帝歴284年・春 09話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
実践法力学をどう進めるべきか。
訓練所で何度か試してみたがその上での結論は『何も考えずにぶっ放す』になるのでは? と思ってしまう。
過去に発行された実践法力学のテキストを読み込んでみようとカロリーナに書籍を探してもらったらルコトが書いたものしか無く、そのうちシュトレーメの街にあるのは全部で四種類のみだった。
それを図書館ネットワークで取り寄せてもらい、読んでいる。
なお授業ではラバトが言ってた音節ごとに息を吹いて指向性を高める方法を採用している。
しかし非常に効率が悪く、他にもっといい方法はないものかと模索をしているのだ。
「ヴィンチ町の図書館にルヴァン・トゥルリーセンさんの『法撃施術』という禁書があるそうで、研究目的なら開示できますよと連絡がありました」
と、カロリーナから言われた。
ただ、二百五十年以上前の書物なので取扱いは向こうの司書が行います、とも。
ヴィンチ町はシュトレーメから北へ半日行った先の小さな漁港と温泉の町だ。
今度の休みにそちらへ伺いますと連絡を依頼する。
そして安息日の一番馬車でヴィンチ町へ行くことにした。
シュトレーメとは街道で繋がっており、馬車は揺れず静かに進む。
借りてたルコトの書籍を読むと実践法力の指向性については版を遡ると内容が若干違う。
・帝歴二七五年の版(現在の教科書)
実践法力は、法力をまっすぐ直線に与えるものだ。
・帝歴二二〇年の版(昔の教科書、東街図書館の奥に蔵書)
実践法力の強弱は、法力発動言語に依存する。その向きは直線がよい。
・帝歴一七七年の版(「実践法術論」、東街図書館の奥に蔵書)
実践法術とは対象物に法力をぶつけるもの、その法力の方向性は法力発動言語に強く依存する。
・帝歴一〇三年の版(「実践法術記」、西街清花教図書館蔵書)
実践法術は相手を倒すもの。その力をまっすぐ当てるもの。法力は、法力発動言語のみに依存するにあらず。法力の方向性との合力とする。
・帝歴四十七年の版(「法撃実技の写本」、ザントバンク修身学院秘蔵書)
「法撃」で相手を■すために法撃発動言語は■語で良い。方■性は第■音節で決める。(■部分は欠損により解読不能)
実践法力は歴史上「飛び道具」として戦争に使われた技術だが、平和な世の中に併せて版を新しくするたびに分かりにくくしていったのだろう。
なにせ大規模戦役はここ百五十年以上起きておらず、しかも最後が帝歴百三十三年に起きた新興宗教・九連宝珠の乱だ。なお帝歴一〇三年の実践法力論はサマンサ魔法国の魔術高等学院で現在も使われてるらしい。
ヴィンチ町所蔵の法撃施術はカロリーナ曰く、現存する実践法力の関して一番古い書物だろうし、仮にあったとしても活用できるコネで見られる最古のものかもしれないそうだ。
このチャンスを大いに利用することにした。
そして今度の夏季休暇にはサマンサ魔法国へ行ってみようかと思った。
その時はラバトにも声を掛けた方がいいのだろうか。
ヴィンチ町郊外の停車場に着いたので図書館へ行くことに。
カロリーナ曰く図書館はわかりやすい建物だと言ってたので周りを見渡す。
ひとしきり高い時計塔があった、それがヴィンチ町の図書館なんだそうだ。
司書に事情を説明するとお待ちしてましたと言われ、これを使ってくださいとガウンとマスクと手袋を渡された。
禁書階に入り、古びた装丁の本が作業台に置かれていた。
「内容の書写は結構ですが、決して触らないでください。あと内容が内容なので決して悪用しないでくださいね」
司書は誓約書を手渡す。僕は署名して返すと、司書は頷いて装丁を開けた。
ザントバンク修身学院での秘蔵書、帝歴四十七年の版の解読不能部分も読めた。
『制御は訓練に依存する、方向性は第二音節で決める。』
『音節を増やせば法撃強度は上がる』
『法撃発動言語は口語でもよいがタルク語が一番効率良い』
『法撃を使いすぎると気を失う、ラベンダー精油で目を覚ます、一晩寝れば多少は治る』
『臭い長靴の匂いで一時的に回復するが、癖になるしハイになるのでお勧めしない』
『なお、お勧めの長靴は著者の妹のが効く』
と書かれていた。
「司書さん、このタルク語って何かわかります?」
「たぶんですがエルフ語だと思います、多分……」
と司書は言葉を濁す。
そうだ、歴史上エルフは忽然と消えたので失念した言語だ。
「じゃあタルク語をわかる人って、もう居ないんですよね」
「まぁこのルヴァン・トゥルリーセンさんはエルフ族、もしくは代々襲名してる人間かと思われますので、その方ならご存じかと思いますよ」
「そうですよね、で、今どこに住んでるんでしょうかね」
「著者のルヴァンさんの住所書いてあるんですよ、この本」
奥付にはサマンサ魔法国の住所が書かれていた。
あれ、現在の版にはないが、帝歴一七七年の版にも確か同じ住所が書かれていたな。
「ひょっとしたらこの人、今もここに住んでるかもしれませんよね」
司書はそう言った。ここまで情報が得られたのは僥倖だった。
「ありがとうございました、いいヒントになりましたよ」
僕はそういうと図書館を出た。
すでに夕暮れになっており、シュトレーメ方面行の最終馬車に乗ることができた。
「で、研究結果がそれか」
ラバトが溜息付きながら言う。よくもまぁ飽きもせず、と。
「ところでラバト嬢、タルク語ってわかります?」
「そりゃ母語だからな。絶対教えんけど」
「えー、ダメなんですか?」
「当たり前だろ? 確かに効率よくぶっ放せるけど、そこまでやる必要あんの?」
「無いですね、でも……」
「やめとけよアンジェ先生。前も言ったが好奇心は猫をも殺すぞ」
ラバトがまた溜息をつきながら言うと、護身術程度だろ?と続けた。
「効率よく真っすぐ飛ばして当てる、もうそれだけでいいんだよ。本格的な攻撃魔法として教えるのなら士官学校や魔法学校で教えればいいだけだ、な?」
「その通りだが……」
「法撃発動言語、普段はストリバ語を使ってるが、実は標準語でもいいんだ。ただ、法力を確定化させる最終音節だけはタルク語だ」
「ということは、岩弾や氷弾、風弾はタルク語って事か」
「そうだ。例えば、まっすぐ・ゆっくり・かいてん・はやめ・岩弾で……」
バゴンッ!
