20話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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遠征では食事が出ない。コーキからその様に言われてた為に僕らは食事は自分たちで用意しなければならなかったのだ。
この剣闘術会で料理上手と言えばミノンだ。しかし残念ながら他に料理が出来る乙女たちが居ない。ミノン一人に負担を掛けるわけにはいかないので、僕は誰かを料理担当として帯同願おうかと思ったのだ。しかし料理が出ない話をどこからか聞いたミノンが
「ねぇアンジェ先生。私、料理やるよ?」
と言い出してくれたのだ。
「ミノン君ばかりに負担を掛けさせるわけにはいかん。誰か探すから気にしなくて良いよ」
「んー、それならカロちゃん先生に来てもらったら? カロちゃん先生って調理実習の授業もやってるし、放課選択で顧問やってるわけじゃないから、どう?」
こういう事もあってカロリーナに帯同を願い出たのだ。手土産にケーキを持って頭を下げると彼女は二つ返事で帯同してくれると言う。
「アンジェ先生、お嫌いな食べ物や禁忌食はありますか?」
「んー、僕は無いです、過去に豚肉を食べて蕁麻疹が出ただけですね。禁忌食なら何人かが拝星宗徒なので鳥と羊しか食べられませんし、ジェイリー君とジョルジェ君はセロリが苦手です。デリッカ君は辛いのが食べられないし青臭い野菜も苦手だったな。マリ君パティ君は卵とトマトが好きだけどピーマンが嫌いだったな。ラフェル君が―――カロリーナ先生どうかなさいました?」
「いえ、――ナニモアリマセンヨ」
「何なら皆に嫌いなものリストを出させますので。――あぁ、僕も料理、手伝いますから」
「えっ、いやっ、ほら! 『男子厨房に入らず』って言うじゃないですか! ですから、そんな」
「いえいえ、カロリーナ先生の細腕に全て押し付けるわけには行きませんから」
「そ、そんなぁー。もぉー、まるで新婚夫婦みたいじゃないですか! もぉやだアンジェ先生ったら!」
顔を真赤にして僕の肩をバシバシ叩くカロリーナ。
「え、新婚夫婦って一緒に料理作るんですか?」
「――あの、忘れてください」
最終日の朝、僕は皆のために食事を作ることにした。油を敷いたフライパンに刻んだニンニクを浮かべて弱火に掛けて香りを出す。そして余っていたトマトとキノコとベーコンに火を通して予め茹であげておいたヌイユと絡める。帝都時代に『金のアヒル亭』のミルスに教えてもらった料理だ。なおこの料理の良いところは生でも瓶詰めでもトマトと夕飯の残りものを適当に炒めてヌイユに絡めれば『そこそこ美味い』のだ。もし有るならばお好みでチーズを削ってもバジルを振っても良い。
料理を準備している最中にミノンがやってきた。そろそろ肌寒さを感じる早朝なのに半袖シャツと短パンといった随分軽装でかつラフな出で立ちだ。
「おはよーございます! あっ、アンジェ先生おはーっす!」
「ミノン君おはよう。済まんが勝手に朝ごはんを用意してた」
「うひゃー先生の手作りだー! 美味しそうですねー! もう一品、私が何か作りますね」
ミノンは厨房に掛かってたエプロンを手際よく付けると手を洗い、残りの食材を刻んで鍋に放り込んだり炒めたり。とにかく異様なまでの手際良さに思わず魅入ってしまった。
「そんなに見ないでくださいよー、恥ずかしいじゃないですか」
「あぁ申し訳ない、本当に手慣れてるなぁと思ってな。色々と参考になる。ところでこの食材っていつ仕入れてたんだ?」
「夕方の稽古休憩中にカロちゃん先生と隣の市場で売れ残りを買ってたんですよ、いやぁ随分と勉強してくれるしつまみ食……試食もさせてもらったんで楽しかったですよー!」
「そうだったんだ。なんか負担掛けて本当に申し訳無い」
「本当に大丈夫ですからー」
ミノンは話しながらもてきぱきと料理を続ける。包丁を使うにも手元を見てるようには見えなかったので、見てる僕は少し怖かったが。なお彼女が使ってる包丁はミノンの私物らしい。
「な……、なんか、新婚夫婦、みたいですね」
「ん? 前にカロリーナ先生も言ってたんだが、最近じゃ新婚夫婦は台所に立つもんなのか?」
恥ずかしそうに顔を赤らめて言うミノンに僕は聞いてみた。ミノンは顔を更に赤くしながら最近の小説でそう言う一節があるんですよと言った。
