14話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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試しに割込投稿してみました。
帝歴284年 盛夏 12.5話
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初級メイド試験まであと一週間。
学科試験に悩みがある者は教科書を縦に横に傾けて読み込んでいる。もちろんそんなことしても頭に入るとは思えないのだが。
ここで僕は疑問に思った。彼女たちは何故、過去問題集や模擬試験問題集を解かないのか?
たまたま質問に来たデリッカに聞いてみた。
「あら先生、そんなの無いのですわよ?」
ご存知じゃないんですの、とデリッカは不思議そうな顔をした。
「ってことは、みんな教科書ばかり眺めてるってことか?」
「学院の図書館に行けば過去問ぐらいはあるでしょうが、大体は一、二年程度の過去問しか見ませんわよ。十年も三十年前もの過去問なんか見てたら膨大でしょうに」
「デリッカ君も過去問は数年分しか見てないのか?」
「えぇ。せいぜい一昨年までのしか見てないですわ」
デリッカの答えを聞いて、ちょっと過去問を見てみたくなった。
学院の渡り廊下を歩き、図書館へ入る。
「あら、アンジェ先生お久しぶりですね」
受付で本を読み耽るカロリーナが眼鏡を外して僕を見る。
「そういえばお兄様とお食事して以来ですね。お加減はいかがでしょう?」
「ふふ、兄も私も暑い暑い言いながらも元気に過ごしてますわよ。この前、兄と二人で学院のお馬さんたちの蹄鉄を替えたんですよ」
ちょっと噛まれちゃって二の腕に青タン出来てるんです、とカロリーナは顔を赤らめて長袖の花柄ブラウスを擦る。
「カロリーナ先生でも噛まれるんですね」
「ふふ、気の立った彼らに蹴られたこともありますから……。ところでお探しの本、何かございます?」
「あぁそうだ。実は初級メイド試験の過去問を閲覧したいなと思って」
僕は身分証をカロリーナに差し出すと、今日の要件を打ち明けた。
「過去問ですか? ――――そうですね、すぐにお出し出来るのは六十年分ありますよ?」
ろ、六十年分! 一年に一度の試験だから、六十回分か。
「差支え無ければ、閲覧願えるかい?」
「えぇもちろん。そちらでお待ち下さいな」
カロリーナは閲覧机まで招き、椅子を引いてくれた。僕は礼を言って腰掛けた。
「カリナちゃーん! 居るなら手伝ってー!」
カロリーナは小声だが彼女を呼ぶ。
「あ、はいはーい! ただいまー」
そう言うとカリナは僕の目の前に徐々に実体を表した。
「あらアンジェ先生。コーヒーとお茶どちらにします?」
「じゃあコーヒーで頼みます」
僕がそう言うとカリナは徐々に姿を消す。数時を経てカリナはまた徐々に姿を見せるとカップを僕の横にそっと置いた。
「先生のとこでいつも飲ませて頂いてるのとは劣るかと思いますが、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
早速カップを持ち上げて一口啜る。さっぱりしてて酸味が効いたコーヒーだった。
「カロリーナ先生がいつも飲んでるコーヒーですよ。もし気になるなら……、お店を聞くふりしてデートに誘っちゃいなさいよ!」
この幽霊は世話焼きなんだけど、余計なお世話なんだよなぁ。
「これが過去六十年分の過去問です。あら、そのコーヒー、いかがです?」
「ありがとうございます。あ、このコーヒー美味しいですね」
カロリーナに礼を言う。その視界にカリナが行け行けと合図を送る、本当に余計なお世話だ。
「えぇ、西街のエルクーァってお店なんですよ」
やっぱり……、なんかこのさっぱり感は記憶がある。
あの双子のお店ですね。えー、アンジェ先生知ってるんですか。えぇ、けっこう気に入ってましてね。話は盛り上がる。
視界の隅のカリナは鼻の穴を膨らませて声なき声で応援してるが……、本当に余計なお世話だ!
