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05話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

https://ncode.syosetu.com/n4841ia/

 シュトレーメブッキーズ(賭博新聞)記者歴四十年。一時期風俗記事も書いてたが、シュトレーメ市民の一助になればと俺は取材に取材を重ねて記事にする事を信条にしてる。秋期ともなれば各所で競技大会や運動会があるため、あちこち取材に廻り、足で稼ぐのだ。


 この前はヴェスバン修身女子に行ってきた。V10(十連勝)、オッズも一・四も付いてりゃ競合他社が取材攻勢さ。俺もそれに乗っかって取材をしたが、なんともはや……、こんな事言ったらアレだが、たかだか礼節女学校の課外活動でここまでやる必要があるのか、そう思ったぐらいだよ。しかし良いオッズが付いてるトコを記事にしたら売上部数も上がるしデスク(編集長)も上機嫌だがな。


 しかし世の中『穴券党』というのも居てな、勝ち目のないオッズでも情報が欲しいって奴さんもおる。それに競合他社が多い賭博新聞の業界じゃ、ある程度万遍なく取材せんとギャンブラーから『偏向報道機関』と言われかねん。現に賭博新聞の中でも『提灯コタツ御用達』と揶揄されるところもある。



 ある日キャップ(記者長)から中街の残念学校(シュルードリヒ)のアポ取れたから剣闘術のネタ取って来いと言われた。とはいえここ十年以上目立った番狂わせもなく、目新しい情報も漏れ聞こえないこの学校の取材かぁと俺は気乗りせず出向いた次第。


 学校に出向いた所、シュトレーメ中央さんの中街局記者と一緒だった。コイツはとにかく風車のようにペラペラと廻る口で取材するから、そのお零れを拾うだけの楽な商売だ。しかしコイツ、取材に価値がない思えば直ぐに引く。今回もあっさり引き下がった。んまぁ俺も一緒に帰ろうかなと思ってたんだがな、なんか不思議と記者としての直感がちょ待てよとうるさいのだ。


「ブッキーズさん、どうなさいます?」


「良かったら練習風景を見学させていただけます?」


 ふと俺は思わず漏らしてた。



 道場まで案内しますねと顧問の教師と校長との三人で校舎内を歩く。そう言えば女学校の雰囲気ってのは俺らが思ってる学校とはひと味違うと感じるの、俺だけだろうか?

 まぁ仕事に入ろう。

 さて、去年まで帝立学院で研究畑に居たというこの教師、その割には身体はかなり絞れてるし手には剣ダコまで出来てやがる。今までガリガリ机に齧りついてた青なり瓢箪とは違うな。


「取材に当たりまして、いくつかお願いがあるんですが宜しいでしょうか?」


 笑顔で云う教師に何でしょうと俺が応えると、


「取材相手は年端もいかない乙女たちです。心配はしてませんが発言一つであっさり傷つく年頃ですのでご注意願えませんか?」


と云う。なんだ、なかなか優しい好青年ではないか、そう思う。


「えぇ。特に容姿についてうっかり発言して出禁になったおバカな記者もこの世におりますからね。心得てますよ」


「ははは、ありがとうございます」


 普通記者が取材に来ると言えば、素人なら緊張でガチガチになるんだがな。この教師には何故か余裕を感じ取れる。


「ところで先生、――このザントバンクで剣闘術の指導をお願いされた時はどう思いました?」


「んー、正直驚きましたね。だって、教士資格はありますが、僕自身そんな強かった訳じゃありませんからね。ですが色々とご縁ご助力がありまして、()()()()()()やってる次第ですよ」


「へぇー、良いですねぇ。どんなご縁があったんです?」


 お? なんか記事の匂いがプンプンしてきたぞ? ここは攻撃的にガサを入れたほうがいいだろう。


「先程も言いましたが、相手は年端もいかない乙女たちですからね。メンタルや身体面含めて面倒見てくれる女性教諭のご助力ですね」


「その女性教諭は?」


「ちょっと今日は休暇でして……」


 そっか、それは残念だ。いつかはその女性教諭にもガサを入れてみたいところだ。まぁ大会で勝ち進めば考えるとしようか。


「あの、先生の目標って聞かせていただけます?」


「僕の目標ですか? んー、皆の応援だけですよ?」


「はい?」


 俺は耳を疑った。皆の応援だけが目標って、この教師は何言ってるんだ?


