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19話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

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 実行委員からの呼び出しを受け僕らは試合会場へと向かう。長い廊下を歩き、関係者以外はここから先は入れないために出場しない人たちはここでお別れだ。ジェイリーは肩を貸してくれていたラバトから離れると()()()()()()歩いてデリッカの前に立つ。


「あのさぁデリッカ」


「………何よ」


「後を頼む。頼める義理は無いの、分かってるけどさ」


「───ふん、私はこの剣闘術会の名誉の為に勝利を刻むのよ。あなたの為じゃないわ」


 そう言ってデリッカはジェイリーの左肩を軽く叩く。ジェイリーもデリッカの背を叩くと互いに見つめ合って一つ頷いた。


「さ、そろそろお時間です。選手と引率者以外はここまでですので……」


と実行委員に促されて僕らは会場に入っていった。


「本当にお願い、必ず勝ってきてね!」


 気持ちの篭ったジェイリーの声援を背に会場に入る。そして先鋒が闘技場へと上がっていった。




 対戦相手は優勝候補筆頭のラングステ修女だ。ここ十数年はライアリ修女などと州都大会出場を競いぶつかり合っている。選手層は可もなく際立ってレベルが高い剣闘乙女が揃ってる訳ではないが、きっと開催地(ホーム)だけあって有利なのだろう。まさかアウェイの洗礼(嫌がらせ)で勝ち上がってるのではないと思いたい。




   ★先鋒戦★


  ミノン(一回生) - ジャルパ(二回生)


 ミノン程では無いが上背があり横幅はたっぷりあるジャルパ、まるで英雄浪漫譚の重戦士といった様相だ。超重量攻撃系と新聞で評される彼女だ、それならまともにぶつかりあう必要は無い。こちらとしては継戦能力が高く、そこそこの押しに負けないミノンを当てることにした。あと最近気付いたのだが、ミノンは力押しの選手と当たるのが嫌いでは無いらしく、むしろ嬉しそうに木剣を構えるのだ。


「試合始め!」


 主審の宣言にミノンは打突、ジャルパはそれを読んでたのか突き出される剣先をいなすと近接戦のために半歩一歩と間合いに踏み込んでいった。別に無理して相手の有利な間合いで打ち合う必要は無い、ミノンは一旦後ろに大きく下がるとジャルパへの激しい打ち込みを始めたのだ。打ち込んだら下がる、激しい打ち込んでまた下がる。ミノン自身も体力を消耗させるがジャルパのも消耗させ、かつイライラを募らせる作戦としたのだ。



「ちゃんと打ち合え、おかわりー!」「ちょこまか逃げんなデカ女!」「へいへい足止まってンぞ重戦車!」「そこ突けジャルパー!」



 開催地だけあってヤジが酷い。しかし僕らはそれを止める事は出来ないので、ヤジに負けないよう声援を送るしか無い。なお、一部聞こえるヤジはラバトだろう、けっこうでかい声出すからな。

 集中力を欠いてきたのかそれとも疲れか焦りなのか、ジャルパは一層強引に攻め立てた。大振りの木剣に併せてミノンは懐に入ると鍔迫り合いに持ち込みジャルパを押そうとする。もちろん体格に勝るジャルパもこれ幸いと押し返す。押し相撲になったところでミノンは身体を横に動かし、バランスを崩したジャルパの防面を打つ。



「防面一本、それまで!」



 ミノンは大きく拳を突き上げて勝利を噛み締めた。しかし非淑女的行為として注意も貰ったが。




   ★次鋒戦★


  デリッカ(一回生) - クノト(三回生)


 このクノトという選手については乱打戦を好むと新聞情報にあったので、同じ性質でスタミナに定評のあるデリッカを当てる事にした。とは言え前日のパルジファ戦でかなり激しい乱打戦となり消耗してるはずなので心配だ。

 ミノンとハイタッチして闘技場に上がったデリッカは首と肩をぐりぐり回して停止線で構え、クノトは屈伸してから木剣を上段に構えた。



「試合、始め!」


 予想通りの乱打戦が繰り広げられた。お互いが打っては逃げ、そして飛び込んで打つを繰り返したのだ。体格差に劣る小柄なクノトは徹底的に鍔迫り合いを避ける戦法だった。デリッカも強引に間合いを詰める事は避け、ひたすらに自分も打って出ては無理に深追いしないようにしたのだった。

 お互い派手に打ち合っているがなかなか有効打が出ず、客達は口汚いヤジを飛ばしまくって二人の乱打戦を観戦していた。


 先に疲れが見え始めたのはクノトだった。連撃を続けるデリッカに押され始め、あれだけ避けてた鍔迫り合いに持ち込まれたのだ。デリッカは敢えて無理押しはせず詰まった間合いを利用して連撃を続けたのだ。


