01話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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明日から新学期が始まる。
合宿後より空いた時間を使ってレジュメを確認し、新学期へのプランを組み立ててきた。そんな最中にメイド試験やルコトの来訪があった訳だ。バタバタした中で本当に問題が無いのか何度も何度も確認してその日の夕飯を食べる。
そんな折、部屋の内線法具が鳴る。出たら階下のカオリルナッチからだった。
『おっすーアンジェ―先生、暇?』
「そこそこ忙しいです」
『部屋に上がってもいい?』
「ダメって言っても来ますよね?」
『もちろん、ワイン持って行くわ』
「――手ぶらで良いですよ」
『ほんと? じゃあカリナと一緒にすぐ行く』
そう言って通話が切れると、床下からコツコツと叩く音。そして跳ね上げ床から二人が出てきた。
「おーっす、飲みに来たよー」
「こんばんはアンジェ先生、お招きに預かり光栄です」
手ぶらで良いと言ったが、さすがに気が引けたのかワイン数本と軽食を持ってきていた。それを二人でテキパキとテーブルに広げると宴会を始めたのだった。
「……いつも思うんですが、カオリル先生ってお酒の事になると段取り良いですよね」
「なによー、人を鈍くさい女みたいに言わないでくださる?」
そういうとカナッペを口に運び、ワインで流し込む。グラスが空いたのを見計らってカリナがワインを静かに注いだ。そのカリナもカオリルナッチ同様にカナッペを口に運んでるのだが。
「あぁそうそう、明日から新学期だよね」
カオリルナッチが思い出したかのように口を開く。ただし咀嚼中だったためかなんとなく聞き取りづらい、それどころか彼女はこの学校ではマナー教師だ、それはどうなんだろうか。
「えぇそうですね。何かありましたか?」
「ほらほら、夏季休暇明けに『学校デビュー』するようなトンチキ、たまに出るじゃない? そのために風紀委員と教員が校門で待ち構えて、学生たちの服装などが校則に合致してるのかをチェックしなきゃいけないのよ」
カオリルナッチはそう言って新たにワインを開封してカリナのグラスに注ぐと、
「アンジェー先生、お願いね」
「はい?」
と、にっこり微笑んでワイングラスを僕に突き出した。
「いやいや何をどうしたらいいのか判らんのに、前日に言うのはどうかと思いますよ?」
「大丈夫! あのカロリーナたんも一緒だし、風紀委員も居るから。まぁ有り得ない事だけど、風紀委員に喰って掛かる学生が居たら制止する係ぐらいよ、アンジェー先生の仕事って」
「そんなもんですかねぇ……」
このように押し付けられた仕事ってロクな結果にならない……、二十数年生きてりゃ理解できる事象だ。胸騒ぎが治まらないな。
「不安は解ります、相手は年頃の乙女ですからね。ま、ま、一口召し上がってみてくださいな」
僕はカリナに勧められるがままにカナッペを口にする。爽やかな酸味のチーズが乗ったそれはきっとワインに合うのだろう。それならば、と僕は保管庫からフェリシーから教えてもらったノンアルコールワインを取り出し、グラスに注いで飲んでみた。ふぅ、少しは酒飲みの気持ちがわかった気がする。
「でもねアンジェ先生、夏季休暇明けの服装チェックってけっこう面白い業務なんですよ」
テーブルに寄りかかってワインを飲むカリナが言った。
「夏に何かあったんでしょうかね、奇抜な恰好して登校したり、セルフプロデュースの方向性を完全に見失った恰好した子に指導するのを生暖かく見守るのが仕事なんですよ」
「そうなんですね――、カリナ嬢が女学生時代だった時、どんな子が居たんです?」
「そうですねぇ。スカート丈を詰めたまではいいけどやりすぎちゃってペチコートどころかぱんつまで丸見えだったり、最近流行りの髪型にしたつもりが全然似合ってなかったり、それどころか自分で前髪にハサミ入れて大惨事とか……、ですかね?」
そう言ってカリナはカナッペに乗ってたパセリを除けると口に放り込む。
「そんなあられもない姿を見て近所の人たちは何も言わないんでしょうかね……?」
「ん? きっと近所の人も気付いてますよ。でもほら、昔から言うじゃないですか」
「何をでしょう?」
「若さゆえの過ちを見て、今日も飯がうまい!」
「最低だな!」
翌朝。明けの鐘が鳴る頃に校門前へ向かうと、銀髪の小柄な女学生が一人ぽつんと突っ立っていた。僕は待たせてごめんと言って声をかけた。
「おはよう、今日はよろしくお願いしますね」
「おはようございます。――アンジェ先生、ネクタイぐらいしっかり締めてくださいませ」
そういってその女学生は僕のネクタイをグイッグイッと強く締める。
「く、苦しいよ――、ポーリァ君だよね一回生の」
「はい。ちゃんと名前、覚えてくれてるんですね」
「一生懸命授業を真面目に受けてる子を忘れるわけ無かろう。不真面目な奴もしっかり覚えてるがな」
そういうとポーリァはネクタイから手を外すと僕を見上げた。このポーリァ、階段教室では後ろの方で授業を受けており、ぽつんと座っているのが教壇からよく見えていた。居眠りもせずに板書を取ったり発言をメモ取りしたりと努力してる学生の一人だ。成績もジョルジェ、デリッカに続き三席だったりする。ただし夏季休暇前の定期試験ではデリッカがポカをやらかして赤点を計上しているため実質上の成績は次席だ。なお補習授業には参加していたし、補習修了試験ではジョルジェ、デリッカと共に満点だった。
「あらら、おはようございます。ポーリァさん、新婚さんごっこですか?」
