847◇例え星の数以上にいたとしても
◇◆片瀬花奈視点◆◇
──異性は星の数ほど存在する。
主に失恋時に用いられるこの励まし方を聞いたことがない人……はそこそこ以上にいると思うけれど、この励まし方を知らない人というのはあんまりいないと思う。
なら、本当にそれが正しいのか考えてみよう。
まず、私達の住んでいる銀河系には概算で2000億の星があると言われている。
この時点で今までに生まれた異性の数の総和を合計しても届かない気がしているけれど、まあ気のせいだとしよう。
じゃあ宇宙には幾つの銀河が存在するのか。アンドロメダ銀河、天の川銀河……と数えていったらキリがないくらい存在している。確か2兆個くらいだったはず。
で、残念ながら天の川銀河君は銀河内星の数バトルにおいて平均値以下だって事実もあるのよ。例えばさっきのアンドロメダ銀河君は1兆くらい星があるし。
ここで少なめに見積もって1銀河2000億星と仮定してあげよう。
以上の仮定から簡単に計算出来ることではあるけれど、2000億×2兆で……4の後に0が22個とか続く数。すなわち、400垓。異性の数は概算すると400垓以上らしい。
天世の最終盤が80億越えたくらいだから嘘でしょ、と切り捨てることも簡単に出来るけれど逆に考えてみたい。これが真実となるほどに、人類が今後発展していくと考えよう。
つまり、大体誕生した人類の数が800垓になった時に人類という種族は完全に根絶される、と。
そう考えれば、『異性は星の数ほどいる』という言葉は成立するんじゃないか。じゃあ、こっから奇跡が起きて人類数倍々ゲームが始まったとして何年でそうなるのか。80億スタートだとしたら、50世代位だから……1,500年くらいかな。
というわけで、1,500年後の人類滅亡予言をしたって認識でいいね。そんな片瀬花奈です。
リルトンが次の敵だっていうマクイロコチトルの情報を読んでいたら、ラスティに話しかけられてそのまま素直な本音を話した照れ隠しとして、人類を滅ぼしてたところ。
「あれ?今って何時くらいだっけ?」
最早昼夜感覚すらボロボロになっているともいう。
正直『今は朝』って言われても『今は夜』って言われても、まああり得るな……って流す自信がある。華の女子高生(年代)がやっていい生活リズムではないなぁ。
アリス達と一回離れて気分リフレッシュしようとした。
ノアにつれられた結果、ソフィアさんとお話した。
それでその後リルトンにボゴされて、ラスティとのお話をして今か……
多分夕方くらいでしょう、と大体の検討をつけてラスティの返答を待つ。
「まあ午後三時。おやつタイムってとこですね」
おやつタイムか……まだ別にお腹空いてるわけでもないのよね。
「ならアリスのとこに顔出してきたらどうですか?私はここでやりたいことがあるので、同伴は出来ませんが」
それもそうね、とラスティに別れを告げて歩きだす。
歩きだす。つまり、右足と左足を交互に動かさなきゃいけないんだけど……致命的ミスに今気づいた。
アリス、今どこにいるか知らない。
適当に彷徨ってリルトンに遭遇でもしようものなら、全然蹴られそう。
『恋人の居場所も知らなくてどうすんの?頭わいてるんじゃない?』って。
いやでも、居場所を知らなきゃ不安になるってそれはアリスのことを信頼してないみたいじゃん?と脳内のイマジナリー・リルトンに反論しながら、アリスを探す。
まあ都合よく転がってたりしないよね……
はぁ、と虚空に向かって息を吐きながら『天異境』における自室に帰宅する。
「ただいまー……?」
一応の礼儀として。そして、昔の習慣の名残として誰もいないであろう空っぽの空間に向けて放ったつもりの言葉。
けれど、電気が煌々と部屋を照らしているのが予想外その1で。
アリスとセリアが二人ともいたっていうのが想定外その2。
ここまではいいのよ。ちょっと驚いたね、ってだけで待っててくれたのかな?と心がほっこりするハートフルストーリー。
予想外その3は、アリスがとても私に似ている精巧な蝋人形にキスをしようとしてるところ。
そして予想外その4は、セリアがそれを見てかなり真剣そうな表情でメモを取ってるところ。
「?????」
とりあえず魔銅を用いて蝋人形を壊すところまでは、自動反射的に体は動いた。脳は全く動いていなかったから困惑の表情を浮かべながら。
はたから見ると人型のものを困惑の表情を浮かべながら破壊するヤバい人ではあるな、と『観測』を用いた客観視を挟む。
「こ、壊されちゃいました……!」
え?そんな貴重品……なわけないな。
確かに蝋人形っぽいけれど、どうせアリスが魔術か何かで作ったやつでしょう。確かに精巧性的に売れば高くなるんだろうけど……市販するものじゃないよね。
「いや何やってるの?」
「キスの練習。流石に本人で練習するのは良くないから……」
百歩譲ってそうだとしても、本人型蝋人形で練習するのはもっとダメだと思う。付け加えるなら、それをセリアに見せるのはもっと意味がわからない。
「セリアは助言役として必要」
でしょ?みたいな面してるの、すごい腹立つなぁ……
王女のとち狂ってる行動に付き合わされてる伯爵令嬢から封建性の恐怖を思い知りかけてたんだけど、セリアもセリアで乗り気っぽいんだよね。なんで??
