ダング
翌朝、朝食を済ませた四人は、再びエルバード王のもとへ呼ばれた。広間には重臣や兵士たちが集まり、大きな机に地図が広げられていた。
「昨夜、皆と話し合った。我らも兵を出そう。武器と食料も用意する」
王の言葉に、マリアは頭を下げた。
「ありがとうございます。これで心強くなりました」
「南方からも義勇軍が北へ向かっているとの報せが入っておる。そちらにも使者を送ろう」
「では、わしらはその義勇軍と合流しましょう。別々に戦うより、力を合わせた方がよいでしょうからな」
王はうなずき、地図の上で義勇軍が進んでいるという道を指した。
「兵を集めるには日数がかかる。お前たちには先に向かってもらいたい。それと、一人連れていってほしい者がおる。ダング、前へ」
兵士たちの間から、一人のドワーフが進み出た。厚い鎧を着て、背中には体が隠れるほどの盾を背負っている。腰には斧が下がっていた。
「ダングだ。よろしく頼む」
短く名乗ると、マリアに頭を下げた。
「ダングは、昨日話した王子の弟だ。長兄亡き後、王位継承権を持つ身でもある」
「そのような方を、わしらに付けてよろしいのですか」
マリアが聞くと、王より先にダングが答えた。
「俺から願い出た。城にいても、一族の信頼は取り戻せん。それに、兄の後を継ぐからには、俺自身の力も示しておきたい」
ダングは背中の盾を下ろし、床に立てた。
「道案内も護衛も引き受ける。戦いでは俺が前に立つ」
「そうかい。それなら、こちらからもお願いするよ。見ての通り、前に立ってくれる者がいなくてね」
マリアが三人を振り返ると、シオンは目を輝かせてダングに近づいた。
「ねぇ、王子様なの? 私、シオン。よろしくね」
「フン」
ダングはシオンを一度見ただけで、王の方へ向き直った。
「陛下、ドワーフが今度はともに戦うことを、この盾で示してまいります」
「頼んだぞ。無事に戻ってこい」
ダングは深く頭を下げた。
シオンは隣にいるペーターの袖を引いた。
「ねぇ、私、何か変なこと言った?」
「いや。お前に構ってる場合じゃないんだろ」
話し合いが終わると、ダングは四人を城の中庭へ案内した。兵士たちが盾を構えたり、斧を振ったりしている。
「出発の前に、お前さんの盾の使い方を見せてもらえるかい」
マリアが言うと、ダングは近くの兵士を呼んだ。二人は練習用の斧を持ち、ダングは盾を構えて兵士と向かい合った。
兵士が踏み込み、斧を振り下ろした。ダングは盾を少し傾けて受け流し、そのまま前に出た。盾で押された兵士は、二、三歩後ろによろめいた。
ダングは右手の斧を、相手の胸の前で止めた。
「ここまでだ」
兵士が頭を下げると、ダングも武器を下ろした。
「わぁ、盾って防ぐだけじゃないんだね」
シオンが駆け寄った。
「フン」
「ねぇ、持ってみてもいい?」
返事を待たずに盾を持ち上げようとしたが、少し浮いただけで地面に落ちた。
「お、重い……」
「お前、足に落とすなよ」
ペーターが慌てて手を貸した。二人がかりで立てると、ダングは片手で持ち上げ、背中へ戻した。
「まあ、お前たちが持つものではない。敵は俺が止める。その間に、後ろから攻撃すればいい」
「た、助かります。私、踊っている間は、周りを見られないことがあって……」
チッタが言うと、ダングはうなずいた。
「俺の後ろにいろ」
「でも、それだと大きな魔法はダングに当たっちゃうよ?」
シオンが言うと、マリアがすぐに答えた。
「だから今まで小さく出す練習をしてきたんじゃろ。味方ごと吹き飛ばすんじゃないよ」
「あ、そっか」
ダングはマリアを見た。
「……本当に大丈夫なのか」
「これから覚えさせるよ」
その後の二日は、旅の準備に使われた。
ペーターは保存の利く食料を選び、チッタは空いた時間に踊りの練習をした。マリアは王や重臣たちと、兵を出す時期や義勇軍への連絡について相談した。
シオンは、盾の陰から的を狙う練習をした。外れた魔法で植木鉢を一つ割り、マリアに叱られた。
出発の朝、城の前には食料を詰めた袋や水袋が用意されていた。ダングは一つずつ確かめると、自分の荷物を背負った。
城の脇では、兵士たちも荷車に武器や盾を積み込んでいた。
「お前たちが出た後、こちらも準備が整い次第出発する」
見送りに来た王が言った。
「よろしくお願いします。義勇軍の様子が分かり次第、こちらからも知らせましょう」
「うむ。ダング、皆とよく協力するのだぞ」
「承知しました」
ダングが頭を下げると、シオンたちも続いて挨拶をした。
「王様、ご飯おいしかったよ。ありがとう」
「そうか。次はもっと落ち着いて食べるのだぞ」
王は笑って一行を送り出した。
ダングを先頭に、五人は街を横切った。店では朝の準備が始まり、鍛冶場からは槌の音が響いていた。
南へ続く通路の入り口まで来ると、シオンはコトラを抱き直して街を振り返った。
「広いのに、まだ全然見てないところがあるよ」
「遊びに来たんじゃないだろ」
「分かってるよ。魔王をやっつけたら、また来ればいいんだもんね」
ペーターに言い返すと、シオンは先を行くダングの横へ並んだ。
「ねぇ、ダング。ここからどれくらい歩くの?」
「フン」
「それじゃ分からないよ。もう、ちゃんとお話ししてよ」
ダングは答えず、そのまま通路へ入っていった。
シオンは頬を膨らませながら後を追った。南へ続く通路に、五人の足音とシオンの声が響いていた。




