15話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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夏季休暇終盤。
剣闘術稽古前のブリーフィングで僕は受験した皆を称えた。
「取り敢えず……初級メイド試験の全員突破おめでとう」
特に不安視してなかったジョルジェとジェイリーだったが、二人はハイタッチをし、ミノンは両親指を僕に突き出してウィンクする。
デリッカは髪の毛をかき上げてフンと鼻を鳴らしてたが表情は憑き物が落ちたのかというぐらいほっとしており、ラフェルに至っては涙を流して僕を拝みはじめた。
「アンジェ先せぇのお陰で退学しなくて済みました、ありがとぉございます」
ラフェルは今年の初級メイド試験を落とすと留年するところだったのだ。
というのも修身学院はカリキュラムの進行上、三回生修了時に初級メイド国家資格を取得しなければ五年次修了時点で卒業出来ないシステムだからである。
なお三回生時で初級メイド試験を取得出来ずに留年が確定するとほぼ全員が退学を選択する。それは周りから成績不振者のレッテルを貼られるからだけでなく、今まで随分割引が効いてた学費が通常費用になるため割高となる。それだったら他所でやり直したほうが色々とマシだろう。
「あと、上級メイドと上級侍女試験を合格したマリとパティ、お疲れ様。おめでとう!」
マリとパティの二人はいつも通り手を繋ぐと『やった!』っと言い合うとふふっと笑いあった。他のメンバーたちからも、うそぉとかすげぇとかと感嘆な声がいくつも上がる。
「えー、上級の試験ってそんなに難しいんですか?」
そんな中、ミノンが手を挙げて聞く。ニコニコと天真爛漫に聞くもんだから皆が驚愕する。
「んー、筆記試験は五回生の授業範囲も含まれるよ。テキストも分厚いし副読テキストからも出てくるし、なにより問題の半分がストリバ語だから」
と、マリが言う。ストリバ語と聞いただけでミノンどころかジェイリーも顔を青くした。二人の成績を考えたらストリバ語での出題なんて相当なハードルと想像できるだろう。
「でもさー、試験前にカロリーナ先生が作ってくれた模擬試験ってのに随分と助けられたよね」
「やっぱマリも? 私、渡された三つの模試を必死に覚えてね、そしたらそのヤマが全部当たってたもんね」
「やっぱりー? 成績がやばいパティが受かるとは私、思わなかったもん」
「さりげにひどい事いうよね、マリ……」
いや、補習追試再試の常連だったパティが受かるとは僕も思わなかった。しかし余程一生懸命に集中したかったのだろうか、試験数日前にしばらく稽古に行けませんごめんなさいとお手紙を貰ったぐらいだ。試験当日はうとうとフラフラしながら登校してきたぐらいだ。
あと、この前の初級メイド試験同様、この上級メイド試験も過去問の焼き直しや修正だった。とは言え初級メイド試験よりかはパターン化が巧妙だったが、そのパターン化のアルゴリズムさえ解けば幾年後の予想問題も作れるレベルだったが。これもカロリーナのお陰で過去九十年ほどの過去問を洗ったところで発見したことなのだが。
「ねぇねぇ、マリもパティもよく頑張ってたけど……、なんか理由あるの?」
ラフェルが二人に訊く。二人は顔を見合わせて顔を朱く染めると
「あの、私達、三回生修了で退学します」
「結婚決まったんで――」
と言った。
一瞬の静寂のあと、えー!の大合唱。
「先輩方ご婚約おめでとうございます!」「どんな仕事をしてる、どんな方と結婚なさるんですの?」「どこの方? どんな方なんですか?」「もうちゅーしたの?」
などなど、皆からの質問にマリとパティは笑顔で一つ一つ応えていった。
お相手は中街二番街にある大店商家の次男坊三男坊の双子と二人は婚約したそうだ。
たまたま合宿前にお見合い話が二人に持ち込まれ、相手が双子だと聞いて『それなら結婚しても私達仲良く出来るよね』と言ってあっさり快諾したという。なお、そのお相手はシュトレーメ西街ギルド連合実科高等学園を出ているそうだ。このシュトレーメの街では充分なエリートの部類だろう。
「そんな大店の御令息と結婚なさるのでしたら、持参金も大変じゃなくて?」
とデリッカが訊く。確かに家柄に格差があると問題になるのが『結納金・持参金問題』だ。特にマリもパティも郷紳階級のデリッカと違い裕福な家柄でもない。それなのに次男三男とはいえ大店商家と結婚するんだから、かなりの額面となるだろう。場合によっては結納として渡された宝飾品などを闇市に売り払ってでも持参金を工面する事もあるが。
