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14話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

https://ncode.syosetu.com/n4841ia/

 移動二日目の夕刻。

 特にトラブルもなく僕らは無事、領都ラングステに到着した。このラングステは通称『お叱り城郭』と呼ばれる城郭都市で、聳え立つ城壁には数多くの入城門があるのだ。街道と繋がる入場門では商人や一般人が入場するまで非常に長い行列が成しており、僕らもこれに並ぶのかと思っていた。しかし御者は入城許可書に書かれていた入城門まで廻ると、その許可証所持者専用入城門からすんなり入ることができたのだ。


「ようこそ領都ラングステへ。大会頑張って下さいね」


と、門兵が敬礼すると僕ら言った。そして馬車はガタゴトと街の中へ。




 領都ラングステは代々ヴァルガッシュ伯家が治める地だ。先の大戦時にギュース(始祖様)と共に活躍した初代・ロシェがこの地に封じられた事から城郭都市の歴史が始まる。最初は、元々設置されていた小さな壁だったらしい。が、徐々に城郭として成長・拡大していったという。その拡大した理由が隣領城郭と出来栄えの美しさと見栄を競って、と言うビックリレベルでつまらない理由なのだ。

 で、時代が下るごとに城壁を高く厚く成長させまくった結果、あまりにも大きく作りすぎた為に帝都から『公共事業と言って税金の無駄遣いは辞めなさい』と叱られたので『お叱り城郭』という冒頭で出てきた変な渾名が付いてるのだ。ただし、歴史研究家からは『ヴァルガッシュ伯に謀反の疑いありと問責されていたら歴史が変わったのでは?』という意見もあり、歴史物小説ではよくネタにされる題材だ。




「ほんっと、でっかい城壁ですよねー」


「観光ガイドブックには、『分厚い城壁の中では、キノコやウドの栽培する区画と図書館区画、そして飲み屋街』があるらしいぞ」


 ミノンが訊くので、入場手続き中に購入したガイドブックに書いてあった内容を言った。本来ならば武器糧食を保管したり兵士の宿営地だった場所なのかもしれない。しかし、もし今でもそのような扱い方をしていれば帝都からどのような言いがかりや折檻があるだろうか。ただでさえちょっと前に美術品蒐集で破産した時には現帝のリーフェス四世と一悶着あったのだから。



「ってことは、キノコとウドの炒め物とか食べられるかなぁー。私大好きなんです、アンジェ先生は好きですか?」


「ん? あぁ、ウドの苦々しいのは好きだ」


「ジョルジェちゃんやジェイリーちゃんは苦手だったよね」


「うん……」「あの苦いの、苦手だなぁ」


「ガイドブックでは、『苦味の少ないウドもありますよ』だってさ」


 そう言って僕はジョルジェにガイドブックを渡す。受け取った彼女はページを大きく開くとジェイリーとミノンの三人で読み始めた。もう一部買っておいたのでラフェル達にも渡す。



「ねぇアンジェリカー、城壁の飲み屋街行きたーい」「ちゃんと連れてけや、くそアンジェ」


と呑兵衛二人が僕に迫ってきたが試合が終わるまで頼むから我慢してくれと言った。


「んでも……、ちょっとだけなら良いんじゃないですか?」


 呑兵衛たちの横にいたカロリーナまで援護射撃を飛ばしたのだ。確かラバト曰くカロリーナもけっこうお酒が好きだと聞く。僕の目の前にいるラフェルたちもきっと城壁居酒屋街の項目を読んでるのだろうか、ガイドブックを指さしてはここ雰囲気良さそうよねとか言ってるし。


「アンジェ先生。城壁居酒屋街なら、白銀亭がおすすめですぜー」


と御者まで余計な事を言い出したのだ。こうなると、皆を鼓舞するために飲まさなきゃいけないのだろうか……? 皆が僕にキラキラした眩しい視線を送り付けてくる。僕はかなり大きめの溜息を付いて、


「判ったよ。飲むなら程々にしてくれよな、本当に」


と言った、根負けだ。そして皆は見計らったかのようにハイタッチして喜びを分かち合った。んまぁこんなことになるだろうと思い、銀行でお金を下ろしといて良かったと思おう。本当なら古書街に繰り出そうと思っていたのにな。


「ただし、ラフェル君、お前は飲むな!」


「えぇー!」


 涙目になるラフェルだが、彼女が酔うと大概迷惑を被るのは僕だ。


「アンジェ先生……、私はずっと味方ですわよ」


 デリッカがそう小声で言ってくれた。大虎になったラフェル達を支え合うには些か頼りない気がするが、味方がいるってだけでなんだか心が救われた気がした。




      ★  ☆  ★

 



 ほぼセクハラ紛いの絡み酒になったラフェルとカロリーナ。ゲラゲラ笑いながらラッパ飲みするラバト。またもや一回生達にウザ絡みするルーチェ。結局僕の言う事を聞かずへべれけになる呑兵衛達だった。こうなることを見越して室料は掛かったが個室を頼んで正解だったと思っている。