僕とポーリァが声する方向へ振り向くと、花柄のワンピースに白レースのカーディガンを羽織ったカロリーナが会釈していた。僕らも慌てて会釈する。
「ち、違いますよッ! アンジェ先生のネクタイが!」
「それならそう指摘すればいいのよ。先生なら自分でちゃんと直せるわよ」
そう言ってカロリーナは口元を手で隠しながらふふふと笑う。ポーリァは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あと少しで他の風紀委員さんたちが来ると思います、ちょっと軽食いかがですか? サンドイッチ作ってきたんです」
カロリーナは左手にぶら下げていたバスケットを軽く掲げる。
「ちょうど朝御飯どうしようか思ってたんですよ、ポーリァ君もどうだい?」
「……頂きます」
校門近くのベンチで僕たちはサンドイッチを頬張った。こんな朝早くに見栄えよく作ったのだから、カロリーナはさぞかし早起きをしたのだろう。そんな事を考えてた時に他の風紀委員たちがやってきた。
「はい、今日から新学期です。伝統あるザントバンク修身学院に校則破りなぞ不要です! 違反者はバシバシとチェックして吊し上げていくのが我々の仕事です。いいですね、一人たりとも見逃しちゃダメですからね!」
そう言って他のメンバーに檄を飛ばすのは四回生の風紀委員長。僕とカロリーナは離れたところで彼女らのブリーフィングを見守ってたが、まるで憲兵のそれだ。
「カロリーナ先生――、吊し上げるとか言ってますがそこまで必要なんでしょうか……」
「アンジェ先生。学制令には『学校の自治』というのがある程度認められてるのはご存知ですよね」
「えぇ。一般的な常識や帝国法からは逸しない程度には『学校自治』は確かに認められてますね」
「学校則に定められた範囲内でも『学校自治』は認められてます。しかし、どのように取り締まり、どのように処分するかも学校則の定められた範囲内でも認められてるんです」
「とは言え、吊るし上げるまで必要なんでしょうか……?」
「信賞必罰のわかりやすい形、なんでしょうね。最終的には必罰の方向性が伝統って暴力で思考停止してますが、学校とかの閉鎖環境ではよく見られる光景なんですよ」
そう言ってふふふと笑うカロリーナだが、目は笑っていない。僕は思わず生唾を飲んだ。
「その学校自治を振り回して窃盗や傷害などの事件を学院長らが必死に隠蔽するようになればただの馬鹿でしょうね。どこの国の話ってわけじゃありませんが、ね」
カロリーナの乾いた笑いがなんとなく他人事に聞こえない。
通学時間となり、校門に一人、また一人と風紀委員のチェックを受けて通過していく。しかしその中でも
「あなた、スカート丈!」
「なんですかその靴下は!」
「その髪型は学校則に反してるわよ!」
と怒声で違反学生たちを威圧していた。風紀委員から違反切符を切られた学生は一週間以内に違反を修正しないと停学処分となるし、無駄に名前も張り出されるのだ。本当にそこまでする必要があるだろうか。そんな様子を見ていた僕だったが、風紀委員の一人から呼ばれた。
「あちらで大柄な学生がポーリァに食って掛かってます」
そう呼ばれて僕とカロリーナが校門を抜けるとミノンがポーリァに身振り手振りで事情を説明していた。僕らが近づいてきたのに気付いたのかミノンは大きく手を振る。しかし彼女のスカート裾からチラチラと見える白いモノが……。
「あーっ! アンジェ先生おはようございまーす!」
「おはようミノン君、なんか久々に見る制服姿だな」
「えへへー、夏季休暇中は道着ばかり着てましたからねー。それどころかカロちゃん先生おはよー!」
「カロリーナ先生って呼びなさい、ミノンさん。それよりなんですかその制服」
「え? なんかありましたー?」
そう言ってミノンはくるりと一回りする。
「ミノンさん! ですからスカート丈と上衣丈が問題なんです! あと靴下も!」
とポーリァが強く言う。しかしミノンは不思議そうな顔をして応えた。
「えー? 別に制服改造してないですよー? ほら、ポーリァちゃん見てみて?」
そう言ってミノンはスカートをぺろんとめくり、指差した。
「ほら、改造防止のスタンプは触ってないよー? ねぇカロちゃん先生も見てー?」
確かにスカートの内側、折込部のスタンプは切れてない。
「じゃあなんでそんなミニスカートなの! 学校則では膝上なのに!」
「え、まさか、背がすこーし伸びた……?」
ミノンが顔を青くしてるが、きっと少しってレベルじゃない。ここに入学した頃は膝上丈でスカートを拵えたが急激に背が伸びたため膝上二十ボウ程度になったのだろう。もちろん上衣も丈が間に合ってない。しかも今じゃ僅かにミノンのほうが目線が上だ、きっとまた伸びたのだろう。
「それよりミノンさん、いつまでスカートをめくったままなの、破廉恥よ!」
ポーリァが言うがミノンは慌てる様子もなく言う。
「ほらほら、下穿きの黒パンツ履いてるから!」
「ミノンさん、――下穿き、履き忘れてるわよ」
ポーリァの一言でミノンの絶叫がこだましたのは言うまでもない。あと、僕は見てない、見てません――! 結局ミノンには早めに制服の新調を、と厳重注意で済んだ。
なお剣闘術会で検挙されたのは、ジェイリーが前髪を切りすぎてしまい無数のヘアピンで誤魔化したのが学校則違反として違反切符を切られたぐらいだ。ヘアピンを外させられた彼女は授業中も稽古中も殆ど無くなった前髪を何度もさすっていた。なんかちょっとかわいい。
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