12話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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「ねぇ、最近デリッカちゃんって変わった?」
剣闘術の稽古中、ルーチェが僕に問いかけた。
「そぉか? いつも通りだと思うぞ?」
そう応え僕は腰に手をやり、デリッカを見る。
「変わったわよぉ。なんか、けんけんさが随分と減ったと思うわ。何かあったか知ってる?」
「いやぁ、思い当たる節は無いなぁ」
「ふぅん」
ルーチェは僕をジト目で見ると、
「あんた、また惚れさせたん?」
と言う。
またって何だよと僕が応えた、ルーチェはため息を付きながら無自覚かよとボソリと呟く。
☆ ☆
「ねぇねぇジョルちゃん、一つ聞いて良い?」
ミノンちゃんがいつものように私を後ろから抱き上げ、耳元で呟きました。
「デリッカちゃんってちょっと変わったと思わない?」
ミノンちゃんが言うには、ここしばらく見ないうちにデリッカちゃんの言葉の節々が柔らかくなった、と言うのです。
確かに今まで人を見下したかのような態度や言動が多かったと思いますが、最近ではそういうのが随分減ったと思います。言われてみれば、ですが。
「私は、まだあの子の事、どうしても好きになれない」
ミノンちゃんの腕に力が入ります。私を後ろから抱きしめてるから、少し苦しいです。合宿であんなことあったんですからミノンちゃんには苦手意識があるのかもしれません。
私は、デリッカちゃんとは初等学校が一緒でした。実はその頃からデリッカちゃんは私にすごく意地悪でした。何故そうなったかは判りません。ですからその頃の思いがあるから、私は今もデリッカちゃんとあまり会話が出来ません。
「あ、またジェイリーちゃんとデリッカちゃんが言い合ってる」
打込稽古で二人が接触したらしいです。転んだデリッカちゃんへジェイリーちゃんが手を差し伸べてました。それを払い除けるとジェイリーちゃんに食って掛かってました。相変わらずだなと思いました。すぐにラフェル先輩が飛んできて二人の間に入りましたが。
そうしたら驚くことが起きました。
「ごめんなさいね、言い過ぎたわ」
デリッカちゃんがそう言うと、ジョルジェちゃんに小さく頭を下げました。その所作にジョルちゃんもラフェル先輩もぽかんとしてます。
「……え、今、デリッカちゃん、頭下げたよね」
ミノンちゃんが再び私をきつく抱きしめ、続けて言いました。
「いままでこんな事なかったよね。一体何があったんだろう……」
私は首を上げてミノンちゃんの顔を見ます。ミノンちゃんが私を見て、
「ん? ジョルちゃんどうしたの?」
と訊いてきます。
「私もミノンちゃんに伝えたいことがあるんだ、今日、時間頂戴?」
「うん。私もジョルジェちゃんに言いたい事があるんだ」
☆ ☆
「ふぅーん。たぶん、エルクーァでやったバイトが彼女を変えたんじゃないかな」
お昼ごはんに東街名物のヒンカリを食べに行ったとき、デリッカに変わったきっかけかもと話したのだ。
「そう言えば、ルーチェ嬢も中等学院でバイト始めてから少し変わったよな」
「そぉ?」
「あぁ、随分前の事だから忘れてたけど、思いだッ!」
向こう側に座るルーチェに向こう脛を思い切り蹴り飛ばされ、言葉を遮られる。
「随分前って失礼しちゃうじゃない!」
尖った声を上げて僕を非難する。痛む脛を摩りながら
「確かルーチェ嬢が十三歳の頃だから、もうじゅッ!」
と言い掛けた時に頭をぶたれた。
「黙れぽんこつ! そんなんだからあんたはデリカシーが無いって言われるのよ!」
ぷいっとそっぽを向き、腕を組んで足を組む。半ば涙目で不貞腐れている。