「僕は最初に皆に訊いたんです。この剣闘術会で勝ち上がっていきたいか、今まで通りで良いかって。そしたら皆は上へ上へと勝ち上がりたいと言いましてね。そしたら僕の仕事って皆の思いを応援するだけですよね」


「ほう。じゃあ先生自身の思いとして領都大会進出したいとか、なんなら州都大会まで駒を進めたいとかは?」


「皆が望めば応援しますよ。そして練習密度や強度を上げますし鼓舞もします、場合によっては出稽古や練習試合も組みませんとね」


 なんだこの教師。どんどん勝ち上がって行けば教師としての名声も得られるのに、そんな欲を一切感じないのだ。この前取材したヴェスバン修身女子の教師とは真逆のタイプだろうか。アッチの教師は生徒を自身の名声を得るための道具としか思ってない節を感じたな。


「出稽古もされてるんですね、どこでなさってるんです?」


「えぇ、三番街のリガン道場ですよ」


 おっと! 俺の勘がどうも当たってきたっぽいぞ? 中街の経理院や農専学院の強豪剣闘術会も出稽古してるところじゃねぇかよ。しかも道場主は帝都武芸館で師範だった男だし、師範代の嫁はこの残念学校を州都大会まで引っ張ってった女傑キュリル・バース(旧姓)じゃねぇか、しかも花街ズラ事件の首謀者だ。


「なんでまた、そんな名門の道場から出稽古許可を貰えたんですかい」


「え? 名門? あ、あぁ、メンバーの一人がキュリル師範代の娘なんですよ」


「キュリルさんの娘って……、『打突のジェイリー』ですよね?」


「なんです? それ」


 知らんのかよ! 去年の初等学校剣闘術大会、打突一本だけで強豪達を屠ったバケモノだぞ。しかも打突だけしか使いませんって記者に舐めプ宣言で勝ち上がったんだ。でも州都大会直前に怪我して出場出来なくなったが、それが無きゃシュトレーメも帝国一番になれてたって話だ。まぁ説明する必要も無いことだから言う必要もないがな。


「あ、道場に着きました」


 重厚な扉の前で俺らは靴を脱ぐ。神聖な道場に入る際下足は脱いで入るのが剣闘術での礼儀だ。その扉の向こう側からは木剣が激しくぶつかりあう音、気合の入った声が響く。



 教師が扉を開けると六人の女学生達が懸かり稽古の最中だった。うち一人が声を上げて皆を見てる、名札にジェイリー・リガンと書かれていた、間違いない、『打突のジェイリー』だ。


「ミノっち鍔迫り合いの時は相手を突き飛ばしてもいいんだよ! ジョリー……、ジョルジェちゃんは体格差を考えて! 鍔迫り合いは不利になるから!」


「はいっ!」「はい!」



「デリッカちゃんは攻撃が単調すぎるよ! マリ先輩はカウンターばかり狙わないで!」


「はいですわ」「はいッ」



「パティ先輩は待機時は見学や休憩じゃないんですよ! もっと気合い入れて素振りして!」


「はい!」



 彼女が声を出して皆に指摘する、そして気持ちいい返事がすぐに返ってくる。僕らが入ってきても彼女たちは一心不乱に木剣を振っていたのだ。道場に入ってから教師は黙って稽古の様子を見ていたが、法力具がピーと鳴ると乙女たちは手を止める。


「皆、お疲れ様。整列、ブリーフィングするぞ」


 教師がそう言うと皆が整列する、うち一人は制服姿のままだが。


「今日のリーダー、皆の体調報告を」


「はーい。今日のリーダーはミノンだよ! ラフェル先輩だけ、えっと、ちょっと……、あの」

 

 ミノンと呼ばれた非常に背の高い乙女が顔を赤くして制服姿の子と教師の顔、そして他の乙女たちの顔ををちらちらと見比べる。


「ラフェル君の件は報告貰ってるから大丈夫だ。他の子たちは?」


「はいっ! 元気です!」


「了解。ラフェル君、辛かったらシュバンヴィ先生のトコで診察受けてお薬貰っといでな」


「大丈夫です、もう貰ってきました」


 なるほど。きっとラフェルって女学生はアレなんだな、まぁ余計な詮索は不要だな。と言っても、やっぱりヴェスバン修身女子とはぜんぜん違うなあ。あっちは道着を血で汚してでも風邪でも怪我でも稽古稽古だったからな。