「私もその内結婚することになるじゃないですか」
私が「そうね」と発言するまでにかかった時間は約3秒。
本当にセリアが結婚出来る……はまだあり得るのか。一番あり得ないのは“お付き合い”だと思う。結婚はほら、アリスとかが置物の花婿をそこら辺から拉致してきて監禁すれば偽装結婚出来るし。
「その時はやっぱりキ、キスとか……しなくちゃいけないわけですよね?」
この恥ずかしがり方から、予期している未来まではまだまだあるなぁと安心する。
ちらりと視線をアリスに向けて、セリアの婚約関連で案とかあるの?と無言で問いかける。
一瞬悩んだ素振りを見せてから、ふるふると首を動かすアリス。もちろんその方向は左右。つまり否定の意味。
「正確にはあった、だけれど……」
ひらひらと振られているアリスの手で何個の婚約話が白紙に返されたのかは、ちょっと気になるわね。
「え?あったのですか?」
そして本人も知らないと。
そういう隠匿体質……いや、ドロドロとした政争に関わらせないという意思は本当に尊敬出来る。要は自分で簡単に出来ちゃうから、私達に手を煩わせたくないという強い強い気遣い。
だけど、それは視点を変えれば信頼していないようにも見えちゃうから困りものなわけで。
「あった。5件……侯爵家から2つ、伯爵家から2つ、子爵家から1つ」
しかも割と上のほうから来てるじゃん。
侯爵家、7家しかないんだからその内2家から来てるって……もしかしなくても、セリアってかなり人気物件?
「え!?侯爵家からですか!?」
伯爵家という立場で侯爵家からの婚約要望を断れるか、という悩みからか不安そうな顔を見せるセリア。
あれだよね、婚約は前提として相手がわからないからこその不安とかじゃないよね?
「安心していい。もう既に全て断った上に……正直、王族としては届いた縁談に“旨味”があまりないから」
アリス個人の感情としても断りたいし、政治を司る王族としても面白いものじゃない。すなわちその婚約を祝福する理由がない、と言いきるアリス。
だからってこの国で上から数えたほうがよっぽど偉い立場からの求婚……しかも他人への求婚を断れるって何だろうね。
「イリエスト侯爵と、オリエント侯爵。二人ともセリアの政治的価値を低く見積っている」
はぁ、と呆れ声を出しながら『確かにそっちの都合もあるのかもしれないけれど』と言葉をこぼす。
「最低でも長男を出す位の気概は見せて欲しい。血縁に入れよう、ではなくセリアに家を乗っ取らせる位の気概は見せて欲しい。花奈もそう思わない?」
突然アリスに話を振られた私としては、困った表情を浮かべるか苦笑いを浮かべる以外の選択肢が許されていない。
最低ライン、高くない?とは口が裂けても言えない雰囲気。
というか侯爵家からの婚約要求を断ったとなると、逆に了承出来るのが王族とか公爵家だけになるんじゃない?侯爵家の面子的に。
仮に王族と婚約することになったら、私と文字通り家族になるバグが発生するわけですが……
と、明るい家族計画を雑に脳内で組み上げる。
「それはそう。個人的には王族でも釣り合うかわからないんだけど……」
【究聖女】という職業。あれ、ボロ雑巾でももっと丁寧な使い方してるだろってレベルで使い倒されてるけど、もっと丁重に扱われてしかるべき職業だからね。
手足吹き飛んでも余裕で再生出来る魔法に、爆撃連打されようと一切衝撃を通さない障壁異法。明らかに魔術文明ってよりは魔法文明の水準だし。
「そ、そんなことないですよ!というか仮にそうだとすると、私が婚約出来る相手がいなくなっちゃうじゃないですか!」
だからそういう話をしてるんだよね……




