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11話

2022年11月11日、一部文章を修正しました。

2023年4月21日、タイトル修正

 ラバトがモップ雑巾とバケツを貸してくれたので小屋を掃除する。

 物置替わりになっていたからだろうか、色んな物が雑多に置いてあった。

 ゴミだと思われるものや壊れてるものは木箱に詰めておけば今度のゴミの日に業者に渡すとラバトは言ってた。


「これいつの時代の魔道具だ?」

 法力伝達装置が壊れているのか、もう二度と動くことはないだろう魔道具を木箱に詰める。

「なんだろこの本、鏡文字のストリバ古語だな、今度読むか。これは……エロ本で、これはエロ小説だな、でこれは風俗ガイド、きっと衛士のだな、ゴミっと」

 掃除をしていると独り言が多くなるのが不思議だ。


「で、あとは床をモップかけて窓を拭けばいいな……」

 ゴミを部屋の隅に置き、床に水を撒いてモップをかける。

 その時、床に撒いた水の一部が染み出ていくところがあった。

「ん? なんだこれ」

 その部分だけ床が沈み込む。

 腐ってるのだろうかとモップで突くと、その部分だけ明らかに音が違った。

「なんだ? お約束的展開か? それともなんだ?」


 掃除中に見つけた金づちで床を叩いてみるとと釘が浮いてきた。

 その釘を抜いて床を外すと地下へ続く階段が現れた。

「地下があるんだここ、それになんだあれ」

 光球(ライト)の魔法で照らし、階段を覗き込む。

 そんなに深くなく、奥に扉が見える。

「おいおい、夜な夜な幽霊とか出入りするんじゃないだろうな」

 物理学を専攻する僕だが相当のビビリだった。

 夜中研究室で実験中に物音がするだけで驚き、何度実験道具を落として壊した事か。

「ラバト嬢呼んできたほうがいいか? それとも衛士か? 何か知ってるかもだし」

 光球を扉の近くまで浮かせてみたところ、突然扉が開いた。

「おい! 上から雨漏りしてっぞ! 気をつけろやボケ!」

 女が出てきて怒声一閃、そして乱暴に扉を閉められた。

 僕は腰を抜かし、声にならないような悲鳴を出しながら這う這うの体で小屋から出た。



「何してんのアンジェ先生、ゴミ集まった?」

 たまたま荷台を引いたラバトがやって来た。

「あわ、あわっ、あわわ」

「泡のお風呂はバブルスター? 懐かしいな、どうした?」

「誰が元さんだよ! というか、小屋の下に人がいる!」

「ん? あぁー! カオリル先生が住んでるんだった」

「カオリル先生?」

「そーそー、カオリルナッチって礼法の先生。寮監室だと日差しや西日がきついから言って小屋の地下にずっと居座ってるんよ」

 というと、よく分からない先生が床下に住んでるのか。


「どこから入るんです? 床をめくったら階段はありましたが」

「校舎とここの地下って繋がってるんよ。ほらこの学校って知っての通り昔は月心教の道場だったし、一時期ギュースのオッサンと月心教ってずっと宗教戦争してたでしょ? その名残、脱出口よ」


 初耳です。今度空いてる日にこのザントバンクの学院の歴史を図書館で調べよう。

 ほかにどんなびっくりどっきりが飛び出てくるかわかったもんじゃないし。


「じゃ、あれ、一応人間ですよね?」

「一応というか……、あれ、ヴィヴィアンよ?」

「ヴィヴィアン?」

「え? 知らない? ギュースのオッサンに聖剣を渡したアレ」

「はぁ? あれ、おとぎ話か吟遊詩人の与太話じゃないんですか?」

「実話よ。しかもギュースのオッサンと袂を分けたベーリンに首を切られたのも、本当」

「じゃあなんで生きてるんですか!」

「なんかねぇ、塩つけてくっつけたら治ったらしいのよ。だから首元をよく見ると切れた跡がのこってるわ。でも見つめるとね、はしたないって扇子で殴られるから気をつけたほうがいいわよ?」



 確か僕が小さいころに聞いたおとぎ話(カルグストゥス叙事詩)ではこうだ。

 始祖様が使っていた剣が戦の途中で折れてしまい、途方に暮れてたところヴィヴィアンと呼ばれる女性(話によっては妖精とされる)によって湖に沈む聖剣を授けられた、とされている。

 しかしラバトが言った通りヴィヴィアンは始祖様と喧嘩して出奔したベーリン卿に首を刎ねられる。

 その際に始祖様は何とかヴィヴィアンを守ろうと奔走するのだが、あまりにもヴィヴィアンにかまけたばかりいたため、自分の居城をプリューゲル公国に奪われるのだが。

 しかもおとぎ話では死んだはずのヴィヴィアンが部下の息子を十五歳まで育ててたり、別の部下と恋仲となって奥さんに斬り殺されたり、最晩年のカルグストゥスと帝都の沖合にある島へ旅行に出てたりと何度でも出てくるのだ。

 吟遊詩人がこの叙事詩を歌う際にヴィヴィアンが出てくると「死んだはずだよヴィヴィアンさん」と誰かが調子をつけて野次るのがお約束となっている。



「で、なんで今、カオリルナッチと名乗ってるんです?」

「そりゃそーよ、ヴィヴィアンだなんてバレたら新聞屋からオモチャにされちゃうでしょ?」

 ま、まぁ確かにね。

「とりあえず挨拶だけしておこ? そのかわり、ヴィヴィアン時代の話題だけは絶対に触れちゃだめよ?」

「で、でしょうね」

「本人にとっては黒歴史なんだし」

 その割には物語として浸透してますがね。



 ラバトとともに床下へ降り、ノックする。

「カオリル先生ぇ、あたしー、ラバトやぞー」

 しばらく部屋の中でドタバタと音がして数時、ようやく扉が開いた。

「あら、ラバトさん、ごきげんよう」

 ドレスを纏い、髪をまとめ上げ、メイクもバッチリのカオリルナッチが出てきてカーテシーをする。

「カオリル先生紹介します。先生の上の部屋に越してきた、アンジェ先生です」

「あ、アンジェです。こんにちわ」

「あぁ! あなたがアンジェ先生ですの? ごきげんよう」

 あれ、さっきのぐちゃぐちゃ頭にエンジ色のジャージにTシャツとは違う……、そう思った瞬間頭に衝撃が走った。

「もぉ! はしたない! 何を想像なさってるの!」

 え? え? どうやら扇子で殴られたようだ。

「こちらが礼節をつくして挨拶をしたんですからもう、これだから礼儀のなってない人は……」

と、ぶつくさ文句を言いながら、

「ラバトさん、今日のお夕飯は結構ですと厨房にお伝え願えますか? これでは失敬、オホホ……」

と言うと扉を閉めたのだった。

 そして、ガチャリと鍵のかかる音がし、シャッとカーテンが引かれる音までした。


「あのな、カオリル先生もな、心が読めるんよ」

 なんですか、そのトンデモな人たちは。今日だけでテレパス(読心術者)を二人も見たんですけど。

「じゃ、あのときどういう行動が正解だったんでしょ?」

「んー、床に水撒いてごめん、今日もお美しいですねマドモアゼルでいいと思うわよ? 今日夕飯要らないって言ってたから、きっと五番街の飲兵衛って店に行くと思うわ。もし謝るならそん時がいいわよ」

とけらけら笑いながら言った。


 この学校に来て二日目、すでに教員としてやっていける自信を喪失しそう。

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