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帝歴284年・春 04話

2022年11月11日、一部文章を修正しました。

「兄さん、剣闘術は初めて?」

「はい、やったことないです」

 咄嗟に嘘をついた。

 こういう時に経験者と言ったらきっと道場の師範が出てきてボコボコにされるオチしか見えないからだ。


「はい木剣。好きに持ってみて? どぞどーぞー」

と渡された。

 長さ四フッツ(約百二十ボウ)の木剣は久しぶりに持つと軽く感じる、放課選択で打ち込んでた時はすごく重く感じたのにな。

「兄さん、好きに構えてみて?」

 ニコニコしながら少女が言う。

 一フッツの(ヒルト)を掴み、構えてみた。


「素振りしてみて? 楽しいよ!」

 構えでは力んではいけない。

 手首や肘肩、背中に力が入ると咄嗟に動かないから自然体で構える。

 そして木剣を振り上げると同時に右足を前に出し、振り下ろすと同時に左足を引き付ける。


「さ、もう一回!」

 木剣を振り上げるときに左足を後ろに引き、振り下ろすときに右足を引き付ける。

「ささ、もう一回!」

 木剣を振り上げるときにスッと息を吸い、振り下ろすときにフッと吐く。

「はーい、構え!」

 目の前に自分と同じ背格好の敵が居ると仮定して、剣の延長線が相手の喉元になるように。


「いいねー兄さん! すごく筋がいいよー!」

 少女は褒めてくれた。

 僕も数振りの素振りがこんなに楽しいとは思わなかった、汗がにじむ。

「きっと兄さんならすぐに私と同じ級とれるから!」

 ごめんなさい、僕、教士四級もってるんです。君は何級かはわからないけど。

「うふふ、教士級の話、ですよ?」

 そう少女はニコニコしながら僕の斜め横に立つとこう言った。

「兄さん、あなた絶対に経験者、ですよね?」



「木剣を渡した瞬間に分かりましたよ。剣闘術やったことある人なら、木剣を渡されたら左手に持ってぶらさげる癖ありますし。それに木剣の持ち方や構え、これだけでどれだけやってたかも測れますから」

「そんなに違うもんです?」

「えぇ、構えをするとすぐわかりますよ。素人は両手が 鍔 (グリップ)にぴったりくっついてますもん。経験者は必ず左手は柄のお尻(ポンメル)をしっかり握り、右手は 鍔 (グリップ)近くに添えるように持ちますから」

 少女は腕組みしながら答えた。

「あと、剣先がものすごくちょうどいいところにありますし」

 剣闘術での基本は『剣の延長線が相手の喉元』だ。

 これが高ければ籠手を狙われ、低ければ防面を打たれる。

 もし暴漢に襲われそうになったら傘先の延長線上に相手の喉元があるなら無理に襲ってこないだろう、約束できないが。


「じゃ、道着と防具をお貸しますので、良かったら打込稽古をしてみません?」

 あとあと思うと、少女の目は笑ってなかった。

 確実に獲物を見つけた鷹のような目だった。


 更衣室で道着に着替え、防具を装着した。さすがに体験者用レンタル品、全然臭くない。

「兄さん、着替えられましたー?」

「あぁ、久々だからちょっと手間取ったけど大丈夫」

 道場へ踏み入れると、先ほどとは緊張感が違う。

 ここで目の前の少女と果し合わなきゃいけないのかと思うとなぜか心が動く。

「じゃ、好きに打ち込んできてください。私も隙あらば打ち込みますので」


 少女の剣先が動く。

 僕は胴に打ち込もうと剣先を流したら頭に衝撃が走った。

 きれいに打ち込まれてた。


 少女の剣先が上に行く。

 僕は腕を狙おうと振りかぶった瞬間に胴に衝撃が。

 また打ち込まれていた。


 少女が打ち込んできた瞬間に間合いを詰める。

 僕は押し返そうと剣を握った瞬間、ドンと首を強く突かれていた。

 

