帝歴284年・春 03話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
「で、放課に来てもらった理由は分るよね」
呼んだのはジョルジェとデリッカだけだがジェイリーも私は付き添いですと言い張り、居座った。
「ほんと迷惑な話ですわよ! 私にとっては貰い事故よ!」
「デリッカ君、自分で突っ込んでいって貰い事故とはあんまりな表現だな」
「ふん」
デリッカは鼻を鳴らすとそっぽを向いた。
僕はジョルジェに向く、彼女はびくっと震えて背筋を伸ばした。
「もし言いたいことをまとめたのがあるなら見せてくれる?」
極力笑顔で言ったつもりだが、ジョルジェは目を泳がせながらも手紙を渡した。
「せ、先生! ジョリー……ジョルジェは別に授業を邪魔しようとしたとかそんなんじゃなくて……」
「ジェイリー君、大丈夫。別に君たち三人を叱るつもりで呼んだわけじゃないんだ。もちろん怒ってるわけでもないさ」
可愛い絵柄がついた便箋を見て、あぁこの頃の女の子ってこんな可愛いのを使うよなと思う、しかもほのかに香り付き。
と言っても貰ったことがあるのは姉たちとリーナだけだが。
『上巻の九十八頁にある公式が違う気がします、ひょっとして下巻で仔細があるのですか』
便箋にこの一言だけ書かれていた。
「ちょっと待ってくれ!」
僕は慌ててテキストを見る。
印刷ミスではない、完全な誤植だった。
しかも前章を理解してないと初学者はミスだとまず気付かないだろう。
「ジョルジェ君よく気付いたなぁ。出版元にすぐ連絡するよ」
ジョルジェはカクカクと頭を上下に動かしてから微笑んだ。
そしてポケットからもう一枚便箋を出すと僕に手渡す。
それを開くと
『下巻を自分で買って、もし質問があっても答えてくれますか?』
と書かれていた。
「いいよ、ここの学生なんだから」
「ほらジョルジェ言った通りじゃん! あんたは昔っから心配性なんだからさぁ!」
とジェイリーが言う。
ジョルジェはぼそぼそと何か言うとジェイリーが
「アンジェ先生は男性だけど大丈夫だよ!」
と続ける。
「あの、ジョルジェって人見知りじゃなくてただの男性恐怖症なんですよ」
は、はぁ。
「変な子ですけど、ダメな子じゃないですから安心してください!」
は、はぃ。
「ダメな子じゃない! ここは淑女育成の学校なのに男性と喋れない、話を振られても応えれないってとんだポンコツだわ!」
デリッカが吠える。
「うるさいわねぇ! 誰彼構わず噛みついたり怒鳴ったりするあんたは狂犬女じゃない!」
「なによ! 剣闘バカに狂犬呼ばわりされたくないわよ!」
「はーいやめやめ! お前ら喧嘩すんな。というか……」
僕はデリッカを見る。
びくっと体を震わせて僕を見つめ返す。
「まずはジョルジェ君に謝りなさい。みんなの前で恥をかかせたんだから」
僕はそういうと、ひとつ溜息をついた。
「君は淑女なんだろ?」
デリッカは顔を真っ赤にして歯を食いしばってる。
「ほら早く謝りなさいよ狂犬女!」
ジェイリーが続けたが、僕はジェイリー君は静かにと窘めた。
「はいはーい、アンジェー先生ちょっといい?」
カオリルナッチが話に入ってきた。
「カオリル先生、いまはちょっと……」
僕は止めようとしたが、「こういうのは女の子同士の方がいいのよー」と言ってデリッカの前に立ちはだかった。
「はーい、話は聞かせてもらったよー、デリッカ、おいちょいこっち来いや!」
と言って勝手に連れていかれた。
「指導じゃー!」
と叫びながら。
ぽつんと残る僕達。
「あ、アンジェ先生……、あの」
ジェイリーが言う。
「なんか、その……」
すごく居たたまれない……。
隣から聞こえるカオリルナッチの怒声がさらにその気持ちを加速させる。
「そういえば、ジョルジェはよくこの公式の誤植に気付いたね」
この場を取り繕おうと思い話を振ってみた。
ジョルジェは驚いた表情を見せたが、耳まで赤くして俯いてしまった。
そして小声でジェイリーに何か伝える。
「テキストもらってうれしくて読んでたらおかしいって気づいたそうです」
「前章を理解してないと気付かないはずだが、読んで理解出来たんか?」
「はい、だそうです」
ジェイリーはまるで通訳士だ。
「この間違いが理解できたので、前巻はもう大丈夫です」
と言う。
「ほぉ」
このテキストが理解出来てたら三年次までの物理法力学は授業に出る必要は無いだろう。
「じゃ、問題。質量の物体を糸で吊り張力と法力で引っ張り上げた際の物体に働く加速度は? なお重力加速度はgとする。これ判るかい?」
と訊くと、すぐにジェイリーに耳打ちをする。
「えっと、しつりょー分のちょーりょくほーりきのまいなすじー、らしいです」
「ん、正解。運動方程式は理解してるんだね」
頭をなでてあげようと思ったのだが、さすがにそれは避けた。
「えっと、それ魔法言語ですか? 私には何言ってるかさっぱりわかりません」
「大丈夫だ、三年次にはジェイリー君もすらすら言えるぐらいに鍛えるから」
「それあまり大丈夫と言いたくないです」
その後デリッカは相当カオリルナッチに絞られたのだろう、奥歯をガチガチと噛みしめながらもジョルジェに謝罪してた。
カオリルナッチはこれにて一件落着と言ってたが、そうは思わないんだがなぁ。
街へ出る、買い物へ行く。
いつもの総菜屋でおかずとスープを、隣のパン屋で大麦パンを買った、今日の夕飯だ。
学院併設の食堂でもいいんだけど学生に囲まれての食事はあまり落ち着かない。
また「ピカタの兄ちゃん」と言われたくないし。
でも魔道冷庫と加熱器が無いから買わないと自炊出来ん。
学生時代、僕はピカタとパンしか食べなかった。
メニューの一番上で当時は十ハンズだった。
肉卵が原料だしパンとサラダコーヒーついてるから栄養的にも問題ないだろうとこればかり食べた。
いや、ずっと毎日こればかり食べた、これしか食べなかった。
後々知ったが、食堂のスタッフからは「ピカタの兄ちゃん」と陰で言われてたそうな。
そんなことを考えて三番街を歩いてると
「お兄ちゃん、剣闘術やってみない?」
と道着着た少女に声をかけられた。「体験やってますよ」と。
そういえば放課選択で剣闘術を教えることになったのだが、木剣なんてここ数年は握ってないし道着すら袖を通してない。
あの香しい防具を嗅いでない、あまり好んで嗅ぎたいもんではないが。
指導するなら自分自身も適度に稽古したほうがいいんじゃないかと思って立ち止まってしまった。
「怪我しても隣に接骨院ありますから安心してください」
いやいやそこは安心できないだろと心の中で突っ込みを入れる。
「手荷物もお預かりできますし道着や防具のレンタルや預かりサービスもしてるんで、手ぶらでも通えますよ!」
少女がアピールする。
「タオルもって来ていただければ大事うぶッなんですよ!」
あ、噛んだ。
少女が顔を赤くする。
「見学、できますか?」
僕が訊くと少女は
「大丈夫です! なんなら木剣握ってみませんか!」
と笑顔で強く言った。
「エクスカリバーを握るなら五番街、木剣握るならここですよ!」
と続けた。
後悔先に立たず、なんかやばいところで足を止めたのかもしれない。
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