幕間――1..熱い歓迎
2022/5月 加筆修正を行いました。
「ケンイチ。はしゃぎすぎよ」
あっさりと行けることになって、ソワソワするケンイチ。
「いやだって、パーティーなんだぜ。誰でもはしゃぐよ」
「そうかしらね」
リーベはそれが当たり前だって表情をしていた。
パーティーに行けることになったのは、単純にリーベの足が完治したからだ。薬を塗って1時間にも満たないうちに変色は薄くなり、傷口は塞がった。
ケンイチはその間、冒険者協会に頼んでポルポル菌について記述された本を読んでいた。どうやら、これは栄養となるもの――人の皮膚や食べ物と言ったものに反応するらしく、包帯に巻かれたり物がぶつかっても痛みはしないとのこと。
だから、医者が触ったときに反応したのか、とケンイチは納得する。
「ところでさ、本当にこんな格好でいいんだよな」
全身茶色の服へと着替えたケンイチ。触り心地はとてもよく気持ちいい。
靴は皮靴で、靴下は用意されていなかった。素足のまま履いてみると履き心地が良くて、サンダルみたいだ。通気性も良く、足元が涼しい。
この服と靴は、冒険者協会の親切心から用意されたもので着替えてみたが、色合いとか質素な服装でパーティーにふさわしくない。
これなら直前の半そで短パンが良かったのでは――と思いはしたが、あまりレベルは変わらなかった。というか、同率だ。
一応持って来た人に確認も兼ねて、問いてみたところ
「問題ないです」
と、返されてしまった。それも冷たく、あっさりと。
ローナのような優しい人を期待していたのだが、全くそんなことはなく、多少傷つきつつも、着替えて違和感を抱いて、今に至る。
「それで何度目よ。大丈夫だから、安心しなさい」
リーベもケンイチと全く同じ格好をしている。
違いが一切ないからこそ、安心感と言うものがあった。
「そうだよな。うん、うん」
自分を納得するために頷いた。
ちなみに着替えたところは見ていない。「見たら殺す」なんて言われたから、しっかりと見ないように、振り向かないように、意識を集中させ、瞑想していた。
「時間は、18時半だろ。今は――」
短い針が6に、そして、長い針が3を刺していた。
つまり、
「18時15分ってこと?」
読み方があってればそういう事になる。
「そうだけど……」
あってた。
現代人に優しすぎて、実は本来の肉体は病室で寝ており、全て頭が見せた夢――と考えてしまう。
もしそうなれば、嫌なんだけど。
あまりにも虚しすぎるから。
リーベは困惑した表情でいたから、とりあえず実験も兼ねて
「デジタル勢だからわからなくなるんだよなぁ」
と言って見せた。
そしたら、余計に彼女は困惑する。
「デジタル……えっそれは呪文なの?」
どうやら、その言葉はこの世界に無いらしい。まぁあったら困るんだけど――異世界にゲンナリする。
「いや、ただの独り言だから気にしないで」
「はあ」
時計の話を無理やりぶっ千切って、パーティーの情報が書かれた紙に目を向けた。
そこには《18時30分》と書いてある。そして今の時刻は――記憶と照らし合わせる。
「遅刻じゃねぇか!!!」
勢い良く立ち上がって気付く。
あっここは冒険者協会だし、なんならまだ時間があった――と。
ケンイチはソファに座り直した。
「まだ時間あるわよ。あと45分ぐらい」
リーベが落ち着かせるために言った言葉に違和感がある。
「45分……」
何を言ってるんだろうか。
ケンイチはリーベが居るベッドへと振り向いた。
「いやいやいやいや。30引く15は15だぞ」
「知ってるわよ」
「なら、なんで45分なんだよ……」
ケンイチの疑問を察したのか、「あぁ」と納得した声を漏らす。
「祝い事とかイベントの開始時刻をキッチリと書くのは、マナー違反なのよ」
いや、嘘を言うほうがマナー違反だろ――といった言葉は吐かない。
リーベが喋り始めたからだ。
「基本的には……ってか普通は、開始される時刻の30分前に書くのが鉄則」
