07話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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「ところで、エド姉ちゃまはいつ帝都に?」
僕が訊くとエドヴィシュは、明日には帰らないといけないのよ、そうストリバ語で言うと溜息をつく。そしてエドヴィシュはちらっと僕らの横にいるミノンやアガリスクを見たのだ。彼女たちにはきっと聞かれたくないのだろう。そう察した僕もエドヴィシュに併せてストリバ語で話すことにしたのだ。
『そうなんだ。じゃあたまには実家に帰って来たら? 帰省なんかしたことないんだろ?』
『……うん。アンジューが居るときに帰っても、いい?』
『もちろん。弟妹たちにも元気な顔を見せてやれば良いと思うぞ』
『……うん、わかった』
そう言うとエドヴィシュは僕にひしりと抱きついた。
『小さい頃、エド姉ちゃまに誰もいない部屋に連れてかれて、抱きしめられた時もあったね』
『あの時は私、すごく苦しんでたの。詳しくはフィアンが知ってるわ』
『訊いても良いもんなの? ちぃ姉ちゃんなら教えてくれるかもだけど。でもあの時エド姉ちゃまはいつも僕を抱きしめながらずっと泣いてたから』
『……今はそんな古い話ばかりしないで』
エドヴィシュは僕を強く抱きしめた。
『仕方ないさ。それだけ時間の溝が深く大きいんだよ、僕らはずっと会ってなかったんだし』
僕はそうエドヴィシュの耳元でつぶやく。
「失礼します。エドヴィシュ隊長、そろそろ定時連絡のお時間で……」
申し訳無さそうに小声で耳打ちするアガリスクに、姉は判ったわと言うと僕から離れる。
「ミノンちゃんも遅くまでごめんね」
エドヴィシュは一生懸命に笑顔を作ってミノンの頭を優しくなでた。
「いいえ! また会いたいです、エド姉様」
「うふふミノンちゃん。もし前期課程が終わったら帝女隊に来ない? 私もね、色々ヤキが回っちゃったみたいでね。どうせ今冬あたり帝女隊にでも飛ばされるかもだし」
「はい! もしお互い帝女隊に行くことがあったら、お願いしますね!」
そうミノンが言うと、右手で左胸を三度叩くをすると、エドヴィシュは笑顔で返礼をしたのだ。
「じゃ、アンジュー。ミノンちゃんは嫁入り前のお嬢様なんだからね! ちゃんとお家に届けるのよ!」
「わかったー! エド姉ちゃまも息災で!」
僕らはミノンの自宅へと歩むのだった。
「と言っても私、すぐ別館裏の官舎なんですよねー」
ミノンは後手を組み歩きながら振り返る。
「そういや、ご両親様が領主館にお勤めだったな」
「えぇー。アンジェ先生も見ませんでした? てか一緒に居たじゃないですか、領主別館にいた背の高い警備兵、あれ父ちゃんです」
「やっぱり! なんとなくミノン君に似て……」
「先生! 思春期の子に『父ちゃんに似てる』なんて禁句ですよ!」
ミノンは人差し指を僕の口元に突き出してイーッと歯を剥く。
「そ、そうか、すまん」
「でも先生だから許します!」
ミノンはくるくると回りながら踊るように遊歩道を歩く。
「転ぶぞ、おい」
「あははー、じゃあ捕まえてくださいなー」
そう云うとミノンは走り出す。十歩ほど駆けたあと振り返り、両手を広げる。
「ここですよー! またすぐ逃げますよー?」
と、言うとまた十歩ほど駆けたあと振り返った。
まるで引き綱を離して逃げ出した飼い犬のようだ。すたこらと逃げるが、途中不安になるのか振り返って僕の様子を見るかのように。追いかければ必死になって逃げ出すが、きっとこの状態で放っておいたなら勝手に戻ってくるに違いない。ミノンはあれやこれや言いながら走っては振り返り、手を振りを続けてを幾度も繰り返してたいたせいで相当離れたところに居たのだ。そしたらおもむろに僕のところへ駆けてきたのだ。
「もー、なんで無視するんですかー!」
息を一つも切れず綺麗なフォームで走り寄ってきたミノンに、僕は頭を少し乱暴になでてやる。
「なー、なんですかもー! 人を犬みたいに扱わないで下さい!」
いやいやミノンよ、お前の行動、犬そのものじゃないか、まるで。
「もうこんな薄暗いんだ。勝手にあちこち走り回るな、危ないだろ。僕が心配するぞ?」
グシャグシャになった髪の毛を整えるようになでると、ミノンは嬉しそうな顔をし、
