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19話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

https://ncode.syosetu.com/n4841ia/

 講談や演劇、吟遊詩人が語るカルグストゥス叙事詩及び周辺作品と言えば市中でも人気の演目だ。

 この帝国の成立を後世の人間が面白おかしく物語形式に仕立てたものだからもちろん史実資料として充てにされてない。史実で活躍した人物が地味って理由で出てこなかったり、逆に史実に存在しない人物も出てきたり、地味な人の実績を使って活躍したりするぐらいだ。

 そのカルグストゥス叙事詩に、人間やエルフ族ではない妖精ヴィヴィアンというキャラクターが時々出てくるのだ。このヴィヴィアンの初出はギュースが愛用の剣をへし折ってしまい途方に暮れてた時、池に沈む聖剣を紹介した時である。なお愛用の剣をへし折った理由だが城攻めで馬を駆って突入した時に剣を振りかぶった時に天井に当って折れたそうな。普通馬を駆ってるのなら騎槍など使えばいいのに、と言われている。


 そのヴィヴィアンだが、こういう話がある。死んだはずのヴィヴィアンが、部下の()()を十五歳まで育てていたという話だ。(※帝歴283年・冬 11話  参照)

 どういう経緯で育てていたかは物語では語られていない。その子どもについてもあまり詳しく語られておらずにただ一言、『育ててその()()が戦線に参加した』ってだけ語られてるのだ。




     *

     *

     *




 パティシグル連合国の偽和平使者の自爆テロで顔に大怪我を負ったルコトは、伯父らが率いる一軍の治癒術団のお世話になる。しかし、診療に当たった治癒術長が検査した結果を聞いた伯父は、ルコトに衝撃的な一言を発したのだ。


「ルコ、お前、妊娠してるぞ」



 その際に伯父はルコトに父親は誰だとは訊かなかったし、それどころか誰にもその話をしなかった。ただ妊娠中のルコトにはこれ以上従軍するなと言うだけだった。今まで大好きな人と共に歩み、戦果を積み上げてきたルコトだが戦線離脱せざるを得ない事となる。


 それを幕舎で飲んだくれてたヴィヴィアンに泣きながら漏らしたところ、


「何泣いてるの? なに悲劇のヒロインぶってるの? あんた本当に馬鹿なの?」


と真顔で言われたのだ。


 こんな、人を切った張ったするような所はお腹の赤ちゃんに障るわよ。



 そう言われたルコトは書き置きだけ残してヴィヴィアンと共に離脱した。それを知ったギュースはどう思ったか……今じゃよく判らない、一切語られてないのだ。それに『魔弾の法撃手』と呼ばれるルヴァン・トゥルリーセンが物語で一切語られてない時期も間違いなく存在する。


 戦線を離脱した二人はヴィヴィアンの故郷であるエレイン村に行き着き、ルコトは女児を産んだ。ルコトはその女児にコンフィルマンディニエアと名付けた。その女児の父との接点を思って――。

 その後、ルコトは産後二ヶ月で戦線に復帰したのだ。



 残されたヴィヴィアンとその女児、後のルヴァンシュ、はエレイン村で過ごす。ヴィヴィアンはその女児を厳しく育てたようだ。




     *

     *

     *





「あ、私ちゃんと()()()()()わよ、確認する?」


「いやいや、疑ってませんから!」


「いやぁー、男の娘って新ジャンルも!」


「ルヴァンシュ、男の娘については――」


「はいはい! ということは……、ルヴァンシュ嬢を育てたのがカオリル先生だって事、ですよね?」


「そうよ? ――なによ、なんか言いたいことあるの?」


「い、いえ……」



 僕が訊いたところ、カオリルナッチが応えた。

 しかし少なくとも僕はカオリルナッチが子どもを育てたと聞いて耳を疑ったのだ。あれだけ自由に生き、飲み、暴れ、騒ぐような人が子どもを育てられるのか……? そう思った瞬間に頭に衝撃が走る。


「そ、育てたもん! ちゃんと頑張ったもん! 私、頑張ったもん!」


 涙目になりながら振り抜いた扇子を持つカオリルナッチ。どうも頭を叩かれたようだ。そう言えばカオリルナッチは読心が出来るんだった。最近じゃシラフの彼女と殆ど接した記憶がないからな。

 

