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10話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

https://ncode.syosetu.com/n4841ia/

 生まれて初めて労働をしました。


 アンジェ先生にお茶の淹れ方の勉強をということで、でででデートをしたわけです。この事実は皆には言えませんわね。しかし、その先の話も皆には言えませんわ。




 私の一族は中街南部の穀倉地帯を統括する郷紳階級(ジェントリ)の本家筋なので普通に考えたら私が労働するなんてあり得ませんでしょう。なお、あのジョルジェの家も同じく中街を統括する郷紳階級の本家筋なんですけどね。


 そんな家柄ですから、まさか私が働くとは思いもしませんでしたわ。しかも給仕だなんて下級使用人なんかの真似事ですのよ? 最初にアンジェ先生とエルツァさんに言われた時は、あまりの衝撃でしたわ。しかしこのまま手をこまねいてたら間違いなく初級メイド試験は落ちるでしょうに。そうなれば、私は皆々様から『おバカ』の烙印を押されかねませんわ!


 え? 家に使用人が居るならお茶の淹れ方ぐらい教えてもらえばいいじゃない、ですって? そんなこと出来るわけありませんわ。私達がどうして使用人に教えを請う必要があるんですの? 少しは考えたら解るでしょうに。



 その奉仕先のエルクーァは西街七番街の喫茶店でした。

 このエルクーァって喫茶店、明るい時間帯はエルツァさんとリルツァという姉妹が基本的に切り盛りしてますの。姉妹というか双子らしいのですが、あまり似てませんわ。顔も性格も。ニコニコハキハキとホールを切り盛りする妹のエルツァさんと、のんびり屋だけど職人気質な姉のリルツァさん。ご奉仕では、忙しい時間帯、私は役に立ったのか判りません。ただひたすらにリルツァさんが淹れるコーヒーやお茶を給仕してましたから。


 暇な時にリルツァさんが正しいお茶の淹れ方を教えて頂きましたわ。所作についてはテキストを一度目を通しただけでリルツァさんもエルツァさんも出来るんですから、この二人はきっと私と違って優秀な方だと思いましたわ。




「お茶の淹れ方、大事なの三つ。カップやポットは必ず温めておく、絶対。沸騰直前のお湯を使う、グラグラ煮立っても、ぬるくても駄目。茶葉がホップする、超大事」



 お茶を淹れるポイントとしてリルツァさんがそう言ってました。安い茶葉なのにリルツァさんが淹れると味も香りも引立ってるし、なによりお茶の余韻が脳に残ってるんです!

 何度か私も淹れてみましたが、リルツァさんからは「まだポットに触っちゃ駄目、振ったら駄目、お湯が駄目」と何度も叱られましたわ。最初はなにくそと思いましたわ! しかしリルツァさんはニコニコしながら「職人は慌てない」とだけ言うんですの。リルツァさんは言葉は少なめですが、その言葉には要点が押し込まれてましたわ。ただし、『茶葉がホップする』ってのだけが判りませんでした、あとでエルツァさんが教えてくれましたの。


 良いお茶を淹れるには茶葉が開いてお湯の中で浮沈するんことが重要なんですって! ガラス瓶ポットでエルツァさんが見せてくれたのは、お湯を注いだ時に『茶葉がホップする』ように開き浮沈することなんですの。これでエグ味や苦味を出さずに茶葉本来の味と香りを抽出するそうですの。その際、ポットをしっかり温めておかないとお湯を注いだ瞬間に温度低下して茶葉がホップしない。ポットを温めてないからってグラグラ煮立ったお湯入れても駄目なんですって。茶葉が開く温度帯があるから、そこをきちんと狙うように、と姉妹が言うんですの。

 授業でカオリル先生はそんな事一切言わなかったですわ、ひょっとしたら言ってたのかもしれませんが。




 日が暮れると、エルクーァは酒場(バル)になりますの。もちろん私は未成年ですから働けません。しかもびっくりしたことに、リルツァさんたちは私と同じ年だったんです! エルツァさんの豊かな胸を見ると、きっと年上なんだと思いましたが騙されました! リルツァさん曰く「エルはアンジェ先生来るときだけ()()()する」って言ってました。


 仕事が終わったら私達三人で夕飯を食べてお風呂に入ります。この西街は湯船に浸かる習慣が浸透してますので、毎晩三人でお風呂に行きましたわ。そしたら本当にエルツァさんはアンジェ先生が居るときだけ()()()でしたわ……びっくり。


