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18話

拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。

読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。


エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

https://ncode.syosetu.com/n4841ia/



2023年3月30日 20:31  負傷位置の修正

 準決勝の相手は毎年州都大会出場の座をラングステ修女と競い合うライアリ修身だ。シュトレーメに流れるトラペ川河口の港町にある学校で、学生達の父親もしくは両親が漁業や港湾運送、商家に従事している者が非常に多いのだ。家の仕事を手伝ってるのだろうか、陽に焼けた小麦色の剣闘乙女達は年齢以上に逞しく見えた。


 そのライアリ修身だが乙女達の剣闘術歴は比較的浅くて入学してから始めた子が多いのだ。それに練習もシュトレーメ・ヴェスバンのように苛烈でもなかったのだ。新聞情報では『効率と改善』をモットーに稽古を積み重ねていると書かれていた。しかし新任指導者が稽古の熱量を急激に増やした結果、上級生が反発し離脱。結局今回は下級生を中心に出場してきたようだ。




   ★先鋒戦★


  ミノン(一回生) - メーリ(二回生)



「一同、礼! 抜剣」


 このメーリは連撃で相手の隙を付く打ち込み型らしい。そこで僕はミノンにプランAを指示、吶喊で決着を求めたのだ。彼女はコツコツと頷くと停止線で構える。ライアリの引率も指示を送るがメーリは無視、静かに木剣を構えた。


「試合、始め」


 メーリに吶喊するミノン、しかし彼女は突き出された木剣を冷静にいなしてカウンターに入る。そして連撃を繰り広げるメーリにミノンも対抗して連撃で返して乱打戦となった。前日の試合であちこちに打身を拵えたミノンに乱打戦とは厳しい戦いだろう。しかし前にルーチェもラバトも言ってたようにどれだけ打ち込まれてもミノンは音を上げない、そして心底ガッツのある娘だと評していたのだ。そのミノンは連撃の速度を上げ始めた。


「待て! メーリ選手、防具を直しなさい」


 しかし主審の宣言で中断が入り、メーリは外れた防具を直し始める。しかし余程の乱打戦で握力がないのか何度も結ぼうと腐心する。その間ミノンは何度も膝や足首を屈伸する余裕があり、僕が大丈夫かとサインを送ると問題無しと元気よく返してきたのだ。



「試合再開、始め!」


 ミノンは敢えて吶喊せず乱打戦を選んだ、そうなるとメーリも応じなければならない。その為互いに激しく木剣を振るって相手を打ち取ろうとするのだがなかなか決定打が出ないのだ。きっと苛ついてきたのだろう、メーリは大振りでミノンの防面を打ち込んできた。機を見るに敏、ミノンはすかさず練習通り左胴を打ち払ったのだった。



「払い胴一本、それまで!」


 ミノンは一礼すると闘技場に上がるジェイリーとグータッチして下りていった。昨日の負けを挽回出来る綺麗な一本だった。




   ★次鋒戦★


  ジェイリー(一回生) - ノルト(三回生)



 何度も大丈夫だと言い張るジェイリーにプランF、彼女に任すと指示を送った。ジェイリーは了解のサインを送ると木剣を構える、そしてノルトは引率からの指示を無視し構えた。


 というのも昨日の調整時にジョルジェから、「ジェイリーは右足首を痛めてる」と指摘を受けたのだ。どうやら試合後の控室でジェイリーとジョルジェがじゃれ合ってたときにミノンが飛び込んできたその時痛めたのだろうと言う。直ぐに僕はジェイリーに直接聞き取りをしたが『痛くありません、全然問題ありません』と言い張るし今朝のブリーフィングでも大丈夫だと(つよ)く主張したのだ。



「試合、始め!」


 主審の宣言でジェイリーは静観、ノルトも吶喊警戒のカウンター狙いだったため静かに試合は始まった。ノルトはカツカツ木剣を当てて間合いを取り、時々打ち込んでは離れるといった試合展開となった。ジェイリーは左移動で間合いを取り、その最中に打ち込んでいく戦法だった。

 右足首が相当痛いのだろう。左移動なら右足首に負担は掛からないし途中打ち込んでもそこに荷重は掛かり辛い。そして時々確認するかの如く右足を床に付けている。


 僕はもう無理だ試合を止めようと右手を上げようとした。こういう時は引率者がタオル持って右手を挙げれば試合中止になるのだ。しかしその右手をジョルジェはしっかり握り締めると首を横に振る。


「アンジェ先生、駄目です。ジェイリーちゃん、諦めてません」


「んでもこれで競技者生命を縮めるのは──」


「本当に辛いなら自分で申告するはずです」


「……そうか。幼馴染のジョルジェが言うなら判った」


「ありがとうございます、お叱りは私一人で全部受けますので」


「――機会があればな」



 残り時間あと僅か。ジェイリーはついに一歩踏み込んで連撃を開始してノルトを翻弄し始めた。ノルトは突然の方向転換に戸惑いそれを躱してカウンターを狙う。しかしカウンターを打たせる気のないジェイリーはしっかりと狙い澄まして打ち込んでいった。そして相手の籠手に木剣が当たり、ようやく一本取れたと思ったが


「時間終了、引き分け!」


と主審の宣言が響いたのだった。




 静かに闘技場を下りるジェイリーだったが、歩き方は歪でよたよたと上半身が揺れるのだ。マリとパティにグータッチして下りた彼女は椅子に腰掛けると僕の顔を見て笑顔で言った。


