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05話

 ルーチェを自室に送り届けて僕はようやく自室に戻ることが出来た。

 その自室ではものすごく怖い顔をしたカオリルナッチがテーブルに顎杖を付いて待っていたのだ。



「おかえりー、アンジェせんせー」


「あ、た、ただいま帰りました……」


「昨日帰ってきたよねー」


「あ、はい、昨日帰りました」


「魔道具鳴らしたりしたんだけどなぁ……寂しかったなぁ……」


「す、すみません。ほんと疲れてたんで」


 カオリルナッチはワインを開くとグラスに注ぎ、香りを確かめながら


「んもぉー、せっかく王宮警備隊が来てるって教えようと思ったのにぃ」


と言って一口含み、飲む。


「そうだったんですね……で、なに勝手に人の部屋で飲んでるんですか? しかもこれ僕が隠してたワインですよね?」


「えー? ラバトちゃんはよくて私はダメなの?」


 カオリルナッチは僕を上目遣いで見つつ、器用にワインをグラスに注ぐ。


「どっちもダメです! というか人のを勝手に飲んでるのは二人じゃないですか! せめて許可ぐらい取ってくださいよ!」


「もぉー、ケチケチしないでよ! もぅ。てか、なんで飲みもしないワインを隠し持ってるのよ」


「……姉ちゃんのお土産用だよ」


「あらかわいい。やっぱりお姉ちゃん大好きなのねアンジェ先生……」


 そうカオリルナッチが言うと、並々に継いだワインを光に当ててうっとりし、口に含む。


「あぁそうそう。ミノンちゃんが昼前、官憲に補導されたってのよ。だから中署まで引き取りにいって?」


「それ先に言ってくださいよ!」




 僕は慌ててシュトレーメ中警察署(通称・中署)へ出頭することとなった。受付で身分証を提示して事情を説明する。気だるそうに居た受付嬢は二階の生活安全部へ行ってくださいと言い、僕は軋む階段を駆け登った。

 生活安全部の受付で再び身分証を提示して説明すると、準備ができましたらお呼びしますのでこれを持ってそこでしばらくお待ち下さい、そう言われ指差すソファに腰掛けた。渡されたものは『少年保護対策課・Ⅱ』と書かれた札だった。そこそこ使用感があるって事は今回のように補導少年達の引取がこまめにあるってことなんだろうか。


 半刻ほど待たされただろうか、一・五コーリン程度の小柄な女性刑事が身分証を僕に突きつけて前に立つ。身分証にはマリアナ・ペトラリファイナと書かれていた。


「……お待たせしました。失礼、ザントバンク修身学院の教官殿で相違ないか?」


「えぇ、ザントバンク修身学院のアンジェ・カマークだ」


 僕も身分証を提示してマリアナの前に立つ。


「あぁ、アンジェ先生だな。いやはや、本当にお待たせして申し訳ない。別件の取り調べに手間取ってな……」


「いえいえ、気になさらないで下さい。んで、当校の生徒を引き取りたいのだが」


「じゃあすぐに案内する」


 そう云うとマリアナはすたすたとフロアの奥へ入っていく、僕はそれに付いていった。そして先ずは真っ暗で小さな小部屋に案内されたので二人で入る。向こうさんには私達の姿は見えんよ、そうマリアナが言うと窓の外にはノースリーブシャツに短いスカート姿のミノンがむくれて椅子で膝を抱えて座り、別の刑事から取り調べを受けている姿が見えた。僕らの角度からぱんつが丸見えだった、本当に見えてないのだろう。


「アンジェ先生、この生徒さんで相違ないか?」


「えぇ。ミノン君だ」


「どんな容疑で補導されたか聞いてるか?」


「いえ……、まさか喧嘩か乱闘騒ぎですか?」


「いえいえ! え? やっぱあの子ってそんな血気盛んなんですか!?」


「ほら、夏季休暇中の補導だなんて聞いたら喧嘩か乱闘騒ぎってイメージぐらいしかなく……」


「もし喧嘩騒ぎだったらココじゃなく刑事部捜査第一課だな。あと、私ら少年保護対策課が少年少女を補導するのはな、夜間徘徊で約三十五%だ。その次が飲酒喫煙で約二十六・六%、喧嘩沙汰などの粗暴行為は約四・四%しかないんだよ」


