02話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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新学期での初回授業では秋冬期授業オリエンテーションを行う。どのような段取りで今後授業や試験、採点を行うかの説明会みたいなものなので学生たちはどことなくそわそわしている。ただ初回授業だけは余程なことがない限り出席となっているため、わざわざ来た学生からしても億劫だろう。しかも大体が説明をしたらそれで授業が終了するため緊張感というものは無い。
「―――というわけで、授業展開はこんなつもりで考えてるが……、今から授業やりたい人いる?」
僕が敢えて聞いたところスッと何人かが手を挙げる。中には真面目な学生も居るのだがしかし、殆どの学生達からはどう見ても勘弁してくれって表情が浮かぶ。気持ちはわからんでもない、さっさと帰って遊びに行きたいだろう。
「じゃあ、今日は早いけど解さ―――」
言い終わらないうちに学生達数人は脱兎の如く退室していった。こういう時の学生達は身軽だ。
何人かは教室に残ったが、そんな彼女たちは彼女たちでおしゃべりを始める。夏季休暇が明けて久しぶりの再会だ、鞄からお菓子を引っ張り出しておしゃべりしだすのも居た。
僕はひとつ溜息をついて教室を後にした。いつの時代も学生という生き物は変わらない。
「あの、アンジェ先生」
教室を出てしばらく、声を掛けられたので振り向く。先ほどの授業を受けていた女学生だった。
「えっと、どうかしたか?」
その女学生をなんとなしに観察する、別に年頃の女学生を穴が開くほど見る趣味は僕にはないが。深刻な悩みなど抱えてた時の初動を間違えると大事故になりかねないから観察はする。その彼女は思いつめた表情もなく、からかってやろうといういたずらっぽい表情でもない。
「あの、剣闘術会の公式戦っていつでしたっけ?」
「ん? 来月の半ばだけど……、どうした?」
「いえ――、ラフェルちゃんに頑張ってと伝えてください」
そう言ってその女学生は去って行った。ラフェルの友達だろうか……?
その日の午後、剣闘術会稽古の日。全員が制服から道着に替えて各々素振りをしたりストレッチをしたりと、準備をしていた。
「全員集合、ブリーフィングするぞー」
と、僕が声を掛けると皆が集まってきた。
「公式戦まであと一か月と少し。みんなが勝ち上がりたいって意見を基にキュリル師範代と相談した結果、どんどん出稽古に来てくださいなと言われたんだ。で、だ、出稽古は嫌だなぁって者はおるか?」
僕は皆の顔を見やる、皆は誰彼と視線で合図を送る様子は無い。
「特にマリ君パティ君の混合戦はパートナーとの連携戦でもあるから、出稽古で二人の連携を磨きたい」
僕がそう言って二人を見る、二人も静かに頷いた。
「皆も更に高みに上がってほしいからね。出稽古の件は了承してくれるだろうか?」
そう言って皆を見まわした、少女たちは静かに頷いた。
「よし。じゃ、質問はあるか?」
「はい、質問がございますわ」
デリッカが静かに手を挙げ、一歩前に出る。
「公式戦スタメンは決まったんですの?」
「構想としてはある、しかし確定じゃないな」
「じゃあその構想とやらをお聞かせ願いませんこと?」
「わかった」
ザントバンク剣闘術会(構想)
・先鋒 ミノン? デリッカ?
・次鋒 ジェイリー
・混合 マリ・パティ
・副将 ジョルジェ? デリッカ?
・大将 ラフェル? デリッカ?
