帝歴284年・春 11話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
「先生、風邪治ったんですかー?」
「おぉ、朝晩は寒いから、寝るときはちゃんと毛布かぶっとけよ」
放課選択の剣闘術にジョルジェとジェイリーが来た。
「先生は気合が足りないんですよー、ね、ジョリー」
ジェイリーが言うとジョルジュは首を横に振って耳打ちをする。
「ジョルジュなんだって?」
「気合足りなくて引くなら、私は毎日寝込んでる、だって」
「そうか? ジョルジュはいつも気合入ってると思うぞ?」
剣闘術を選択してからのジョルジュの頑張りはそれこそ気合が入ってた。
朝早くからジェイリーと二人で自主稽古をし、放課選択ではラフェルたち三回生と地稽古で打ち合う。
身体中に生傷を作って頑張ってるせいか親御さんから学校に相談が上がった。
うちの子が学校でいじめられてるのですかと。
教頭レオスから長説教と嫌味を貰ったがあまり気にしないことにしてる。
「ジョルジェ、寝るときは暖かくして寝ろよ」
「……はい」
すごく小声だが、返事が聞こえた。
「はーい。木剣持って素振りすっぞー」
主将ラフェルの掛け声で全員がイッチ・ニーと素振りをする。
僕はそれを見て軸がズレてないか足さばきがちゃんとしてるか剣が振れてるかを助言する。
「よーし、次は打込稽古入っぞー」
二人一組で打ち合う、かんかんと鳴り響き、木剣が転がる音も聞こえる。
お互い打ち合うことによって対戦意識を持つ実践稽古だ。
ここで気が付いたのは入学してから木剣を握ったミノンの威圧感だった。
僕ぐらいの背丈があるミノンは同学年のジェイリーやジョルジェ、三回生のラフェルたちよりも頭一個分以上は大きい。
下手に打ち込んだらカウンターを取られるのではと思うほどに強く威圧を感じるのだ。
普段は涼しそうな表情を浮かべてる彼女だが、防面をしていると表情が全く分からないので余計に威圧感を覚えるのだ。
これも一つの才能だろう、ただし振る木剣を見ればまだまだ稽古不足が見て取れるのが残念なところだが。
休憩時、ジェイリーが僕の所へ来た。
「先生、ママからお手紙預かってます」
『今度の安息日、良かったら道場へいらっしゃいませんか? 練習試合、いかがです?』
と書かれていた。
お母様にありがとう言っておいてくれないかと言うと、
「ママはアンジェ先生と試合をしたいそうですよ。あと、ホルヘさんも」
と言った。
ホルヘさんって帝都の武芸館で指導教官されてた方だ。
試合にはならんと思うが胸を借りようと思う。
「わかった。謝礼も持って行かんとな」
そしてみんなに練習試合の話をしたらその日は全員来れるそうだ。
なお三回生のマリだけは非常に面倒臭そうな顔をしてたが。
練習試合の日、集合時間の九刻に遅刻したのがまさかのジェイリーだった。
「なんかねぇ、試合って聞いたら寝られんで、ごめんね」
と皆に謝るジェイリーに
「道場主の子が遅刻ってありえんー、子どもか!」
とラフェルが言う。
「よーし全員そろってるなー、いくぞー」
と僕が言うとみんなはそぞろに道場へ向かう。
緊張なのかいつもは騒がしい六人が非常に静かだった。
なお一番先に待ってたマリは緊張のせいか手足が同時に動いてた。
「ザントバンク修身学院剣闘術会一同です、今日はよろしくお願いします!」
道場に入ると小さな子たちが稽古をしてた。
「はーい、今日はみんなと練習試合してくれるザントバンクの女学生さんですよー」
キュリルが子どもたちを集める、どう見ても初等学校未就学児だろう。
「わーい」「姉ちゃん彼氏いんのー」「でっけぇ」「おっぱいちっちぇー!」「う〇こち〇ち〇ー!」「そんな汚い言葉つかわないのー」
「今日はがんばりましょうねー!」
とキュリルが言うと、
「では皆さん準備してきてください」と控室へ案内してくれた。