 そうマリアナが言うと懐から煙草を取り出し火をつける。彼女は僕に煙草のケースを見せて首を傾げたが、すいません、そう言って手を横に振って断る。


「それにしてもあの子、ミノン・フリーデン君だったっけ? 市民からの通報時点で既に情緒不安定でな、当初は精神科へ措置入院も検討したんだ。しかし自傷他害の恐れは無さそうということで取り敢えず少年保護対策課で保護したんだよ。取調べ中も突然怒り出したり泣き出したりと忙しい子でな。何かあったか知ってるか?」


 マリアナがふぅーと紫煙を吐き出す。


「いえ……、昨日まで剣闘術会で合宿しておりまして。ただ、昨日はヴィンチ町からの移動でクタクタでして。僕もミノン君も聖心教徒ですからティラズィシュ(夏星祭)へは礼拝行かずに寝て身体を休めようと言って別れてからは分からないんですよ」


「そうですか……。彼女を補導したところは中街の領主別館でして」


「ん、領主別館? 何時頃に補導されたんでしょ?」


「確か、昼前だったはずです。市民から『言葉にするのも聞くのもおぞましい言葉で叫ぶ巨大な幼女がいる』と通報がありまして。我々が駆けつけた時、『アンジェ先生がルーチェ先生とキスして結婚したー! おめでとうございまーす! ○×△×○(ごにょごにょごにょ)!』と叫んでいたわけですよ」


 見られてたのかよ! しかも何勝手に結婚ワードをミノン物語に組み込んでるんだよ! しかもそんな聞くに悍ましい言葉(シャイッセ)を公然の場で叫んだら補導されて当然だよ!


「はぁ……、責任持って引き取っていきます。ご迷惑お掛けしました」


 僕は深々と頭を下げると、マリアナはアンジェ先生顔を上げて下さいと言う。


「せっかくの新婚初日にご迷惑をおかけして申し訳ありません、アンジェ先生」


「いえいえ、違いますって! 彼女の思い込みです!」




「迎えに来たぞ、ミノン君」


 女性刑事に連れられて取調室から出てきたミノンに僕は声を掛ける。


「え? あ、アンジェ先生?」


 女性警官に促されて取調室を俯いて出てきたミノンだったが、僕の声が聞こえたからだろう、(かぶり)を振ったときに鴨居に激しく頭をぶつけてうずくまる。マリアナたちが駆け寄るが、私は大丈夫ですと言い立ち上がる。そして僕を見下ろすように立つと、


「何しに来たんですかー!」


と大声を上げ、そして目から涙を垂れ流しながら


「新婚さんがなにしてるんですかー!」


と言いながらいきなり僕に殴りかかってきたのだ。残念ながらマリアナたちに取り押さえられていたが。



 えぐえぐと泣くミノンが見ていた事情について説明をする。もちろんルーチェの詳しい事情についてはボカしにボカしまくったが。


「じゃあー、アンジェ先生はまだ結婚してないんですか?」


「まだも何も、する予定すらない」


「でもさー、アンジェ先生ってルーチェ先生と……」


「幼なじみなだけだ。結婚云々は彼女がそう言ってるだけだ」


 僕がそれをいうと、なんだーと言って大きく伸びをした。シャツの丈が合ってないのか裾からおへそが覗く。


「そんなんなら安心ですよ! てっきり二人が領主別館で極秘挙式を上げてたんだと思ってましたよ!」


「思うのは勝手なんだがな……、善良な市民から通報されるような言動行動は厳に謹んでくれ」


「はーい! 一生懸命がんばります! じゃあ帰りましょ?」


「まずは刑事さんたちにご迷惑をお掛けしたんだ、まずはお詫びするのが最初だろ?」


「そうですね! 礼に始まって終わるのが剣闘術ですもんね! 刑事さんたちご迷惑おかけしました!」


 輝くような笑顔で思い切り(かぶり)を振って礼をする。距離測を誤ったのかマリアナに頭突きするような形になったのだが。その後僕らはマリアナにしばらく叱られるのだった。




