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07話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

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 控室に入った彼女達は静かに防具を置く。


「皆お疲れ様。一戦目、――勝てたね」


 僕がそういうと皆は大きな溜息を付いた。そして皆は床に座り込んだ、ミノンとジェイリーは床に寝転がってたが。


「いやぁー、皆お疲れ様、十年ぶりの勝利だよ! 本当によくやったよ!」


 今回の控え選手だったラフェルが手を叩いて皆を労った。彼女は闘技場(コート)には入れず、観客席でルーチェ、ラバトと応援するしかなかったからだ。


「このあとヴェスバンとオステンの対戦が始まるが……、見に行くか?」


と僕が訊くと皆行くと応える。


「でも少し休ませて下さい」「私もですわぁ」


 マリとパティも深く溜息付きながら、そして抱きつきながら床に寝転がった。二人の混合戦はあまりの大乱戦だったのだ、相当参ったのだろう。


「そうね、試合までもう少し時間はあるんだから、少しお茶でも飲みましょうよ。――あとさっきの対戦、ヴェスバンの選手たちしっかり観てったわよ」


 そう言ってルーチェがラフェルと共にお茶を淹れ、カップに入ったお茶を一人、また一人と手渡していった。


「はい、ジョルジェちゃん、お茶よ」


 ルーチェがお茶を差し出すが、試合が終わってからジョルジェは顔を手で覆ったままだ。今も俯き座り込んでいる。


「もう――、あなたよく頑張ったじゃない! 相当な手練れをあれだけ追い込んで打ち込んでたんだから、ね?」


 そう言ってルーチェがそっとジョルジェを抱きしめると、何度も頭を撫でて耳元で呟く。


「皆が、頑張ってるのに、私だけ……、本当に、───ごめんなさい」


 吐き出すように言葉を紡ぎだした。


「何言ってるのジョルジェちゃん! 勝負は時の運って言うじゃない、というよりすごく良い試合だったわよ! 結果だけで言っちゃだめよ」


 ルーチェが言う。そしてジョルジェをゆっくり抱き起こすと、


「もぉ、かわいい顔が台無しじゃない! 顔洗ってくるわよ。──アンジェリカ、ちょっと離席するわね!」


と言って二人は出ていった。


「さてと……、今の試合総評は後日にするとして、お茶飲みながら聞いて欲しい。次のヴェスバン・オステン戦で注目して欲しいのは何人もおるけど、やっぱ一回生のゼルヴィーカ嬢だ。……ジェイリー君は知ってるんじゃないか?」


 お茶を貰ってから床に胡座かいて座るジェイリーに僕は聞いた。少し難しそうな顔を見せてからゆっくりと口を開く。


「ゼルヴィーカかぁ懐かしいなぁー。あの強振ゼルヴィーカでしょ? ――ってかあいつヴェスバン行ったのかよ、てっきり帝女隊入ったんかと思ったのに」


 そう言うと深く溜息付いて前髪をなでる。


「あいつの特徴は急襲と強襲。とにかく隙あらば直ぐに飛び込んでくるし、逆に隙無きゃ抉じ開けてくるほどの強引さもあるパワー系。胴打ち好き、アイス大好き、エロトーク大好きの変態だよ。――去年選抜で一緒だったけど……、出来れば対戦は避けたいタイプ」


 ジェイリーはそう言って懐から手鏡を取り出して少しだけ伸びた前髪をなでると


「あとね、ゼルヴィーカとの鍔迫り合いは避けて。接近戦になると体格差で突き飛ばしてくるから。倒伏一本も好きだから、あいつ」


と言ってヘアピンを二つ髪に留めた。

 シュトレーメブッキーズ(賭博新聞)の老齢記者から前に教えてもらったが、ジェイリーもゼルヴィーカも初等学校時にシュトレーメ選抜選手だったそうだ。あとゼルヴィーカが一回生ながらもスタメン入りするだろうとも漏らしている。


「なるほどぉ……、上背のあるルーチェ先生みたいなもん?」


とラフェルが訊くとジェイリーは首を振った。


「どちらかといえばラバト先生やウチのママに近いかな? ルーチェ先生は嫌らしさとねちっこさを突き詰めた考察パワー系だけど、ラバト先生やママはゴリゴリのゴリ押しパワー系だからね」