結納金・持参金問題で有名な話だとリーナの従姉妹にあたる王族のラルフェが婚姻・臣籍降下した際の話だ。夫側の結納金については公表されなかったが、持参金はなんと五万トキュだったと新聞屋がスッパ抜いたのだ。ちなみに僕の現在の月収が八万ハンズなので、年収約五百二十年分だ。少なくとも第三皇女であるリーナと結婚なんてしようものなら我が家は間違いなく破産だろうな、――しないけど。
「でね、――二人で考えたんだ、帝女隊に入ろうって!」
そのパティの一言で僕らはごくりと息を呑む。
確かに前も語った通り持参金目的で帝女隊入隊者は居る。帝女隊に入隊しててもそこそこ高めの賃金は出るし訓練鍛錬ばかりの日々なので給金の使う充ては無い。期間満了後に寿退社だった時は割増された退職金が出る。持参金目的なら割の良い出稼ぎ先とも言えよう。しかしながら『地獄の――』と謂われる帝女隊だ。生半可な気持ちで続けられるところではないが。
「その思い、本気なの? 辛いから辞めたいって言っても一年は辞められないのよ?」
静かに聞いてたルーチェが口を開く、そう言えば彼女も帝女隊経験者だ。
「はい。国防目的なのに不純なのは判ってますが」
とマリが言うが、ルーチェは笑いながら言う。
「本来なら国防のための軍人育成が主の新兵訓練機関だけど、有事になれば軍属経験者が居ると市民を守る心の砦になる。そんな思いから帝女隊は産まれたのよ。だから政府も幕僚も全員が全員軍人になるとは思ってないわよ。だから安心して?」
そう言ってマリとパティの肩を抱き、言う。
「婚約おめでとう、がんばりなさいね」
「ルーチェ先生……」「――すごく苦しいです」
確かに笑っていたが、僕の角度から見えたルーチェの顔は引き攣っていたし、目が笑ってなかった。方や肩を抱いてるように見えるが、首を締めにいってたのだ。もちろん僕はルーチェを止めたが。
「――で、三回生で退学しちゃうと、学歴ってどうなるんですか?」
ミノンが元気に手を挙げて訊く、そう言えばどうなるんだろうねとジョルジェやジェイリーも言う。
「修身学院なら、いくつかの条件をクリアしたら退学しても『修身学院前期課程修了』になるぞ」
と僕は言う。そうなんだー、と皆は言った。
なお、その各種学院の『前期課程修了』の条件は
1・満十五歳以上であること
2・三回生時の教育カリキュラムを修了していること
3・規定以上の資格取得してること
4・家庭の事情により退学すること
の四つを満たす必要がある。
この条件、マリは問題ないが、パティは「2」に課題がある。何せ赤点・補習・追再試の常連が学年末の修了試験をクリアしなきゃいけないからだ。
「ところで……秋からの公式戦はどうなるのー?」
ジェイリーが訊く、マリとパティは
「大丈夫よ、修了まで頑張るから!」
と言って親指を突き立てた。
「ということで、アンジェ先生! なんか奢って!」
そう言いだしたパティのせいで皆がわーっと盛り上がる。
「いいわよいいわよ! 皆なに食べたい? 給料日前だけどアンジェリカならご馳走してくれるわよ!」
と、ルーチェが勝手に言い出すと更に皆が盛り上がる。
「肉っ! 肉ですよ!」と挙手して言うミノン。
「す、スイーツ――」と聞こえるか聞こえないレベルで言うジョルジェ。
「鳥と星、予約しますー?」とジェイリー。
「な、なんでもいいですわよ、ふん」と髪をかき上げるデリッカ。
「お酒のみたーい!」と言うラフェル、お前は飲むな。
「レストランでフルコース!」とマリ、おねだりさんめ。
「ワインが美味しいところ!」とパティ、おねだりさんめ。
「サラダが美味しいところが良いですわ」と誰か。――誰?
「あらあら、学院長の部屋を探してたら楽しそうな声に招かれてこんなところに来ちゃいましたわ」
クラッチ杖を突いた小柄な女性がそう言う。肌は透き通るほど白く儚げな表情を僕らに向けていた。
「あの……、どちら様でしょう?」
ルーチェが右手を胸に置き、会釈して訊いた。帝国内では一般的な初対面に対する礼儀である。
「あらごめんなさい。前にここで先生をされてるアンジェ・カマークさんという方からお手紙を頂きまして。私は、サマンサ魔法国法術学院のルヴァン・トゥルリーセンと申します。足が悪くて正しい礼儀が出来ないの、ごめんなさいね」
そう言うと彼女は頭を下げる。そう言われると僕らは最大限の礼儀で返さないといけない。僕は深く頭を下げ、皆はカーテシーをした。
ラバトの実姉、ルヴァンティクシュール・コンフィルマンディン・トゥルリーセンことルコトが遊びに来た。
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