 中署から出たときには日は完全に傾いていた。


「もうこんな時間になってたな……」


「先生ごめんなさい。なんかすっかりおやつ時間も過ぎちゃいましたね」


「はは、僕は別におやつを必要としてないから気にするな」


「私はこの身体を維持するには必要なんですよ? なんかご馳走してくださいよ!」


 そう言ってミノンは腕に絡みついてきた。夕飯が食べられなくなるぞと窘めたが、


「先生が思ってる以上に私、食べるんですよ?」


と応えたのだ。


「知ってるぞ。バーベキューのあとにスイーツバイキングでケーキを十四個も食べてたな」


「ひゃー、合宿の時のアレ、見てたんですか? でもあのあと、部屋に戻ってからみんなでお菓子を並べてパジャマパーティしたんですよ? みんなは一切手を付けてませんでしたけど」


「まだ食べたんか?」


「だって、バーベキューもスイーツも私はけっこう控えめだったんですから!」


「あれでか!? ケーキ十四個で控えめなのか!?」


「当たり前じゃないですか! 私だって乙女なんですよ? みんなの目を気にしてセーブモード!」


 そうミノンは気にしていたと言うが、フードファイターも裸足で逃げるレベルで食べていたのだが。それにしてもミノン君は全然太らないんだなと言うとミノンは突然俯いたまま立ち止まった。俯いてはいるが、顔も耳も真っ赤なのは見て取れる。


「せ、先生は私が太ったら嫌ですよね?」


「その前にミノン君はもう少し太っ……女の子に太った方がいいだなんてデリカシー無い一言は言えんし……。んー。今のままが充分かわいいと思うな」


「でも、ちょっとガリガリですよね私! 父ちゃんから乳もケツもねぇ鶏ガラ女って言われてますもん!」


 そう言ってミノンは胸や尻、腰をさすりながら涙目になる。かなり気にしているのだろう、しきりに身体をさすってた。


「もうじき女の子っぽく身体が成長してくると思うぞ、きっと。不安なら女性教師や校医のシュバンヴィ先生に相談するといい」


「そーなんですかねぇ? で、何をご馳走してくれるんですか?」


「逆にミノン君の食べたいおやつは何なんだ?」


「肉ですよ、焼肉!」


 こいつの食欲はどうなっているんだ!? おやつに肉をチョイスする女の子って居たんだ。


「ほら! 合宿ではジョルちゃんジェイリーちゃんたちに併せて私達、鳥肉しか食べてないじゃないですか! もう何度発狂しそうになったやら! これがデリッカ……ちゃんだけが拝星宗徒だったなら黙って食えと殴りかかってましたよ!」


 拝星宗徒の三人の忌避食(タブー)に併せ、僕らはずっと鳥肉ばかりの生活していた。彼女らは鳥と鶏卵と羊以外の動物性たんぱく質を食せない、余程でない限り魚食も認められていない。だから合宿中の食事はこの三つを使った主食を基にメニュー構成がされたのだ。僕自身は特に気にしなかったが、成長期のミノンには非常に辛かったのだろう。


「異なる宗教間の喧嘩は相手が誰であっても絶対ダメだ。それに誰彼も聖心教徒みたいに何でも好きに食べて良いってわけじゃない。下手なことをすれば宗教戦争になりかねん。冗談でも殴り掛かるだなんて言うな!」


「判ってますよー! あぁ、ここですよ! 美味しい焼肉を安く食べさせてくれるんですよ!」


 着いた先が五番街の呑平だった。まだ開店前なのだろう、店員たちが準備に駆けずり回ってた。






  ※参考資料

『広島県警本部 少年補導(令和三年)』より抜粋


  作者註(おっさんの独り言)


 仁義が無かったりする戦いをする、あの広島ですからちったぁ喧嘩騒動多いかと参考資料に使ったけど、大したことなかったです。なお、中の人(おっさん)の大学時代のツレに広島県呉市出身の人がいましたが、血気が盛ると、ほんと『仁義が無かったりするような人たち』の言葉になるんだなぁと思いました。ちなみに彼女は恐ろしいほど温厚なひとでしたが。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。

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