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02話

 次姉であるフィアランスについては時々出てきているのでご存知だろうが長姉については出てきてない。なので軽く書いておこうと思う。



 僕からして長姉・エドヴィシュのイメージはいつも仏頂面だった。

 僕がどれだけ声をかけても、「ん」とか「あぁ」とか言葉数少なく接してきたのだ。そのため僕に抱きついたりしてくるフィアランスには甘いイメージがあるから、どちらかと言えばエドヴィシュには塩っ辛いイメージしかないのだ。言い換えるなら取っつきにくい姉だった。


 しかしそのエドヴィシュ。地元の中等学校前期課程を終えるとすぐに僕ら一家の前から姿を消したのだ。それ以降僕は見ていないし手紙のやり取りもしたことがない。両親にエドヴィシュはどこに行ったのか幾度となく訊いたが、きっと元気でやってるんだよと笑顔で応えるだけだった。先程の塩っ辛いイメージしかないし突然家族の前から消えたので、僕の頭の中ではエドヴィシュについて話すことが無いのだ。お陰で記憶からもエドヴィシュの存在は殆ど消えており、色んな人には『長姉が居る』としか説明ができないのだ。



 そんなエドヴィシュに連れられ、隣の部屋に入る。しかしソファがあるのに座れと指示をされない。が、勝手に座るのは無礼にあたるのでどうしたもんかとエドヴィシュを見た。僕より少しばかり背の低いエドヴィシュは僕の顔をまじまじと見つめると


「アンジュー!」


と叫び飛びついてきたのだ。


「アンジューの匂いがするー! はぁー! でかくなったねぇ! もう何年経ったっけ? あたしがアンジュー断ちしようと帝女隊に入ってからだもんね! てことは十六年? ぐらいだよね! うわぁー! アンジェーがおっさんだー! あたしもおばちゃんになってるもんね! ふがー!」


 はぁ……? もう脳みそが処理を追いつかない。


「ね、姉さん……?」


「なぁに? 昔みたいに『エド姉ちゃま』て呼んでもいいのよ?」


「まずは離れて下さい、誰かが見たら勘違いします」


「……鍵は掛けたわ」


「知ってます。だから先程解錠しておきました」


「………ちっ」


 舌打ちしたぞ。

 エドヴィシュは僕から離れ、髪や身なりを整えるとソファに招いた。僕は黙礼するとソファに腰掛ける。


「まず最初に、僕がここに呼ばれた理由について訊いてもいいですか?」


 エドヴィシュが腰掛ける前、言葉を切り出す前に僕から切り出した、こういうのは先手必勝だ。


「え? アンジューは何でここに来たか分からないの?」


「えぇ、先程の兵士からは何の説明もない……、いや、順序が違う? まぁ正直説明は受けてないな」


「……また、やらかしたの、あの子?」


「またかどうかは知らないよ。突然出頭命令書を突き出して出頭依頼ですと言い出したからな」


 僕がそう云うとエドヴィシュは身体中からの空気を全て抜くかのごとく長い溜息を付いた。


「他にもなぁ……、出頭命令に切り替わったとき腕時計持ってきてないから命令時刻の宣言も出来てなかったんだぞ。姉さん、ちゃんと点呼して送り出したのか?」


「重ね重ね申し訳ない」


「そんな状態で僕はここに来てるんだ。言わば違法監禁だよな」


 そこまで僕が言うと、姉は俯いてしまう。そして肩をぷるぷる震わせたかと思えば涙を流しながら叫んだ。


「もぉー! アンジューのばかー! そんな、いままで放っておいたからってあたしをいじめないで? あと私のことはエド姉ちゃま!」


と、大の大人がぴーぴーと泣くもんだから取り調べなんか出来るはずもない。

 結局あまりにも遅いからとフィアランスが乗り込んできて、結局フィアランスが同席した形で取り調べを受けることとなった。




「……んで、リーナ殿下を唆してアンジューがこちらへ連れてきた訳じゃないんだな? そして追っ手を避けるため逃亡したわけでもないんだな?」


「もちろん。本人は王宮より長期休暇を取らされてこちらに遊びに来たと主張してたし、剣闘術会の合宿も本人の強い希望だ。おかげで助けてもらった面もあるが……、振り回された一面の方が大きいがな」


「シュトレーメ中街領主館での大立ち回りの噂話が帝都を駆け回った時、陛下、ついに帝冠を床に放っつけて王錫で素振りを始めたのよ。もうゴールしてもいいよねって言いながら」


