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03話

 ポーリァの加入について僕と彼女、そしてラフェルの三人で風紀委員長へ挨拶に向かった。その委員長から何を言われるかと思っていたが、


「あら、ポーリァ同志も放課選択をなさるんですね。しかも同志が剣闘乙女にですか、素敵ですわね」


と、あっさり許可されたのだ。にこやかに微笑む風紀委員長バルターを見れば年頃のお嬢だろう、しかしこの前の服装等検査の時は熱く演説を打ってたのだからよく判らんものだ。



「バルター委員長同志、風紀委員の業務に支障をきたさぬ様に鋭意努力致します故──」


「うふふ、あなたの想い人とがんば──」


「な、な、な、何を言ってるんですかバルター委員長同志!」


 顔を真っ赤にして両手を振って声を荒げるポーリァに、バルターは涼しそうな表情でカップを手にしてお茶を啜る。


「あと、プランナ副委員長同志も剣闘術はいかが? あなたも昔は剣闘乙女だったんでしょ?」


「えぇ。ですがバルター委員長同志、私はお嬢様部がありますので無理です。それにもう木剣を納めた身です」


「え、プランナちゃんって剣闘乙女だったの?」


 僕の横でお茶を飲んでたラフェルが訊く。なおラフェルとプランナは古くからの友人関係(帝歴284年秋・02話)だったので委員長室に通され顔を併せた時に二人は小さく手を振りあっていた。


「父側に付いた姉のヨハンナが今も西街ヴェスバンでやってますね。私は母側に付いたので辞めました、母の心情慮ってです。あと膝の怪我もあって辞めちゃったんですけどね」


 プランナはそう言うと寂しそうな顔をする。家庭の事情と身体の事、彼女だって別に辞めたくて辞めた訳では無いのだろう。これ以上訊くのは無粋なのでラフェルは静かに頷いた。


「じゃあプランナちゃん、今度休みの日にカフェ行かない? ここ最近行ってないでしょ」


「えぇ、是非。また愉快な話を聞かせて下さいませ」


「うん! ……良かったぁ。私、プランナちゃんに嫌われたと思ってたから」


「しばらくは家庭の事情で礼節を欠いて申し訳有りません」


 そう言うと二人で微笑み合った。




     ☆ ★ ☆




 ポーリァが加入したのだが木剣すら握ったことない彼女が昇級試験を受けられる訳では無いので、しばらくは僕と二人で素振りや足捌きの練習に取り組む事となった。自分の事を鈍臭いと評した彼女だが、稽古してる様子を見てそんな気はしない。ただ我武者羅に木剣を振るのでもう少し力を抜いても良いぞとは伝えたが。


「あの、先生が木剣を振るとビュンと鳴りますが、あれはどうやれば……」


「ポーリァ君も鳴ってるぞ。と言うか、むしろそんな力まかせに素振りしても身体を痛めてしまう。もう少し自然に振り下ろす様にすればいいからな」


「はいっ!」


 と、一生懸命すぎるポーリァは人一倍努力しようとするのだ。そうなれば皆もポーリァが吐く気炎の影響受けて一生懸命稽古に取り組もうとする。特にまだリハビリ中のジェイリーが足に負担を掛けないよう重量木剣で素振りをするのだが、たまたま校医シュバンヴィに見つかり僕と二人で説教を頂く事となったのだ。


 重量木剣の素振りは体幹や肉体を鍛えたりするのに丁度いいのだが新たな怪我のリスクも非常に高いので、ちゃんと許可を出すまでストレッチやイメージトレーニングしておけと叱られたのだ。


「ジェイリーさん、焦る気持ちはわかります。あなたのような実力者は足踏み続けてるなんてイライラするでしょうが、怪我増やしたら勿体ないでしょ?」


「じゃあ先生、治癒法術掛けてくださいよ」


「無理言わないで。治癒法術なんてほぼ伝説よ、建国物語のルコトさんじゃあるまいし……」


「むぅー!」


「ゆっくり治しなさい。剣闘乙女にも休息は必要よ――、アンジェ先生も女の子だから強く言えないのかもしれないけど、そういう時こそルーチェさんやラバトさん、カロリーナさんを頼りなさい!」

とシュバンヴィからのお小言は終わり、彼女は立ち去って行ったが、ジェイリーは僕に訊く。


「本当に治癒法術って無いんですか?」


「ルコト先生が来てた時に聞いたし、ラバト嬢からも前に聞いたんだがな、二人とも『有るけど今は無い』ってのが答えだったな」


 この学校の実践法術での法力発動言語(ヘクセライ)はせいぜい三文節で遠くの的を撃ち抜く訓練をする程度だ。なお僕でも四文節まではなんとか使えるが、五分節以上となると法力発動すらしない、無理だ。で、軽度の治癒法術で八文節、捻挫でも九文節も必要だし、体中の法力がカラッ欠になっても足りないぐらいだろう。そんなもんブッ放せる法術家は万に一人程度らしい。なおエルフ族は五人に一人程度らしいが。


「ラバト嬢も挫傷を冷やし込んでくれた程度しか出来んそうだ。外科療法で断裂した関節を縫い直す方法もあるぞってシュバンヴィから言われただろ? でも治癒期間は言うほど変わらないから現在の保存療法なんだから……、焦るなよ」


「むぅー!」


 そう言って涙目になるジェイリーの頭を乱暴になでてやるが、苛ついた猫の様にシャーっと言うのだった。


 前にルコトがラバトに掛けてた『イモ・ド・ニキ(いたいの)モヘレ・トセ(とんでけ)』は子どもが転んだら母親が唱える昔からのおまじないだ。しかしルコトが唱えるといくつもの魔法陣が浮き上がったのには驚きを隠せなかった、法力学の大家はおまじまいでも法力発動するのかと思ったぐらいだし。