「今日は新聞取材で、シュトレーメブッキーズさんが来ていただいてます。――傾聴!」


 教師がそう言うと六人の乙女達が俺を見る。こりゃまいった、まるで取材されてる気分だ。


「えっと、その……、今日はよろしくお願いします」


「はいッ」「はいー」「ハイッ!」


 なんとか絞り出せた一言に女学生たちは一斉に声を出す。なんだろう、本当によく訓練されており今までの残念学校とは違うのだ。


「学院長、なにか一言ございますか?」


「いえ――、いつも通り怪我なく稽古してくださいな」


「はいッ」「はいっ」「ハイッ!」


「じゃあ僕から、今日はルーチェ先生お休みですが、ラバト先生が来ます」


「はいッ」「はいー」「ハイッ!」


「明日は出稽古が有ります、詳しくは稽古後の終礼で報告しますが、もし僕が忘れてたら誰か言ってくださいね」


「はいッ」「はいっ」「ハイッ!」


「でもさー、アンジェ先生がそんなとぼけたことしませんよねー」


「ミノン君。僕だって人間だよ、たまに忘れるぞ? この前なんか昼ごはん食べ忘れたぐらいだ」


「えー! そんなの死んじゃうよー」


「ミノン君なら大惨事だな」


 ひとしきり教師とミノンという女学生が喋ると皆でけらけらと笑い合う。なんというかこの団体は教師と女学生の関係は良好なんだろう、ブリーフィングで冗談を言い合えるのだからな。


「まいどー、ラバト稽古に入ンまーす!」


「あ、ちょうどラバト嬢が来たな。じゃあ皆で素振り百本してから打込稽古に入るか」


「はいッ」「はいっ」「ハイッ!」




      *

      *

      *




   『和気あいあいと稽古のザントバンク修身、台風の目か!』


 新人教師と剣闘乙女達の「七人八脚」は今年から始まった。ここ十年以上勝ちを拾えてない中街ザントバンク修身は帝都から赴任してきたばかりの新米アンジェ・カマーク先生が育休教師に替わって指導をしているのだ。アンジェ先生の目標は「皆の応援だけです」と謙虚に振る舞うが、剣闘乙女たちの士気を高めるため様々なアプローチと練習計画を組む。理論派熱血系と言えるだろう。


 指導方法は生徒主体。お互いの欠点やミス、良いところをその場で生徒たちが指摘し合う方式であり、先生が声を荒げることは無い。しかも先生も防具をつけて木剣を振り、皆に混じって指導するのだ。今までにない斬新な方法とも言えるだろうか。他の道場へ出稽古にも出掛けているが、そちらは取材拒否、くぅ残念!


 とにかく情報共有を重要視しており、先生と生徒との「交換日記方式活動日誌」には驚かされた。記者は許可を貰ってその一片を拝見したが、乙女の赤裸々な悩みに先生が真摯に応え、次の日は別の乙女が書きまた真摯に答える。つまり過去誰が何を書いたか丸わかりなのだ。生徒達にこの「交換日記方式活動日誌」についてどう思うか聞いたところ「本当に書きづらい事は個別の活動日誌に書きますから」と。その個別活動日誌を見せて欲しいと聞いた所、「それは絶対ダメですよ!」とけんもほろろ。


 そして生徒たちの目標は非常に高く、なんと州都大会! だがその目標は遠い話では無いかもしれない。なぜなら去年の初等学校大会で『打突のジェイリー』と言われたジェイリー・リガン(1)に、その幼なじみのジョルジェ・アリアス(1)。フィオライゼ剣術から今年より転向した中街の超名門ホワィ家令嬢デリッカ(1)、に初心者ながらも長身活かしたパワー系剣闘乙女のミノン・フリーデン(1)、今年の前期課程修了で学校を離れるマリ・パティの混合ペア(共に3)、主将のラフェル・シューレ(3)と層は薄っぺらくないからだ。


 今回はひょっとして、ザントバンク修身がジャイアント・キリングが起こすかも!


   (了)




      ★

      ☆

      ★




「結構いい風に書いて貰えたわね」


「あぁ。まさかここまで好意的に書いてもらえるとは思わなかったがな」


 明くる日、学院に届けられたシュトレーメブッキーズ(賭博新聞)にはそこそこ大きく紙面が割かれていた。しかし同じ紙面にはでかでかと『西街・ヴェスバン修身女子と東街・オステン修身の一点買いだ!』と書かれており、シュトレーメブッキーズ所属の予想屋五人では一人だけ『西街・ヴェスバンと中街・シュトレーメ』と予想を立ててくれたのだ。



「こんな良い風にあンまり書いてほしくないンだけどな」


「どうしてだよ?」


 ラバトが寂しそうに言うと、僕は聞き返した。


「だってさ……、オッズ下がンじゃん!」


「ほんとだわ!」


 あんたらやっぱ賭けるのね。

 そろそろ、シュトレーメ大会。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。

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