「そっか。今日の自由行動で本屋巡りも良いかな」
と、思わず独りごちた。
「おはようございます。リーダーはジェイリーです。皆、体調は好調です」
「了解だ、ありがとう」
朝食を頂いてからブリーフィングに入る。今日は大会予備日だったが試合は無事に終わったため、彼女たちの休暇日としたのだ。
「今日は日没までフリーにします。家族やお友達にお土産を買いに行ってもいいし、名物を食べ歩いても良い。ただ、領都はシュトレーメより広大で治安は良くない。だから必ず二人以上で出歩くこと。何かあったらここに戻ってくること。飲酒は絶対にしないこと。裏通りやスラムなんかに近づかない事。これらを守れる者だけ出掛けて欲しい」
「はいッ!」「はーい!」「はい」
「ジョリー、一緒に回ろうねー」
「その前に───、ジェイリー君、まずは病院だ」
僕とジェイリー、そしてミノンとジョルジェにカロリーナの五人は近所の整形外科に行き彼女の診断と治療を受けた。靭帯損傷Ⅱ度で全治一ヶ月程。今はギプスで固めておくが、シュトレーメに戻ってから運動医に診てもらってくれと診断を受けたのだ。会計でどれだけ掛かるんだろうと真っ青な顔をしてたジェイリーだが、クラッチ杖代含めた治療費が全て活動保険で賄われるから安心していいぞとは伝えておいた。
「ジェイリーちゃん大丈夫?」
「つま先が痒い、足首が痒い、でも掻けないのが一番辛い」
「んで、お昼どうするー?」
「宿泊所で食べるから大丈夫だよミノンちゃん。良かったらジョリーと行っといで」
「う、うんー、判った」
病院から出るとミノンは慣れない杖に四苦八苦するジェイリーを背負った。ミノンとしてはジェイリーを負傷させた負い目もあるのだろうから病院まで着いてきてくれたのだ。最初は別に大丈夫と言ってたが、やはり歩き辛いし、付いたら足は痛むのだからミノンの背に収まっていた。ごめんね、いいよむしろごめんねと言う二人に素敵な友情が見受けられた。
宿泊所に戻ってきたらジェイリーはミノンに買ってきて欲しいお土産をリクエストすると部屋に戻る。
「ねぇねぇアンジェ先生、どっか行きたいところあります?」
メモし終わって筆記具などをポーチに押し込んだミノンが僕に訊く。僕はんーと一つ唸ったあと、
「城壁図書館か古書街に行こうか思ってたんだが……ミノン君やジョルジェ君達はどこか行きたい処はあるかい?」
と訊き返す。ミノンはグルメ地図を広げあれやこれやと効率よく回る順序を考えてる様だし、ジョルジェはガイドブックを広げている。
「カロリーナ先生はどうなさいます?」
「あ、えと──、一緒に付いてってもいいでしょうか?」
「えぇ良いですよ」
「一つ良いアイデアがあるんですよ」
宿泊所で備品の車椅子が借りられたのでジェイリーの気を揉まずに領都観光をすることができた。まるで城郭のような伯爵邸や初期の城壁跡を見学したり、グルメ横丁たる屋台街で食べ歩き、古書街で旅路の共になりそうな読物を買い、広場でアイスクリームを食べたのだった。
「やはり領都ですよね、一日じゃ回れなかったですね」
「そらそうだ、シュトレーメよりも広いからな」
帰りに市場で夕飯の材料を買い回り、僕たちは厨房で夕飯作りをしている。
「それにしてもミノンさんって包丁の使い方、本当に上手よね」
「えへへー。これでも花嫁修業中ですもん、カロちゃん先生」
「ところでそのカロちゃん先生って何なのよもぉ……」
二人は野菜の皮を剥き切りると鍋に放り込んでいく。僕もジョルジェも包丁持ってやってるが、二人の速度に遠く及ばない。二人をちらちら見ながら自分も早く出来るよう頑張るジョルジェに危ないから安全にやりなさいと声を掛けた。
「アンジェ先生って料理出来るんですね」
「んまぁ帝都では自分で作ってたからなぁ。──ってこんな事言ってもミノン君の足元にも及ばんがな」
「誰か作ってくれる人とか欲しく無いですか?」
「んー、出来れば欲しかったのかもな。今は学院で安い学食があるし安飯屋も近くに有るから考えてないが……、どうした?」
「い、いえ……」
そう言って野菜を糸のように刻むジョルジェに切り過ぎと言っておいた。
秋は深まる、雪はまだ遠いかな。
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