21話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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領都大会優勝という大盃を担いで帰ってきた僕たちに待ち受けていたのは新聞にそこそこ大きめに報道された事ぐらいだった。街を挙げてのパレードがあったとか祝勝会と言う名の接待があったとかは全く無い。ただ学院の壁に掲げられていた垂れ幕は綺麗なものに差し替えられたぐらいだろうか。
皆から聞いた話だと、街を歩いてると声を掛けられる事がぐっと増えたそうだ。特に食いしん坊のミノンは屋台でオマケしてくれることが増えたと言ってた。
そんなある昼下がり。僕とルーチェ、ラバトの三人は学院長に呼ばれたのだ。三人揃って学院長室に入ると、コーキが煙管を吸って待っていたのだ。
「この度は優勝おめでとうございます。シュトレーメ中街領主館を代表してお祝い申し上げます」
「ご丁寧にありがとうコーキ嬢。聡明な君がどうして食事の手続きが出来なかったか、──いや、しなかったか良く判ったよ」
しばしの静寂が学院長室を包み込んだ。そして一つ溜息付いたコーキは煙管の灰殻を打ち捨て、深々と頭を下げたのだ。
「王宮特別警察からの報告書、しかと読ませて頂きました。本当にありがとうございました、おかげでヴァルガッシュ伯家の歪な権力構造の一つを取り壊す事が出来たと思っております。――この件で家令のジャニス閣下は、アンジェさんやルーチェ様なら言わなくても判ってくれると言ってた理由がよく解りましたから」
「頭を上げてくださいコーキ嬢。今回の事件で僕は何もしてません。たまたま侵入者をルーチェ嬢が捕まえただけですから。まぁルーチェ嬢がどのように通報したかは僕は知りませんがね」
と答えておいた。なお王宮特別警察なんて三文娯楽小説に良く出てくるが、一般市民からしたら関わることもない謎多き機関だ。しかし貴族家のお家騒動についての報告書は必ずこの特別警察が書いているのだ。なおこの報告書は帝都公文書館で読むことは出来るらしい。
今回の領都大会遠征で受けた妨害行為についての報告書は僕も読ませてもらった。
しかしこの報告書、教職員室にある僕の机の上にぽんと置いてあったのだ。なお、誰が置いたかは全くの不明だ。本来郵送物ならラバトが配り歩いてるが彼女も知らないと言う。もとより宛名が無い封筒に入ってたのでラバトが配れる訳がないし、彼女なら僕の部屋に持ってきてくれる。じゃあルーチェかと訊けば知らないという。むしろこのような公文書、危険薬品並に取扱注意なのだから、どんだけ無鉄砲な彼女でもそこら編は弁えていると思う。あとルーチェは極端に嘘が苦手で問い詰めれば目が泳ぐ、今回訊いてもそんな様子は見せなかったので彼女を疑っては居ない。
報告書によると、地元愛の暴走が切掛とされていた。記者たちは地元勝利の為に妨害行為をし、その行為について相談を受けた官憲は容易に握りつぶす。だから今まで表沙汰にはならなかったのだろう。しかし相手が悪すぎた、ルーチェだったのだから。
王宮警備隊には警察権や捜査権を有しており、宿泊地で捕らえた侵入犯について捜査する事に問題はない。しかし領都の官憲にもそれらの権利はあるし、王宮警備隊が出張ってくれば自分たちの権利を完全に侵害されたと思うだろう。おまけに王宮警備隊の警察権は地方官憲に対しても発揮出来る。だからルーチェは僕を下がらせた後に領都官憲と王宮警備隊の両者を呼び付け、きっとこう宣言したのだろう。
『この喧嘩、私達が買うから!』
王宮警備隊は領都官憲から過去の捜査資料を巻き上げて精査したところ真面に調べても無かった事が判明。王宮警備隊は短時間ながらもあちこち捜査員を派遣して裏を取った挙げ句、王宮からヴァルガッシュ伯に直接苦言を呈したのだろう。
ではなぜルーチェは王宮警備隊を引っ張り出してまでここまで真面目に喧嘩を買ったのか? なんとルーチェは一度領都官憲に妨害行為の相談をしてたのだ。夜中に騒ぐ隣のホテルに直接文句を垂れに行っても改善しなかったから官憲を呼んだのだ。しかしその官憲から吐き出された言葉は、
「知らん。ってか夜中に騒いだらいかんって憲法に定めがあるんか?」
だったらしい。これにカチンと来たルーチェの腹わたは一瞬で沸点に達する、何せ相手は自身が蛇蝎の如くのヴァルガッシュ伯家。どんな因縁を吹っかけよう思ったら僕が道場で拾ったゴミ事件。これでおてんば姫の行動原則は定まった訳だ。
王宮から出された苦言にヴァルガッシュ伯も応じなければならない。そのため新聞メディアに定例会見で吐露したのは『記者が悪い』だった。新聞メディアにしたら『むしろそっちがちゃんと捜査してないから悪いんでしょ?』となる訳だから、きっとこの両者の関係は修復不能だと思う。
「家令ジャニス閣下よりお手紙が届いております」
「中身を拝見しても?」
「えぇ、どうぞ」
コーキが差し出した手紙を受け取ると僕は封を開く。コーキはルーチェに一礼したあと煙管に刻み煙草を詰めて火を付けた。
『 親愛なるアンジェ君、そしてリーナ殿下。
今回の件、本当に感謝している。文官と官憲の不適切な関係が事件の根底にあると思っている。おかげで不良文官を処分出来たし、無能な首班官憲たちも飛ばすことが出来たのだから。
もし君たちに困ってることがあったら相談して欲しい。我が教え子のコーキ嬢を介してくれて構わない。
ヴァルガッシュ家家令・ジャニス・ド・キシレ』
「コーキ嬢はこの手紙の内容は聞いてるのかい?」
「えぇ。何かあったらアンジェさんを助けなさいと」
「分かりました。一つ相談なんですが」
「――はい」
「僕をもうしばらくだけ剣闘術会の顧問に据え置いて頂けませんか?」
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