「アンジェ先生、あれが対戦相手ですよね?」
主将ラフェルが言う、どう見ても目が笑ってないし表情も笑ってるように見えない。
なんか背中に恐ろしいものが立っているようにも見える。
「先輩方、あの子たちちっちゃいですけど強いんですよ、幼年部ですけど」
ジェイリーがフォローを入れるが、どう見てもそれは無理がないか。
「みんなで稽古に付き合ってあげたら良いんじゃないか? 社会貢献だよ」
と僕もフォロー入れるが、どうも苦しい。
「……まぁ強豪をぶつけられて心をへし折られるよりマシですよね……、去年はラフェル、病院送りにされたもんね」
と、マリが言った。
「肩の脱臼で済んだけど、ありゃ痛かったわ」
あははと引き笑いをするが、それでも今も剣闘術をしているラフェルもなかなか根性あるな。
ただし表情は笑っているように見えない。
相手に不服があるのは理解できるが、練習試合を無理に組んでくれたキュリルには敬意を払ってほしい。
「今回はきっと勝てるから大丈夫だよ」
マリがそう言うと「油断はだめですよ」とジェイリーが釘を刺す。
「あー、タオル忘れたー」
とミノンが言うと、これ道場の贈呈用タオルだからあげるーと言ってジェイリーが手渡す。
「その前にひとついいか?」
僕は言う。
「着替えは僕が出てってからやってくんない?」
剣闘術は六人で行われる団体戦だ。
四戦は個人戦だが三戦目だけは混合戦、二対二で戦う。
「じゃ、オーダー発表するぞー。先鋒はミノン、次鋒がジェイリー、混合はマリとパティ、副将がジョルジェ、そして大将はラフェルで行くぞ」
「せんせー、そのオーダーの理由聞いていいですかー」
と、ジェイリーが言う。
「ん。まず先鋒は落としたくない、ミノンの能力を考えて先鋒にした」
「あぁなるほど、理解しました」
ジェイリーはミノンの威圧に気付いてるのだろう。
と言ってもミノンはこの戦略に気付いてないのか、
「わ、私の能力……?」
と口をあわあわさせて言う。
僕は君の才能が輝いてるんだよ、そう言うと彼女は何故か嬉しそうな顔をして泣いた、どうした?
「次鋒はジェイリー、もし先鋒落としたとしても次鋒は絶対に負けるわけにいかんからね。混合は仲良し二人組に任せて、副将は引き分けに押し込むなど作戦が理解できるジョルジェ、最後は大将ラフェルにすべてを託そう!」
作戦を言うとラフェルは苦そうな顔をして言う、
「そんな私に全責任押し付けないでくださいよ先生ー」
「これでダメならオーダー練り直しだよ。なに、落ち着いてやればいいさ」
と僕はラフェルの肩に手を置いた。
「未就学児に負けたら、本当に恥ずかしいぞ」
と笑いながら。
★先鋒戦★
ミノン(一回生) - オフィア(六歳)
先鋒はすぐ試合に入るため、防具を付けたままで闘技場に入る。
防面をもったままの他のメンバーと僕は、闘技場の側で待機する。
「一同、礼! 抜剣して構え!」
審判役のホルヘが二人に言う。
背丈が倍以上あるためオフィアには可哀そうだな。
「はじ……ぇ?」
開始合図をしようとしたらオフィアは木剣を床に捨て、籠手と防面を外すと顔をこすり、
「このお姉ちゃん、でかくて怖いー!」
と泣き出したのだ。
「先生の作戦は覿面に当たりましたね、当たりすぎですが」
とジェイリーが言うと
「試合放棄させるまで威圧するとは思わなかったよ」
と僕は応えた。
なお、オフィアに言われた一言でミノンも泣き出したのは、なおの事想定外だったが。
結果 先鋒 ミノン 〇-× オフィア 試合放棄
★次鋒戦★
ジェイリー(一回生) - ナッキス(八歳)
ナッキスは懸命に打ち込むがジェイリーはどれも軽く払って遇うと、ポンと籠手を打って終了。
「ナッキスうまくなったねー!」
とジェイリーが言うと
「剣闘術ばかりしてるとぜったい彼氏出来んよー」
とナッキスに言われ、道場の隅で凹んでた。
結果 次鋒 ジェイリー 〇-× ナッキス 籠手 一本
★混合戦★
