14話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
2023年4月21日、タイトル修正
物置として使われていた小屋なのでカーテンも無いし家具も無い。
床にマットを敷いてあるだけの殺風景な部屋をどうにかしなきゃなと思っていたら、ラバトがこれ使うかとテーブルとイスを持ってきてくれた。
本棚ありますかと訊いたら、ちょっと待ってなと言って別の倉庫からいくつかカラーボックスを持ってきた。
礼を言うと、これは貸しやぞーとニヤリと笑って出て行った。
部屋の隅にカラーボックスを置き、持ってきてた書籍を詰める。
少しは部屋っぽくなった。
水場を掃除しているとプープーと音がする。
部屋の隅に置かれた魔道具を取ると学院長のヴィルムからだった。
『アンジェ君、部屋の掃除はどうだい?』
「えぇ、昨日粗方終わりましてラバト嬢から少し家具を分けてもらったんですよ」
『おぉそうか。ベッドはあっただろ?』
「えぇ、あったんですがボロボロでして」
『あらま、じゃあラバトにすぐ用意させるわ。それよりも僕の部屋に来てもらってもいいか?』
「何かございました?」
『悪いが昨日渡すの忘れてたシラバスと就業規則を取りに来てくれるか? 昼前まで居るから』
「あ、はい承知しました。水場の掃除終わったらすぐ参ります』
魔道具を置いて水場の掃除を続けてたら、ラバトと衛士がベッドを持ってきて設置してくれた。
「そういえばアンジェせんせー、今度職員で歓迎会するんだけど忙しい日あるー?」
とラバトが訊いた。
いまのところ予定はないですと答えると「じゃ、今週の安息日前な」と言って出て行った。
学院長室へ行き、ヴィルムからコーヒー飲むか? と聞かれソファを案内された。
「レック君からの報告書で、カオリル先生と朝帰りだって?」
と笑顔で言われた。
ちょっと飲み屋でいろいろありましてと応えると、あの気まぐれなカオリル先生と飲みに行くなんて面白い人だね君、と言われた。
「で、これが就業規則ね」
と青いハードカバーの冊子を渡された。
法律で決まってる絶対的明記要件を口頭で伝えるねと紙一枚に書かれた勤務時間や賃金、退職金の有無について説明された。
「あと言われんでもわかると思うけど、学生さんは親御さんから預かってる大事な子たちだ。不適切な関係とか体罰は絶対にダメだからね?」
と釘を刺された、特に一部は強調して。
はいと応える。
「あと、これが新学期に学生さんたちに配るシラバスなんだけど、確認してくれる?」
と付箋されたところを見ると、僕が担当する理論法力や物理法力、ストリバ語の授業概要が書かれていた。
「学院長、このストリバ語日常会話って書いてありますがどこまで求めます?」
「あ、さすがにネイティブは無理だろうからさ、聞かれたことをが答えられるレベルでいいよ。まぁ期末試験は口頭試問もあるし。試験官は僕とカオリル先生だけどね。なるべく落第者は出さないでね」
「あ、はい。で、これなんですか?」
実践法力学にも付箋が貼られ、担当教官は僕になってた。
「あー、ごめんごめん説明してなかったね。ところで実践法力学って教えられるよね?」
「ま、まぁ専門じゃないですが……」
と僕は言葉を濁した。
実践法力学は、ようは実際に魔法をぶっ放す授業だ。
と言っても帝立学院時代に集中講義の一つとしてやらされた程度で実践法力学を専攻した人に比べたら指導できるレベルに達しているかどうか。
領邦の一つ、サマンサ魔法国にある魔術学院に進学するための講義なら、まず無理だろう。
「護身程度でいいんだ。ウチは別に冒険者養成機関でもないからさ」
そういわれても不安は残る。
学生時代の成績は良だった。
リーナは優で一番だったな。
あとでリーナに手紙で教授法を聞いてみるか。
『ぶっ放せば快感、それで充分だよ』だなんて返事が来そうだが。
「あと、ラバト嬢から歓迎会の話聞いたかい?」
「あ、今週末ですよね」
「そうそう。僕はちょっと帝都に出張で居ないけど、楽しんでおいで」
「承知しました」
「あと、もし帝都に持ってく手紙とかあったら、三日後、マルスの曜日までに持ってきてね」
「承知しました、ありがとうございます」
そのあとしばらく歓談し、コーヒーを飲み終えて退出した。
シラバスを見ながらどう授業を組み立てるべきかと考える。
一番のネックは実践法力学だ。せっかく学院長が帝都に行くのだから、パシリに使わせてもらおう。
そう思い校舎を歩く。
小屋に戻って扉を開けようとしたときに違和感を覚える。
なんだ、変な音がする。
息を殺して静かに開錠し、扉を開ける。
「何してるんですかカオリル先生!」
床に大穴を空けて這いつくばるカオリルを見て声を上げてしまった。
「お! アンジェー先生! いいところに! 今、床に開口部作っててさ!」
「いやいや、何言ってるんですか」
「ほらほら、あたしの部屋って校舎としか繋がってないし、飲んで帰ってきたら校舎をぐるーっと回らないと部屋に入れないから。こうなったらアンジェー先生の部屋から通用口作ればすぐ戻れるでしょ?」
「いやいや、カオリル先生何言ってるんですか」
「いいじゃんー、アンジェーいい人やろ?」
「そんな上目遣いでお願いしないでくださいよ!」
「いいでしょ? だめ? ねぇ、だめ? ねぇ笑っ……」
「目を潤ませてお願いしないでくださいよ」
「あ、これ、木くずが目に入っただけ……」
ハンマーで叩き壊された開口部をノコギリで整えてたら、ラバトがやってきてめちゃくちゃ叱られた。
「んたっく、アンタら素人が床を壊すな! 仕事増やすなよお前ら本当にもぉ」
とイライラしながら言ってたが、持ってきた魔動丸ノコで上部跳上式の開口部を丁寧に作ってくれた。
原状回復してくれたら嬉しかったのにね。
「カオリル先生。お願いですから突然床下からノックしないでくださいね、ビビるんで」
「わかったー、用があったら魔道具で連絡するー」
カオリルは開口部から自室へ帰っていった。
五分ほどして魔道具が鳴る。
『あ、アンジェー先生、今夜も飲み行こ?』
自由な人だ。
リーナに手紙を書き、街の家具屋でカーテンなどを買う。
学院に届けてほしい旨を店員に伝えると店員は表情をきりっと引き締めてレックの兄貴にはいつもお世話になってますと言って少しおまけをしてくれた。
ここでもレックの御陰様が発動した、一体彼は何者なんだ。
「レックの兄貴ですか? 私が……、俺が小っちゃい頃すっげぇヤンチャしてましてね。ぶっちゃけ家も勘当され放り出されてたんすよ。あの頃はほんと殺し以外何でもしたんす。んで調子乗ってた時に兄貴に喧嘩売ったらもうボッコボコっすよ。で、事情聞いた兄貴が家と仕事紹介してやっからすぐ更生せぇ言われたんす。おかげで兄貴には足向けて寝られねぇっすよ」
と、彼は遠い目をしながら語っていた。
彼の左薬指に銀環が嵌ってた。
きっと更生できたのだろう。
約束の時間まで街の図書館で調べ物をする。
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