17話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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「ちなみに質問だけど……私っていくつぐらいに見えるかなぁ?」
ルヴァンシュがクッキーを摘みながら皆に訊く。
「んー、まだ二十代なんじゃないかなぁ?」
と、ミノンが言う。
「お肌はつやつやですもんね、三十代には見えないかな?」
とラフェルも続ける。それを聞いて皆もうんうんと頷いた。
「うれしいねぇみんな。――実は二九〇歳ぐらいかな?」
しばしの沈黙のあと、えぇーっと皆が感嘆な声を上げる。
「私はハーフエルフ、やっぱ長寿命なのよ。で、この世界でエルフなんてもう存在しないって思われてるでしょ? でも数十年も姿かたちも変わらず生きてたら不気味よね。だから私と母さんが十五年ごと交代して法術学院の講師をしているのよ」
ルヴァンシュは右手で髪の毛をかき上げると丸みを帯びた長耳が飛び出した。
「んで、今の私は無職。母さんは片付けが一切できない人だから家事一般をしてるってとこかな?」
と言うと髪の毛を整え、お茶を飲む。
「はい、一つ質問いいですか?」
「どうしたのかしら?」
マリが手を挙げ、ルコトが尋ねると、
「ルヴァンシュさんがハーフエルフってことは、夫は人間……ってことですか?」
と訊いた。
「ルヴァンシュの父親、ね……。それは言えないわ、秘密よ」
「ですよねー」
ルコトの髪はラバトと同じ直毛の銀髪だ。ルヴァンシュも直毛銀髪だが一部金髪が交じる。二人の肌や目の色、見た目も随分と似ているのだ。逆にラバトは浅黒い肌でルコト達が透き通るような白い肌だ、あの二人が姉妹と言われてもピンとこない。
「ところでルコト先生! アンジェ先生とどんな手紙のやり取りしてたんですか?」
「そぉね。生真面目過ぎる研究者が法術の真理を追求しようと手を差し伸べてきた……ってことかしら、ね? アンジェ先生」
「えぇ、そんなところかな?」
ジェイリーの質問にルコトと僕が応えた。そしてルコトが続ける。
「手紙にね、――話しても大丈夫?」
「えぇ大丈夫ですよ」
「私達、ルヴァン・トゥルリーセンの過去の著書を読み漁り、ラバちゃんから聞いた法力理論をアンジェ先生なりにまとめた論文だったわね。というか、私もルヴァンシュもアンジェ先生からの手紙と言うか紙束が梱包された木箱が届いた時は何事かと思ったぐらいよ」
ルコトは再びお茶のおかわりを要求した、デリッカが静かにお茶を用意して注ぐ。
「じゃあ私もおかわり」
「ジェイリーさん、自分で出来るでしょ? ふん」
結局のところジェイリーのお茶もデリッカが用意していた。しかしなんだか嬉しそうな表情が横顔からにじみ出ていたが。
「アンジェ先生ぇ……、一体どれだけの手紙を書いたんです?」
「んー、この学院のレポート用紙で五百枚ちょっとかな……」
「ご、五百枚っ!?」
ミノンの質問に僕は応えると、彼女は顔を青くする。
僕個人としてレポートや論文でそんなに苦しんだことがない。だから学生時代にレポート三十枚・五十枚と言われても、そのお題目を聞いて頭の中で論文が出来上がっている。だから帰宅したら数刻程度で終わってしまうのだ。
だから僕はミノンが顔を青くする理由が解らないし……、
「てかミノン君、夏前の法物理学レポート、料理の作り方を挟み込んで文字数稼いだろ?」
「きゅう――」
と、ミノンばかりでなくいろんな学生が雑事をレポートに混ぜ込んで水増しするのがよく解らない。
「アンジェ先生、一つ質問良いかしら?」
「はい、なんでしょう?」
と、ルコトがカップをソーサーに置くと訊く。
「学生にレポートを要求する理由はあるのかしら?」
「えぇ、出されたお題目についてどこまでの習熟度を文章表現できるか、を求めてますね」
