20話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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その日も変わらず、あたしは学舎で仕事。
朝起きたとき、また右足の親指付け根あたりが僅かに痛む。まぁ耐えられない痛みじゃないので気にせずに体操をする。あのギュースのおっさんに教えてもらった体操をする習慣は今も変わっていない。物理的にも精神的にも起きるのにちょうどいいらしい。ベッドを整えて自室を片付けると、灰皿や空瓶を片付けて掃除をして朝ごはんを食べる。朝一番に飲むワインで昨夜は飲みすぎたかなと思い、温野菜サラダをつまむ。そしてご飯が終わったら始業だ。
衛士小屋に届けられた新聞を指定された所へ届ける。この新聞銘柄なら学院長、こっちはハゲレオス、これは図書館と。新聞を届けるついでに学舎を見て回る。この夏季休暇で直せる所は直しておくためだ。この前は渡り廊下の手すりを直したし、よくカオリル先生が寝てるベンチはペンキの塗り直しをした。しかしカオリル先生には塗り直したぞと伝えたのにそこで寝そべった為に大惨事となったが。
校舎を歩いて次の届け先の図書館へ向かう。
「おい用務員」
朝っぱらからハゲレオスと出会う。今日の運気、急落した気がする。
「はい、おはようございます」
「あのさ、あそこ! あそこ全然直してないじゃないか!」
「えっとどこの事でしょう?」
「どこじゃないよ、あそこだよあそこ! 分からんのかね!」
うん、厄日決定。
あそこと言われても下品なあたしは変な想像をしてしまう。朝から下品だな、まぁ気にしないけどさ。取り敢えず目線をハゲレオスの股間から頭の生え際へと移す……、いかんいかん、あまりにも見つめ過ぎるとハゲデコの日焼け痕が目に焼き付いてしまう。
「早く直しておきたまえ! んたっく――」
ハゲレオスが珍しくグチグチ言わず去っていった。珍しいことがあるもんだと見送る、どうも内股でこそこそ歩いていくところを見る。きっと……ウ●コしたいんだろうな、にやりと笑ってしまう。
「あの、レオス・ド・ドリーヴ教頭!」
あたしは最小旋回でハゲの正面に回り込む。
「な、なんだね!」
「きょ、今日はー、いい天気ぃーですよね。で、先程のぉ――」
あたしはいつものように死んだ魚の眼を装いながらレオスに話しかける。しかもいつもよりも鷹揚に話しかけたのだ。
「お前、もう少しさっさと話さんか!」
「でーすーかーらー、先程のぉー」
時間を掛けて話せば話すほどレオスの額は脂汗で輝きを増す、そして目に焼き付くハゲデコの日焼け痕。きっと本気で便意を我慢しているのだろうな、あまりにも引っ張りすぎて彼の人間としての尊厳を棄損させたら後が怖い。
「うるさい、お前から話しかけるなちび黒! 身の程を知れ!」
そう暴言を吐き散らし尻を押さえて内股で走って学舎へ入っていった。
これで少しはあたしの運気が上がったろうか? と言ってもハゲレオスに出会った瞬間で底値だけどね。
学舎の掃除は専門の掃除婦さんが居る。ここは女子学校なので掃除婦さんだ、掃除夫は居ない。来客でない限り教員か衛士ぐらいしか基本的に男性は学校に入れない程だ。まぁ嫁入り前の子女たちが通うところだからな。ちなみにあたしもだけどな――。
その掃除婦さんから修理依頼や異常があればあたしのところへ必ずやってくる。
「ラスさん、階段教室の椅子が――」
「その案件はコルネ工務店に連絡済です、部品が来次第修理出来ます、もうしばらくお待ち下さい」
「あの、ラスさん。二階トイレにこの落とし物が――」
「分かりました、こちらで遺失物として手続きしておきます」
私はラスさんと呼ばれてる。いつも淡々と仕事いているが、
「ラスさん、ちゃんとごはん食べてる? ほら弁当、ちゃんと食べんと大きくならないわよ!」
と、世話してくれるおばちゃんもいる。おばちゃんと言ってもあたしよりはるかに年下なんだがな。
今日は緊急修理が無かったのでまた校門の衛士小屋へ行き、郵便屋から届いた郵便物を受け取って安全性チェックに入る。過去に女学生と教諭との禁断の恋がこじれた結果、爆発物を送りつけられた事例があったのだ。たまたま不発だったから良かったものの、もし起爆したら笑い事では済まなかっただろう。そのため郵便物一つ一つに法術を掛けて安全を確認してから配布に入る。
今回もアンジェ先生の次姉・フィアランスさんから木箱に詰められた手紙が届く。あのブラコン姉だから危険はないと思うけどマニュアル通り法術を掛けた。うん安全――、まだ帰って数日も経ってないのによくもまぁこんなに書けるよな。まぁアンジェ先生も色々書き殴ってはボツとなった原稿用紙がクズ紙として大量に出される事があるが、こんなに書き殴れるのは遺伝かもしれないな。
安全と確認出来たので手紙を配りにまた学舎を歩く。まずは大型郵送物をアンジェ先生の小屋の前に置く。次に図書館にカロリーナ嬢宛の書籍書物を届ける。
図書館に入ると、受付にカロリーナ嬢が眼鏡をかけて本を読んでいた。彼女は本を読む時だけ眼鏡を掛けてる、相変わらず可愛いよな。
「あら、ラバトさんお疲れ様」
「カロリーナ嬢、今日もご機嫌麗しゅう。お、花柄ワンピ可愛いな」
「うふふ、ありがとうございます」
