17話
拙書『アンジェ先生転勤します』が1/13に5,000PV達成しました。
読切の記念SSがひっそりと公開されてますので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~
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試合会場から馬車で宿泊地に戻った僕らは近場の屋台で昼食にした。出来ることなら彼女らの住むシュトレーメよりも大都市なんだから、皆にお小遣いを渡して好きなものを食べてきて欲しかったのだ。しかし、せっかく勝ち上がったんだから皆で同じのを食べましょうよとラフェルが言う。皆もそれが良いと言うので、中央公園に繋がる大通りを歩く。そして僕らを見て手招きする屋台へと行った。
「なぁあんたら、シュトレーメから来た女官学校の剣闘乙女だろ」
「あぁ、僕らはザントバンク修身で間違いないよ」
僕よりちょっと上の世代は修身学校を未だに女官学校と云う人がいる。この手招きした中老店主もそういう人なんだろう。
「そかそか。あんたらのおかげで儲かったよ、ははは。だから少しはサービスさせてくれ。───あぁ、そこにいる俺の嫁がシュトレーメ出身なんでな。久々に出てきたって聞いたんで試しに買ってみたら大儲けさ、はっはっは」
そう言って中老店主はカップにワインを注ぐと僕に突き出した。そのボトルはシュトレーメのそれと違って陶器瓶のワインだった。
「あぁありがとう。――僕は飲めないんでツレに渡しても?」
「おっと、そりゃ失礼こいちまったな! 良かったら少しばかりの美酒を飲んどくれ!」
そう言って店主はラバトやカロリーナにカップを手渡す、ラフェルは物欲しそうに見やるが我慢しろと伝えておいた。
この店は鉄串に刺して焼いた鳥肉をパンに挟んで食べるという『クシケッ』という食べ物を出していた。なお帝国内には似たような食べ物が色々あるし名前もなんとなく似ているが、味付け方法や量、食べ方や値段が随分と違う不思議な食べ物だ。ただ、共通して言えるのは拝星宗徒のために鶏肉や羊肉が多く『串に刺して焼く』のはどこも変わらない。
「ほら、あんたら受け取りにおいで! あんたら中街のザントバンクでしょ? 懐かしいわねぇ。校則が厳しいってあたしの姉ちゃんが言ってたわよ。スカート丈少しでも詰めたら風紀委員がスッ飛んで来るってさ」
そう嫁が言うとミノンは少し顔を赤くする。そして僕と目が合ってしまい何見てるのよって顔で威嚇してきた。そしてジェイリーは前髪を擦るしぐさをする。夏季休暇明けの風紀委員チェックは彼女たちに色んな禍根を残したなと思う。なおジェイリーは未だにヘアピンで前髪を作っているが。
「んにしても男性の若先生かぁー、背も高くて可愛らしい顔してっから女学生たちに人気なんじゃないの? んであんたたち──」
「すまねぇな若先生。俺のカミさん、口さがないところがあってな。これは先生らの分だ、遠慮なく食ってくれ」
嫁が囃し立てるのを見てか、店主が声を掛けてきて木皮に包まれたクシケッを手渡した。
「ところでどこに泊まってるんだ?」
「この先の宿泊所だ、木造三階建てで小さな道場がついてる」
「じゃああれか……シエス寮だな? ――ちゃんと夜寝られてるか?」
「───その口振りだと何か知ってるのか?」
「……あぁ、道場がゴミだらけだったり、夜中に隣が騒がしくして選手を妨害するってな、よく聞く話だよ。どうもラングステの連中は自分らが一番にならんと気が済まんようでな、他所モンには遠慮しないんだよ。滅多に来ない所が勝ち上がって来たなら尚の事警戒してるんだろうな。――あ、俺は隣町のピルゼン出身、他所モンだ」
そう言って自分自身も他所モンと言う店主は首を竦めた。よく聞く話と言ってもそんなあからさま過ぎな事をやってて非難を浴びないもんだろうか? 今もそれが罷り通ってるのを考えたら言わずもがなといったところだろうか。
「忠告ありがとう店主。こっちにいい軍師様が居て対策済だ。まぁ出来ることなら正々堂々とやり合いたいがな」
「ほう、流石は短期間で仕上げてきた名将サマだな。決勝にも勝票券は買ってあんだから、また稼がせてくれよな?」