「ふーん……、じゃあ学生さんにはレポートの書き方を教えたのかしら?」
「えっ?」
「え? アンジェ先生、レポートの書き方を教えもせずにレポート要求してたの?」
「あ、はい……」
ルコトがすっと立ち上がり、ミノンの横に立つと
「今の状態でレポートを書けなくても罪じゃないわ。無知を知らずに難題を吹っかけてくる方が罪なんだから……」
「はい、ありがとうございます」
と、涙目になってる彼女を慰めていた。
「でね、もしお料理が得意ならルヴァンシュに教えてあげて。あの子のつくるご飯、美味しくないから」
「ちょっ! お母さん!」
「なぁジョルジェ君、レポートの書き方についてなんだが」
隣に座るジョルジェに声をかける。彼女は顔をほんのり朱くすると
「……あの、資料の集め方や読み方、ちゃんとした書き方などを教えるべきだと思います。ですから教科書の書き写しでお茶を濁したり、ミノンちゃんみたいに料理の作り方を挟み込むんだと思います」
と応えた。最近、またジョルジェは顔を赤くする傾向があるな。
「あ、でも、ミノンちゃんの料理の説明はすごくわかりやすいんですよ、あと……合宿の時は基本的にミノンちゃんが料理担当だったし」
「え? そうなの? あの鳥ハムサンドも?」
「はい。あれはミノンちゃんが寝坊しちゃいましたが、ぱぱっと作ったそうなんですよ」
ミノンと言えば食いしん坊なイメージだが、料理上手というのには驚いた。そう言えばエドヴィシュにニシンパイの話をしてたことを思い出す。
「――あの、実は私、調理実習以外で包丁って触ったこと無いんです」
そう言えばジョルジェも僕と同じ郷紳階級だ。家には専属の料理人が居るのだろうから、厨房に出入りする事も無ければ料理するなんて事も無いだろう。
「で、でも大丈夫です! 今はちゃんと勉強中ですから!」
何が大丈夫なのかは判らないが、がんばれと伝えておいた。
「ということでアンジェ先生、ちゃんとレポートの書き方を教えなさい。先輩教師として指導します!」
僕に指を指すとドヤ顔でルコトが言った。
「母さん、そろそろ時間……」
「そうね。じゃあ名残惜しいけどそろそろ学院長に会いに行くわ」
ルコトはジェイリーにクラッチ机を受け取ると立ち上がる。皆を見渡してこう言った。
「学院長室ってどこかしら?」
僕とルーチェが学院長室へ案内することとなり、学院内を歩く。
「あの……、ルコト先生どうかなさいました?」
ルーチェは、自分をちらちらと見るルコトに声を掛けた。
「――あの、貴女……、カルグストゥス家の子でしょ?」
「え!? ち、ちが、違います!」
突然のことで取り乱しつつもルーチェはいつも通り否定をする。しかしルコトはニコリと笑うと
「貴女から溢れ出す法力、ギュース様そっくりですもの、気付きますわ」
と言って肩に手をやった。
「ほら、肩から流れてくる法力はギュース様のによく似てる」
ルーチェは肩に置かれた手を払いのけようとしたが、観念したのか小さく頷く。
「このルヴァンシュの父親はギュース様なの、貴女とは縁戚関係よね」
「え、嘘!?」
「ほんとよ。私は今も僅かながら帝国から年金を頂いてるわ」
「あと証拠にほら、私の銀髪に金髪が混じってるでしょ?」
ルヴァンシュが髪の毛をかき上げる。銀髪に僅か交じる金髪だが、左耳の裏側だけ纏まって金髪が生えていたのだ。
「あ、別に帝位継承権を寄越せとか言わないわよ。というか帝位放棄証明書にルヴァンシュが署名捺印してるわ、公文書館に問い合わせてもいいわよ」
「じゃあ……どうして今更そんな話を――」
ルーチェの一言にルコトは笑顔でこう応えたのだった。
「あなた、ギュース様に似てるもの。私の大好きな方に――」
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