12話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
2023年4月21日、タイトル修正
掃除は滞りなく終わった。
バタバタと掃除をしてカオリルナッチから叱られるかなと思ったが床下からは何も物音はしない。
本当に下にいるんだろうか、といってもまた水を撒いて怒鳴り散らされたらたまったもんじゃないので確認はしていないが。
地下へと続く階段は床で塞ぎ、床の上にはドタバタ音防止のためにマットを敷いた。
これで叱られることは避けられるだろうか。
掃除も済んだので校舎に入ってみた、図書館へ行こうと。
今は春休み期間中のため生徒は誰もいない、とても静かだ。
春休みに放課選択で活動している子はいないようだ。
ヴィルムから貰った地図や案内板をたどって図書館に入るが司書が居なかった。
離席中と書かれた看板だけが机にある。
と言っても朝からラバトやカオリルナッチといったトンデモ人間(?)ばかりと会っているので、できれば今日はもう誰とも出会いたくはない。
離席中と書かれた看板の横に身分証を置いておく。
それにしても初めて入る図書館はドキドキする。
どこにどんな書籍がどのようなジャンル分けで並んでいるか、図書館ごとに特徴がでるので見るのも一興だ。
手前の書架上段には礼法やマナーの本で、下段はダンスと護身術の本だった。
この学院らしくとてもシンプルな実用書が蔵書されている。
僕もいつかは読んだほうがいいのだろうか。
その奥にはストリバ語で書かれたおとぎ話や逸話集、そして詩集や地誌もある。
ストリバ語の知識や話の物種の類だろう。
文学集は帝都の学院に比べると種類が豊富だな、逆に数学や物理学などの理系の実用書は少ない。
図書館の奥に階段があり、この手の階段を下ると禁書庫があったりする。
下りてみたら扉があり、御用の方は司書までと張り紙がされてた。
鍵は掛かってないみたいなのでノブを回して覗いてみる。
魔法灯具が無いのか真っ暗だ。光球を唱えて点けると人の顔がぽぉっと浮かぶ。
「う、うわぁ!」
僕は尻もちをつく。腰が抜けたのか足に力が入らない。
「あらら、驚かせちゃった? ごめんね?」
学院の制服を着たであろう、紺のジャケットに黄色のリボンタイを締めた少女が声をかけた。
「あ、あぁこっちこそごめん、ところでこんな真っ暗な部屋で何をしてたんだ?」
「あはは、居眠りですよアンジェ先生、ここって適度に暖かくて暗いもん」
少女はそう言うとふふと笑って自分の髪を撫でた。
「暖かくて暗いってそうだけどさぁ……ってあれ? 何故に僕の名前を?」
「そりゃ新任の先生が来るってみんな噂してるもんで」
そうなんだ、なんか恥ずかしいな。
「あたしはアストラル・グラマーよ、よろしくね」
と彼女は右手を差し出してきた。右手を出そうとしたとき、ふと今朝からのことが頭をよぎる。
「あら、アンジェ先生、握手は苦手?」
と訊いた。
いや、今朝こんなことがあったと説明をする。
「うふふ、朝からラバトさんやカオリル先生にしてやられるだなんてツイてないわね。洗礼か、犬にかまれたと思って忘れるといいわよ」
そう簡単に忘れてたまるか。
それよりも右手を差し出してるアストラルと握手する。
ひんやりと冷たい手だった。
「あら先生、家名がグラマーだからってえっちっちですわよ」
え? 思わず胸に目が行ってしまう。
「もー、えっちっち」
「いや、そんなつもりは……、不愉快な思いさせたらごめん」
「気にしないでくださいな、うふ、かわいい」
彼女は口元を隠してふふふと笑っている。
「ところでここの禁書庫は何が蔵書されてるんだ?」
「この学校の文芸部が書いてる同人誌よ」
「へぇそうなんだ。てか、それがなぜ禁書扱いなんだ?」
「そりゃあ、少女たちの秘め事よ? 乙女の花園なんだからね?」
「あはは、そりゃそっか」
「これはあたしが執筆してたけど、そこまでえっちぃくないから大丈夫よ?」
と、彼女は冊子を一部差し出す。
「気が向いたら読んでみて?」
と、彼女は言った。
「あら? ひょっとしてアンジェ先生?」
僕と同じ年であろう女性が顔を出す。
「あれ、ひょっとして司書さん?」
「えぇ、テーブルに身分証が置いてありましたから。というかこんなところで何してるんです?」
「いま、アストラルさんと話して……あれ?」
部屋には誰も居ない。
「ひょっとしてアンジェ先生、アストラル・グラマーさんと話してました?」
「そうです、あれ、どこ行ったんだろ」
「あの、先生……落ち着いて聞いてください」
と、司書は咳ばらいをひとつして言った。
「有名な幽霊なんですよ、彼女」
アストラル・グラマーと名乗る彼女の正体は一五〇年ほど前に居たカリナ・エクシーヴという少女の霊らしい。
文芸部に所属していた文学少女だったが当時は死病と言われた結核に罹患、命を落とす。
葬儀が終わり、荼毘にも付したはずなのに図書館や文芸部室で彼女が目撃されるようになったのだ。
と言っても別に何か悪さをするとかもないし他にもいるので除霊などは行われていない。
時々消臭剤をスプレーする程度だそうだ。
「ということは、僕は幽霊と話てた訳……ですよね」
「怖かったですか?」
「いえ。僕、怖がりなんですけど、不思議と彼女を怖いと思わなかったんですよ。出会ったときはすごくびっくりしましたが」
「そうなんですよ。禁書庫に突然現れるんで張り紙してるんです」
そのために御用の方は司書まで、と書かれていたのか。
「で、この禁書庫の中身って」
「読みます? 文芸部の乙女たちが書いた百合とやおいと房中術の同人誌ですよ」
だめだこの禁書庫、はやくなんとかしてくれ。
なおアストラル・グラマー嬢が渡してくれた冊子は、非常に地味な主人公が濃い性格の登場人物たちに振り回されるキャッキャウフフしたゆるい百合ものだった。
発行日が今から百五十年以上前だったが。
感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。
もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。




