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04話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

https://ncode.syosetu.com/n4841ia/

 授業が終わったので僕は教職員室に入ると次の授業の準備に取り掛かる。


「アン先生、少し良いかね?」


「えぇ大丈夫です、教頭」


「あと……ルーチェ先生も一緒に来てくれ」


「え、あ、はーい!」


 レオスに声を掛けられた僕たちはお互い顔を見合わせた。彼から声を掛けられるなんて基本碌でもない。前にもラバトが言ってたし、僕達にもそれなりに思う節があるので何だか身構えてしまう。

 彼に招かれて僕達は教職員室奥のソファに腰かけると、レオスもどしりと腰を下ろすとこう切り出した。


「シュトレーメ中央新聞から取材申し込みが来てね――」


「はぁ、そうなんですね」


「――剣闘術会の練習風景などを取材したいそうだ」


「はぁ、そうなんですね」


「で、アン先生もルーチェ先生も教員になったばかりで戸惑うだろう。――なに心配するな。私がすべて応対する」


「え、教頭がですか?」


 僕は思わず漏らしてしまう。剣闘術会の稽古風景を見に来たこと無いし、状況について問われたこともないのだ。ただ僕が吐露したそれを聞き取ったレオスは僕らを睥睨(へいげい)すると、


「なんだ、不満かね?」


と強く言う。僕たちはお互い目線を交差させてレオスの次の句を待つ。


「大体ねぇ……、嫁入り前の女子(おなご)風情が木剣振り回してチャンバラ遊びしてるっていうのかね? 僕はね、大っ嫌いなんだよ、判るかね? 判らんだろうな」


 そう言ってレオスは訳知り顔でうんうんと頷きながら一旦話を切る。そしてレオスは煙草に火をつけるとぷぅと紫煙を吐き出した。まるで吹きつけるよう吐き出した煙のせいで僕らは噎せ返った。しかしレオスはそんな事気にすること無く二度三度紫煙を吐き出した。


「そう言えばルーチェ先生も昔っから剣闘術をやってたんだって?」


「えぇ。自分が強くならないと他人を守れ――「その前提が違うんだよ、ルーチェ先生!」


と、レオスはルーチェの言葉を語気を荒げて遮ったのだ。ルーチェはムッとするがレオスは気に留める様子は無い。レオスは紫煙を撒き散らしながら更に話を続ける。


「大体ねぇ……、嫁入前の女子風情が他人を守る? 何を言ってるのだね?」


「何を言ってるって。教頭も何を仰ってるんですか?」


「仰ってるんですかだって? 貴様は何様のつもりだね!」


「何様って――――。帝国憲法十四条で男女平等のルールについてもきちんと説かれてますが何か?」


 僕はルーチェに落ち着けと言うがきっと聞こえてないのだろう。ルーチェの頬がどんどんと紅潮していくのが見て取れる。しかしレオスは相変わらず気に留めてなくルーチェの反論を鼻で笑う。


「ふん、女子風情が何を言う。大体ねぇ……、女子供は男の言う事を黙って聞いてれば良いって親から躾られなかったのかね」


「いいえ。パパもママもそんな事一切仰りませんでしたわ。むしろ今の時代に家父長制の名残を引きずり出す人間は見てて痛々しいよね、とは仰ってましたがね!」


「な、なんだとこの小娘風情がぁ!」


 ついにルーチェは席から立ち上がるとレオスに食って掛かろうと捲し立てる。売り言葉に買い言葉、レオスも立ち上がると顔を真っ赤にしてルーチェの胸倉を掴もうとした。もちろんルーチェはその手をあっさり弾く。


「ほんとこの小娘がぁ! 貴様本当に何様のつもりだっ―――「レオス教頭ッ!」


 強く発した声の先には校長のヴィルム、そしてその横にはカオリルナッチが控えていた。


「レオス教頭、――――何をしてるのです」


「いえ、えっと、そのぉ……」


 威厳ある声でヴィルムが言った。レオスはばつの悪そうな表情を浮かべハンカチで額に汗を拭う。ヴィルムは腕を組んでレオスを強く睨みつけると彼は徐々に身体を小さく縮こまらせた。


「ルーチェ先生大丈夫でしたか?」


「えぇ別に何とも。――――非常に不愉快でしたが」


 ヴィルムはハンカチを差出し優しい声で問う。ルーチェが首を左右に振りながら応えるとヴィルムはハンカチを懐に戻し、レオスを睥睨した。レオスは苦々しい顔をしながら小さく舌打ちをする。


「アンジェ先生。教頭が不愉快な事を言った非礼について詫びさせて欲しい」


「いえ、僕は気にしてません。大丈夫ですよ」


 僕の一言を訊いてヴィルムは溜息を付くと、カオリルナッチと小声で相談する。


「アンジェ先生とルーチェ先生、後で学院長室に来てほしい。新聞取材の件も含めて今後について相談したい」


「はい、承知しました」「わかりましたわ」


「じゃ、失礼する……、レオス君、ちょっと学院長室まで来てくれ給え」


 そういうと二人はレオスを連れて行った。途中カオリルナッチが振り向くと満面の笑みで僕達にひらひらと手を振った。教職員室の扉の閉まる音がしてから僕らの周りに他の教師たちがぞろぞろと集まってくる。




「今のレオス、何なんですかあれ?」


 皆の耳に入るように誰かが言う。


「あの暴言の数々……、よほど虫の居所が悪くても出てくるもんじゃないですよ」


 ミモーゼンも溜息混じりに芝居掛かった風に手を振って言った。


「そういえば昔の話なんですがね。―――あのレオスは剣闘術会の女学生に恥かかされた事がありましてね。どうも未だ根に持ってるらしいんですよ」


 さらに続けたミモーゼンの言葉にふとジェイリーの母・キュリルの笑顔が思い浮かぶ。確か花街で金髪のカツラを記者の前で奪われ三面記事にされたと聞いた事がある。というか、本人がいないところでは皆はレオスと呼び捨てなんだなと思った。


