08話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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ようやく学校へ戻ってきた僕は、衛士レックに身分証を見せる。
「お久しぶりですね、アンジェ先生」
彼は一通り目視確認してから今日は大変でしたねと言い、身分証を返してきた。
「あはは、今日一日振り回されっぱなしでしたよ」
「夏季休暇や冬季休暇は気が緩むのか大きくなるのか、警察にご厄介になる子たちが増えますからね。今宵はゆっくりしてくださいな」
「あぁありがとう」
校門を過ぎ、自分の住む小屋へ進む。
小屋からは灯りがほんのりと漏れていた。そういえば先程エドヴィシュは僕の部屋にフィアランスが居ると言ってたな。しかし漏れ聞こえる声は一人ではなさそうだ。扉を開ける。
「ようやく帰ってきたわね、アンジュー」
「遅ぇーぞ。何してたんだアンジェ先生」
「もぉーアンジェリカ遅いーっ!」
「くそアンジェ、一杯やってるぞ」
フィアランスとルーチェは取っ組み合いの喧嘩中だわ、レフェリー役を買って出ているであろうカオリルナッチはワイン片手に『髪の毛は引っ張るな』とフィアランスを止めているわ、ラバトはベッドに腰掛けて飲んでるわ。カオスだった。
「あのー、まずは……ただいま。そして、ちぃ姉ちゃんステイ! ステイ! よし、今すぐそこの椅子にね、そうそう。ここがハウスだから、ほら立たない! ハウス!」
「アンジュー、私、犬じゃないんですけど!」
「ルーチェ嬢は部屋の隅に。そう、ちぃ姉ちゃんに近づかないように。また噛みついてくるからね」
「てか聞いてる、アンジュー?」
「私悪くないもん! 突然フィア姉様が襲いかかってきて」
「誰に向かってフィア姉様だなんて言ってるの! そう呼んで良いのは愛しのアンジューだけなんだからね!」
「……いや、僕ですらフィア姉様と呼んだことは無いぞ」
「うん知ってる!」
「おいくそアンジェ、ワイン貰うぞ。あと煙草吸うぞ」
「ラバトちゃん煙草吸うなら換気法具回してねぇ、あと早くそのガタガタうるさいの直せない?」
「んー、たぶんベアリング逝ってるからなぁ。アーマチュアベアリングプーラー探してんだ、ちょっと待ってろ引きこもり」
「引きこもってないもん! ちょっと締め切りが立て込んでたからカリナちゃんと缶詰ってしただけだから!」
「ねぇカオリル先生、カリナちゃんって誰?」
「ん? ルーチェ先生知らん? この学校のおばけ」
「えー! この学校おばけいるんですの? アンジュー、帰りましょう。こんな腐った学校なんか辞めちまって! 先生の働き口なんか、お姉ちゃん探すから!」
「だめよ! 剣闘術会の公式戦が始まるのに引率者が辞めるなんて聞いたことないわ!」
「黙ってろ泥棒猫!」
「私は猫じゃありませーん、ぷっぷくぷー!」
「ところでくそアンジェ、コルク抜きどこよ? ……んたっくめんどいなぁ、法力で吹き飛ばすか」
「え、ちょっと待ってラバトさん! くそアンジェってなんですか! 私の弟をくそ呼ばわりだなんてとんだ無礼なちび女ね」
「好きでちびじゃねぇんだわ、デカブツ女。んてっかミノンちゃんに比べたらお前もちびじゃねぇかよ」
「あ、ラバト先生って本当に法力で吹き飛ばすんですねコルク部分。一杯いただけます?」
「私も欲しいんだけど! ラバトちゃん注いどいて」
「あのぉー、なんか呼ばれたっぽいですけど、どうかしました……?」
「おーほらほら、ルーチェ先生、これ、これがおばけのカリナちゃん」
「幽霊です! もう、ラバトさんも知ってて失礼言うのってどうかと思いますよ!」
「へぇー! 私初めて幽霊って見たかも!」
「ちょ、ちょっと! フィアランスさん……でいいんですよね? スカートめくらないでください!」
「お! カリナちゃん脱がすん? おっ! おっ?」
「カオリル先生まで何喜んでるんです? しかお、フィアランスさんまで覗き込まないでくださいまし!」
「だってー、あなた、幽霊なんでしょ? スカートの下にペチコートなんか履いて。今の子じゃ珍しいから、つい」
「で、フィア姉様、何色でした?」
「乙女の至高、薄ピンクでしたわ! ってあんたがフィア姉様と呼ぶのはやめて!」
「ほらほらフィアランスさん、ここ椅子ですよ、ここがハウスですよ。ルーチェ先生はその部屋の隅に居る!」
「そういえばその当時ってスカートの下にペチコート履く習慣ありましたよね。だってカリナちゃん百五十年前の生徒の幽霊ですから」
「ちょ! そんなこと言ったら私の年齢がまるわか……、ところで幽霊って歳を重ねるもんなんですか?」
「享年で生き続けるんじゃないんですか? ラバトちゃんどう思う?」
「女の子の年齢なんて自称で充分じゃね?」
「じゃあ私は永遠の十七歳で!」
「それなら私も十七歳だわ! 人妻ですけど」
「稀代の恋愛小説家は永遠の十七歳、キャッチーでいいかも?」