「ママは私を一生懸命育ててくれたよ!」


 そんな中、ルヴァンシュが声を上げる。


「あのね、ママが育ててくれたことで覚えてることと言えば……」


「――言えば?」


「酒は飲んでも飲まれるな!」



 これまでにひどい反面教師は無いだろうな。




「ところでさぁルヴァンシュ。今まで聞けなかったんだけどさ、ヴィヴィアンとの十五年ってどんな生活だったの?」


「んー、そう言えばママからなにも聞いてないの?」


「だって私、戦線復帰せずにエレイン村に留まったでしょ? しかも大戦終結後の論功行賞でシュトレーメの学院長職を貰ったぐらいだし」


「ちょ、ちょっと待ってください、なんですか学院長職って!」


 カオリルナッチの一言に僕は思わず声を上げた。

 確かにカオリルナッチはラバト同様、かの大戦の生き残りで、まさに歴史の生き字引だろう。しかし何故にカオリルナッチはこの学校で教鞭を取っていたかはいまいちよく分からなかったのだ。



「私って元々、前王朝の高家職だったランスロー様の守護妖精だったの。でも汚職と佞臣の横行で王はお飾りなだけ、国家としては成立してない状態だったわね。詳しくは史書通りよ。その時に立ち上がったのがギュース様たちね。ランスロー様も王朝を見限ってギュース様に付いたわ。詳しくは講談にも演劇にもなってるわよね?」



 確かに講談などの物語では、完全に没落していたが典礼や儀礼を取り扱う家柄の次男だったランスロー・ド・フィシュペが安酒場で始祖様ことギュースと殴り合いの大喧嘩となる。その理由はフライドポテトになにを付けて食べるか……だったはずだ。小さい頃にそれを聞き、酔っぱらいはどうしてこんなしょうもないことで殴り合いに発展するのかと思ったものだ。二人は駆けつけた官憲に捕まり、没落してたとはいえ貴族なのに地下牢へ放り込まれる。ここで冷静になればいいのに、酔いのせいだろう、それでも怒りが治まらず二人は牢越しに口喧嘩を始めるのだ。あまりにも激しく罵声を飛ばし合うのだが、その怒りの矛先が徐々に政治へ、そして王家へ、国家や現政権へと進み、最後には理想の国家とはと熱く語り合っていく。最初の頃は収監されてる囚人たちから夜中にうるさいぞ馬鹿野郎と怒鳴られるが、二人が思い描く理想の国家論を聴かされ、こんなクソッタレな黴臭い地下牢を出て全員で立ち上がろうと誓い合うのだ。それに夜中じゅう散々牢屋で騒いでたのに当直の監視たちもその理想の国家論に酔わされたのだろうか。報告書には『今宵の牢人たちは静かでした』と書いて上官にも報告しなかったため、二人は政府からマークされることは無かった。



 物語では『ランスローとの邂逅・地下牢での誓い』と序章の有名な逸話だ。



「私はランスロー様がお母様のお腹に居た頃からの守護妖精なの。でもあの頃は他の人には見えなかったのよね、だからそれを良いことにランスロー様と一緒に当時の典礼儀礼を学ぶ機会があったわ」


「じゃあフィシュペ家の所領とは違うエレイン村とカオリル先生との関係は?」


「あー、ランスロー様のお母様がエレイン村の聖心教寺院の巫女だったのよ。あの頃はね、近隣の村から口減らしにあった女児に寺院で礼儀作法を教えて巫女に仕立てて武家や商家などに嫁にやる代わりに多額の結納金という寄付で成り立ってたのよ。そのエレイン村の泉の精霊が私に声を掛けてくれてギュース様と聖剣を引き合わせる事になったわね」


 僕の質問についてもカオリルナッチは素直に応えてくれた。しかし、彼女はペラペラと喋りながら僕が隠していたワインを見つけると勝手に開栓してラッパ飲みを始めたのだ。それを合図にルコトもルヴァンシュもワインを引っ張り出してくると法術で瓶の首を切り飛ばして飲みだした。取り敢えず人の家のものを勝手に飲むなと言ったところ

「飲まねぇくせに文句言うな」

とカオリルナッチから言い返されたのだが。


「ん? さっきカオリル先生は自分の姿が見えなかったと言ってたけど、いつから見えるようになったんだ?」


「あれはね、ほらほら、ランスロー様が佞臣のヴァーツラフ伯との戦いで落雷したでしょ? その時から私は皆から見えるようになった……らしいわよ。その時にラバちゃんから『おい、ランスロっちの横にいる黒毛の姉ちゃん、誰?』って言われたのが初めて認識された瞬間じゃないかな?」