「今のところこんな構想でいる」
「この『?』ってのは、まだ確定してないってことですの?」
「あぁ。相手の得意攻撃パターンによって戦術を柔軟に考えたいし、常に固定メンバーで戦わせてたら疲労も溜まってしまうだろう。でも次鋒ジェイリー君だけは固定で行きたいとは思っている」
僕がそう皆に伝えるとジェイリーが嬉しそうに頭を掻いた。
「えー、それって私に期待大ってことー?」
嬉しそうな顔をしてジェイリーが言う。
「そうだ。仮に先鋒を落としても次鋒で拾えればその後は心強いし、先鋒次鋒と勝ち進めば士気もあがるだろうからな」
「いやぁ、期待されるのは嫌いじゃないよ? あはは」
「逆に、先鋒落として次鋒まで落としたら……、笑えない結果が待ってるけどな」
「あは……、てかそれって責任重大じゃないですかー!」
「だから大いに期待してるんだ、ジェイリー君に」
「やば、お腹痛くなってきたかも」
お腹をさすりながら青い顔をするジェイリーを見て皆がけらけらと笑った。お腹痛いと言いつつも芝居掛かった仕草でさするもんだから誰も本気にしていない。
「デリッカ君、他に質問は無いかい?」
「いいえ、大丈夫ですわ。私もジェイリーみたいにアンジェ先生から期待されるよう努力を怠らないようにするわ」
デリッカは髪の毛を掻き上げると、後ろ手で髪を縛った。
「他に質問あるかー? 無いなら稽古に入るぞー」
「はーい、アンジェ先生ぇ質問ー!」
「はいミノン君」
「やっぱ風紀チェックの時、ぱんつ見えました?」
「何度も言いますが、見えてませんでした」
あの日以来、ミノンからたびたび聞かれた。見えてないといつも答えてる。うん、見えてない。白い何かは見えただけだ。ぱんつではないはずだ、だから恥ずかしくはないぞ。
稽古の休憩中、ラフェルと出稽古の回数や謝礼、休息日の設定について相談をする。そんな時、今日の事をラフェルに伝えた。
「そういえば、ラフェル君頑張ってとプランナ君から応援されたぞ。友達かい?」
「プランナちゃん―――、あぁわかりました。ほら、去年の試合で私、肩脱臼したじゃないですか」
「あぁ前に言ってたな(帝歴284年・春11話参照)」
「その相手の妹さんなんですよ、プランナちゃん」
ラフェルがふぅと溜息をつき、前髪を弄びだした。
前述通りジェイリーが早く前髪伸びてくれと祈りを注入しながら弄ってるせいか、皆も何気となく前髪を弄る癖が伝染していた。
「姉妹で違う学校行ってるのか?」
「プランナちゃんの家で色々あったみたいで――。あの試合以降プランナちゃんが余所余所しくなったんですよ、前まで結構仲良かったのになぁ。一緒にカフェ行ったりしてたのに」
「自分の姉が友達を怪我させたと思って、かねぇ?」
「わかりません。――まぁ、プランナちゃんが応援してくれてるなら、頑張らないと」
ラフェルは左肩を摩りながら笑顔で応えた。
やはり僕一人では彼女たちを満遍なく指導するのは荷が重い。そのためルーチェとラバトにも新学期からも指導をお願いした。水臭いこと言うなと言われてしまった。やはりこの二人が居ると心強い。
「その代わり、今度なんかご馳走してよね」
と言われたが。それは財布が痛い……。
剣闘術会の休息日。メイド国家試験でのお礼をなかなか伝えられなかったので、僕は中街でそこそこ有名らしいお菓子屋のケーキを携えて図書館へ訪れた。
「あらアンジェ先生お疲れ様です」
受付で本を読んでいたカロリーナは眼鏡を傍らに置くと僕を見やる。僕はケーキが入った箱を差出して礼を言う。
「カロリーナ先生、この前の過去問の件、ありがとうございました」
「あらー、このお店のケーキご存じなんですね。それなら一緒に頂きません?」
ニコリと微笑み嬉しそうな表情を浮かべるカロリーナに押され、僕は了承した。カロリーナは箱を受け取ると奥へどうぞと招いてくれた。受付の奥には司書室、司書用の事務所、があってカロリーナの私物らしいものがいくつか置かれていた。
「ここって初めて見ましたよね?」
「そうですねぇ、司書室はさすがに入ることは無いですからね」
「まぁ私ぐらいしか入らないところですね。―――少々散らかってますが、どうぞこちらに腰かけてくださいな」
と言って椅子を引いてくれた、僕はお礼を言って腰かける。カロリーナは司書室のさらに奥を指差した、僕もその先の扉に目が行く。
「この奥に司書用の私室があって……。そこに―――、そこに住んでるの。私」
「え、そうなんですか?」
「え、えぇ……」
「本に囲まれた才女の夢ですよね! 本に囲まれて生きるって!」
「え!? あ。はい。ソーデスネ」
「僕も憧れますよ、そういう生活。でも掃除が大変そうですよね。そこが悩みですが」
「え、えぇ……ソーデスネ」
「あと、夜の図書館ってやっぱり、お化けが怖いじゃないですか。住むのはちょっと考えますよね」
「ソーデスネ」
コーヒーを差し出してくれたカロリーナと幾ばくか歓談してから僕は図書館を後にした。
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「なッ、なんなのよ! せっかく私の住んでるところ、こっそり教えたげたのにぃ!」
「うんうん、カロリーナ先生は悪くない! 悪いのは鈍感なくそアンジェだ!」
「そーだそーだ」
「これ、図書館の鍵です、って用意もしてたんですよっ!?」
「うんうん、カロリーナ先生は悪くない。悪いのは鈍感なくそアンジェだ」
「そーだそーだ」
「もう――信じらんないッ!」
その日の夜、その司書私室で荒れに荒れたカロリーナを慰めるラバトとカリナだった。
そしてしばらくの間、僕はラバトから何故かくそアンジェと呼ばれるのだった、解せぬ。
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