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16話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

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「私の娘とはぐれちゃったのもありまして……、ちょっとここで休ませて頂いてもいいかしら?  アンジェ先生」


「えぇ、ゆっくりしてってください。ところでルヴァン先生とお呼びしたほうが良いでしょうか? それとも――」


と僕が訊くと彼女は笑ってルコトで良いですわよ、と応えた。


 僕は皆に椅子やお茶菓子の用意をお願いした。ミノンが椅子とテーブルを出してくると、ジョルジェがルコトや三回生たちを椅子に案内する。ジェイリーがテーブルクロスを広げる。



「あの、ルコト先生のお口に合うか……。――お茶ですわ」


 そう言ってデリッカがお茶を出した。流石あの双子の特訓の成果だろう、ものすごく綺麗で自然な所作だった。ルコトはカップを持つと一口啜る。


「ありがとうね、デリッカさん。――あら、いい香り! どこかの銘あるお茶なのかしら」


「この街自慢のお茶ですわ」



 このシュトレーメ中街南部の山間部は米の産地でもあるが茶も有名だ。特に春摘茶が爽やかな香りで有名らしいのだが、愛好家は夏摘茶の熟した果実のような香りとコクを楽しむらしい。あとこの地区は秋摘茶というのもあり、こちらは独特なコクと爽やかな香りを楽しめるらしい。

 このお茶のうんちくは、最近デリッカに教えてもらったのだ。

 ジョルジェとジェイリーが簡単な茶菓子を並べる、きっとジョルジェ・ジェイリー・ミノンの三人がしょっちゅう食べてるお菓子たちだろう。今度お返ししないとな。



「わざわざお茶会を開いてくれるなんて本当にありがとうね皆様。改めまして、ルヴァン・トゥルリーセンよ。かなり長い本名なので頭文字をとってルコトと呼ばれてるわ」


「え? そのラバト先生みたいな呼び方、ひょっとしてルコト先生って……」


 ミノンが、エルフですか、と言い切る前に


「ちゃんとした自己紹介しないとね」


とルコトはふふっと笑うと髪の毛をかき上げた。


「いつも妹のラバトがお世話になってます。サマンサ魔法国で法術学院の非常勤講師をしてるルコトよ。――ミノンさんの想像通り、エルフよ」


 かき上げた髪の毛からは、ラバトと同じく尖った長耳が姿を表した。しかし、右耳は千切れたのだろうか、かなり短い。

 髪の毛を整えて耳を隠し、


「じゃあ、質問があるならなんでも応えるわ。この右耳の事もね」


と言うと、何人かが手を挙げる。


「じゃあ……、さっきから異常に食い気味に質問してくれる、のっぽのミノンさん」


「きゅう――」


 ルコトが指すとミノンは身体を縮めて目に涙を貯める。


「あらあら、のっぽさんどうしちゃったの?」


「ルコト先生ぇ、ミノッちは背が大きいって言われるのを嫌がるの」


 ジェイリーが小声で横に座るルコトに伝えた。


「どーせ……、どーせお胸もお尻もぺったんこのにょきにょき小僧ですよーだ」


 ミノンは涙目になりながら小声でぶつぶつと拗ねていた。背ばかり伸びて他の部位が全然成長しないのが相当の悩みと前にミノンが言ってたな。



「そんな拗ねないで? そんなにお胸が大きくなりたいなら……、じゃあミノンちゃんにこのお薬をあげるわ」


 ルコトが斜めがけに吊り下げてたポシェットから茶色の薬瓶をテーブルに置く。


「剣闘術の稽古をガンガンしたあと、これをミルクに溶いて飲むといいわよ。あと甘藍って解るかな? それをたくさん食べるのもいいのよ? あと鳥ムネ肉を食べるのもいいわね」


「え! この薬を飲むとおっぱいおっきくなるんですか!?」


「えぇそうよ。ミノンさんもそこのラフェルさんのようになるかもね――」


 ルコトがそう言うと皆はラフェルの胸に視線が集まった。ラフェルは顔を真赤にして胸をさっと腕で覆う。



「――あら皆様、どうしたのかしら?」


 しばらくの無言の後――。


「私にもください!」「そのお薬、売ってくださいまし!」「エビデンスください」「いくらなの、言い値で買うわよ」「おっぱい大きくなったら旦那喜ぶかしら」「喜ぶに決まってるでしょ?」「売って……」