カロリーナ嬢は眼鏡を外すと髪の毛を掻き上げた。この司書で化学担当のカロリーナ嬢は花柄とレースを好んで選んでいる。あたしはいつも彼女のワンピースやリボンなどを褒めるようにしてるが、アンジェ先生が赴任してからの彼女はファッションに気合が入ってると思っている。
「そろそろアンジェ先生も判ってくれるんじゃね?」
あたしがそう言うとカロリーナ嬢は顔を真赤にして俯いてしまった。
「そ、そんなんじゃ……ありませんよ――」
と、口にするが表情は乙女そのものだ、かわいい。
とは言え人間族の女は殿方から可愛いと謂われる時代なんてほんの十数年程度だろう。その僅かな瞬間に輝きたいから精一杯お洒落をするんだろうし恋もするんだろうな。
翻ってあたしらエルフ族は精通初潮が来て数年間は身体的成長はするが、それから数百年は姿かたちはほとんど変わらない。そう、人間族から見たらあたしらは可愛いと謂われる時代が数百年も続くんだ、正直面倒くさい。
あと人間族はたった四十代で高齢期出産と謂われるが、エルフ族は七百台でも普通に出産は可能だ。なにせ私と叔父の一人は同い年だしな。カロリーナ嬢は確か今年で二十四歳、あたしの母ちゃんがルコ姉さんを産んだ年だな、人間族が赤ちゃんを産むにはちょうどいいだろうな。
あたしはもう……三百歳を超えてから年齢なんて数えてない。ルコ姉ぇと五つ違うだけだしな。ルコ姉ぇとあたしの間に兄が居るぞ、今頃父さんの跡を継いで森を守ってるんじゃないかな。
そんな三百歳超えのあたしはこの学院内で生活してるから着飾ろうって意識はもう既に無い。観てくれるのなんて、女学生かハゲレオスを筆頭にしょっぱい男性教員か全員妻帯者の衛士のみ。だから箪笥にかわいい服なんかもう入ってない、あるのは作業着と洒落っ気のない衣類と防寒具のみだ。
「じゃあ、届け物はこれだけね」
そう言ってあたしは掌をひらひらと振って図書館を出た。その間ずっとカロリーナ嬢は顔を真赤にして俯いたままだった。
そういえば剣闘術会の合宿前にアンジェ先生と飯を食いに行くって話をしてたが、その後どうなったかは聞いてない。確か兄と三人でと言ってたからいい形に進めば……と思ったがあのタマ無しだ、あまり期待しないほうが良いだろうな。
んでもお付き合いもしてないのに家族に会わせるカロリーナ嬢はある意味、ガツガツ系女子なのかしらん? あのクソアンジェが気が付いたときには、家ではもうカロリーナ嬢との結婚で話が纏まってたりしてな。そうでもしないとあの鈍感タマ無し男は結婚なんかせんぞ?
あとは校舎をぐるりと廻ってカオリル先生の部屋に。扉には『締め切り近いのでアポのない訪問ご遠慮ください』と張り紙がされてたので郵送物を扉の切り込みに突っ込んで教職員室へ。
まだ夏季休暇中のため教職員室は当直のレオスだけしかおらず、彼はソファに腰掛けて風俗誌を読んでいた。なんか下衆い顔で読んでたので放っておくことにする、明日でいいや。なおレオスのズボンは朝と変わっていた、――すまんな。で、ハゲレオスの股間には劣情溢れる膨らみがありキモいなぁと思った。マジ刈り取ってやろうか――。
その後、早めの昼ごはん。いつも掃除婦のおばちゃんが夕飯用にとお弁当をくれるのでそれをワインと共に頂き、すこし横になる。ギュースのおっさんはあたし達に昼飯と午睡の文化を教えてくれた。午後から効率よく頑張れるようにしっかり昼飯を食って少し寝ると良いと言ってたからな。だからあたしは昼飯を食べてワインを飲むと少し寝るようにしてる、たまに深酒して目が覚めたら夕刻だった……というのも年に数回はあるんだが。
今日最後の業務はゴミ回収。掃除婦たちが廊下に置いてくれるので学舎をぐるりと廻って回収し、最後がアンジェ先生の小屋だ。ここを最後にするにはちゃんと理由がある。このゴミ回収の仕事が終われば今日のあたしは終業だ。だからこそアンジェ先生ンとこで休憩と勤労後のワイン! 気持ち良く酔えばいいのだから。
アンジェ先生の小屋に付く前に煙草をくわえ、火をつける。そしていつものようにノックもせず扉に手をかけた。
「おーアンジェ先生ゴミくれー、あとここでちょい休け――」
目に飛び込んできたのは、背の高いアンジェ先生と、カオリル先生、そして……
「あ、ラバちゃん」
私と同じ背丈した、ずっとずっと会いたいと思ってた姉が居た。
私はとにかくこの場を離れないとと思い走り出していた。
しかし何故か足がもつれて転ぶ。すぐに起き上がろうとするが何故か足元が滑って立ち上がれなかった。
「なによラバちゃん。逃げなくてもいいじゃない……、もう、どうしたの?」
クラッチ杖を付いた姉は私のもとへ来ると、ゆっくりとしゃがむ。
「――――ッ!」
「ほらほら膝小僧が擦りむいてるわよ。昔っから変わらないわね、可愛いラバちゃん。イモ・ド・ニキ・モヘレ・トセ」
姉は何事もなかったかのように五音節もの法力発動言語を発動させる。私の傷口の周りにはいくつもの法術陣がゆっくりと廻る。そして膝の生傷は何事もなかったかのように消え失せた。
「あらあら、そんなに痛かったの? 泣かないでお願い」
ハンカチで私の顔を優しく拭う。
「あ、あのっ……、その――ッ」
「良いのよ。今は言葉なんか要らないから……」
おねえちゃん。
今までなにも連絡しなくてごめん。
懐かしい匂いのせいか、涙が止まらない。
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