10話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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試合が終わってから僕たちは昼ごはんの代わりにささやかな祝勝会をやろうと言うことで七番街の「鳥と星」に行くことになった。ちょうど仕入れ途中に観戦に来ていた大柄な主人は馬車に乗っていけと言ってくれたので僕らは貨車に乗り込んだ。ぽくぽくと街道を進む。小春日和の空、柔らかい日差しが乙女たちを照らすし貨車がコトコト揺れるので一人またひとりと船を漕ぎ始めた。
「アンジェ先生、私らが勝つと思ってました?」
「いや、まさかこんな事になるとは思ってもなかったぞ」
隣に座るラフェルが訊くので僕は素直に秘めた思いを初めて吐露した。
勝ちを積み重ねようは、『一人ひとりが勝った負けたを積み重ねよう』って意味で言ったのであってチーム戦で勝ち上がるって意味では言ってないのだ。しかも今年から始めたミノンやデリッカ、ほぼ初心者の三回生、ブランクが長いジョルジェなど選手層なんか決して厚くないのだ。だからオステン戦でのミノンの打突、デリッカの一発など完全に想定外、番狂わせだ。
しかも勝負は時の運とはよく言ったもので、勢いづいた僕たちは更に勝ちを積み上げてヴェスバン戦まで制してしまったのだ。しかも大将戦でのラフェルなんて、まさか決めるとは思わなかったのだから。
「でも私たちは勝てると思ってたんですよ。だって先生があれだけ一生懸命に指導してくれたんです。私たちがそれに応えないってあり得ませんもの」
そう言ってラフェルは両手を突き上げて伸びをする。一戦だけだったろうがきっと彼女はヘトヘトだ、「少し寝とけ」と言うと「はーい」と間延びした返事をして俯く。そしてしばらくすると寝息を立てはじめたのだった。
皆が寝息を立ててるので僕も俯き目を閉じた。秋風がトラペ川に沿って吹く。まだ夏が残った風だった。
店の裏に着くと運んでくれたお礼に僕らは貨車の荷物を丁寧に下ろし、指定された納屋に収めた。デリッカは厩舎にロバを誘導し飼い葉を桶に入れ、ミノンは貨車を人力で車庫に入れた。
「直ぐになんかつまめるもん出しまっさー、それまで飲んで待っとれんせ」
と、店主は相変わらず濃厚なハピウォタ語訛りで言うと飲み物をテーブルに並べる。
「ジョリーとジェリー、ほんとお疲れさんやっとな」
と、ミトンのような手で彼女らの頭を撫でると店主は奥へ引っ込んでいった。
「おやっさん、私、ジェイリーだって!」
「そー言っとろっがージェリー! 二人共、星にお礼言っとけりゃ!」
訛のせいで発音が分かりづらいだけだろう、確かにジェリーと聞こえる。そして二人は壁に貼ってある星のタペストリーに聖句を唱え祈りを捧げた。
「あー、これ、中街の秋ワインじゃないですかー!」
テーブルに並ぶ瓶を見てラフェルが手を伸ばすが、遅れて来るルーチェやラバトが来るまで我慢しろと伝えておいた。
「えー、少しぐらいいいじゃないですかー」
と言うが、ラフェルは酒に弱すぎるし酒癖も悪い。彼女たちが来る前に酔っ払っては面倒でしかない。
「これ、ジョルジェちゃん家のワイン?」
「うん、それ、今年から始めた酒精入ってないワイン」
ラベルを見て訊くミノンにジョルジェが応える。その無酒精ワインは最近人気らしい、そうラバトが言ってた。
「じゃあ私でも飲めるね!」
そう言うとミノンはコルク抜きと格闘中だ。しかし梃子摺ってるのを見かねたデリッカが代わるわよ言って交代すると直ぐにスコンと抜けた。
「うひゃーデリッカちゃんすごいね、一瞬じゃん!」
「ま、まぁ大したことないですわ」
そう言って顔を赤らめるデリッカは肩に垂れた髪をいじる。それよりも手際よく瓶のコルクを抜き、グラスに注いだのはマリとパティだった。さすが上級メイド試験をパスしただけはあるな。
「よし、みんな飲み物回ったか? じゃあ今日はお疲れさま、乾杯」
*
*
*
「いやぁー、儲かったよねルーチェ先生サマ!」
「ほんとよねラバトサマ、笑いが止まんないんですけど!」
「ルーチェ先生サマは初博打でしょ? いやぁビギナーズラックって本当にあるんだねぇ!」
少し遅れると言って試合会場から別行動だった二人はブッキーで勝票券を換金していた。最終的に単勝七十二倍、一位二位を当てる二連単に至っては二百倍超になったのだ。二人は金銀貨でパンパンに膨れ上がった皮袋を見て下卑た笑いを浮かべている。
「ここでルーチェ先生サマ、このあと激アツちんちこちんのガチョウレースがありましてね……」
「さらに増やすんですね、わかりますよお大尽サマ!」
ラバトお勧めのガチョウに二人は金銀貨を突っ込んで勝票券を買ったのだ。