 ルコトが薬瓶の説明をしてから皆がすごく食い気味に聞いていたのだ。しかも豊かなラフェルのような胸になれると聞いたら皆は巨乳薬を欲しがるのは自明の理かもしれない。


「うふふ、これ以上の話は、殿方のアンジェ先生の居ない時にしましょうかね」


 不敵な笑みを浮かべながら、薬瓶はミノンに渡す。ミノンは陽にかざしながらうっとりと薬瓶を見つめる。他の皆は羨ましそうにそれを眺めた。


「他に質問はないかしら?」


ルコトがそう言うとジェイリーがはいっと手を挙げる。


「ジェイリーさんね、何かしら?」


「言いづらかったらごめんなさい、あの、右耳の件は聞いてもいいですか?」


「あぁ、これ?」


 髪の毛をかき上げる。確かに長耳の半分が千切れたのだろう、古傷で塞がってるとは言え荒い切断面が露わになる。


「パティシグル首都包囲戦のときに吹き飛ばされたの。停戦使者の自爆テロに巻き込まれてね」


 前にラバトもパティシグル連盟国での戦いを説明してくれたが、あれは本当に最低な戦だと僕は思った。偽使者を使うわ、傭兵を捨て駒にした戦いをするわ、鬼畜の所業だろう。


「あの時はギュース様も大怪我をなさったわ。でもね、あの時私はギュース様に庇われて右耳だけで済んだのよ」




     *

     *

     *




 戦線が進み周りから見放されて孤立無援となるパティシグル政権側。

 これ以上行けば住民を完全に巻き込んだ消耗戦となるが、将来どうなるかなんて火を見るより明らかでした。本陣がある幕舎には毎日のように市民や元兵士が難民としてなだれ込み、彼らは首都には食事や寝るところもなにもないと訴えます。それを政権側に伝えても『我々は最低三年は戦える』と言い張るのです。お互い非常に無駄な死者を積み重ねた戦線が続いてたのです。


 しかしある晴れた日、突然に政権側が和平の使者を寄越したのです。

 突然のことで重臣や武官たちも戸惑ったのを今も覚えているわ。

 幕舎に使者がやってくると膝をついて書状を渡そうとしたわ。でもこの瞬間に刃を向けられるかもしれない。だから護衛役でもある妹のラバちゃんが直接渡そうとした使者からその書状を受け取るとギュース様に差し出したわ。

 その書状を一目見たギュース様はすぐに私へ渡したの。それを読み翻訳してギュース様にお伝えしましたわ。ギュース様のお言葉をまた翻訳して使者にお伝えしましたの。



「じゃあ、代表は首都も捕虜をも解放すると言うの?」


「えぇ……、その……」


「――ところであなた、すごい汗だけど大丈夫なの?」


 最初からこの使者がおかしいと思ったわ。その使者、あちらこちらをキョロキョロしてるわ異様に汗をかいてるわ、それより無駄に唾を飲んでるようなの。体調を慮って声をかけた時、使者は何気なく懐に手をやる仕草を見たんです。この使者絶対に何か企んでる、そう思って私は叫んだのです。



「ギュース様、お逃げくだ……「うっ、うわぁー!」


 私の叫ぶ声を遮って使者が悲鳴を上げた瞬間、ものすごい爆光が皆の視界を奪います。

 ギュース様は皆の希望なのです、逃げて欲しい、お願いだから、そう思ったのです。

 しかしギュース様は私に飛びついたのです。そして巻き上がる爆風と威力を増すために仕込まれた金属片ガラス片が飛び散りました。



 数分ほど経ったのでしょうか。

 巻き上がった砂煙土埃が落ち着いた頃。覆いかぶさってきたギュース様に限界を超えて掛けた防御法術のせいでしょう。私はふらふらでした、完全に法力切れです。しかし脳は異常に冷静で、周りをじっくり観察することが出来ました。



 目の前には、私を庇ってくれたギュース様――重傷。

 使者だった肉片――死亡。

 護衛役を買ってくれた妹のラバちゃん――重傷。

 何人かの侍女――重軽傷。

 何人かの侍女、メイド――予後不良、もしくは死亡。

 何人かの重臣――重傷。

 二人の重臣、私らエルフを嫌う輩――痛い痛いと叫んでるが、多分死んでる。



 とにかく苦くてまずい法力回復薬を飲んだ私は、まずはギュース様に回復法術をかけました。無事止血が出来ましたのでもう一本二本と回復薬を飲み回復法術が出来る侍女三人を回復させます。そして助けられそうな重臣たちや侍女メイド達を回復させていきます。


 あたりを見回しましたがかなりの方の予後がよくありませんでした。どれだけ回復法術があっても万能ではありませんし法力も無限ではありません。ですので私は聖句を上げると侍女などの喉笛をナイフで掻っ切るしかできませんでした。なるべく苦しんで欲しくないですから。


 私のことは良いのよ? でも愛しの妹ラバちゃんに唾を吐きかけたこの無能重臣は私を見ると、早く助けろよくそ亜人、そう言いました。私は無言で喉笛を掻っ切りました。こんな輩なぞ聖句なぞ要りません、助ける必要もないでしょう。



