ドワーフの王様
牢から出された四人は、兵士について城の中を歩いていた。地下牢とは違い、廊下には明かりが並び、壁には斧や盾が飾られていた。
「ねぇ、ペーター。王様に会う時って、どうすればいいの?」
「頭を下げて、余計なことを言わなきゃいいんだよ」
「ふーん。それなら簡単だね」
シオンはコトラを抱き直した。ペーターは何か言いたそうにしたが、マリアに呼ばれて口を閉じた。
大きな扉の先には広い部屋があった。奥の玉座には、白い髭を胸まで伸ばしたドワーフが座っている。左右には重臣や兵士たちが並んでいた。
「我はジルビッド王、エルバード。お前たち、何の用で我が国へ来た」
マリアが前へ出て頭を下げた。
「わしはマリア・マンダリア。セレネータ王国から参りました」
「マリア・マンダリア……五英雄の一人か」
「そう呼ばれております」
周囲の者たちがざわついた。王はマリアをしばらく見たあと、うなずいた。
「失礼な扱いをした。王都が落ちたという噂が届いてから、出入りする者を厳しく調べておるのだ」
「その話は本当です。わしは魔物に占拠された王都を見ました。魔王グリッドルフを封じた珠も奪われております」
「なんと、封印の珠までか」
王は驚き、身を乗り出した。
「このままでは、いずれ魔王が復活してしまいます。その前に力を合わせて戦いたい。どうか、ドワーフの皆様にも協力していただけませぬか」
マリアの言葉に、王は腕を組んで考え込んだ。
シオンも今度ばかりは黙って待っていた。抱かれているコトラだけが、退屈そうにあくびをした。
「エルフには頼んだのか」
「シュレッドに会いました。けれど、先の大戦で多くの民を失い、まだ立ち直っておらぬと。これ以上の犠牲は出せないと断られました」
王は小さくうなずいた。隣にいた年老いたドワーフも、顔を曇らせた。
「そうか。あの者たちは、まだ苦しんでおるのか」
「王様たちも、十二年前に戦ったの?」
シオンが聞くと、ペーターが袖を引いた。だが王は手を上げ、それを止めた。
「よい。お前たちにも話しておこう。我らドワーフは、あの大戦には加わらなかったのだ」
「どうして?」
「当時の王子が、魔王の言葉を信じてしまった。戦に加わる必要はないと言い、我らを説得したのだ」
マリアは黙って話を聞いていた。周囲の者たちも、誰も口を挟まなかった。
「我らは王子に従い、兵を出さなかった。人間やエルフを攻撃したわけではない。魔王軍と一緒に戦ったわけでもない。ただ、この国に閉じこもっておった」
王は広間を見回した。
「その間、外では多くの者が死んだ。人間も、エルフもな。だが、この国の民は戦火を免れた。我らだけが無事だったのだ」
シオンは周囲を見た。先ほどまでこちらを厳しく見ていた兵士たちが、今はうつむいている。
「じゃあ、その王子様は?」
「最後には魔王に反旗を翻した。そして、死んだ」
シオンは何も言えなくなった。コトラが腕の中でもぞもぞと動き、その背中をなでた。
「王子は命を落とした。だが、それで我らが戦わずに済んだ事実まで消えるわけではない。あの戦で家族を失った者に、我らは何と言えばよいのか」
王はマリアを見た。
「お主たちは魔王と戦った。その間、我らはこの国で守られていた。そんな我らを、今も頼ってくれるというのか」
「ええ。そのために、ここまで来たんじゃよ」
マリアは静かに答えた。
「昔のことを責めに来たのではない。今、魔物に襲われている人たちをどう助けるか、その相談に来たのです」
王はすぐには答えなかった。
すると、傍らの老いたドワーフが一歩前に出た。
「陛下。今度も門を閉ざしておれば、我らはまた同じ話をすることになりますぞ」
王はうなずいたが、その顔は険しいままだった。
「兵を出せば、今度は我らにも犠牲が出る。簡単には決められぬ」
「だから、みんなで助け合うんじゃないの?」
シオンがマリアの横から言った。
「私、一人だったら何回もやられちゃってるよ。でも、ペーターもチッタちゃんも助けてくれたし、ママもいるから、ここまで来られたんだよ」
「お前の場合、まず勝手に飛び出すのをやめろよ」
ペーターが小声で言った。
「分かってるもん。それに私だって、ちゃんと助けてるでしょ」
「まあ、それはそうだけどさ」
シオンは王に向き直った。
「王様たちも一緒だったら、もっと助けられると思うの。私、けがを治す魔法も使えるし」
「あ、あの、私も少しなら……」
チッタも小さく手を上げた。
王は三人を見てから、マリアに目を戻した。
「ずいぶん頼もしい子たちだな」
「手のかかる子たちでもありますがね」
マリアが答えると、王は少しだけ笑った。そして重臣たちに向き直った。
「兵と物資を調べよ。どれだけの力を出せるか、話し合いたい」
重臣たちがうなずいた。
王は玉座から立ち上がった。
「マリアよ。我らも協力しよう。過去を悔やんでいるだけでは、今襲われている者は助けられぬからな」
マリアは深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「詳しい話は明日にしよう。まずは旅の疲れを取ってくれ。部屋を用意させる」
「また牢屋?」
シオンが聞くと、王はあきれたように笑った。
「客室だ。荷物も返そう。食事も用意させる」
「やった! ありがとうございます!」
シオンが勢いよく頭を下げると、コトラが腕から滑り落ちそうになった。慌てて抱き直すシオンを見て、マリアがため息をついた。
「食事と聞いた途端にこれじゃ」
「だって、ちゃんとご挨拶したよ?」
ペーターが何か言う前に、シオンのお腹がぐうっと鳴った。