 少女の剣先が下へ。

 胴を狙ってると思い剣を振り下ろした。

 彼女の頭にぽんと当たる。


 僕が打ち込みに行く。

 胴を狙われるよう誘って打ち込んできたところを突く。


 ほんと数時の打込だが、お互い打って打たれ、数合打ち合いもしてみた。



「ふぅー、兄さんすごいですね! 楽しいですよ!」

「僕も久々にいい汗かいたよ」

 防面を外して新鮮な空気を吸い込み、吐く。

 少女の言う通り、なんて楽しいんだろうか。

 他の門下生も防面を外してる、休憩時間のようだ。

 そしてほかの門下生たちも集まってきた。


「兄さん、剣闘術、けっこうやってたんですか?」

 中年一歩手前の男性門下生、ホルヘに訊かれた。

「中等高等の放課選択だけですよ」

と笑顔で応えた。


「いやぁ、キュリル師範代とこんなに打ち合う人珍しいですよ」

 え? この少女が師範代?

「あ、あたしキュリル・リガン、ここの師範の妻です」

 え? 少女だと思ってたら人妻でした。

 しかも家名がリガンって……。


「しつれいしまーす! ジェイリー・リガン、稽古入ります!」

「あらジェイリーおかえりー」

「ママただいま……え? 先生?」




「いやだー、まさか兄さんがザントバンクの先生だったなんてー」

 キュリルは笑いながら僕の肩をぺしぺし叩く。

 よくいる街のおばちゃんの行動そのものだ。

 ただし見た目はジェイリーと姉妹にしか見えないのだが。


「私、これでもザントバンクに居たんですよー」

「へぇ、何期生だったんですか?」

「えっとねぇ……あらまぁ、あたしの年齢逆算してどうするんですのー、もぉ!」

と、キュリルは笑いながらなおも僕の肩をバシバシ叩く、かなり痛い。


「母さんって、学校終えてすぐに結婚して私生まれたから十五年も経ってないよね?」

「ジェイリー、道場では師範代と言いなさい」

「はーい」

 やはり剣闘術の道場、今までの笑顔と打って変わってきりっとした顔になった。

 礼儀礼節を重んじるせいか厳しいな。


「ところで、カオリルちゃんはまだ生きてる?」

「えぇ、たぶんお母さまがご存じの通りの通常営業ですよ」

「……ちっ」

 いま舌打ちした! しかも顔怖っ!

「もしカオリル先生にお会いになったら、キュリル・バースがあと何年教師続ける気ですか心配ですとお伝えくださいな」

 できるかー! 虎の尾を踏むより怖いわ!



「師範代、昔悪さばっかしてて何度もカオリル先生に叱られてたんだって」

「いやだぁ、悪さだなんて……。寮で酒盛りしたり密造酒作ったりしただけじゃない」

 だめだこのお母さん、めっちゃやばい人だよ。


「あと、幽霊カリナっちのスカートめくったり、教頭レオスのズラを引ったくったりとかしたぐらいよ」

「えー! 教頭ってズラなのー?」

と、ジェイリーが言う、僕もびっくりした。


「そうそう。しかも花街へ行くときはあのハゲ、金髪ズラなのよ。で、花街まで尾行して、ぽーんとズラを引ったくって逃げたのよー」

 このお母さん、もう怖い。


「よ、よくもまぁ退学にされませんでしたね……」

「え? わたし、無期限停学食らったままよ?」

 結婚した時点で退学じゃないですか、学制上。

「じゃあ先生、ここの門下生になりません?」

 何がじゃあなのか解らないが、自身の鍛錬のため時々通うことにした。

「で、ジェイリーの父親の師範さまは?」

「この前のナゥルィズ(春分祭り)で酔ってコケて骨折して入院中」

 私ががんばらないと! とキュリルが言ってたが、不安しかない。

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