幕間――4.リーベの(元)仲間たち
結局、タイガとは話せなかった。どうやら彼は冒険者の中でも結構高めの地位に居るらしくて、(女性)人気が高い。
対してケンイチは、むさくるしいおっさんばかりだった。ときどき若い女性もいたが、ボーイッシュ寄りだ。
仕方ないと言えばそうなんだが、しかし、モテてぇ。
超モテてぇ。
でもまぁその人たちのおかげで、集まった物がある。それは名刺だ。どのように作用するのか、ケンイチにはわかっていない。ただもらうとき「推薦状を書く」と言ってくれたので、友好の証と考えていいのだろう。
「順調。順調!」
ケンイチは、9人の名刺をもらった。
★1冒険者5人、★2冒険者4人。
会話の糸口は全てワイバーンの襲撃で、どうして勝てなかったのか――大体わかってきた。
それはずばり、遠距離攻撃ができる冒険者が居なかったという点にある。理由は2つ。
その1、魔法に特化するのが不可能。才能が無い――ひとことで言えばそうなる。魔法使いはそれなりの魔法の知識と肉体を要するため、ある程度の潜在能力が必要だ。
その2、王都ルティーナ周辺の魔物が危険視されていない。どうやらここは平和で、魔物による被害が田畑の荒らし程度。ときどき人の生き死にがかかった魔物の事件は起きる。しかしそれは、ワイバーンのような街全体に響かない――あくまでちっぽけな問題として解決される。
ならば、力あるものはこのカルラート国のどこに集まるか――それは南か東。どうやらそこには危険な魔物がうじゃうじゃいるらしく、強さを求める者、報酬金に目がくらんだ人たちはそこに集まる。
「皆、思わなかったんだなぁ」
集まった名刺を数え終えたケンイチは、ポツリとつぶやく。
それに――今回のワイバーン襲撃を迎え撃ったのは30名。そのうち29名が★1冒険者であった。あのときステージで報告していた彼のみが王都ルティーナで活動する★2冒険者である。
「………」
それから王都ルティーナのどこで武器を調達するべきか尋ねてみた。すると全員が全員、口をそろえて『武器屋ヘーパイス』で調達しているらしい。
「たぶん、これぐらいあったらいいだろう」
もらった名刺をTCGの手札のように並べる。
「なら、僕のも持っていてくれ」
「あっどうも」
隣の声になんの疑問を抱くことなく、渡された物を素直に受け取った。
それは、名刺――名は、タイガ。
「ケンイチくん。やぁ」
黒髪の美少年がそこにいる。腕や足も棒切れのように細く、強そうには見えないが……。
「なんで、ここに……」
「ちょっと抜け出してきたんだ。ほら、名刺……というか連絡先が必要なんでしょ」
「そうそう。いやぁ助かる」
「同じ日本出身なんだ。できることがあるならなんでも助けるよ。もちろん推薦状だって書くし――」
「タイガさん! どこに行くんですか!!」
黒髪をツインテールにした女性は、ツンとしていた。背はケンイチやタイガよりも低く153センチ。
女性――いや、少女と言うべきか、彼女は腰に手を添えて、頬を膨らます。
明らかに『怒ってますよ』と、言っていた。
「ごめん。ごめん」
「ごめんじゃないですよ! 抜け出さないでください」
タイガの耳を引っ張って、彼女は連れ戻す。
「大変だなぁ」
ケンイチは彼が見えなくなるまで、手を振った。
「…………」
扉が閉まったのを確認し、ケンイチは改めて集めた名刺を見た。
全部で10人――★1冒険者5人、★2冒険者4人、★3冒険者1人。順調に集まっているし、★2以上の冒険者は推薦状を書いてくれると約束してくれた。
冒険者人生も上手く生きそうで安心する。
ケンイチはさっそく報告しにリーベへと目を向けた。
彼女はロングテーブルで顔を真っ赤にし、誰かと口論をしているのだ。
「?」
リーベと口論している女性は、酔っているからなのか笑っていた。
彼女は、ショートカットの銀髪をし、よく見ると褐色だ。
肌を見せまいと青い服で顔から下を覆っている人――まさか、ケンイチはわかった。
「あのとき助けてくれた人ですよね」
彼女は、ケンイチのほうへと振り向いた。
「んあ……」
ジトーッと見て、「あっ」と大きな声をあげ立ち上がる。
「そうそうそうそう、助けたわ。覚えてたのか」
「そうです。だってあの状況で助けてくれたんですよ。忘れるわけないじゃないですか」
「それもそうか!!」
ケンイチの背中をバシバシ叩く。
振動が背骨に渡り、脳を揺らした。
痛い――。
「どうして、ここにいるんだ。飲みに来たのか?」
女性はケンイチを見て、グラスを向けてくる。
「その人よ……」
リーベは、ケンイチを指さした。
「ん?」
リーベの声に訊き返す女性。
再度力を込め、リーベは言った。
「その人が、アタシの仲間よ」
銀髪の女性は、リーベとケンイチを交互に見る。
「うっそだろ!! お前の仲間なのか!!」
「そうよ」
「ほえー。ビックリだわ、こりゃあ……。あの一匹狼が仲間をねぇ」
なんだ、その異名?