 そう言ってカオリルナッチは自身の黒い髪をいじる。学院で教鞭を取ってる時や飲みに行く時は髪を綺麗に纏め上げてるが、仕事がない時は髪を下ろしてるかひっつめてるか雑にしていることが多い。なお、学生が学舎内で髪をいじる行為をすれば()()()()()と叱り飛ばしているが。


「まぁ、ランスロー様は戦死したけど私は何故か生き残ったわ。本来なら守護妖精が生き残るって考えられないんだけどね。大戦後はエレイン村に帰ろうかと思ったら論功行賞で年金あげるから女官学校の学院長やらない? って言われてここの女官学校、今のザントバンク修身学院の学院長をやってるわ」


「いやいやいや、ヴィルム学院長は? それじゃ学院長が二人いるってことじゃないか?」


「ん? 私がずっと続けてたら変でしょ? だから帝立学院から初老すぎのオジサマを十年ぐらい単位で派遣してもらってるの。今のヴィルム学院長は……ジャニスってオネエの元学長知らない? その人からの紹介よ」


「ジャニス学長は知ってますが……、てか何故に初老すぎのオジサマ限定なんだ?」


「私の趣味よ。ヴィルムちゃんに本当の学院長って誰? って訊いたらヴィヴィアンと応えるわよ」


「で何でカオリルナッチって名前――」


「それはね、ルヴァンシュに寝物語を聞かせる時のペンネームが由来」


 もう頭の処理が追いつかない。まぁ言わんとしてることは解る、しかし――


「ねぇねぇママ、今もナチコー作品って書いてるの?」


「ん? 今は『恋の連立方程式――解は二つも三つも要らないの!』を絶賛執筆中よ!」


「ちょっと待ってカオリル先生、市中の少女たちが読んでるナチコー作品って――」


「あぁーアンジェ先生。皆には内緒よ?」


 そう言ってカオリルナッチはウィンクをして言う。


「ナチコー作品は私が書いてるわ。ここ百年ぐらいはカリナが協力してくれてるわよ」


「百年って、じゃあ怪盗フォンティーヌ作品も」


「あんたずいぶん古い作品知ってるわね。あの頃は怪盗義賊モノが流行ったから七十冊ほど書いたかしら? でも初出は八十年以上前よ?」


「なんかカオリル先生が解らなくなってきた」


「まだ出会って半年も経ってないのに判った気にならないでよ」


 そう言ってカオリルナッチはワインを一気に飲み干した。お替りを探そうとしてたところを止める。


「もうありません!」


「いや……計算上あと五本あるはず!」


「それは今朝しがたラバト嬢が飲みました!」


「やっぱりアンジェー先生はラバちゃんに甘くない?」


「え? アンジェ先生って私の妹にラブ? ま? あの子いい子よ、ちょっと口は悪いけど優しくて――」


「私の叔母ちゃんとラブなんだー! てっきり父さんの直系子孫とてっきり!」


「そうそう、ラバちゃんって一応は料理出来るし、掃除はまめにするし、酔っ払うとあちらこちらで屁をこくけど」


「もううるさいなぁ! ラバト嬢とはそんなンじゃありません!」


 まぁラバトと僕との間にはデリカシーや遠慮というものは無い。ここに赴任した頃からそんな人間だと思ってるから最近では気にしたことは無いが。


「でさー、ラバちゃんどこ行ったんだろうね?」


「今日は|中間週の日《mittvochTag》だから学院じゅうのゴミ回収してるはずよ。いつもアンジェー先生の部屋で休憩して馬鹿騒ぎしてくから、ここが最後の回収にしてるはず」


 ルコトがそう訊くとカオリルナッチが応える。確かに授業が終わった頃で放課課外前の時間帯によく来るなぁと思ってたらそういう段取りだったんだ。


「アンジェ先生ったら。――不束な妹ですが末永く」


「どうしてそうなるんですの、本人の意思も聞かずに」


「おーアンジェ先生ゴミくれー、あとここでちょい休け――」


「あ、ラバちゃん」


「お久しぶり、叔母ちゃん」


 そんな瞬間、ラバトはくわえタバコでノックもせず扉を開けて入ってきた。

 しかし彼女の目に飛び込んできたのは、ずっとずっと会いたくても会いづらいし会えないと思っていた実姉だったのだ。口から煙草がこぼれ落ちる。


「る、ルコ姉ぇ……、――なんでここに」


「お久しぶり。元気そうねラバちゃん」



 ラバトは火の付いた煙草を拾わず扉も閉めずに逃げ出したのだった。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。

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