職業のブラックさに若干だけど不安になっていた。
タイガのように上手く行けば、いいのだが――自分の使える魔法が防御魔法でしかないため、その道はいばらのだ。まぁ歩けるだけマシだけど。
「はあ」
ため息が漏れる。
先導する馬に引っ張られる荷車。ケンイチたちはその中で過ごしていた。上から降り注ぐ光はなく、あったとしてもそれは天井にぶら下げられたランプのみ。中央のみが明るく照らされ、外側は薄暗い。
今回、依頼された内容は片道1時間半かけてある村に行き、そこで畑仕事をすること――ワイバーンを撃退したからと言って大きな仕事が舞い込んでくることはないらしく、ちょっとばかり肩透かしだ。
本を読んでいたリーベが顔を上げる。
「そんな暗い顔してどうしたのよ」
木箱を背中に預け、彼女は悠々自適にこの時間を過ごしていた。
「案外、冒険者ってしんどいんだなぁと思って」
リーベが本を閉じた。
「所属人数が多いから仕方ないわよ」
日々依頼される量よりも冒険者のほうが圧倒的に多く、大体の冒険者はゴースト—―つまり、登録だけして活動をしない人が最近目立ってきているらしい。ローナが嘆いていた。
だから、念を押すように「活動は定期的にしてくださいね」と2つの暴力をゆっさゆっさ揺らしながら言われた。
「だから、今回はとっても運がいいわよね」
「と言うと?」
「ほら、指名依頼だったから」
今回初となるクエストは、嬉しい事にケンイチとリーベを指定した依頼であった。内容は、育った野菜を収穫すること。
ただケンイチにとって、魔物狩りが良かったと思っている。
「そうだなぁでも報酬金が」
3000ルーツ――前回のワイバーン襲撃よりも低い。まぁあのときが緊急であったから仕方ないのだろうけど。
「収穫かぁ」
野球部で鍛えられていたから体力には自信があるけど、それでもやっぱり冒険者らしく魔物狩りをしたかった。
まぁ小さい積み重ねが後々響いてくるのはわかっているけど。
リーベが口を開く。
「勉強の息抜きと思えばいいじゃない」
確かに、と納得する。
「机に向かって鉛筆走らせるよりも、こっちのほうが百倍マシだな」
インパクトは無いけれど、あの地獄と比べれば救済のように感じる。
「でしょ。それに、今から行くラロット村は自然豊かで作物が美味しいのよ。もしかしたら、ご馳走してくれるかもね」
それはリーベの欲望だろう――彼女の口の端が緩んでいた。
「まぁとにかく、これからゆっくりやっていこうよ。焦ることはないからね」
「それもそうだな」
ゆっくりか、ケンイチは寝っ転がり、天井を見る。
ほろがバタバタと音を立て、なびいていたそのとき――
「ヒヒーン!」
馬の声と共に、動きが止まった。
リーベと目を合わせ、お互い頷く。
「どうかしましたか?」
彼女が運転者に話しかける。
「………」
返事が返ってこない。
何か起きているのは確かである。
自分の武器を握り、ケンイチが真っ先に外に出た。
そこに居たのは
「ど、どうすればいいでしょう」
眉を逆ハの字にした強面の運転手が、あわあわした表情でケンイチを見る。汗をびっしょりとかき、今にも泣きそうな声で少年にすがりつくその姿は、出会った当初と真逆の印象だ。
まさか魔物が――腰に添えたショートソードを握りつつ、前に出た。
落ち着け俺ならできる、と自分に言い聞かせ鞘から剣を抜く。
「ふー、はー」
深呼吸し、いざ前に出た。
「こい!」
なんて言葉は風に吹かれて、消えた。
そこには魔物の姿が無い――ただその代わり、横たわった少女が近くにいるのだった。