 しかし今回、精神的被害だけでなく金銭的被害がいつもより随分と少なかった。ここがシュトレーメに比べて物価が安いって理由もあるのだろうが、ラングステに行く直前にコーキが言ってた意味が良く判ったのだ。


「お客さんらもう夜鐘だ、お酒は打止めだぞ」


 店主からの有無も云わせぬ一言で皆はえーっと声を上げた。しかしラングステの条例では酒が出せる時間が厳格に定められており、夜鐘が鳴ると打止めとなるのだ。



「まだ飲み足りないから打止め前にじゃんじゃんワイン持ってきなさいよ」


とルーチェが言ったが店主は黙って首を振る。なんと夜鐘が鳴ったら店内や公共施設で飲む事すら禁止、そう『飲み屋の掟』という紙に書かれていたのだ。結局僕らは渋々店を後にしたのだが、やはり条例の都合で店を出てきた客たちで城壁居酒屋街の通路は大渋滞だった。


「何ンだよ、ケッチくせぇ条例だな!」


とラバトは文句を言うが、かつてのヴァルカッシュ伯が市民の健康と福祉を慮って出来た条例なんだという。当時ラングステで飲酒運転をした御者が子ども二人を轢き殺すという痛ましい事故があり、ヴァルガッシュ伯はその子達に涙して花を手向けたと言う。そして今も残る、厳しい酒類時間制限条例の制定を指示したらしい。おかげで夜鐘が鳴れば酒屋は閉店するし、食料品店に並ぶ酒類も販売禁止、ホテルでも飲酒は禁止だ。


 ……おかげで僕の財布も救われたが。



 翌朝、僕は宿泊地に併設された武道場にて掃除をしていた。今回の遠征でキュリルからは『身も心も綺麗にして稽古に当たれば怪我はしないよ』と、そう教えられた。僕は夜も明けきらぬ前に起き出すと、床にモップをかけた。


「ん、なんだこれ……」


 モップ掛けを終えてかき集めたゴミをよく見ると、明らかな異物が混入していた。金属片やガラス片だったり意図的に曲げられた釘だったり。しかも黒く着色されてるのでぱっと見は気付かない。


「意図的だとしたら悪質だな、これ」


 その明らかな異物を僕はゴミ箱には入れず、持っていた革袋に納めたのだった。



 稽古中、ラングステの新聞数社が取材に来たので僕が受ける事にした。記者から投げかけられる質問に応えていると、不思議と彼女たちの体調を慮る質問が散発的に飛ぶのだ。


「え、熱を出した子たちですか? いえそんな事実はありませんよ」


「怪我も無く皆元気ですよ」


「みなさんぐっすりだと思います、僕もよく寝られました」


と、僕は応えたので取材陣が帰ったあとすぐにルーチェに相談した。その話を聞いたルーチェは足を乱暴に組むと頭をガリガリと掻いた。彼女はホットパンツ姿なのでそのような座り方をすると目のやり場に困る。


「んー、それ、アウェイの洗礼ってやつよ。昨夜色々あったのよ、私らのフロア」


「何があったんだ?」


「隣のホテルでさ、朝までドンチャン騒ぎしてたのよ。時々瓶が割れる音したり叫び声が響いたりって。しかも、部屋に置いてあったストーブの火が夜中突然消えてさ。ほんっと寒くて寒くて……」


「なんだよそれ。ブリーフィングで報告無かったけど、みんな被害は無かったのか?」


「カロちゃん先生が作ってた『遠征のしおり』にさぁ、洗礼対策で『耳栓して寝る訓練をしておくこと、足元に毛布を用意し普段より厚着して寝ること、掃除は徹底すること』って書いてあったのよ」


 そう言ってそれを僕に見せてくれた。ちなみに僕が貰ったのと内容が随分と異なり、遠征での体調管理や精神管理についても随分と丁寧に書かれていた。


「じゃああれか、これもアウェイの洗礼ってやつか?」


と、僕が革袋に入れた異物を見せたところルーチェの表情が引きつった。


「……ここまで悪質な嫌がらせってなかなか無いわね。ところで体調がどーとか言ってた記者、どこのブン屋(新聞社)だったか覚えてる?」


「ん、確か名刺は貰ってある……、こいつだ、ラングステ日報だな」


「ふぅん。この名刺借りてもいい?」


 そう言ってニヤリと笑うルーチェだった。




 試合当日。

 僕らは指定の馬車に乗って試合会場へと向かった。皆の体調はすこぶる元気で寝不足なのも風邪気味なのも居なかった。しかし、彼女らから詳しく聞けば『アウェイの洗礼』が昨夜も行われてたという。僕は昨日の取材を受けていくつかの新聞や賭博新聞を買い漁ったところ、


『シュトレーメのザントバンク、元気いっぱい』


と書かれてる中、ラングステ日報だけは


『夜遊び寝不足大丈夫かザントバンク』


と書かれていたのだ。

 どういう意図で書かれたかは判らないが、ひょっとしてアウェイの洗礼とどのように繋がるのだろうか? ルーチェからは気にするなと言われたが早朝から姿を見ない彼女に不安がつきまとう。

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