「そこまで言うんだったら……、じゃあアンジェせんせー、手を繋ぎましょうよ!」
と言うと僕が何も返事してないのに、ミノンは僕の左手をしかりと握る。
「あぁ、ルーチェ先生ってこんな幸せな気持ちなんだなと思いました!」
「ん?」
「なんでもないです! あ、そろそろ官舎です!」
そう云うと、ミノンは手を振りほどいて再び走り出す。本当に落ち着きのない犬のような子である。
いくつかある木造アパルトマン官舎の入口でミノンは徐に立ち止まった。
「ここなんですよ! ここの五階なんですよ! 上がってきます? きっと父ちゃんたち………」
「ミノン! ようやく帰ってきたんか! んたっくお前は!」
官舎入口で仁王立ちしていた男は飛び出してくるとすかさずミノンの頭をぐりぐりとこじりだす。
「父ちゃん痛い! あと酒臭っ!」
「こんな遅くまでどれだけ親に心配を掛けさせるつもりだ。……あ、あれ? アンジューさん?」
ミノン父は僕に気づいたのか、娘の頭をぐりぐりするのを止めず頭を下げる。僕も思わず頭を下げた。ミノンは逃れようとジタバタしているが抜け出せないでいるが。
「母ちゃんから聞きました、娘の、中署と王宮警備隊の身元引受をしていただいたようで……ほんとこの馬鹿娘がどれだけ迷惑を掛けたか!」
「いえいえ……、それよりお父様。ミノン君が相当痛がってますが」
「いいんですよ! こいつ相当の馬鹿でして、少しぐらい脳みそに刺激を与えてやらんとまた同じ事をしでかしますんで」
「いえいえ体罰はよくありません! しかも年頃の娘さんにする体罰でもありませんし」
「そうだそうだ、それ痛いんだぞ! 酒臭いんだぞ!」
「うるせえ!」
「そんなことばっかする父ちゃんなんか大っきらいだぞ!」
そう言われ、ミノンの父はすぐに手を離した。その隙にミノンは拘束から逃れ、僕の後ろに隠れるように立った。ミノン父は余程ショックだったのだろうか、表情が凍りついて立ち尽くしていた。
そう言えば僕の父がフィアランスと喧嘩してた時は、フィアランスの『パパ大嫌い』の一言で父は一週間ほど元気が無かった覚えがある。やはり年頃の娘からそう言われると父親としてはショックを受けるようだ。
ようやくショックから立ち直ったのか、ミノン父は僕の後ろに隠れるミノンに怒鳴り始めた。もちろんミノンも僕に隠れて怒鳴り返すのだが。
「だ、大っきらいって! 俺はどんだけ心配したと思ってるんだ!」
「じゃあ、もうぐりぐりしないで! 私、もう、そんな……。もう子どもじゃないんだからね!」
「子どもじゃねぇーか! 背丈ばっかにょきにょき伸びてケツも乳も無ぇ、どっかの小僧みたいな格好でふらついてるなんて子ども以外なにがあるってぇ?」
「これ、かわいいじゃない! 兄ちゃんのお下がりだぞ!」
「今度母ちゃんにかわいい服でも買ってきて貰え! んったっく……あと、夜風は女子どもに悪い、はよ家に戻れ!」
「はぁーい」
このミノンの父、ものすごく口が悪いが、言葉の節々に娘への愛が滲み出ている。
「先生ぇ。本当にうちの娘がご迷惑をお掛けしまして、誠に、申し訳有りませんでした!」
ミノンの父はそう云うと手と足を地面に付け地面に擦り付けるよう頭を下げた。
「いえいえ、お父様、頭をお上げくださいませ。僕は教師としての義務を果たしたまでです。娘さんの前でそんなみっともない事は……」
「お父ちゃん辞めてよ!」
「いえいえ! 元はと言えばちゃんとしつけをしてない私のッ!」
土下座するミノンの父を立ち起こすのに一番エネルギーを使ったのかもしれない。
「どうですか、今日のお詫びとお礼に一杯……」
そういうミノン父に僕は飲めない旨を言うと、折角美味しい一杯が飲めると思ったんですが残念、と言う。
「今日も遅いので、これで失礼しますよ」
と、僕が言うと今度是非遊びに来てくださいや一緒に食事でもとミノン父が言う。ミノンも是非一緒にごはん食べましょうよーと続けた。じゃあ機会が有りましたら是非と僕がそう言い身体を二人に背けたときに、
「アンジェ先生、待って!」
とミノンが呼び止める。振り返るとお礼ですと叫びながらミノンが飛びついてきたのだ。そして僕の両耳を手で塞ぐと、僕の口をも唇で塞いでいだのだった。
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