 ヴェスバン・ゼルヴィーカ戦では、接近戦になかなか決定打を繰り出せなかった反省とし、デリッカはルーチェやラバトと積極的に稽古をこなし続けた。見守る僕達が心配する程の激しい稽古を続けていたデリッカだが、持ち前の体力からかあまり疲れた表情を見せる事は無かった。だから連日の乱打戦ででもデリッカは問題無かった、むしろ杞憂だったのだ。

 鍔迫り合いからデリッカはバックステップを踏みながらクノトの籠手を打ち抜いたのだ。まさに見事な引き籠手だった。



「籠手一本、そこまで!」



 デリッカは小さく頷くと一礼して闘技場に下りた。





   ★混合戦★


  マリ・パティ(共に三回生) - ビーラ・デハワ(共に四回生)


 この混合戦も激しい乱打戦となり、消耗してたマリとパティに取って非常に大変なものとなったろう。

 開始早々ビーラ・デハワ組はパティに強襲、連携崩さないようマリもその中に割り入って逆襲を試みる。何とか一対一の打ち合いに入ると二組の激戦が始まった。

 マリはビーラと、パティはデハワと攻守入れ替えて打ち合う激しい戦いとなったのだ。あと一つ、あと一つ勝ち上がれば優勝という言葉が本物になる。逆にビーラとデハワにとってこの混合戦を落とせば全てが終わるのだ。お互いが必死になって打ち合う様相に観客席は恐ろしい程静まり返るのだった。

 しかし、ふとした空隙にデハワはビーラと打ち合うマリに急襲。パティも加勢に入ろうとしたが救援失敗、払い胴を打たれて主審の宣言。黒星を付けたのだった。




   ★副将戦★


  ラフェル(三回生) - イニイ(四回生)


 今まで水を打ったかのように静まり返っていた会場は一つの勝ち星に大いに湧くことになる。しかもイニイは街の有力者の娘で剣闘術会の主将だ、イニイコールで会場が沸き立ったのだ。その歓声に右手を挙げて応える彼女へさらに熱い歓声が響き渡った。

 このイニイは超速効型。打突や飛び込み打ちとカウンターなんて何のその、(なり)振り構わず打ち込んでくるようだ。僕はラフェルに吶喊を指示、鍔迫り合いに持ち込んで料理する方向性にしたのだ。ラフェルは胸を二度程叩いて了解の意思を送る。



「試合、始め!」



 やはりイニイは飛び込んで来た、ラフェルも防面目掛けて打ち込んで行ったのだ。もちろん両者有効打が認められず、詰まった間合いから鍔迫り合いが始まった。


 実はラフェル、鍔迫り合いが苦手だった。前年の試合で引き倒されて肩を負傷したぐらいだから苦手意識を持っていたのだ。しかしラフェルと僕との打込み稽古では鍔迫り合いから始めての練習をずっと続けてきた。おかげで詰まり切った間合いからの引き打ちや払い胴などの攻撃種類は増えたと思っている。それにキュリルとも接近戦の特訓も執り行ってもいた。ただしデリッカのように鍔迫り合いから押し倒したりする様なパワー系攻撃を苦手としており、重量級の選手には間合いを取るようにしている。なおイニイは中背の軽量級だ。


 ラフェルは練習通りに鍔迫り合いからの払い胴や引き籠手を繰り出すが主審も副審も無効を示す。イニイは何とか間合いを取ろうとするが、へばりついて離れないラフェルを何度も押し飛ばそうとしたのだ。しかし上手いこと行かない。近接間合いで何度も打ち込むラフェルに主審から待ての指示が出た。



「ラフェル選手、防具直しなさい」



 激しく打っていたせいで胴紐が外れたようだ。籠手を外して後ろ手で結い直すと再び停止線から試合再開が宣言された。やはり矢のように飛び込んでくるイニイだったが、間合いを詰めようと待ち構えるラフェルの前で急旋回、横移動から再び吶喊したのだ。その瞬間焦ったのか戸惑ったのか、もたつくラフェルに防面一閃。



「防面一本、それまで!」





   ★大将戦★


  ジョルジェ(一回生) - キタイ(一回生)



 連続で黒星が付き、ついに後が無くなった。僕らは全てをジョルジェに託すと彼女は静かに闘技場へと上がっていった。下りてくるラフェルとハイタッチし、ジョルジェは停止線で木剣を構えた。