「……あぁ、悪かった」
その後、クヴェリワインを半分空けるまで機嫌は直らなかった。
なお、何故怒り出したのかは帰宅後にフィアランスに訊くまで分からなかった、解せぬ。
*
*
*
帝都の中等学院入学当時の僕は、お互いを悪友と呼べる程仲良くなるジンと出会う。中等学院では寮は同室だったという事もあり、基本的には一緒に居る相棒みたいなもんだと皆に見られていた。
で、このルーチェ……、というか第三皇女のリーナは中等学院に入った頃、彼女に取り入ってやろう、お気に入りになろう、と何人かの有象無象が言葉巧みに近づいてきたが、原則無視の姿勢を貫いてた。
この有象無象な下級貴族たち。入学当初より僕のような郷紳階級や、出自を一切明かさなかったジンを雑草だの搾取対象だのとひどく馬鹿にしていたのだ。貴族としての矜持というのだろうか。僕には縁のない話だし、僕は実害さえ無ければ良いので相手にもしてなかった。あまり気にしなかったのだ。しかしジンはバカにされた事が相当不愉快だったのだろう、撃沈していく下級貴族達を大いに笑い者にしていたのだ。
入学して暫くした後、ジンが毎晩夜遊びし過ぎで昼間は眠いとよく言っていた。それなら夜遊び辞めればいいじゃないかと言ったが、やるとハマるぞ一緒に行くぞと言うのでお断りだといつも応えていた。夜遊びするぐらいなら勉学に割いたほうが時間が有意義だ。そして次の授業は自習となってたので『悟りを開きに行こう』とジンが言い出す。
僕らが使う『悟りを開きに行く』は、図書館で授業をフケる隠語だった。彼は静かな図書館で瞑想と称し静かにしてるし、僕は活字だらけの海に沈める、まさに悟りの境地だったからジンが付けたはずだ。
学院附属図書館は蔵書量こそ素晴らしいのだが学内でも案外不便な場所にあるため、『悟りを開く』際は学院を出て少し歩いたところの帝立図書館をよく利用していた。しかも帝立図書館の裏通りは安飯屋が並んでるので学校へ戻る前に食事をすることもできる。
学院を出て帝立図書館に入ると受付嬢に食って掛かる女学生、リーナが居た。入館手続きのためリーナの後ろに並ぶ。
「ですから、この本を譲って欲しいんですよ!」
「ですから……殿下。ここは本屋では……」
「言い値で良いですから、お願い!」
受付嬢は相手がのっぴきならない方なのは身分証で判ってるのだろう、ちゃんとリーナを殿下と称していた。しかし図書館の本を売ってくれという非常識な振る舞いにてんで困ってるのは見て取れた。
「よぉ、リーナ殿下よぉ……」
たまりかねてジンが声をかける。
「ん、何よ! ……同じ学院の……?」
ジンと僕を一瞥し、キッと睨むとこっちは忙しいのよと強く言う。
「それでもリーナ殿下、図書館の本を売ってくれだなんて非常にご無体であります。ここは公共の場、この本も公共財、受付嬢も困ってらっしゃるだからワガママは駄目だと思います」
言い慣れてないのだろう、ジンは辿々しい敬語でリーナを宥めていた。そして僕は、その本をご所望なら一緒に古本街で探してみませんか、と続けたのだ。
「ふん! わかったわよ……」
リーナは持ってた本を静かに受付嬢に返し、
「この度は不愉快な思いをさせて誠に申し訳ありませんでした」
と、制服のスカート裾を摘み、カーテシーをする。受付嬢も思わず深々とカーテシーをし、お気になさらずに、と言葉をつっかえながら返してた。
僕らは図書館を出ると、リーナは振り返り
「貴方たちに無様な私を見せちゃったわね」
と言う。学院に居るときと違い、僅かに笑みを浮かべているようにも見えた。
「いえ……、殿下もやっぱ人間なんッスよね」
ジンが言う。おい敬語、と僕は言ったが、
「あのさぁ貴方たち、一つ二つ、お願いがあるんだけど、いい?」