「……ごめん先生、やっぱ痛かった」




   ★混合戦★


  マリ・パティ(共に三回生) - サワラ・イーゼ(共に一回生)



 この試合でマリとパティ二人に体力温存を指示したが二人は首を振る。そしていくつか指示を出すが更に首を振り、逆にマリが指示を出してきた、『全力でぶつかる』と。僕は、彼女たちは昨日も乱打戦だったからと体調を慮ったのだが、二人はお互い籠手をぶつけ合うと停止線にて構えた。サワラとイーゼは引率の指示に二人で頷いた。



「試合、始め!」


 その合図と共にマリとパティは矢のように飛び出すと二人に襲いかかった。きっと二人も吶喊の指示があったのだろうが僅かの時間差で先手番を譲ってしまったのだろう。積極的に打ち込むマリとパティに防戦一方の二人だった。


 今回の二人は、敢えてマリとパティが背を合わせてサワラとイーゼを打ちまくる戦法だった。体力温存にもなるし、上手く隙を作れれば一対二の有利な打ち合いになる。ただし遊軍となった一人が連撃してくるリスクも抱えるが。しかし連携がちぐはぐなサワラとイーゼはマリとパティに力押しに打ち込まれあっさりと防面を一本を計上した。



「防面一本、それまで!」




   ★副将戦★


  ジョルジェ(一回生) - ラデシ(一回生)


 マリとパティから肩をぽんぽん叩かれたジョルジェが闘技場に上がる。二度三度と飛んで脱力し、木剣を構えた。ラデシはやる気無さそうにだらしなく闘技場に上がり、いきなり主審から注意を貰う。


「試合、始め!」


 先程までのやる気のなさそうな態度とは打って変わってラデシは激しく吶喊してきた。それを一つ一つ丁寧に弾きながらジョルジェは急接近、そして鍔迫り合いを持ち込んだのだ。頭一つ分背の高いラデシに肉薄するなんて倒伏などのリスクが大きいのにジョルジェは鍔迫り合いからの引き籠手や引き胴を狙う。しかしラデシも打たれまい、体格差を生かして倒伏を狙ったのだ。

 これはまずいと察したジョルジェは一旦バックステップで間隔を取ると二度ほどラデシの防面を連続で打ち込む。そしてまたバックステップで戻るのを繰り返したのだ。そして剣先が円を描くよう、右手首のスナップを効かせながら木剣を操る。そして吸い込まれるようにラデシの左籠手を打っていたのだ。そして転がり落ちるラデシの木剣。



「籠手一本、それまで!」


 秘技木剣落としが綺麗に決まった瞬間だった。



     *

     *

     *



 会場から控室までジェイリーはジョルジェとラフェルから肩を借りないと歩けなかった。そして控室に戻るとジェイリーが膝を付き頭を床に擦り付けた。


「アンジェ先生ごめんなさい、ほんとはすごく痛かったんです」


「ジェイリー君、先ずは頭を上げなさい。僕は怒ってない」


「でもすごく怖い顔してるもん」


「アンジェ先生! お叱りは、私一人でっ、受けますと!」


 ジェイリーの横にジョルジェも膝をついて深々と頭を下げた。僕は彼女たちの前に膝をついて座り腕を組んで見下ろした。


「二人共頭を上げなさい、僕は怒ってません。叱るけどな」


 恐る恐る二人は顔を上げる。既にジョルジェは目に涙を浮かべていた。それを見てミノンも慌ててジョルジェの横に膝をついて頭を下げる。


「まずジェイリー君。痛いのなら足を崩しなさい、そしてちょっと見せてみなさい」


「あの……、ちょっと恥ずかしいんだけど」


 顔を赤らめて目を背けるジェイリーに僕は立ち上がり、壁に掛かる絵画を眺めた。


「……そ、そうだなっ。──ラバト嬢とカロリーナ先生、見てもらっても?」


「ンぁ、いいぞ」「ジェイリーさん失礼するわ」


 そう言って二人はジェイリーを椅子に座らせると道着の下衣をめくり上げ靴下をひん剥いて診た。ラバトはハァと溜息を付き、カロリーナはヒッと息を呑んだ。



「――おいくそアンジェ、下手したら折れてッかもな」


「直ぐに病院を……」


「私まだやれますから!」



 ジェイリーは椅子から立ち上がると二度三度と跳ねた。ラバトは再び溜息を付くとジェイリーの肩を叩いてイスに座らせ、遠慮なく腫れてるであろう右足首を突いた。


「いだっー!!」


「無理や諦めろ、テーピングで縛ッ付ければワンチャン思ったンやが、ここまで腫れてたら無理や」


「無理を無理と言って諦めるのは簡た──」


「ばかやろう。無理を通してオメェを使い潰すンやったら決勝は棄権すりゃ良い。また来年頑張りゃいいンや。こんな腫れてンのに、まともに歩けンのに無理を通そうとすンな」


 ラバトは「静かに(ルーイヒ)ゆっくり(ラングサム)優しく(サンフト)冷やせ(キューラ)」と唱えながらジェイリーの右足首をテーピングで留める。そしてつま先痛くないか等言いながら包帯で強く縛り付けた。


「これである程度歩けるやろ、でも試合なンか無理や。ンまぁ校医のシュバンヴィ先生も同じ事言うやろな。――おいくそアンジェ、決断を」


「ジェイリー君。──諦めなさい」


「ちぇー、だめかー」


「あと、決勝の布陣は随分と変える。もちろん負ける気は無いからな!」


「はいっ!」「はい!」「ハイッ!」

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