「ジェイリーさん、焦ったらだめなんです。私も先生から焦るなって言われたんで、二人ゆっくりがんばりましょうね」


 ポーリァの慰めのおかげだろうか、苛ついた猫は少しご機嫌を治したのか背伸びして一つあくびをした。焦っても碌なことは無いぞと僕は二人に伝えたが、本当に焦っていたのは一年前の僕だったのではなかろうか。


 通らない論文、書いても書いても陳腐化した文字の羅列、そして評価されない論文、研究室で後輩に追い抜かれていく実際、そして腐っていく自分。今では全然焦っていない、のんびりと心に余裕持って生きていけてる。


「焦ってはダメなんだな、本当に」


 僕は額から滴り落ちる汗を手ぬぐいで拭い取った。




     ★  ☆  ★




 定期考査が近づいたため、放課選択の停止期間に入る。学院の道場は使えなくなるのでキュリルに相談したところ、どうぞ出稽古にいらっしゃいと言われたので練習拠点はリガン道場に移ったのだった。


「はい、剣士二級受験する方はホルヘさんが特訓しますので向こうで頑張ってきて。初心者のポーリァちゃんはルーチェ先生と幼年部の子たちとで稽古頑張っておいで。――アンジェ先生とジェイリーは私と頑張ろうね」


 そう言ってキュリルは肩に木剣を担いでニヤニヤと立っていた。なおジェイリーの足は随分と良くなり、ようやく完治宣言と稽古の許可が下りたのだ。しかしキュリルのとは違いジェイリーは完全に血の気が引いてたが。そんな時、突然キュリルはジェイリーの二の腕をつまみ上げた。


「ねぇジェイリー、今、体重どんだけよ?」


「――ッ! 言えるわけないでしょ!」


「そりゃそうよねぇー、動けない事をこれ幸いと食っちゃ寝してはお菓子貪ってたら太るよねぇー? 私も解るわぁ、この前腹痛で三日寝てただけなのにすぐ太っちゃったもん。じゃあ一ヶ月近く食っちゃ寝してた娘はどれだけ太ったか? ――※*(ごにょごにょ)でしょ!」


「ちょッ! アンジェ先生、そんなに私、重くないですからね!」


 顔を真赤にして両手をブンブン振り回してるジェイリーが少し可愛かった。


「今から私とジェイリーは懸かり稽古をします。ジェイリーは私の攻撃方式を覚えながら最適なカウンターを繰り出しなさい。アンジェ先生は私の攻撃方式を覚えて適切な打倒計画を組み立てて三十文字以内で書いてください。――はい、やるわよ? アンジェ先生、合図よろしく」


 防面を被り木剣を構えるキュリルだがきっと喜々としてるのだろうか、ジェイリーのそれとよく似た剣先の動きをする。僕は右手を突き立てて


「試合、始め!」


と言ったところ、突然の払い胴での開始吶喊だった。防面を狙ったかと思ったのに横へ逃げながら打ち込んでくる様は真似出来るものじゃない。もちろんジェイリーも防面狙いと思って剣先を挙げていたので綺麗に胴一本である。しかしこれは懸かり稽古、ここからキュリル主導の乱打戦が繰り広げられるのだった。


「――さ、もう一度やりましょうか。攻撃パターンはさっきと全く同じです、ジェイリーは只管カウンターを狙い、アンジェ先生はどのタイミングでどういう攻撃をしてくるかを踏まえて紙に書いてみてくださいな。アンジェ先生、合図よろしく」


 と、先程と同じ様にジェイリーに打ち込んでいくキュリルに一つのパターンが見えてきたのだ。もちろんジェイリーも気付いたのだろう、自身が打たれるよりもキュリルを打つ回数が増えてるのだ。


『横移動して防面籠手狙いの払い胴が癖。しかし自身の胴はがら空き』(ちょうど三十文字)


 懸かり稽古を終えたキュリルに作戦を書いた紙を渡す。それを見たキュリルはニヤリと笑って一つ頷くと僕に突き返した。


「さ、今から肉体特訓という名のダイエットを始めましょうか、ジェイリー。そして先生は攻撃シフトの分析ですよ、なんなら私と打ち合ってもいいんですよ?」


 一刻ほど経った後のジェイリーは立ち上がることすら出来なくなっていた。しかしキュリルはあれだけ激しく打ち込んでても汗一つかいてないのだ。本当にバケモノじみた女傑である。




 稽古が終わると道場でシャワーを借り、さっぱりした後は道場の隅で赤点阻止授業も行われた。しかし道場では門下生たちが激しく打込み稽古をしてて木剣同士が打ち合う音、防具同士がカチ合う音が響き渡るのだ。皆疲労困憊だったが、勉強会で気の抜けた事をしてると


『キュリルが無期限懸かり稽古の相手をしてくれる権』


を無償プレゼントすると言われてたので皆必死だった。僕やルーチェも気の抜けた事したらその権利を渡されるらしいので僕達も必死だった。



「ねぇラバトちゃん、今度飲みに行こうよー」


「嫌だよ、カオリル先生と飲みに行けよ」


「絶対嫌よ! あの先生、私の顔見たらジェイリーの耳に入ったらまずいこと言うでしょ?」


「そんだけ悪さしまくってたんだろーが!」


 そんな中、木剣を振り回すキュリル相手にラバトは素手で戦っていたのだ。しかも木剣を素手で受け止めると喉輪に蹴撃を入れてたラバト、木剣だけで彼女を吹き飛ばすキュリルを見て皆唖然としてたが、二人共雑談しながらである。異次元の戦いとはこういうことを言うんだろうか……?

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