マリ・パティ - モニス(七歳)・チセリ(七歳)
混合戦は二対二で、誰かが一本取られたら終了だ。
二人で防戦するのもいいし、一対一で打ち合ってるところを後ろから攻撃してもいい。
作戦が嵌れば強豪相手でも勝てるのが混合戦の持ち味だ。
モニスが二人の前に躍りかかる。
一対二でこちらに有利な打ち合いをしてる中、チセリが横からこっそりマリの胴を打ちに来たのだ。
しかし木剣は胴に当たること無く捌かれるが、隙を突いたモニスがマリの防面を打つ。
その時パティは一切動けなかった、モニスの派手な打込みに尻込みしてしまい、虚を突かれたのだろうか。
モニスとチセリの完全なる作戦勝ちでありパティの技量を見透かされたのかもしれない。
混合 マリ・パティ ×-〇 モニス・チセリ マリに面 一本
★副将戦★
ジョルジェ(一回生) - パスフィロ(八歳)
開始から激しい打ち合いが始まるがどちらも決定打が出ない。
ジョルジェが攻めあぐねてたのはパスフィロの構えがぐらつかないからだろう。
八歳でここまでどっしりと構えてるのは一つの才能だろうな。
そしてパスフィロが攻めあぐねてたのは攻めのバリエーションが防面を打つ上攻めしか持たなかったからだろう。
何度か鍔迫合いをし、引き際で木剣や拳を打ち込んだり投げたりも出来ただろうが、制限時間いっぱいで試合は終了した。
副将 ジョルジェ △-△ パスフィロ 引き分け
★大将戦★
ラフェル(三回生) - ジョルッジオ(七歳)
開始からラフェルは強く打ち込んでいった。
これでラフェルが負ければ僕たちはこんな小さな子らに引き分けとなるのだから。
彼女なりの責任感はジョルッジオを追い込んでいった。
そのジョルッジオは落ち着いてラフェルの木剣を捌くので有効打を打たせない。
それより時折右手を柄から外して手招きをする、ラフェルを完全に煽るのだ。
そして冷静さを欠いたラフェルの打込みは無駄に大振りとなる。
ジョルッジオがついに動く。
ラフェルの籠手を打とうと剣先が動いたのだが空振って木剣は床を打ち付けた。
このチャンスを掴もうと振りかぶって防面を打とうとした時、ラフェルが止まったのだ。
ほんの一瞬、まるで躊躇うかごとく。
その隙を逃さずジョルッジオは胴を打ったのだった。
大将戦 ラフェル ×-〇 ジョルッジオ 脛 一本
結果 ザントバンク修身学院 2-2 リガン道場幼年部 引き分け
闘技場から降りたラフェルに大丈夫かと声を掛けた。
「先生、負けちゃいました」
「ま、仕方ない、勝負は時の運だ。それよりどうした? せっかくのチャンスを」
「……いえ、あの……何もありません」
「そうか、怪我でもしたとか?」
「そんなんじゃありません!」
ラフェルは強く言う。
ジェイリーやマリ、パティも心配してるが大丈夫ですと応えるだけだった。
「大将。あんたー、ちゃんと下着つけとるんか?」
キュリルがラフェルを後ろから胸を揉みしだく。
ひゃんとかわいい声を上げるラフェル。
「ほら、こんなぷるぷる動いてたら痛むわねぇ……」
あわあわとするラフェルに僕は訊く、なんのことですかと。
「アンジェ先生には解らんよ。女の子じゃないと、ね」
あぁそうですか、なるほどですとだけ答えた。
「剣闘術ばかりでなく運動するときにこんなでっかいもんぶら下げてたら、落ち着かんやろうし先っちょが痛むわなぁ。下着屋で運動用売ってるから買っといで」
「ぁぃ……」
耳まで真っ赤にしながらラフェルは俯いてた。
「あんたら他の子らもちゃんと使わんとだめだぞー」
とキュリルは言った。
「ジェイリー、あんたはまだ早い」
「るっせぇバカママぁ!」
「ここでは師範代って言いなさい」
無事に練習試合は終わった。
なお僕の練習試合はキュリルとホルヘに激しく打ち込まれた、すごく痛い。
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