と若干俯きながらリーナが訊く。如何致しました、ジンは片膝を付く。
「私のこと……、殿下って呼ばないでほしい。リーナ・カルグストゥスって名前なのは知ってるかもだけど、私は学院では一人のリーナだもん。あとタメ口でお願いしたい!」
そうリーナが言った。ほへ、とジンは変な声を上げ、じゃあリーナって呼び捨てでお呼び致しても敬語不要で不敬じゃなくて宜しいでありますか?、とまた変な敬語で返した。
リーナは顔を上げる。うっすら頬を赤らめながら彼女はこう言った。
「えぇ、リーナでいいわ! そう呼んでくれると嬉しいわよ! ジン、それとアンジェリカ!」
なお、リーナは教室全員の顔と名前は覚えていたそうだ。しかし、なぜだか僕の名前だけはずっと間違えてたが。
もう一つのお願いは、僕が言い出した古本街でその本を探すことだった。この話は別の話なので割愛する。
この日以降、僕らはリーナと連むようになる。腰巾着落選となった下級貴族たちから僕らは散々恨まれた。しかしリーナが、あんたたちの魂胆見え透けてるから相手にしたくなかっただけよ、と言うとさらに落胆していたが。
ある日、庶民のご飯が食べたいわ、リーナがそう言うとジンは
「普通にご飯が食べたいと言えばどんなのかって聞くから、決して『庶民の』って言葉は今後飲み込んでほしい。すぐにリーナの身空がバレる」
と窘めていた。ジンは遊び人気質だからか、リーナの言葉や振る舞いを事細かに指摘してた。
きっとこの二人はデキてるよな、そう思って僕は三人で行動してた。
「アンジェリカー、いつも敬語疲れない?」
「いいえリーナ様、あまりお気になさらずに」
「おいジン! アンジェリカをもう少し躾けといて頂けません……ん? なんか変?」
「リーナぁ、また敬語漏れてるぞぉ」
リーナはのっぴきならない身分だ、連んでても何だかぎこちない。自分からタメ口でと言ったのに時折敬語がぽろぽろと混ざる。ジンは前述通り馴染んでる。逆に僕は全く馴染めなかった。
リーナは何度かタメ口にさせようとするが、僕自身普段から誰に関しても敬語を使って生きていた。いつしか僕らは意地になってタメ口にしようとするのをスルーするか、となっていたんだと思う。
ある夜、帝都五番街にある金のアヒル亭で夕飯を食べに行こうとリーナは僕と人を誘う。その夕飯の最中に「私、バイトがしたい」と言い出したのだ。
「なぁリーナさぁ。おめぇん家だったらバイトなんかせんでもお小遣いぐらいあるやろぉ?」
とジンが言うが、自分で汗水垂らして働いて飲みたいのよとリーナが応える。もちろん僕らは未成年なので飲んだりは出来ないが。
「ねぇアンジェリカー、なんか良いバイトない?」
「バイトですか……。リーナ様におすすめのバイトでありますよねぇ。ジン、なんか無い?」
「やめて! ジンに紹介されたらピンハネされてしまいますわ!」
顔を青くしてリーナは僕に言う。ジンは俺をなんだと思ってるんだ、あと敬語、と眉をひそめる。そしたら、私にもジンみたいに砕けて話しなさいよとリーナが言う。僕は承知しました、と応える。
「はい! お学士しゃま! 鳥の揚げ物やよ!」
家業のお手伝いをしてたミルスがテーブルに料理を乗せる。彼女は当時五歳だったかな、確か。
「ミルスちゃーん、よく出来たね、えらいえらいですわ」
そう言うとリーナはミルスの頭を撫でる。
「お学士しゃま、あたしはレディなのでしゅ! 気安くなでなでしちゃだめ!」
そう言ってリーナの手を払い除ける、そしてミルスは続けたのだ。
「もしバイトしたいなら、ここは夕方から一人ぼしゅーちゅーなのでしゅ!」
そしてリーナの初バイト先はあっさりと見つかる。
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