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01話

 僕たちが学院に戻ってきた日がちょうどティラズィシュ(夏星祭)だった。『星向こうの心の世界に』という聖心教徒のお祭りだ。本来なら僕、ミノン、ラフェルは礼拝へ行くべきだろうが、三人相談して


「今日は夢の中で礼拝しよう」


としてそのまま解散し帰宅した。

 シュトレーメに到着してから僕ら一行は緊張の糸がほぐれたのだろうか、ぐっと疲れを感じたのだ。



 三週間ほど空けた自室に戻り、荷物の片付けをせずにベッドへ倒れ込む。

 魔法具の呼び出し音や床下からどんどん叩く音がしたが、そのまま無視してゆっくりと寝た。どうせカオリルナッチからの飲みの誘いだろう、放っておいた。一人で行ってきてください。もしくは用務員室にラバトがおりますよ。




 このティラズィシュを過ぎれば季節は盛夏となる、もちろんこの季節の区切りを付けてるのは聖心教徒のみだが。




 扉を乱暴に叩く音で僕は目を覚ます。

 窓から見える空の明るさからして夜明け前か。それならきっとカオリルナッチが部屋に帰りたいから通してくれって合図だろうか。ひたすらに人の迷惑というのを考えない人だ……、人なのか? 昨日もラバトは『カオリルは妖精ヴィヴィアン』と言ってたからな。


 さらに一層激しく扉を叩かれる。こんな安普請の小屋だ、こんなに強く扉を叩けばいつ天井や柱が崩壊するかわかったもんじゃない。今朝のカオリルナッチは強情だな、諦めて校舎から廻って帰宅すれば良いものをと、僕はドアを開けた。



「おはようございます、アンジェ・カマーク殿。王宮警備隊だが出頭を願えないでありますか!」


と、女性兵士が証書を広げて見せ付けた。


「おはようございますっと。出頭依頼書……? 夜明け前にこんな安普請のボロ小屋を壊すレベルで扉を叩き、出てきた家主に突然出頭依頼をかけるっちゃ、王宮警備隊って生き物に常識ってのは無いのか?」


「貴殿の申し上げる儀、ごもっともである。しかし、せっかちな上官が居る身ゆえお許し頂けないでありますか!」


 僕よりも頭一つ分背の高い女性兵士が恭しく身体を折り畳み、出頭依頼書を差し出した。かすかににじみ出る乙女心、だろうか? ミノンも同じことをする癖がある。


「つまり……、貴官らを慮れ、と?」


「そ、そんなことは申し上げてませんであります!」


「んでもこれ、任意だよな? 出頭依頼書なんだし」


 そう言いながら渡された証書をよく読む。

 文章の末尾に非常に小さな文字で『これは公文書ゆえ、損壊行為は公文書破棄罪に問われます』と書かれていた。つまり折りたたんだだけでも罪に問われる場合があるわけだ。僕は女性兵士にそっと返還する。

「えぇ、任意であります。ですからこうやってお願いに上がってるわけであります!」


 女性兵士は受け取った証書の隅を何度も確認をしていた。僕の予測が合ってるなら……、


「アンジェ・カマーク殿、公文書破棄罪の疑いのため出頭命令に切り替わりました」



 やはり。

 僕は無抵抗を表意するため両手を挙げる。



「手錠は掛けませんので安心して下さいであります! えっと、出頭命令の時刻は……、その……」


 女性兵士はオロオロ始める。身体中をさすったりポケットに手を突っ込んだりしはじめたのだ。


「四刻二十二分だよ……、貴官、腕時計忘れただろ?」


「え! あ、はい! 忘れましたでありますっ!」


「んたっく……。ついで言っておくぞ?」


「え、あ、はいっ」


「貴官が最初に差し出したのは出頭命令書だ、もう一枚持ってきてるだろ? それが出頭依頼書だよ!」


 え? と言いながら女性兵士は再びごそごそと始め、取り出した用紙を見ると顔色が真っ白になる。



「えっと、アンジェ・カマーク殿」


「どうした、貴官」


「最初からやり直して良い?」


「嫌だよ!」




 女性兵士と出頭した先はこの前ルーチェが問題を起こした領主館とは違う別館だった。その間何度も女性兵士は謝り、言い訳をし、謝り、口止めをしてきたのだ。きっと新兵だろうが指導教官がどこにも見えない。大丈夫なのか王宮警備隊、ルーチェのいる隊だよな。

 領主別館の応接間に通されると、そこにはソファに足組みして縄に縛られて憮然とした寝間着姿のルーチェと、


「あ! アンジュー!」


と言って抱きついてきた人が居た。



「へ? ちぃ姉ぇ?」


 そこには一年ぶりに会う次姉・フィアランスが居たのだ。


「アンジュー! おひさしぶり! ねぇ! 元気? なんで手紙書かないの? あたしのこと! 嫌いに! なっちゃった? ねぇ! アンジュー! あたしの! アンジュー!」


「ちぃ姉ぇ、離れて下さい……息苦しい」


「息苦しい? ねぇ! そこの兵士! アンジューを連れてきた時に何をしたの! 言いなさい!」


 フィアランスは僕を更に強く抱きしめると女性兵士を叱責していた。僕はフィアランスの少し薄めの胸に圧迫されてその様子はよく見えないのだが。ついでに呼吸も出来ないのだが。


「いえ……、ちぃ姉ぇが強く抱きしめて……その……」


「フィアランス、もう、辞めなさい。今、アンジューは重要参考人なのよ」


 ん? この声……?

 フィアランスから開放されると、そこには十数年ぶりに見るエドヴィシュが仏頂面で立っていた。




「ね、エド姉さん……?」


「久し振りね、アンジュー。少しばかり取り調べにお付き合い頂ける?」


 エドヴィシュは表情一つ変えずに隣の部屋を親指で差した。

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