「なんで?」
「それは、早く来た人でも気持ちよく入れるように」
「なるほど」
納得するのは理由がある。
都合によって家を早く出てしまい、部活が始まる20分前に到着した――なんて経験が昔あったからだ。
そういうときは暇だし、会う教師たちが口をそろえて「おっ清が出て偉いな」と褒められる。しかし、それは幼いケンイチにとって恥ずかしい事だった。
別にそういうつもりで来たわけじゃないのに――と何度心の中で訴えたことか。
だから、この配慮にはとても胸がときめいていた。
「まぁ早く到着してもすることはないけどね。談笑するくらいかしら」
「なるほどなぁ」
「だから、あまり焦らないことよ。焦りは禁物ってよく言うでしょ」
「そうだな」
それから2人は話した。大事なことでもない、他愛のない会話を。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……………」
いつの間にか時間が経っていた。
あまりにも楽しくて盛り上がっていたところ扉が開く。
「失礼します」
お辞儀をする黄緑頭の女性――ローナだ。
「もうすぐパーティーが開始されます。行きますか?」
「「はい!」」
息が揃っていた。ほぼ同じタイミングで、力強い返事をし、ローナを先頭に2人は歩いた。
3人は、赤い絨毯の上を歩き、ローナが両扉を押して開く。
そこにはもう大騒ぎだ。お酒を飲む人、腕相撲で力勝負をする人、変な踊りで楽しむ人など――見た目の違い通り、自分なりの楽しみ方でパーティーの輪に加わっていた。
「救世主の登場です!!」
ローナが高らかに言ったことで、辺りはシーンと静まる。
大多数の人間から一斉に向けられた目は、痛くて、ズキズキ刺さった。半べそかきそうになり、ケンイチはつい一歩後ずさる。
リーベは、なんで下がるの? と言った表情で見てるがそれは察してくれと目で訴えるしかあるまい。
とにかくこの静まり返った空気の中では、動けなかった。
たんっ。
誰かの足音。見るとそれは、ローナだ。
彼女はこの雰囲気をものともせず一歩前に出て、にこやかに笑顔を向ける。
まるで氷河の中でも輝く太陽のような表情が、辺りに動きを与えた。
氷が解ける。
瞬間、冒険者たちがドタドタと大きな音を立てて、ケンイチに歩み寄った。
「あんたあの方法どうやって思いついたのさ?」
「お前のおかげで、家族が助かったんだよ。感謝している」
「いやぁDランク魔法をああやって使うとは、想像できなかった。機転が利きそうだねぇ、うちのクランに入らない?」
一斉に喋る話し声から聴こえたのが上記3つだ。
よくよく耳をすませば大体そんな物で、悪いことを言っていない――ときどき下ネタが聴こえるけど、それは酒の席だから仕方ない話。大体の人間はアルコールを注入すればそうなる。父親がそうだったからケンイチはわかっていた。
「ど、どうもっす」
今までこんな熱烈な歓迎をされたこと無かったら、照れる。
後頭部に左手を置き、頬を赤く染めながら上半身を反らした。
「パーティに入らないか」
前方の人が身を乗り出す。青紫色の髪をし、黒眼帯が特徴的な女性。
その誘いは嬉しかったが、自分にはもういる。
「俺この人と一緒に組んでるので、すいみせんがそういうのNGなんですよ……」
リーベの手を掴み前に出す。
なんで私を出すの! と強く睨みつけてくる。この場を乗り切るためなんだ許してくれ、と思うしかケンイチにはできなかった。
なんやかんやあり、色々と言葉を交わすと、鐘がなる。
ゴーン。
ゴーン。
ゴーン。
と、内臓まで響く鈍い音が王都ルティーナを包み込んだ。
「帰ってきたのだわ!」
誰かがそう言った瞬間、人々の視線、体は正面入り口へと向けられていた。中にはそこまで進む人もいて、どれだけ今回の帰還がすごいことなのかケンイチは肌で感じた。
バン。
扉が開き、先頭を歩くは白髭を生やした長身の男性。
「あの人が……」




