15話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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今年はヴァルガッシュ伯領の都市から集まった修身学校八校が剣闘術で戦うのが領都大会だ。勝ち残り戦方式のため負けたら終了。僕らは第一回戦でヴィンチ修身学校と当たることとなった。
そのヴィンチ町といえば、僕らが合宿してた地でもあるし、ルコトの教科書探しでお世話になったところだ、何かと縁がある地だろうか。とはいえヴィンチ町の大半がヴァルガッシュ伯領なのは知ってたがしかしあの程度の町規模でも修身学校があったとは知らなかった。なおカロリーナが言うにはヴィンチ町自体の規模は非常に小さいが、町自体の範囲は結構広いそうだ。そのため同じヴィンチ町なのに寮生活する学生が多いと言う。まぁ僕らが住むシュトレーメ中街も広大で、山岳地帯や穀倉地帯も含んでいるため通学に支障が出る子たちは寮生活だ。
今回のヴィンチ修身学校、出場選手は三人のみだ。だから一人でも負けたら試合終了なのだが、先鋒戦から大将戦(混合戦除く)のどこに選手を投入しても問題無い。つまりジェイリーを避けるため次鋒戦は不戦敗を選ぶ事も出来るし、三人全員が勝てば勝ち上がりとなるのだ。
★先鋒戦★
ミノン(一回生) - レオナ(四回生)
「一同、礼! 抜剣」
小柄なレオナに対し僕はプランAを指示、ミノンはうんうんと何度も頷いた。レオナも相手引率からの指示を貰い了承のサインを送る。お互いの木剣が当たるぎりぎりで構えた。
「試合、始め!」
主審の合図に二人は吶喊、打突を繰り出すミノンと飛び込んできて防面を打ち狙うレオナ。どちらも踏み込みが甘いと審判達は無効の表示。間合いが狭まった二人は鍔迫り合いに持ち込む。体格差を考えればミノン有利だが、前回のヴェスバン・エレナ戦ではかなり苦戦を強いられていた。そこで小柄剣士対策としてキュリルやジェイリーと何度も懸かり稽古を増やしたのだ。力技で防面を狙い打つミノンに何度も胴打ちをせるエレナ。至近距離での乱打戦が続いた。
「待て! ……ミノン選手、胴紐結びなさい」
あまりの連撃で防具の紐が解けたので、主審から直せと指示された。ミノンは籠手を外すと後ろ手で結ぼうとするがなかなか上手く行かない。慌てて手を出そうとしたジョルジェだが、僕は彼女を止めた。
「駄目だ。手を出すと協力行為と見做されてミノン君が反則負けになる」
そう伝えるとジョルジェは静かに頷いた。そして覚束ない手付きでなんとか防具紐を結うミノンの姿を僕らは固唾を呑んで待ったのだ。
「試合再開!」
ミノンの綺麗な飛び込み打ちが防面を打ち抜いていた。しかし再開宣言より僅かに早く動き出してたので審判達は行為無効の仕草をした。
「待て。早発、注意!」
注意を貰い、再度の仕切り直し。再び停止線に戻る際、僕はミノンにプランAを送る。ミノンはカツカツと頷くと再び構えた。
「試合再開!」
矢の様に飛び出したミノンだったが、レオナが木剣を下から上へ振り上げた。ぱんっと軽い音がした後に木剣が転がる音が響いたのだ。
「落剣一本、そこまで!」
ミノンは転がり落ちた木剣を静かに拾うと一礼して闘技場を降りた。次鋒のジェイリーはミノンの肩をぽんぽんと叩くと闘技場に上がる。
待機場に並んだ椅子に座り、防面を外したミノンは一粒また一粒と涙を落とす。流石に声は押し殺してるが、余程悔しかったのか手拭いで顔を覆い嗚咽する、押し殺せてない声が漏れ響く。いくつも頬を涙が伝い落ちるのだ。隣に座るジョルジェが何度も耳打ちしミノンもコツコツと頷くが、しばらく泣き止む事は無かった。
★次鋒戦★
ジェイリー(一回生) - なし
ジェイリー不戦勝。