しばらくエルクーァの話をしてから、ゆっくり御覧くださいね、そう言ってカロリーナは席から離れた。
視界の隅でケッと悪態をつく幽霊が居たが見なかったことにしておこう。
去年の問題を見る。法令の一問目は労基令一条の解釈だった。テキストの最初に書かれてる問題だ。一通り問題を見て覚える。
次は一昨年の問題を見た。法令の一問目は労基令四条の穴埋めだ。これもテキストに書かれている文言を暗記していたら間違えようはないだろう。
三年前の問題は労基令三条のマルバツ問題。
四年前は労基令一条の解釈、五年前は労基令四条の穴埋め、六年前は労基令三条のマルバツ問題、七年前は労基令一条……ん?
去年の問題と四年前の過去問を見比べる。筆記試験五十問のうち、五問は新規に成立した法令解釈や意味などで、残りの四十五問は問題文すら一字一句一緒の問題である。
もしや一昨年の問題と五年前の問題も先程と同じで問題文すら一緒。三年前と六年前もだ。
まさかと思って過去六十年の過去問をA・B・Cで振り分ける。
そうするとこの初級メイド試験は三種類の試験問題を三年毎にひたすら繰り返してるだけだったのだ。せいぜい五問程度は新法対応のため変則だが。
「――手抜きすぎだろ、試験委員」
僕は思わずひとりごちる。
「えっと、アンジェ先生どうかなさいました?」
いつの間にか横に居たカロリーナが僕に声をかける。
「いえ、実は過去問を見て気づいたことが有りまして」
そう言って僕は過去問を読んで気付いた事情を簡単に説明した。
「じゃあ、アンジェ先生の推理だったら、六十年以上前の過去問も三種類の試験問題が繰り返してるかも……ってことですよね?」
「まぁ、そうなりますね。そんな過去の資料は流石に……」
「ありますよ! ちょっと待っててくださいね! すぐお持ちしますね!」
カロリーナは禁書庫へ入っていくと、しばらくして封が入った木箱を持ってきた。
「これ、九十年ほど前の初回からの過去問です。調べてみます?」
「ってか封印されてますが開けていいもんなんですか?」
「精霊が封入された聖櫃じゃあないでしょうから大丈夫ですよ……。ディートリッヒなら干乾びますし、トートならドロドロに溶けそうですけどね」
「――なんの話です?」
「いえいえ古いお話ですわ。では開けますね」
木箱を空けると過去問と何故か大量の砂が入ってるだけだった。
僕の推理通り、初回からの過去問を見れば三種類の問題が順繰りに出ているだけである。
「カロリーナ先生、これって恐ろしい大発見なんじゃ」
「取り敢えず留年がかかってる子や成績不振の子たちに模擬試験と称して繰り返しやらせれば良いんじゃないんでしょうか? 成績優秀者にやらせる必要はなさそうですし……」
「ですね、そうしましょう」
その年の初級メイド試験はシュトレーメ修身学院が帝国で唯一の全員合格学校となる。ただし筆記試験だけ全員合格だったが実技試験で数人は残念ながら不合格となったのだが。
しかしこんな事を公に出来るわけがないので、僕とカロリーナは木箱に封印をして禁書庫の地下に奥深くに沈めることにしたのだ。
作者の註釈
国家試験って過去問に同じ文言の問題がころころと出てきますよね。第二種電気工事士や第一種衛生管理者、はたまた自動車免許などなど
中の人が自動車免許の学科試験を受験した時なんて六種類の使いまわしだったらしいですし。(原付バイクや小型特殊の学科試験なんて四種類の使いまわしって言われてましたし)
ですから学科試験で落ちる人って……ちゃんと勉強してるのかなと思ってしまいます。
(――と、第二種電気工事士の実技試験を一度スベった中の人ですが)
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