 エドヴィシュはそう云うと、んーと言いながら伸びをした。「やっぱとっとと結婚させればよかったわーって言ってたわ、陛下」


「第三王女とはいえ、行き遅れとはいえ、おてんば姫とはいえ、結婚外交の駒にはなるんじゃない? どっか適当な貴族や名家にでも宛てがってしまえばいいのにー」


 優雅にお茶を啜りながらフィアランスが言う。「ねー? アンジューもそう思うでしょ?」


「んー、確かにな。んでもさぁルーチ……、リーナ殿下にも思いはあるだろうに」


と僕が言うとエドヴィシュが溜息をついた。


「そうなのよ! あの小娘(ジャリガキ)、『わたし、ずっと好きな人が居るから王室離脱して結婚しちゃいます!』とか書き散らして出奔したんだからさー! そっと置き手紙で居なくなれば大事にならなかったのに、あの小娘、自分の意見を封殺されまいと新聞社に同じ文面を書き散らして出奔したんだからね! 新聞社を黙らせるのにどれだけ労力を振りまいたやら……」


「じゃあさーエド姉ちゃま、それならリーナ殿下をその想い人とくっつければ良いんじゃないの? それで王宮警備隊も王宮も『リーナ殿下は臣籍降下して、素敵な殿方と幸せに暮らしましたとさ!』と宣言すればいいんだよ!」


と、フィアランスは言う。

 昔からフィアランスは乙女小説が好き過ぎて、このように『幸せに暮らしましたとさ』と付けば何でも名作に見えてしまう脳回路な人だ。まぁそのような結末にしてしまえば楽ちんだろうな、僕もそう思う。

 しかし、エドヴィシュはフィアランスをギッと睨むと歯を剥き出しにして


「じゃあフィアン。その素敵な殿方が、アンジューだったら納得できるの?」


と吠える。それを聞いたフィアランスは同じく歯を剥き出しにして


「許されるわけないでしょ! 王女なんだからちったぁ我慢して生きろやクソがぁ!」


と叫ぶ。そして何を叫んだか脳が理解をしたのだろう、急に固まった。


「……て、え? エド姉ちゃま……、ま?」


「ま」


 姉たちは僕を見る、僕は思わず目を逸らす。



「そういやリーナ殿下は中等学院からアンジューと同じよね」


「あぁ……、エド姉ぇ」


「そう言えばゼミの研究室も同じじゃなかった?」


「そうなんだ……、ちぃ姉ぇ」


「アンジュー。……告られた?」


「……何度か、な。この前も結婚しろと」


 姉二人は息をすぅと吸い込むと



「駄目じゃぼけー!」「諦めろ小娘ぇ!」



と叫んだ。





「てか、エド姉ぇがまさかリーナ殿下の上司だったとはな」


 僕は出してもらったお茶を啜る。「てか、誰もエド姉ぇの居所を教えてくれんかったからな」


「そりゃそうよー。昔っからエド姉ちゃまはずうっと葛藤して生きてたんだもんねー?」


 ついにお茶じゃなくワインを飲み出すフィアランスがコロコロと笑いながら言う。


「葛藤? だって、エド姉ぇっていつも僕の前で仏頂面だったし、たまに返事するだけで会話をした記憶なんか皆無だし……、あぁ小さい頃、時々誰もいない部屋で僕を抱き……」


「あーあー! 最近発声練習サボりがちでねぇ。あーあー!」


とエドヴィシュは大声を出しながら突如発声練習を始めたのだった。


「エド姉ちゃまはね、ついにアンジューが好き過ぎて頭がおかしくなりそうだって言い出したのよ。そんなときに帝女隊に入ってアンジュー断ちが必要だーって言い出すから、アンジューが寝てからは毎晩我が家は家族会議だったのよ」


 なんなんだエドヴィシュといいフィアランスといい、これが普通なのか? 姉という生き物は弟を溺愛するものなのか?


「そうね。結局家族会議も纏まり、私の行き先は絶対にアンジューに言わないってみんなで誓約も定まったので帝女隊に入ったのよ。そこで出世の糸口があって……、今の地位があるのよ」


 出世の糸口ということはあれか? エドヴィシュは戦闘民族・キュリルのような化け物を倒したってことなのか? エドヴィシュが武術をやってたという話を聞いたこと無いんだがな。


「そうか……、ところで、リーナ殿下の拘束はもう解いたの?」


「……あぁ。ところでフィアン、解いてからここに来たんでしょ?」


「まさかぁ、そんな恐ろしいこと出来るわけないでしょ?」



「え?」「なに?」「ま?」



 その後、応接間のソファの上で縛られたまますぅすぅ寝てるリーナが居た。

 ついでに後ろ手で縛られた女性兵士は正座したまま泣きつかれたのだろう、彼女もぐぅぐぅ寝ていたのだ。

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