 寝る時は三人でした。姉妹で一つのベッドを使い、私は簡易ベッドでしたわ。この寝る前のガールズトークで色々と知ることが出来ましたわ。



 まず、この姉妹は私と同じ帝立学院落ち組でしたわ。私はお祖父様の『女なんかに学問ガー』のせいで修身学院に行かされましたが、姉妹は来年再受験するそうですって。そのためアンジェ先生を家庭教師として雇っているそうです。なんて羨ましいことなんでしょう! 私もその授業に混ざりたいですわ、そう言うと『アンジェ先生の本気、やばい』と姉妹は言ってました。あ、その『本気、やばい』は、すごく、わかりますわ。


 アンジェ先生って実はものすごく情熱的な人なんです。なんか普段は冷めてたりぼんやりしてたりするのですが、授業で突然『情熱スイッチ』が入りますから。剣闘術でもけっこう入りますわね、それを言うと姉妹は羨ましいと言ってました。


 今度も帝立学院受験が駄目ならうちに入学すると言ってましたわ。ここから中街までちょっと遠くないですの、訊いても循環馬車で通学するから大丈夫と言ってましたわ。通学定期を組めば経済的負担は少なく済むらしいですし。



 次に、これはエルツァさんの与太話というかフカした話というか。

「前にアンジェ先生は氷結の薔薇姫と来店したのよ! ルーチェと自称してたけど、色々と調べたら腑に落ちないことが多くて!」

ですって。

 ルーチェ先生が氷結の薔薇姫のリーナ殿下? そんなわけないでしょうに! 凛と咲く蒼い薔薇のリーナ殿下が、あんな下品なルーチェ先生の訳がないでしょうに!


「でもさ、今、リーナ殿下は自分磨きのため諸国漫遊中らしいんだけど、ちょっと前まで出奔中と新聞に書かれてたよね? 他にも、ルーチェさんの家名がリングィナ、皇后様もリングィナ侯爵家の出自よ? あと、リーナ殿下の中間名はルーチェ。どぉ? やっぱりルーチェさん=リーナ殿下説!」


 エルツァさん……、あなた、推理小説作家になれますよ?



 あと最後。ここ最近、帝立銀行のシュトレーメ支店の金庫に泥棒が入ったって街中で噂になってるそうですの。前から帝立銀行は窓口の手続きに時間がかかるって話らしいけど、どうも金庫に入った泥棒の痕跡を隠そうと官吏達が走り回ってるから、ここ最近はすごく待たされるそうですの。なんか循環馬車内でアンジェ先生と話してた事が本当になったのでしょうか? まさかね。





 最終日。停車場に降り立ったアンジェ先生が店内から見えました。そしたらエルツァさんに突然バックヤードへ連れて行かれました。


「デリッカちゃん! ほら、これ、胸にしまって!」


と、()()()を渡されました。エルツァさんは既に納めてありました。取り敢えず私も頑張って納めましたが。


「ほらほら、瞳を閉じて! メイクするわよ! 数分で済ますわよ!」


と言うと、マスカラを塗られました。もうバックヤードはバタバタでしたわ!



「ん? 今日はエルちゃんとデリッカ君は?」


 あ、アンジェ先生の声が聞こえます!


「んー、たぶんせーり」


 ぶーっ! リルツァさん何言ってるんですか! エルツァさんがコンパクトをそこらへんに放り投げるとガーとか言いながら飛んでいきました。なんか手慣れてます。お約束なんでしょうか?


「ちがいますー! 違いますからね? ね?」


 エルツァさんがすごくすごく必死です。そりゃそうですよ、月の物を殿方に知られるなんてこんな恥辱はありませんから。


「ちょっと待っててくださいね!」


 そういうとエルツァさんがまた必死に戻ってきました。左目のつけまつげが取れてましたが、指摘しないでおきます。


「直ぐに準備して出るよ! んもぉリルはいつも変なことばかり言うのよ! この前なんてう○こよ? せめておしっこって言って欲しいわ!」


 そうコンパクトに宛てがったパフをパンパンと私の頬に打ち付けてました。私はおしっこって言われても嫌ですけどね!





「これ、デリッカくんが淹れたのかい?」


 アンジェ先生は私が淹れたお茶を飲み、そう言ってくれましたわ! 私は胸を張って答えましたわ。


「えぇ、先生のお陰で、私が淹れましたわ!」



 その瞬間、()()()が下に抜けました。私は慌ててバックヤードに駆け出したのは忘れたい記憶ですわ……。






・参考文献

伊藤陽一・小川浩一・ 榊博文

「デマの研究--愛知県豊川信用金庫"取り付け"騒ぎの現地調査(概論・諸事実稿)」

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