岩弾が強烈に回転しながらゆっくりと弧を描いて壁に直撃し、一フッツ四方の穴が空く。
「すまんな、今夜すこし冷えるらしいぞ、ちゃんと毛布かぶって寝……」
「ちゃんと直せよ、な」
こそこそと逃げ帰ろうとするラバトを捕まえ、補修させた。
「五音節も詠唱するとこんなもんだぞ。もちろん消費する法力は半端じゃないから絶対真似すんなよ」
と説明しながらラバトは補修してくれた。
「あと、法力を練る訓練をしないと四音節以上は発動せんことも覚えておけよ」
地下の訓練所。ルコトの書籍での研究結果やラバトの今までの言葉を統合してテストをしている。
法力の発動要件に法撃発動言語がある。
これで僕なりに一つの解決法が見えたが、もう一つの発動要件にさっきラバトが言ってた「法力を練る」というものがある。
法力はへその下にハラと呼ばれる部分があり、そこで練って放出するらしい。
練り方にも意識と呼吸法が重要で中途半端な知識でやっても法力は発生しない。
書籍に共通して書かれる「練りが足りない」状態だ。
なお練りの訓練の方法はヴィンチ町にあった『法撃施術』と帝歴一〇三年の版『実践法術記』の二つだけに記述があった。
つまり、この帝歴一〇三年の版以降から実践法力学はデグレードしていったのだろう。
練ちの訓練方法は、
『足を折って地面に座り、ハラに深く呼吸をいれる』
『何をするかの想像は、眉間でする』
『どうなるかの想像は、胸でする』
『この三つの練りを精・神・気と呼ぶ』
と書かれている、まるで瞑想だ。
しかし、練りを体得すると法力が弱いとされる獣人族やドワーフ族でも使えるようになる方法とも書かれていた。
ただドワーフ族も帝国内にはおらず、遠くアンヴィア島と呼ばれるところにいるらしいが。
僕は早速この練りをやってみた。
最初は眉間や胸でする想像がうまくいかなかったしただ苦しいだけだったが、一つずつ丁寧にやることによって体の芯から指先爪先まで熱くなっていくのが解る。
まるで体中に気が巡り巡って熱を発するかのように。
「まっすぐ・早く・岩弾」
岩弾は的にわずかにかすっただけだが、岩弾は今までとは違う速さで射出された。
こんなのが的に直撃すれば粉みじんだろう。
ただ体中から急激に法力が失われたのが解る。
つまるところ自分の思う効率化を実践すればするほど法力をバカ食いしてしまうというジレンマだ。
僕が思っていたのはこんな結果ではなく、少ない法力で結果を出せばいいのだ。
僕はまたルコトが書いた書籍に目を落とす、実践する、読み込む、実践する、読む、やる、読……。
「で、忠告聞かずに訓練所でぶっ倒れてたバカがあたしの目の前におる、と」
「面目ない」
夜中の巡回中、訓練所で失神して倒れてた僕をラバトが発見し、衛士レックの手を借りて部屋に寝かせてくれたそうだ。
ラバトは僕を部屋に寝かせるとすぐにラベンダー精油で気付けをしてくれた。
しかしルコトの著書では一晩寝れば治るらしいのだが朝になってもけだるさが全く抜けないのだ。
「完全カラッ欠になったら時間かかるよ。まぁ回復薬もあるんだけどお勧めしないからさ」
「ラバト嬢の臭い長靴の匂いを嗅がさ……」
「あたしのは臭くねぇよ!」
どうやら長靴の匂いはルコトのギャグらしい。
姉ぇの冗談全然面白くないくせに時々はさみこんでくるのよねぇとラバトは独りごちる。
「花をつける直前のデンタータ・ラベンダーをしっかり乾燥させて煎じた茶だ。香り良いんだけど苦くてね。けだるさが楽になるぞ、飲め」
「あぁありがとう」
ベッドに腰掛けて飲む。
確かに少し苦いがすごく香りがいい。
そして身体中に感じたけだるさが抜けてきた。
「んにしても、アンジェ先生、顔赤いぞ。ついにあたしに惚れた?」
とにやにやしながらラバトが訊いてきた。
「僕がラバト嬢を好きになるだろうか、いや無いな」
「拒否るなよ! 反語を使って拒否るなよ! 凹むぞ、あたしだって」
「んにしても、頭がぼーっとするな」
「んーどれどれ」
ひんやりとした手を額に当てられて一言。
「めっちゃ熱あンじゃねーかよ、おい」
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