★混合戦★
マリ・パティ(共に三回生) - なし
マリ・パティ不戦勝
★副将戦★
ラフェル(三回生) - ルードゥ(二回生)
「一同、礼! 抜剣」
このルードゥには情報があり、元々ザントバンク修身で剣闘術をしていたのだ。しかし三回生時に初級メイド試験を落として自主退学、母親の実家があるヴィンチ修身に再入学したそうだ。なおラフェルが一回生時に彼女は三回生だったので、先輩後輩対決でもある。
「試合、始め!」
木剣をかちかち合わせて間合いを取る二人。機を見て飛び込んできたルードゥにラフェルは静かに籠手を打ち抜いた。
「籠手一本、それまで! 試合終了!」
ラフェルは静かに一礼して闘技場を降りる。そして彼女は未だ泣き崩れるミノンの肩を抱き、僕らは会場を後にした。
「みんなごめんなさい……」
「よくがんばったじゃんミノっち」「おやつ食べよ?」「防具外すね」
控室に入った彼女らは今も泣き崩れるミノンを慰め続けていた。マリとパティが紐を外して防具を脱がすと悲鳴があがった。どうやら腕や脇腹など身体中に痛々しい痣がいくつもあった様だ。そう言えば防具紐を結ぼうと苦戦してたのは腕など防具の無いところを打たれて痛かったのかもしれないな。ミノンは道着を脱ぎ始めたので、僕は衝立の向こう側に行くと指示を出した。
「おーいラバト嬢、消炎湿布ある?」
「任せとけンや。───ありゃー、ミノンちゃン痛いン?」
「いえ、大丈夫です……」
「カミツレ茶や、少し飲ンで落ち着けや。───っンたくいっぺん負けたぐれェでぴーぴー泣くな」
「だって、だって……」
「――いい加減なさいミノンさん。負けて泣いて人に心配かけるのならもう二度と出なくて結構です!」
凛とした一言が控室に響く、カロリーナだった。いつもニコニコ朗らかな彼女が声を上げるなんて思いも寄らなかった。おかげで控室は水を打ったかのようにしんと静まり返る。
「負けて悲しい、そりゃそうですよね。勝てる試合落として悔しい、そりゃそうですよね。だからってみんなに心配掛けるなら次戦から降りなさい。あなたの心はそんなに弱いんですか? そんなに甘ちゃんですか? 勝ち進むってそれだけ茨の道なんですよ。これ以上他人の士気を下げても気にならないなら……」
「やります、やらせてください! カロちゃん先生!」
「じゃあ今すぐ顔を洗いに行きましょ? 私はあなたが出来る子だと信じてるんですからね……」
そう言って控室からカロリーナとミノンは静かに出ていく。僕らは今まで知らなかったカロリーナのもう一つの一面を垣間見たのかもしれない。しばらく僕たちは声を出すことすら忘れ、息を呑んだのだった。
次戦で当たる剣闘乙女達を研究するため僕らは観客席にいた。
ボンブル修身とラーゼ修女では圧倒的なスピード勝負が繰り広げられていた。とにかくラーゼ修女は開始宣言からの吶喊、あっという間に勝負を付けていったのだ。
「おいくそアンジェ、あン次鋒の動き見たか?」
「あぁ。最少動作で綺麗に防面打ち込みだもんな」
「カウンター貰っても、上手く避けとるンよ。どするン、ジェイリーを先鋒に回して勝ちを……」
「いや、敢えて次鋒はジェイリー君に任すよ。それより構えの前の木剣を振り回す動作が、なんか腹立つな」
「そか、なンかムカつくな」
「僕が気になったのは副将戦だ」
開始早々鍔迫り合いに持ち込んで引き籠手打ち一本という余程素早い足捌きをしない限り打ち込めない芸当だろう。新聞では注目選手の一人として『快速のアビー』と書かれていた程だ。
「ところで、くそアンジェ。あンのおてんば姫は?」
「しばらく別行動やっとさ」
「ふぅん」
ラバトは鼻を鳴らすと飽きたのか大欠伸をしたのだった。
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