「あー、レオス金髪ズラ事件!」


 ルーチェが大声でそう言うと、皆が口の前に人差し指を立てた。しかし皆は訳知り顔で笑みを漏らす。


「そんな事もあるんで、レオスは剣闘術会を目の敵にしてるんですよ。ですからルーチェ先生、気にしないでくださいな」


「そーですよー、ふぅー、あんなハゲレオスなんて、ふぅー、まともに取り合ってたら損ですよー」


 ミモーゼンがそういうと、美術教師のドルーデも同調する。ドルーデはマニキュアを塗ってたらしく、爪をフーフーと息を吹きかけながらだったが。


「胸倉掴もうとしてましたけどあれって……完全にセクハラじゃないですかー? 絶対どさくさに紛れておっぱい触ろうとしてましたよー」


「本当に怖かったですよね――大丈夫ですかルーチェ先生?」


 声楽器楽教師のデュフテンとカロリーナも続ける。

 皆が僕やルーチェの味方になってくれている。


「私は大丈夫ですから、本当にありがとうございます」


 ルーチェが嬉しそうに答えると、なんかあったら相談しておいでと皆が各々僕らに声を掛けると自分の場所へ戻っていった。





 夕刻頃、学院長室に呼ばれた僕とルーチェはヴィルムから二つ三つ聞き取り調査をされた上でレオスの処分を聞かされた。たった停職三日間らしい。あれだけの暴言を吐き、身分を隠してるとは言え王族であるルーチェの胸倉を掴もうとしてこの程度で済むんだと思った。ルーチェは特に気にした様子もなく、ふうと一息ついただけだったが。


「で、レオス君が言ってた新聞取材なんだが……、アンジェ先生一人で応対するかい? もし不安なら僕も立ち会えるよ? ―――さすがにルーチェ先生をブン屋の前に出すのはまずいだろうからね」


 そう言ってヴィルムはコーヒーを啜る。ルーチェと視線を交わらせると一つ頷くと、


「もしお手隙ならその段取りでお願いします」


と、僕が言った。




「えー、美容院予約しなきゃ!」と、ラフェル。新学期前に美容院行ったのにまた行くのだろうか?


「絶対私の前髪、変だよねぇ!」と、ジェイリー。手鏡を取り出すと前髪を整えていた。いや、もう諦めた方が……。


「うわー! すごく緊張するよねー!」と、ミノン。そう言いながらもなんだか嬉しそうにしている、まるでワンコみたいだ。


「―――恥ずかし」と、ジョルジェ。聞きそびれそうな程小声で呟く。


「何か訊かれるんでしょうかね」と、パティ。「ドキドキしますね」と、マリ。二人は手をつなぎ顔を見合わせて言う。


「たかが地方紙に浮かれすぎですわ、ふん」と、デリッカ。しかし言葉と裏腹に後れ毛を撫でていた。


 と、剣闘術会のブリーフィングで新聞取材が来る旨を伝えたところ皆は驚き様々な反応を浮かべる。


「まぁいつも通りの練習を見せればいいだけだ。下手に肩肘張る必要はないぞ」


「そうよ、下手に意識すると変な記事書かれるかもしれないからね」


 僕とルーチェが一言付け加えておく。


「まぁ、僕らは本番までケガなく練習するだけだぞ」

「はーい」「はいッ!」「はい」「へいっ!」




      *

      *

      *




 それから一週間ほど経った日。

 学院長室に呼ばれた僕はヴィルムから二人の記者を紹介された。


「今回は取材に応じて頂きありがとうございます」


 シュトレーメ中央新聞の名刺差し出した初老の記者がにこやかに言う。ハンチング帽で耳に赤ペンを差した新聞記者然の男は僕たちの名刺と僕とヴィルムを交互に見ると一つ訊いた。


「あれ去年の女性教官さんは?」


「あぁ、いま育児休業中なんですよ」


「あ、そうですかぁ――――」


 ヴィルムが応えると、記者は間延びした返答をして何やらガサガサとメモを取る。


「という事は……、アンジェ先生でしたっけ? 先生はどこかで剣闘術などの指導教官をなされてたとか、競技者だったとかなんですか?」


「いえ。去年まで帝立学院で研究者をしてたんですよ」


「あ、あぁ――――、そうなんですねぇ――」


 そう言って再びガサゴソとメモを取る。どうもこの記者は僕の返答で完全に興味を失ったのだろう、その後も在り来たりな質問をいくつか繰り返してメモを取るだけだった。もう一人の老齢記者は黙ってやり取りのメモを取っていた。先程挨拶の時には『シュトレーメブッキーズ(賭博新聞)』の名刺を差し出した彼は、どちらかと言えば記者然としていない。なんだか商家の番頭のようにも見えると評したほうが良いだろうか。


「じゃあ――、僕はこの辺にしたいと思いますわ」


 ひとしきり質問をすると初老の記者は席を立つ。


「中央新聞さんは稽古風景は見ていかないんですか?」


「えぇ。他にも中街の取材ありますんで。ではすんません、ありがとうございました」


 ヴィルムの問いかけに記者は応じると軽く会釈し、そそくさと学院長室を出て行った。バタンと扉が閉まると誰となくふぅと息を吐く。


「ブッキーズさん……、どうなさいます?」


「えぇ……、良かったら練習風景を見学させていただけます?」


 僕の問いかけに老齢記者は顔全体をほころばせながら言った。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。

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