表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/201

17話

 僕が学生生活を謳歌してた頃の話。


 帝立学院は官僚養成機関ということも有り、帝国のお偉いさんがわざわざ学校に来て特別講義をしてくれたもんだ。そこで先代のマルファス大公がわざわざ来校して頂いた事を思い出す。このマルファス大公、リーナ(ルーチェ)の祖父で現在は帝位継承して悠々自適生活をしている。


 そのマルファス大公の特別講義では、


『忙しい時の事件や事故は、不思議なことに意外となんとかなる。しかし、くっそ暇な時の事件事故は大概がロクなことにならん。しかも殆どが初期対応ですべってるから、なし崩し的に事件事故解決で手間と時間が掛かり、傷口もデカくなるもんだ』


と仰ってた。





「おい、くそアンジェ起きろ、上階が変なことになってるぞ」


 合宿十日目でようやくの青空、からりとした風が湿気を吹き飛ばしていく。僕は昼食後に論文を読んでたらどうも寝ていたらしい。ラバトに起こされる。


「……どうした?」


「一回生の()らが喧嘩だな」


 ラバトの真剣な表情で強制的に微睡みから覚めるのが分かる。そしてすぐに上階で何かが割れる音がした。僕とラバトは慌てて上がる。

 僕らが部屋に駆け込んだ時には、木剣を構えるデリッカとミノン、そのミノンを必死に抑えようと泣きながらしがみつくジョルジェが居た。



「お前ら、なにしてんだ」

 なるべく落ち着き払った声で二人の間に入り、木剣を掴む。左手でミノンの剣先を掴もうとした時に指先に衝撃が走ったが安全最優先、ミノンとデリッカから木剣を取り上げた。


「稽古場以外で木剣を構えるなんて何を考えてるんだ二人とも」


「わ、わたくしは悪くありませんわ!」


「私も悪くありません! 元々はデリッカが!」


 目に涙を溜めながらデリッカは言い、ミノンは涙をはらはらと流しながら指差してそう言い。


「三人から詳しく事情を訊くから。ちょっとラバト嬢も手伝ってほしい」


「それよりもくそアンジェ、おめぇ左指、どうした?」


「ん?」


 左中指が変な方向に曲がっていた。


「指、折れてるんじゃねぇのそれ」


「あ、ほんとだ……」


 道理で痛いなぁと思ったんだよなぁ。二人を止める方に意識が行ってたから忘れてたが。




 案の定と言うべきか、事の発端は今朝のブリーフィングだった。

 ジェイリーが発熱と腹痛で寝込んでる事を嘲るデリッカに二人はイライラを募らせていた。睨みつける反抗心は見せたが我慢。


 今日一日オフとなったが、真面目なジョルジェとミノンは自主練する。そのため同じく合宿してるリガン道場へ出稽古に赴いたそうだ。しかし、実は人一倍生真面目なデリッカも出稽古に出ており、三人はかち合ってしまう。


 稽古はキュリルが面倒見てくれてたのだが、本番さながらの地稽古ではデリッカとジョルジェがぶつかってしまった。稽古場も決して広いわけじゃないので接触などはままある、お互い様だ。


 しかしデリッカはジョルジェに邪魔だと暴言を吐いたらしい。ジョルジェはかなりイラッとしたが我慢したという。立ち上がってデリッカに会釈してデリッカの横を通り過ぎようとした時、足を掛けられて転倒。それを見てたミノンがデリッカに突っかかる。キュリルに止められたが、ミノンの腹の虫は収まらない。昼ごはんを食べてからついにミノンはデリッカに噛みついたのだ。




「んで、最初に木剣を掴んだのはデリッカ君、と」


 僕は床に正座して座る。デリッカ、ミノンとジョルジェの三人も正座していた。


「だって! あんなデカ女が襲いかかってきたらわたくし……」


「それでも木剣を掴んだら駄目だ。この木剣は喧嘩のために使うもんじゃないと最初に言ったはずだぞ。同じく木剣を掴んでしまったミノン君も大概だが」


「じゃあ私がこのデリッカに木剣で殴られろってことですか、先生?」


「そうは言ってない。まぁ仮に殴られたら無傷で済めば御の字、命に関わる場合もあるが」


「その前に、ミノン、あんたアンジェ先生の左手へし折って何言ってるの?」


「うるさいなぁ狂犬、あなたに関係ないでしょ!」


「なによ!」


「はいはい二人共やめぇ。あと、ミノン君、これはただの事故だ、本当に気にするな。ただなぁ……、喧嘩で木剣を掴むだなんて、剣闘術ではご法度だというのは判ってくれたか?」


「はい」「はいぃ……」



「二人共、喧嘩両成敗で一週間は稽古見学のみ。いいね?」



 過去にも剣闘術会での喧嘩で木剣を使った事例は数多とある。死亡事例もあるため稽古や試合以外での木剣の使用は厳に慎む様指導している。しかし合宿中にこんな事となってしまった。


「あと、次、こんな事が起きたら、残念だけどこの剣闘術会は解散するね。僕たちは剣闘術を通じて身も心も成長する使命があると思うんだ。でもただの暴力装置を生産するために参加するんなら、こんな害悪は潰してしまったほうが世界のためだ。でも問題を起こしたから爪弾き、これで済まそうという気は僕には無い。今の七人が居てのザントバンク修身学院の剣闘術会だからね」


 僕はこう言うのが精一杯だった。



「まぁ一週間見学して、反省して、またやり直せばいいよ。別に二人共、お互いを害したい程、嫌いじゃないでしょ?」


と、ルーチェはふふっと笑いながら二人の頭を乱暴にガシガシ撫でながら言った。



「虫の好かんやつなんて居て当たり前だ。まぁお前らも自称・大人なんだろ? なら少しはお互いの悪いとこばっかじゃなく良いところも探しておけ。それでも虫が好かんなら、それは仕方ない。が、態度に出すな、ガキ臭いだけだ」


と、ラバトは溜息を付きながら言った。




 マルファス大公の言ってた通り、暇すると何かが起こる。今日の喧嘩騒動でよくわかった。

 たぶん、初動ミスは僕がきちんとデリッカを叱らなかったからだろう。そして夜更かし馬鹿騒ぎを止めなかった事だろう。


 デリッカやミノンには可哀想なことをした、僕の責任だ。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