★ ☆ ★
「あ、胡椒とってくださいます? ポンコツラバトさん」
「うっせぇポンコツ言うなクソ貧乳、ほれよ!」
「……なんだかさぁ、目の前に目障りなガチョウの丸焼きがあるんですけど……」
「最初のコーナーで斜行をやらかし失格になったクソガチョウの成れの果てじゃねぇのか……? 喰うなら捌くぞ」
「お願いできますかね、ガチョウなら幾らでも食べられそうですわ。あ、手羽下さい」
「…………ミノンちゃんも食べるか?」
「うん! ありがとう!」
肉の前に爛々と目を輝かせたミノンのためにラバトは切り分けた肉を丁寧に皿に盛るとミノンとルーチェに渡し、自身は大ぶりの肉をナイフに突き刺してそのままかぶりついた。
店に入ってからの二人の機嫌はすこぶる悪かったのは言うまでもない、せっかくの稼ぎを全部スッたのだ。ラバトが推してたガチョウは確かに道中好位置キープ、最後の直線では他鳥を寄せ付けない走りを魅せ、駆け抜けてゴールしたのだ。しかしなかなか確定が出ず、レース中に点灯した審議の青灯もなかなか消えなかったのだ。
ざわめくレース場でようやく確定が出た。優勝したガチョウが最初のコーナーで後方の進路を妨害したとして最下位降格、結局二位以降繰り上がりとなったのだ。
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――――結局、ルーチェたちが来る前にラフェルはワインをたらふく飲んで酔っ払い、泣き上戸に絡み酒で僕らを散々振り回したのだ。
僕たちは夜からの営業に障るからと夕刻の鐘の前に解散となった。お昼ごはんのついでに店主の好意で宴会にしてくれたのだから。
七番街のデリッカとは店の前で別れ、しばらく先でジョルジェ宅にジェイリーは泊まると言って二人と別れ、マリとパティは二次会に行くと六番街で別れた。僕は酔い潰れたラフェルを背負ってミノンとラバトとルーチェの五人で中街の南北を貫く大通りを歩く。
「ラフェルン先輩、やっぱり潰れちゃいましたねー」
「ミノン君、ラフェル君に飲ませたら駄目だって言ったじゃないか」
「えー、ジェイリーちゃんが飲ませたんでしょー?」
「人のせいにするな」
今回のラフェルは大いに荒れた。負けたら終わりの最終局面でラフェルがヨハンナを御したのだ。緊張の糸が切れ、嬉しさ辛さ大変さの感情全て込み上げたラフェルはルーチェに泣き絡み、僕にウザ絡みをしてきたのだ。そして最後ラバトに飲み比べを挑み、グラス半分で酔い潰れて今に至る。
「アンジェリカ大丈夫? 重くない?」
「いや大丈夫だ。誰かさんみたいに重ぐッ──」
「最低ッー! もう信じらんない!」
「別にお前のこッ──」
「うっさいばーか!」
ルーチェは膝裏を二度も蹴っ飛ばしあかんべーをする、僕は悪友ジンのつもりだったんだが。
「ねぇルーチェ先生、アンジェ先生って学生時代どんな人だったんですか?」
「今と変わらないわよ?」
ミノンの質問にルーチェは一言で応える、あまりにもあっさりとした言いっぷりだった。
「昔からこんな感じよ、冷静を気取る大人ぶった態度なのがアンジェリカ」
「ふぅん、じゃあルーチェ先生は学生時代どうだったんですか?」
「騒動屋だな、とにかく何かをやらかッ──!」
「うるさーい!」
三度目の膝裏蹴りで遂に僕の膝が折れ身体が傾いていく。このままでは背負ってるラフェルを落としかねん、必死に守ろうと身体を捻って撚って静かに路面に降ろす。
「ルーチェ嬢少しは後先考えろよ、危ないだろ?」
「──アンジェリカ、あんた右手……」
「アンジェ先生、えっちなのはいけないと思います!」
「お、ラッキースケベか?」
僕の左手はしっかりとラフェルの豊満な胸に収まっていた、慌てて手を引っ込める。それに頭を打たないよう右手でラフェルの後頭部を支えていたが、彼女の顔が僕の近くにある。よく見ると長いまつ毛の彼女はゆっくりと目を見開いた。
「アンジェ先生ぇ、こんなとこじゃ恥ずかしいですよ……」
そう言って再び目を閉じ寝息を立てたのだった。
「え? アンジェ先生──、ラフェルン先輩と良い感じ、なんですか……?」
「なによあんた、ラフェルちゃんと?」
「お? 修羅場か? おっせっせー?」
「違う! 誤解だー、起きろラフェル君!」
さめざめと涙を流すミノンに怒りだすルーチェ、そして無駄に囃し立てるラバトのおかげで市民から何事だと注目を浴びる羽目となった。そしてこの話は学院長の耳に入ったらしく、疑われるような真似は慎むようお小言を頂いたのだった。
※参考資料
第104回天皇賞(1991年10月27日 東京競馬場)
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