「ルコ姉ぇ……」

「あ、ラバちゃん」


 無能重臣の二人を始末した時、私は妹から声をかけられました。


「あいつら、まだ息があったんじゃ――」

「ううん、救命不能だったわ。……だから止めを刺したわ」

「あたしね、ルコ姉ぇに因果を背負ってほし――」

「私だって軍人なのよ、覚悟ぐらい出来てるわよ」


 私を強く睨むラバちゃん。私は目を逸らしたかったけど、そうしたら自分の行いが私怨だってばれちゃう。ですから逸しませんでしたし逸らせませんでした。というか、ラバちゃんは怒ると怖いのです。


「ルコ姉ぇ……、自分に治癒魔法かけた?」

「――私は大丈夫よ。ほら、なんとも無いでしょ?」

「……ううん」


 ふらつきながらも、私は一度回りましたが、ラバちゃんはあからさまに目をそらしました。そしてラバちゃんは自身のポシェットから手鏡を取り出すと、おずおずと私に差し出しました。


「ルコ姉ぇ――顔が大変なことになってるの」


 手鏡を受け取りました。そこまで言われちゃうと……私は恐る恐るそれを覗き込みました、鏡に映る私の顔右半分が吹き飛んでたのです。慌てて自身に治癒法術を掛けますが既に私の法力は尽きてます、止血も出来ません。治癒法術が出来る女官たちも法力切れでへばってます。


「お前ら、もう少し法力を練ってルコ姉ちゃんの治療をしてくれよ!」


 ラバちゃんは女官たちの胸ぐらを掴んで叫んでますが、そうなってしまったらどんだけ練っても法術は作動しません。


「ラバちゃん。いいのよ、もう」


 こんな顔、あの人に向けられません……。

 そろそろ荷物をまとめて森に帰るにはちょうどいいかもしれませんね。





 数刻後に本陣の異常に気付いて到達した伯父ら一軍が合流します。

 その伯父が持つ治癒術団は私の右足をみて、数人がかりで法術をかけようとしました。しかし私は顔だけを治して欲しい、そう懇願しました。そして彼らの懸命な法術のお陰で吹き飛んだ右半分は治りました。肌にうっすら傷跡が残った程度で済みました。少し厚めにお化粧すれば判らない程度です。


 ですが顔中心の治癒に注力したせいで、治療が遅れた右耳と右足だけはどうしようもなかったのです。




     *

     *

     *




「講談では右目が吹き飛んだだの言われてるけどね、実際はこんなもんよ」

 ルコトは少し寂しそうな顔をするとお茶のおかわりを願い出た。デリッカが立つとカップにお茶を注いだ。


「それにしてもルコト先生。軍人でしたら右足の治癒を優先するんじゃなくて?」


 お茶を差し出した時、デリッカがルコトに尋ねた。確かにそうだ、何故顔の治癒を優先したのだろうか。


「うふふ、私だってあの頃は恋する乙女だったのよ。好きな人の前にあばた顔で出るぐらいなら右足なんて安いもんよ、杖さえあれば歩ける訳だし。――他に質問はあるかしら?」


 ルコトがそう言うと、皆は黙りこくってしまう。



「戦争の話は重いわよね。私やラバちゃんは多数の屍を超えて生きてるけど、あなた達にそんな真似はさせたくな――」


「あー、母さんそこに居たのぉ?」


 道場にルコトによく似た女性が入ってくると声を上げる。


「あら、ルヴァンシュ、どこ行ってたの?」


「どこ行ってたって……私のセリフよ! もう、どれだけ探したと思ってるのよ――あらら、お茶会してました? こりゃ失礼致しました」


 ルヴァンシュが頭を下げた、そして顔を上げるとテーブルに並ぶお茶やクッキーやビスケットなどの焼菓子を見て目を輝かせる。


「あの……、もしよかったら一緒に如何ですか?」


「えー? 本当? お邪魔じゃ無ければ混ぜてくださいな」


 ラフェルが声を掛けるとルヴァンシュが嬉しそうな表情を浮かべて応えた。それを聞いたミノンが椅子を用意するとルヴァンシュに勧めた。


「失礼します、お茶どうぞ」


 デリッカがお茶を出すとルヴァンシュはカップを持ち、ゆっくりと飲む。


「美味しいわねこのお茶。あなた、良いお嫁さんになれるね」


 ルヴァンシュが何気なく言った一言だろうが、デリッカは顔まで真っ赤になる。


「んで何の話してたの、母さん」


「昔話よ……。あぁ皆さんごめんなさい、この子が私の娘ルヴァンシュールよ」


「あ、ども皆さん。今の周期は無職してます」


 ルヴァンシュがそう言うと今の周期? と皆が声を上げる。



「今の周期ってどういうことなんですか?」


 ミノンが手を挙げてルヴァンシュに訊く。


「あのね――、母さん、この人達に母さんの事は伝えてあるの?」


「えぇ、かの大戦の話もしてあるわ」


「そなのね。――ルヴァン・トゥルリーセンの秘密を話さないとね」


 そう言うとルヴァンシュはクッキーを一枚口に運んだのだ。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。

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