「えぇ、なるべくご期待に添えるよう彼女らに言って欲しい」
と僕はそう答えた。
領都観光は帰る前日にしようと言って宿泊地に戻ると、彼女らに二刻ほどの昼寝を指示した。早朝から激戦だったのだ、食事して少し寝てから調整に入った方が身体の負担も少なかろう。どれだけ鍛えてあっても年頃の乙女だ、身体をいじめ抜くより程よく休めたりした方が良いに決まっている。あとラバトとカロリーナは一杯飲んだんだ、彼女らは無理せず休んだほうが良い。
と言っても僕には僕の仕事がある。道着に着替えて、モップを手にし道場に向かった。渡り廊下を歩いている最中、ドタドタと道場から何かが聞こえてくる。
「ちょっとあんたら! 待ちなさい!」
ルーチェの怒声と共に中年男性二人が道場から飛び出してきた。その中年男性達は棍棒を振り上げてきたので、僕は冷静にモップを突き出し、そして払った。
「ぐっ」「いだッ!」
一人は喉にモップが直撃して蹲り、もう一人は脇腹を抑えながら逃げ出そうとした。だがルーチェは何かを放り投げるとその男は派手に転倒した。そしてその二人に長めの木剣を突きつけるとルーチェはこう言った。
「これ以上逃亡するなら、帝国警官職務執行法に従ってその足、叩ッ折るわよ。――あ、これ私の身分証……、王宮警護隊ルーチェ・リングィナよ!」
蹲る男は両手を挙げ降参を示し、もう一人はルーチェの投げ縄で転倒し顎を打って目を回していた。その目を回してたのが、ラングステ日報の記者だったが。
「今から建造物侵入罪の現行犯であなた達の身柄を拘束するわ。アンジェリカ、悪いけど官憲を呼んできて――」
「――リーナ殿下、私が控えております」
「あらステヴィア、久しぶりね。―――今すぐ領都所属の官憲と王宮警備隊所属の官憲を呼んできなさい。あと、この書状を王宮警備隊経由で家令ジャニスに渡すようお伝えしなさい」
「はっ」
このステヴィア、御者の助手さんだったよな。エドヴィシュが言った通り、どこにどんな監視が付いてるか解ったものじゃないな。そのステヴィアは彼らを後手に手錠を掛けると静かに走り去っていった。
「はぁー、試合中に次段を仕掛けてくると思ったから張ってたのよ」
ルーチェは渡り廊下に置かれたゴミ箱に腰掛けると足を組み、ふぅと溜息を付いた。せめて横にあるベンチに腰掛ければいいのにと僅かに過ぎる。
「とはいえ今回はお転婆にも程があるだろ。もしルーチェ嬢がこいつらとカチ合って大怪我したらどうするつもりだよ」
「ん、アンジェリカは私を心配してくれるの?」
「当たり前だろ。ルーチェ嬢を心配しない時なんか、無い」
「そうやって人の心を弄ぶんだから、私はあんたの事が……」
「――ん、なんか言ったか?」
「何も言ってないわよ! ――ここから先はあの子たちに知られたら士気に関わるわ。アンジェリカは何も見てないし知らない、良いね?」
「また危ないことす……」
「良いわね?」
「あぁ。ルーチェ嬢に任せるよ。頼むから危ないことはしないでくれ、心配かけさせないでくれ」
「――わかってるわ」
「さて、明日は準決勝、勝ち上がれば決勝。……負ければ三位決定戦だ。最終確認なんだが、皆はどこまで行きたいんだ? えっと、マリ君」
「はい、優勝です。ねぇパティ」「えぇ、良い響きですよね勝ち上がり、ねぇパティ」
「そうか。皆は一生懸命練習してきたし頑張ってきてるのは知ってる。でもな……、今まではうまく行ったけど、ここから先は本当に強い者しか勝ち上がっていけないんだ」
「………」「――はい」「――ッ」
「もちろん僕らは勝ち上がると信じてる。でも身体を動かして調整をしておこう」
僕らは主に打込み稽古を中心とした調整を行った。やはりミノンは打身で痛かったらしく動きが緩慢だったので調整も休ませることにし、ラバトに治療をお願いした。他にもマリとパティにも疲労が見られたので軽め調整に留めた。しかし今回試合に出なかったジョルジェは元気いっぱいのようだ。
「アンジェ先生、一つ相談あります」
しかし調整の途中、ジョルジェが云う、どうしたと訊くと明日に繋がる一言だった。
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