ケンイチの疑問を置いて、女性が喋る。
「オレたちから抜けた後お前1人で冒険者やってたから、すげぇ心配したんだぞ。良かったよ無事に続けられそうで」
「やめてよ、その話……」
これは闇が深い――触らぬ神に祟りなしだ。
「それよりも、アンタはまだアイツと一緒に行動してるの?」
「そりゃあな」
「……居心地悪く無いの?」
「別に。金貰えるし、飯も食える。ただ言われたことをすれば、それで問題なしだ」
「ふーん。なら良かったわ」
「心配してくれたのか、姫」
突然、リーベが立ち上がる。
ガタッと大きな音を立て、きっと睨みつけた。
「その呼び方やめてよ!」
「別にいいじゃねぇか。お前らしく可愛いあだ名じゃねぇか」
「それが気に入らないのよ」
ピリピリとした空気。
こういうときはピエロを演じるべきか――いや、演じたら余計こじれそう。
ならば黙っても見ておくべきか。
「それは悪かったなぁ。結構お似合いだと思うけど」
「バカにした意味じゃなければ、アタシも気に入っていたわ」
思いのほかあっさりと終わった。
良かった、と一安心する。
「で、最近なにかこなしたか?」
女性が話題を変えたことでリーベは、座る。
そして、彼女の質問に答えるべく口を開いた。
「ワイ――」
だが、その声はさえぎられる。
「それは無しだ。面白くねぇじゃん」
「………」
リーベは黙った。
「もしかして、何もこなしてないのか?」
リーベは静かにうなずいた。
赤い顔を持って、涙をためた目で。
「やっぱりそうか」
女性は立ち上がる。
「オレたちと一緒にやったほうがいいんじゃ――」
女性が手を差し伸べるが、リーベはそれを振り払う。
「いやよ!!」
リーベの声は、かなり大音量であった。だが、周りの喧騒とした空気の中ではあまりにも小さい。
かき消されたその声は、2人しか聞こえていなかった。
「ワタシ、あいつとは一緒に行動したくないのよ……」
ごめんなさい、その声はかすれていた。何かを押し殺している、我慢している――知られたくない何かを封じていた。
「そうか。まぁリーベには合わないもんな、アイツのやり方は」
まわりとは明らかに違う空気にだれも気づかない。気付くはずがない、ここは3人の世界で完全に閉じられていたから。
「…………」
今にも泣きそうな彼女をどうすることもできないケンイチ。
こういうときどうすればいいのか、必死に考えていたそのとき
「エリス。やっと見つけたよ」
全身筋肉のような大きな男は――。
「ハンドックさん!」
ケンイチはあまりにも嬉しくて、つい大きな声を出してしまった。
そこで彼は気付いて、手を振る。
「やぁ2人とも。再会できてうれしいよ」
「俺もです! あっあのとき、ありがとうございました」
「いいんだよ。気にしないでくれ」
ケンイチへ目を向けた後、リーベの異変に気付いた。
何かあったの――と言った目を向けてくる。
言うべきか言わぬべきかわからず、曇った表情を見せると、彼は察してくれた。
「……リーベ」
ハンドックの声に体を震わせ、リーベは手で何かを拭く動作をする。
そして、口角を少し上げた彼女が彼を見た。
「ハンドックさん。お元気そうで何よりです」
リーベが一礼する。
「…………」
ハンドックの戸惑いが見える。だけど、そこは大人と言うべきだろう。彼はすぐに順応し、追及はしなかった。
その代わり、エリスを指さし
「酔っぱらいがすまないね。注意しておくよ」
と、言って連れ去った。
「………」
「…………」
嵐は去った、と言うべきかまぁ何はともあれパーティーは無事終了した。
ある1つの気がかりを残して。




