帝歴284年・春 02話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
「今年から魔法物理の基本、物理法力学担当のアンジェだ。他にもストリバ語や実践法力学で顔を会わすし、放課選択で剣闘術も担当してる、よろしく」
初々しい新入生にどう接していいものか一晩考えても解らず、カオリルナッチに相談したらツンデレがいいぞと訳の分からないことを言われた。
しばらくしてラバトもやってきて二人は宴会を始めたので僕は寝不足だ。
なにせ二人が帰ったのは夜明け前、この授業の四時間前だから。
「テキスト、みんな貰った? 『わかりやすい物理と法力・上巻』を使って授業するし、このテキストからしか試験問題は出てこないから、落書きで埋め尽くしたり質草にしたり虫眼鏡で焼いたりすんなよ」
「…………」
滑っただろうか、反応はなかった。
とはいえ一人ツボってたとしてもそれはそれで嫌だが。
「下巻もあるけど、上巻きちんとマスターすれば理論法力学や実践法力学で役に立つからおすすめだ」
なお、この『わかりやすい~』は上司だったファルスが一部著してる。
と言っても締め切りに間に合わないと言って大半は僕が書いてるんだが。
「質問あるかぁ?」
小さいながらも階段教室なので後ろまで生徒を見渡せる、二十四人が僕を見下ろしてた。
「はい」
まるで蚊が鳴いてるほどの声が聞こえたので、左隅を見ると小さく手を上げる少女が居た。
「君……、ジョルジェ・アリアス君だったね」
「……はい」
僕が指すと、ジョルジェはそっと立った。
「質問かい?」
「えっと……その」
ジョルジェはおどおどと目線を泳がせながら言葉を紡ごうとする。
「……焦らなくていいしゆっくりでいい。どうしたんだい?」
「あの、その……、下巻は……」
ようやく紡ぎだされた言葉に僕はほっとした。
「下巻は、もし君たちが師範学校へ進学したなら読むといい、帝立学院へ進学を考えてるなら受験範囲だから読み解かなきゃいけないだろうが。初等教育では物理法力はやらないだろうし、まず物理学や法力学とは何かを知る必要があるから上巻から始めればいい。わかったかい?」
「は、はい……です」
しかしジョルジェは着席することなく立っていた。
「ジョルジェ君、どうした? 他に質問があるかい?」
「……えっと……その……」
「もし言葉にするのが難しいなら、メモに書いて僕に渡してくれてもいい。答えられる範囲で質問に応えるつもりだから」
口調もそこまできつく言ったつもりはないがジョルジェはびっしょりと汗をかいてた、怯えさせてしまったか。
「もし口調がきつかったなら謝る。すごい汗だぞ」
「ちょっとジョルジェさん? いつまで質問をお続けになるつもりぃ!?」
机をバンと叩き立ち上がる少女。
「言いたいことあったらさっさと言いなさいよ!」
「こらこら、そんな声を荒げるようなことじゃないだろ、デリッカ君だったかな? まぁ時間は有限だがそこまで目くじらを立てる話でもないだろう」
「ですが先生、彼女に付き合ってたら授業が終わりますよ!」
ちらっと時計を見る。まぁデリッカの言いたいことは分らないでもない。
「大方、ジョルジェのことだからおしっこ行きたいだけなんでしょ!?」
みんながドッと笑う。
ジョルジェの顔は真っ赤だった。
「デリッカ・リ・ホワィ君! それは失礼だ。謝りなさい」
「なんでですか! ジョルジェ、あんたおしっこ行きたいだけなんでしょ?」
「……」
「淑女育成機関でそのような言葉はどうかと思う。少しは言い方を考えなさい、デリッカ君」
「じゃ、言いなおしますわ。ジョルジェ、トイレいっといれー」
教室が爆笑に包まれる。
ジョルジュは顔を真っ赤にして震えて着席した。
「……デリッカ君、ジョルジェ君、放課、僕のところへ来なさい。授業を始めます。もしトイレなら黙って言っても構わないが時間までに戻ってこないと早退にするから気をつけて」
この学院には教師専用の休憩室がある。
自分の机に座ると背もたれに体を預けた。
「アンジェ先生、デビュー戦お疲れ様です」
カロリーナが紅茶を机に置いてくれた。
「カロリーナ嬢、ありがとう。ふぅ、さっそく波乱だわ」
「なにがあったんです?」
先ほどの顛末を話した。
それを聞いたカロリーナはお盆を胸元に置いて考える仕草をし、
「で、放課に来るんですね。まぁ授業をずっと止めるわけにもいきませんから良い選択だと思いますよ」
と言う。
「カロリーナ嬢、こういうときはどうすればいいもんでしょう。先生じゃない人にアドバイス貰うのもおかしなことかもですが」
「そうですねぇ……。ジョルジェさんはすごく英才なんですが、脳の回転に口が追い付かないのでしょうかねぇ。じっくり聞くか、授業で言った通り手紙で聞くのが良いかもしれませんね。デリッカさんは思ったことをずけずけいう性格ですし、敵を作ることを厭わないほど勝気な子ですからね」
「へぇ、カロリーナ嬢、詳しいんですね」
「学生資料に初等学校での各個人の授業成績や所見などの調査記録書がありますんでよかったら参考にすると良いですよ」
「え……学生資料、これですね。あぁほんとだ。こんなのあったんですね」
ジョルジェ・アリアスの頁を見る。初等学校での成績は首席だが、口頭試問の項のみ零点が並ぶ。
所見では『極度の人見知り・恥ずかしがり屋』と書かれていたが、果たしてそんな人間が授業中に手を挙げるだろうか?
デリッカ・リ・ホワィの頁。ジョルジェと同じ初等学校だった、つまり二人は知り合いなのだろう。
成績は次席、ジョルジェは口頭試問零点だが首席だった事を考えると学習レベルが圧倒的な差を感じる。
なお、デリッカの所見は『男勝りで言いたいことをはっきり言う問題児・好き嫌いが激しい』と評価されてた。
なおこの二人と同じ初等学校なのはジェイリー・リガンのみ、確かジョルジェの横に座ってた。
なお彼女の成績は上並で所見は『元気溢れるアホの子、剣闘術の級数持ち』と書かれていた。
なかなかにこれを書いた人間は辛辣だ、そして非常に失礼だ。
「そういえば、そろそろ授業だった」
と、カロリーナはテキストを掴む。
「え? カロリーナ嬢、どこへ」
「え? 私、化学担当ですよ」
と微笑みながら
「さては図書館に住む本の虫と思われてましたー?」
と言う。
「すんません、ほんとすんません……」
シラバスを見ると、カロリーナは化学だけでなく化粧術も教えるらしい。
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