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02話

 キュリルと相談した結果だが、実技試験は試験対策の稽古を頑張れば全員剣士二級は行けるでしょう、それに学科試験も剣闘術の成り立ちや基本的なルールさえ知っていれば受かるのでそこまで難しくは無いでしょう、という評価だった。しかしスケジュールが随分と(から)く、定期考査終了直後に昇級試験なのだ。彼女たちには無理を強いたくないし、彼女たちの本分は学業だ、なのでその話は持ち帰る事にした。



「ところでアンジェ先生、あなた自身も昇級試験受けたらどうでしょう?」


「そうですね。でも今のところ教士四級で別段困ってる訳じゃありませんし……」


 キュリルからの提案に僕は尻込みしてしまう。確かに領主館執行代理人のコーキには剣闘術会の顧問を続けたい旨は伝えたが、これもサラリーマンの宿命でいつ異動があるかなんて判らないのだ。ちなみにこの中街での教員任命権等はコーキにあるのだが、帝立学院から僕の身柄を返してくれと言われたら基本的に断れないし、ヴィルム学院長がどこかの校長と教員交換契約が取り交わされても断れないのだ。まぁ僕を必要とする学校が有るのかは判らないが。


「さっきのおてんば姫様の言葉じゃないですけど、やってみたことで何か(ひら)けるかもしれないじゃないですか」


 そう言ってキュリルは僕の肩をバシバシ叩きながらケタケタと笑う。笑い方はジェイリーによく似ており、本当に姉妹と錯覚してしまいそうだ。もちろん姉妹なんかじゃない、母娘だ。


「先生が教士三級になれば私にもメリット有りますし」


「え、そうなんですか?」


「そりゃこのリガン道場の指導力が高いと評価されれば、入門者が増えてガッポガッポのウハウハですものー」


 そう言って更に僕の肩をバシバシ叩くのだった、すごく痛い。しかも人をダシにするんかい!





 翌日の剣闘術会で皆に昇級試験の話をした。試験日が定期考査直後であること、昇級試験のための稽古や勉強が必要であることを伝えた。あと、基礎学力に課題のあるジェイリーやミノン、パティに対して落第回避勉強会を開く旨も伝えた。


「あのぉアンジェ先生、その勉強会に参加したい友達が居るんで呼んでも構わないですか?」


「ミノン君、勉強会と言っても遊びじゃないんだぞ?」


「んー、そうですよねぇ。──じゃあその子にも剣闘術会に入ってもらえば良いんじゃないでしょうか?」


と、いかにもさもありなんといった風にミノンが言う。


「ところでミノっち、誰の事?」


「ポーリァちゃん」


 ジェイリーが訊くのでミノンはそう応えた。そう言えばポーリァは風紀委員だったな。夏季休暇明けの服装チェックで一緒だったし、ミノンと一悶着あった事を思い出す。彼女といえばいつも階段教室での授業では後ろの方にポツンと座っており、授業態度も良く必死に板書を取ってるのも教壇からよく見えていた。


「と言っても、ポーリァ君ってジョルジェ君デリッカ君に続く成績は三席だぞ? そんな子が勉強会に出たいと?」


「そうなんですよ。私やジェイリーちゃんならともかくなんでポーリァちゃんが? って聞いたら剣闘術にも興味があるし、アンジェ先生が勉強の面倒まで見てくれるのは羨ましいって言ってたからなんですよ」


「そうか……。まぁ今度来てもらえば良いと思うぞ」


「あ、もう来てるんですよ。ポーリァちゃんおいでー」


 そう言ってミノンは道場の入口に待たせていたポーリァを呼ぶ。そんなことなら予め言って欲しいもんだ、ずっと待たせていたのだから僕自身とても心苦しい。キチンと制服を着た小柄なポーリァが一礼して道場に入るとミノンの横に立つ。


「あの、アンジェ先生、話を聞いて頂きまして本当にありがとうございます」


「なんだか待たせてしまったみたいで本当に申し訳ない。──ところでポーリァ君に聞きたいんだが、風紀委員との掛け持ちは問題無いのか?」


「はい。その点ですが他にも掛け持ちしてる委員も居ますので問題無いと思います。委員長は陸上競技部ですし副委員長はお嬢様部ですから」


「そうか……。じゃあ見学して委員長達と相談した上で入会するか決めたら良いと思う」


「解りました。──ですが先生、一つ相談なんです。私を選手じゃなくてマネジャーとして使って頂けませんか?」


「はぁ? せっかく入会するのに何で雑用係なんかを志願するんですの?」


 ポーリァの発言にデリッカが疑義の声を上げる、と言ってもマネジャーは決して雑用係ではない。試合や遠征、出稽古での日にちや物品の調整、全員の体調管理、果ては出納管理までと業務は雑務でなく経営管理に近いとは思うが。


「あの……私、鈍臭いんです。──シュトレーメ大会の時に初めて剣闘術を見たんです。そして皆さんに憧れました、私もやってみたいって! でも、木剣握っても皆さんみたいに振る舞えるとは思えませんし、皆さんの足を引っ張るなら最初からマネジャーとして使って貰ったほうが諦めがつきますもの」


「───あんた、ばっかじゃないの? やりもせんで最初から諦めるって、随分と達観した人生ですこと!」


「デリッカさんには判んないんですよ。鈍臭く生きてると、みんなの様にてきぱき生きてる人を見ると眩しくて……」


 そう言ってポーリァは一筋の涙を流した、その涙は一筋、また一筋と頬を流れ落ちる。本当に悔しいんだろう。本当に辛いんだろう。そして本当に悲しいんだろう。



「ポーリァさん、その涙に偽りが無いんでしたら私が面倒見ますわよ!」


「そーだよ! もしポーリァちゃんが本気でやりたいなら皆んなで応援するよ! 特訓も付き合うから!」


「私も鈍臭いけど、鈍臭いなりにがんばってるから……」


と、デリッカ、ミノン、ジョルジェが声を上げてくれ、その声援にポーリァは更に涙を零す。ジェイリーはポーリァにハンカチを差し出すとそれで顔を拭き鼻をかんだ。



「なんか若いですよねー」「ほんとですね」「青春ですね」


と三回生達が彼女たちを遠巻きで見ながらぽそりと呟いたのだった。

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