「だれがゴリラよ、もぉ……」


 ラバトは組んだ足をぶらぶらさせながらお茶を飲む。なんか未だ、酒を飲んでないラバトに慣れないな。


「ラバちゃん先生は身長の割に手足長いからチンパンジーだよ」


「よーしミノンちゃん、そンのチンパンジー様と今から懸かり稽古でもすンのか? さっきの試合、打突一本だったンだから元気有り余ってンろ?」


 相変わらずこの二人は元気だ、放っておくと本当に掛かり稽古を始めかねんので止めておいたが。


「あの、アンジェ先生。――ちょっとよろしくて?」


「デリッカくん、どうした?」


「あの、――少しお手洗いに」


「あぁ良いぞ、我慢させてたなら悪かった」


 デリッカは頭を軽く下げてから静かに控室から出ていく。それと入れ違いにルーチェとジョルジェが戻ってきた。


「あ、デリッカちゃん――」


「ジョルジェ、――宣言通り仇は取ってあげたわよ。いつまでも情けない顔晒してんじゃないわよ、ふん」


 扉の向こう側からそんな声が僕らの耳にも届いた、副将大将戦の前後にそんなやりとりがあったんだな。




      *

      *

      *




 トイレの手洗場に付いた私はポーチからメイク道具を取り出すと前髪をターバンで圧えて顔を洗う。さっきの試合では相手が一回生だと思って余裕持ってたけどとんでもない方でしたわ。おかげでメイクが崩れちゃってるし、――こんな顔アンジェ先生にこれ以上晒せない、絶対恥ずかしい。

 ファンデーションをお肌に載せてからチークを塗ろうとした時、隣で手を洗おうとした人が声をかけてきたわ。道着姿だから選手なんだろうけど。


「デリッカちゃんお疲れー」


「ん――、あれ、ゼルヴィ?」


「エルクーァでの夏バイトぶり! あと、さっきの試合見てたよ!」


「あら、ありがとうですわ」


 私より頭一個分背の高い彼女はハンカチを持ってないのか道着の下衣で手を拭いました、もぉばっちぃ。私は化粧筆を置くとハンカチを彼女に渡したわ。そのとき目に飛び込んできた、胸元の名札の名前を二度見しましたの。


「ゼルヴィーカ・ホワィ……? あなた、なんで家名が私と一緒なのよ」


 ありがとうと言ってハンカチを返そうとしたゼルヴィは不思議そうな顔を浮かべた。


「え? 言ってなかったっけ?」


「言ってなかったも何も、ダンゴムシがどーとか言ってたじゃない!」


「あー、言ってなかったっけ? ごめんごめん、ダンゴムシから見たらさ、空舞う蝶が眩しくね――忘れてた」


「なによそれ!」


 ゼルヴィは私の手にハンカチを置き、そのまま私の肩に手を置いた。


「デリッカちゃんと私ってパパが同じなの。あのね、あたいのママ、デリッカちゃん家の下女だったんだから」


 それって、私はゼルヴィと――。



『まもなく、第二回戦が始まります。選手及び引率者は、闘技場(コート)前に集合してください』



 館内に響く放送にゼルヴィは凛とした表情に変え、私をひしりと抱きしめたの。


「あ、呼び出しだ、早く行かんと監督にぶたれちゃうや」


「あのさぁ」


「次の安息日の朝、エルクーァ!」


 そう叫んでゼルヴィはトイレから飛び出していきましたわ。




     *

     *

     *




「お、デリッカ君、そろそろ試合始まるから行こうか」


 なかなか帰ってこないデリッカを待っていた僕は、控室に戻ってきた彼女に声をかけた。皆には先に観客席へ行ってもらってる。しかし戻ってきたデリッカは蒼白い顔をしており、僕は戸惑いつつも冷静を装うことにした。


「あ、はい。――あの、先生」


「ん、どうした」


 勝ち気な性格のデリッカが俯きながら僕に声をかけてきた。今までこんな事、無かったな。


「少し話を聞いてほしいんです」


 絞り出すかのように紡ぎ出された声に、僕は黙って頷いた。

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