 このキタイ、イニイの妹らしく会場はキタイコールが鳴り止まない。彼女は姉と違って大歓声に湧くのに慣れてないのかツカツカと停止線に歩み木剣を構えたのだった。

 ジョルジェにプランF、任せると指示したところコツコツと頷いて応えた。キタイは引率が指示を送るが見てないのか反応が無かった。緊張なのか彼女のスタイルなのかよく判らない。



「試合、始め!」



 主審の宣言で飛び出して行ったのはキタイだった。それを見切ってたのかジョルジェは横移動しながら剣先を突いて弾き、間合いを詰めて連撃を開始したのだ。激しく打ち込むジョルジェにキタイは防戦に徹するが間合いを取ろうともしない。むしろジリジリと後退してるのだ。初撃以外は防戦しかしないキタイに得も言えぬ不快さがあったのだ。


 ついにキタイを規定線まで追い込むジョルジェだが追撃は止めなった。しかしキタイは自身に打ち込まれる木剣を何合も打って躱すと突然ジョルジェに飛び込んで行く。突然の鍔迫り合いに持ち込んでいったキタイはジョルジェを中心に横移動した。そして半周ほど回った途端連撃を開始したのだ。


 完全に謀られた、僕は思った。自身を規定線まで追い込ませて鍔迫り合いで反転、ジョルジェを場外に追い込むのがキタイの狙いだったのだ。攻守逆転、キタイはジョルジェに激しく打ち込み、あと半歩まで追い込んだのだ。


 しかしそれもジョルジェは読んでたのかもしれない。防面を打とうとしたキタイの剣先を弾くと小さく剣先を回して木剣を床目掛けて振り下ろしたのだ。

 まるでジョルジェが籠手打ちを空振りしたかのように見えた。しかし割れんばかりの歓声に包まれた会場に、激しく叩き付けられ転がる木剣の音が木霊(こだま)した。そしてキタイの喉元には木剣が突き立てられていたのだ。



「打突一本、それまで!」



 主審はジョルジェの勝ちを宣言すると、彼女は籠手を外し人差指で天を指す。ミノンやラフェル達が闘技場に駆け上がるとジョルジェに飛びついたのだった。




     ☆ ★ ☆




『十五年ぶり優勝! 最後は木剣落して打突で勝つザントバンク修身』


 最後の一戦はきっと語り継がれるであろう名勝負だった。

――(中略)──ジョルジェ選手は防面狙うキタイ選手を待ってましたとばかりに木剣で絡め取り、落剣させたと同時に打突を決めたのだ。この『木剣落とし』はリーフェス四世第三皇女・リーナ殿()()()()の宝刀だ。こんな必殺技を教えた顧問のアンジェ・カマーク先生は何とリーナ殿下とは同窓生。

 そんな顧問のアンジェ先生をどう思いますかと訊いたところ顔を真っ赤にして逃げ出す初々しい剣闘乙女、ジョルジェ選手だった。




『開催地贔屓が暴走か、宿舎に嫌がらせを繰り返した記者逮捕』


「社会的公器に求められるのは売上ではない、先ずは品位であり法令遵守なのではないのか」とヴァルガッシュ伯は定例会見で我々新聞メディアに苦言を呈したのだ。

 事の発端は剣闘術大会の選手宿舎に新聞記者が不法侵入して逮捕されたのだ。確かに弊社含む新聞マスコミには報道の自由が憲法に定められているが、勝手に宿舎に上がり込んで取材するなんて当然禁止されている。しかしその新聞記者は在ろうことか宿舎に侵入すると併設道場に金属片などのゴミを撒き散らして選手達の練習を妨害したという。たまたま近くに居合わせた官憲に逮捕されたが、記者は開催地である我々領都のために何度もやったと自供したのだ。

 その記者は他にも、夜中に騒いで安眠を妨害した、夜中に消火するよう燃料を抜いた、食事に下剤を混ぜる事もした、と言う。しかしこの様な迷惑行為を学校側が相談しても、積極的に捜査をしなかった官憲達の、それを管理するヴァルガッシュ伯の責任は非常に大きいと言うべきだろう。

「記者は事件を記事にするのが仕事であって、事件を起こして記事になるのは流行りなのか?」という伯の意見に我々新聞メディアとしては遺憾であると言わざるを得ない。



     ☆ ★ ☆



「なぁくそアンジェ」


「人の名前にくそを付けるなちんちくりん」


「この記事なンだが……、なンじゃこりゃ」


「責任のなすり付けだよ。妨害行為した記者が悪いのか、事件を放置した官憲が悪いのか。まるで卵かニワトリか」


「ってか、どっちも腐ってンだろ? ───ところでどっちが先なんだ?」


「何が」


「卵なンか? ニワトリなンか?」

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