「あのさぁ……、くたくたになって帰ってきた家主を少しは慮ってくれ。あと、この部屋の惨状。何があったよ。説明頼む」
本棚もキャビネもひっくり返り、床には僕の私物類や空瓶、ゴミなどが巻き散らかされ、ベッドは寝具類がぐちゃぐちゃになっていたのだ。
「あたしは飲んでただけ」「フィア姉様が突然襲いかかってきた」「ルーチェって小娘が暴れた」「私は仲裁したわ」「下で小説の校正中でした」
と、彼女たちが言うことを想像すれば、きっと部屋にルーチェがやってきてフィアランスと口論になり取っ組み合いの喧嘩となったのだろう。もちろんルーチェがフィアランスを御せない訳がないが、僕の姉ということで受け身に徹してたとは思う。
「いでっ! アンジューがチョップした!」
「ちぃ姉ちゃん。ルーチェ嬢に謝って下さい」
「なんで?」
「なんでって……二人が喧嘩してたのってちぃ姉ちゃんから手を出したからでしょ?」
「なんでよ?」
「なんでよって……、どーせこの部屋にルーチェ嬢が来たから、あんたの来るところじゃないわよー、と言って掴みかかったんでしょ?」
「……もぉ、なんで解るのよ」
「解るも何も……。ちぃ姉ちゃんの行動なんてすぐ判ります!」
「愛のヴィエラリンクで?」
「馬鹿言ってないでルーチェ嬢に謝って下さい」
「やだ」
フィアランスは顔をぷいっと横に向けると私悪くないもんと言って膨れ面をする。僕はフィアランスの両頬をつねりあげた。
「いひゃい! いひゃい!」
「悪いことしたらごめんなさいしないとダメって、ちぃ姉ちゃんが教えてくれましたよね」
「ひゃい……」
「ごめんなさいできますか?」
「ひゃい……」
涙目になるフィアランスが頷くので僕は手を離した。余程痛かったのだろうファランスは両手で自分の頬を確認している。なお、小さい頃はこの手の折檻をよくフィアランスから受けた。
「ちぃ姉ちゃん、ごめんなさいは?」
「はい……ごめんなさい」
「僕にじゃありません。ルーチェ嬢にですよ」
僕がそう言うとフィアランスはふらふらと歩いてルーチェの前に行く。きっと葛藤や悩みがあるのだろう。フィアランスはルーチェの前で改まる。それを皆は固唾を飲んで見守る。
「ルーチェ嬢……、ご、ごめ……、ごめめ……嫌! やっぱ嫌なのぉ!」
フィアランスは泣きながら小屋から飛び出していった。残された僕たちは、開け放たれた扉を眺めるしか出来なかった。
その沈黙を破ったのはカオリルナッチだった。
「なんかその……、アンジェ先生のお姉ちゃんって結婚してるんだよね」
足を組みながら椅子に腰掛け、ワインを傾けるカオリルナッチが訊く。
「えぇ。ナゥルィズで羊飼いと……」
「よくあるパターンよね。でもさ、人妻が弟の所とはいえ実家じゃないところへ行くためのに数日も空けるなんて、旦那さん心配しないの?」
「旦那さんはあまり気にしてないそうです。ただ、旦那の実家は良い顔しませんよね」
僕がふぅと溜息を付くと、カリナもテーブルに寄り掛かりながらワインを飲みつつ訊く。
「あの、追いかけなくて良いんですか?」
「しばらく待ってると何事もなくしれーっと戻ってきますよ。あ、ちぃ姉ぇってかなりの寂しがり屋なんです。僕らが笑い話とかしてると、こういうときって結構早く戻ってきますよ」
そう言うと、まぁそれならとっておきの滑らない話があるんですのよとカリナが話しだした。
「……というわけで、なんでおじいさんは頭の上に洗面器を載せてるんですかって聞いたら、おじいさんが………あ、ほんとだ」
部屋の隅っこで正座しながら皆とともにケタケタと笑うフィアランスが居たのだ。
「はい、ちぃ姉ちゃん。大人になる時間ですよ」
僕がそう言ってフィアランスの前で正座をした。その横にルーチェを呼ぶ、彼女も足を折って正座した。フィアランスは床に手をつくとゆっくり頭を下げた。
「ルーチェ嬢……、いままで失礼なこととか言ってごめんなさい。でも私はあなたのことが大嫌い」
「嫌いでいいですよ、フィア姉様」
「なんで? なんで嫌いって言われて平気でいられるの?」
「世界万人から好かれるほど私は人間出来てませんもの」
そう言ってルーチェはフィアランスの肩をなでる。
「だから、ずっと嫌いなままでも良いんですよ、フィア姉様」
「分かったわ……。ルーチェ嬢、ありがとうね。そしてアンジュー、ありがとう」
フィアランスは僕とルーチェの手を取って頭を下げる。
「良いんだよ、ちぃ姉ちゃん」
「良いんですよ。フィア姉様……」
僕はルーチェと見つめ合ってからフィアランスを見る。するとフィアランスは立ち上がる
「やっぱあんたが嫌いよ! ふがー!」
と僕とルーチェに飛びかかったのだった。
「またフィアランスさんが御乱心だー」「止めろー」「はいはい、髪の毛引っ張らない……ファイッ!」「ちぃ姉ぇー!」
その後僕らは夜中にうるさいと衛士レックに叱られるのだった。
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