DEE◆『凛魁賭博』マクイロコチトル-1
◇◆とある翻訳家の記録頁◆◇
『凛魁賭博』マクイロコチトル。
称号が指し示す通り賭博が原義となった……ある意味で、ボクと対極の存在だ。
あれは……正確に表現するなら、彼女は余人とは違う形で人類文明の享楽を目指した存在。永劫の安寧を、永遠の悦楽を人類に与える為の存在。
ああ、当然だ。人類文明を享楽とし、激動の悲劇と曇天の世界を人類から貰う為のボクとは真逆の存在だとも。
だが、まだ彼女と対称的な点がある。
ボクは人類に限りなく寄せられた異常存在ではあるが、彼女は今や異常存在に限りなく寄せられた人類という点。
そう。これを理解する為にはまず彼女、セノア・シーリーンについて説明しなくてはいけない。
セノア・シーリーン。「空間歪曲装置」を作った──“観測の君”には『空域歪極』の元となった装置と表現したほうがわかりやすいだろう──カルタス・シーリーンの妹の名前がここで出てくる理由。
それは単純な因果によって構築されている。
彼女がマクイロコチトルを奪い取った、ということだ。
なるほど、わからない?それも無理はない。
エネステラを。人類を発展させる為の道具を人類が乗っ取る、という構図は理解するには時間が必要だろう。
その実、彼女は他の研究者達とは異なり完全なぞ求めていなかった。
そういう意味での彼女にとっての同士は、天整統や兄だけだったのかもしれないが……今となってはどちらであろうと変わらないだろう。
趨勢は決した。文明裁定機という完璧追究装置が完璧以外の人類を棄却することが総意として決まったのだ。
例えそれが不正解だとしても、袋小路だとしても人類の世界は総意に従って進んでいく。
その結果。セノア・シーリーンという人類は如何なる道を選んだのか。
答えは、エネステラとの融合ではある。人類範疇生物であるが故に個人の意見が尊重されないならば、自身が異常生命体となれば良い。圧倒的な力量で以て意見を押し通す。
そんな覚悟が何故か彼女にはあった。
セノア・シーリーンは科学者であって、同時に3npに……魔法に詳しい魔法学者であった。
ああ、言い直そう。彼女は科学文明時代唯一の“魔法使い”だ。
科学という合理に満ち溢れ、魔法という概念は異常存在という隠れ蓑に覆われていた時代における唯一の魔法使い。
そうだな、今の時代に習って称号をつけるなら……『人類代表』セノア・シーリーンにでもなるだろう。
彼女の意思の強さ、人類への愛は……私や『夢幻空間』にとっては毒にも薬にもなるだろうね。それほどに、彼女は人類のことを真摯に考え続けていた。
ボクが科学文明の物語を描くとしたら、間違いなく主人公は彼女になる──そう断言するほどの傑物だとも。
ああ、だからこそキミ達には打倒して欲しい。ボクが総力を上げて意思を踏みにじってもいいのだけれも……やはり、時代遅れの主人公は今を生きる人達によって倒されるべきだとと思わないか?
キミの時代はもう終わっている。もう無駄な足掻きはやめたまえ、とね。
おっと、私情が入ってしまった。話を戻そう。
それで彼女はエネステラになろうと決意した……ということまでは述べたわけだが、決意した彼女はどうしたのか。
マクイロコチトルを取り込んだのさ。エネステラというのは極論、何らかの科学的物品に対して魔法を使い異常生命体とした存在。それはボクだって例外ではない。
彼女は一度定着したそれと共に、自身を主核としてマクイロコチトルに取り込ませた。
確かに理論上は可能だ。ボクという双核存在がいる以上、エネステラとしての整合性は取れる。人類というのも当然、異常なき物品であり……核としての条件を満たしている。人類が材料となっているエネステラは少数だが存在している。
ひとつひとつの要素を見てみれば前例があるものしかないが、それら全てを複合させられるとは限らない。創発特性という概念を知らないのか?と問い詰めたくなるような行動力と、幸運に恵まれた結果生まれたのが『凛魁賭博』マクイロコチトルだ。
いや一瞬の名前ではあったが、一応正式に言っておこう。
あの瞬間。融合のその瞬間、彼女の名は『光凛魁聖/臨界賭博』マクイロコチトルであった。
……さて、ここでマクイロコチトルという賭博の神が持っている異常について幾つか解説しておこう。
まず示したいものは、変質前の《臨界賭博》。
元々、『臨界賭博』マクイロコチトルというエネステラは極限まで突き詰めた“停滞”を空間に固定するエネステラであった。それなのに何故賭博という称号がついたのか、はボクにもわからないが……ともかく、停滞を是とする異常生命体であった。
そんな災害級エネステラの名を冠した《臨海賭博》。
その効果は、停滞空間作成。
ステータスを始めとした、全てのパラメータを固定するという魔素の荒業。
HPが減らないが故に命は脅かされず、所持MPが減らないが故に尋常には戦闘が終わらず──精神が打ちのめされるまで何もかもが無意味になる。マクイロコチトルが解除しない限り、永劫に停滞が支配する世界が展開される。
実際、真の反則なんて世界は許さないのだから撃ち破る方法はあるが……それを教えるのは面白くない。
何らかの因果が作用して、身を以て実感するかもしれないからね。
そして、セノア・シーリーンが融合したことで変質したそれは──名前を《凛魁賭博》と変えることになる。
そしてこれが問題なのだが……この《凛魁賭博》にはいくつか種類が存在する。
例えば《凛魁賭博:進化楽園都市》。
恐らく、基本的に展開しているのはこれだが……この空間内では“賭博”がルールになる。戦闘時にも、対戦相手が賭博で“稼いでる”ほど強くなり “負けている”ほど弱くなる。
まあディーラーである『凛魁賭博』本人の強さは言うまでもないだろう。
一方、ボクが一番困ったのは《凛魁賭博:人類存続証明》。
停滞として持ちうる防御機能を全て、人類にとっての敵対存在特攻に書き換えるものだが……安心したまえ。これにひっかかるのは、きっと『観測』だけだとも。
そういえば知らない間に誕生日を過ぎていた人がいるらしいですよ。片瀬花奈っていう名前なんですけれど……
しかし何も用意していないっていうのも事実なので、今度隙を見て何かしら更新することで誤魔化したいと思います……!




