842◇相棒と恋人の状態極限値
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──ラスティリア、或いは片瀬ラスティリアと呼称される存在。
私の唯一無二を誇ってくれる相棒でもあり、これからの人生において欠かせない大切な人の一人。
第一の古代文明……科学文明時代の最終盤に製造され、製造者達の『人類の存続』という総論が一致した為に様々な機能を山盛りに搭載したロマンの塊的存在。
自在射撃に変形機能は当然、感情を搭載しているは魔法を扱えるは自己進化出来るはとロボットとしては落第点を決めている存在でもある。
ふと、そんなことを考えながら何となくラスティの中核──ラスティリア・コアと昔名付けた球体を取り出す。
あの時のラスティの言っていたことを纏めると、『コアを壊されたら、私は死ぬ』ということ。
それを、当時は見ず知らずに等しい関係性であった私に預けるという意味。
「ねぇ、ラスティ」
アリスやセリアが来ない内に。余人に、今だけの空間を壊されないうちに訊いておきたいと思った。
「なんですか?珍しく核──私の命その物を持っていますけれど」
先ほどまでの赤面は何処へ行ったのやら、まさに命を握られているというのに平常心で振る舞うラスティ。
私からしても、ラスティからしても当たり前の光景に異様さを見出だす。
「まだ出会ったばかりの時からこれを私に持たせているのは……もしくは、持たせてくれたのはどうして?」
意思なきAIだったのなら、ロボットだったのならわかる。
操縦者がいなければ動けない、という当然の道理を通す為の行動になるのだから。
一方で、ラスティは違う。あの時あの瞬間からラスティはラスティリアであり、人類であった。
「……起動した人に渡せ。そんな命令があったかもしれませんよ?」
露骨に誤魔化そうと煙に巻き始める。
改めて、私もだけれど……アリスにセリアにラスティ。全員揃いも揃って秘密にしていることがあるの、不思議過ぎる。
それでいて信頼関係は本物だというのだから、余計に。
「違うね。だとしたら──」
「あるとしたら、それは花奈が断ち切ったラストホープのほう、ですか?」
言おうとしたことを回り込まれる。
この手の会話において、事情を知っているほうが主導権を持つというのは少しだけ危なっかしい意味合いを持つ。
それは、何か説明を飛ばされたとしても気づけない可能性があるから。
まあでも大丈夫か、と油断して話を促す。
「大正解です、それと案外遅かったですね。正直いつ気付かれてもおかしくないと思っていましたが……うん、あれですね。そんなこと以上に忙しいことが沢山あったから仕方ありません」
「いや」
まるで私がラスティのことを後回しにしているような言い方に、そうではないと否定の意思を伝えようとする。
その一歩を踏み出して……二歩目を踏み出す前に、遮られる。
「わかっています。花奈は私を便利なモノ扱いなんてしていませんよ。それぐらいはわかってます。個人的にちょっと拗ねるくらいの話ですから」
なら私も個人的に言うけれど、その『個人的』が私にとってはかなり重要なんだよなぁ……!
「その気持ちは嬉しいので受け取って置きますね、っと……こほん」
咳払いが響く。個人的な感傷による話はここまでだと言わんばかりの音。或いはその真逆。
ほんの軽いジャブはここまでで、ここからが本命の感情。
「あの時。花奈が私を助け出してくれた時。私は──」
人間のように震える声、揺れる感情、その全てが彼女が人類であると主張してくる。
しかし。返ってきた答えは予想の真逆。私が少し足りとも予測していなかった結末。
「私は、最悪だと思ったんですよ」
「この人に渡したら、さっさと終わらせてくれるって思って──」
「ふーん」
スイッチが入ったのか、口が回り始めるラスティ。
どう見ても本心でないとわかるその言葉の羅列に肯定にも否定にもならない相づちを挟み込む。
私が『観測』ならば、今のラスティの発言を真実と認めていた。人類には“完全な演技”は不可能であるという理由から。
けれど、ダブルスタンダードという特権を持っている私は嘘だと判断した。
ラスティがラストホープとしての……機械としての能力を使って、“完全な演技”をしているだけだと。
それよりも私が気になっているのは、どうしてこの局面で嘘をつく必要があったのか。
ここには私とラスティ以外誰もいない。リルトンも、アリスも、セリアも、製造者達もいない。
つまり、嘘の要因は“私がいること”か“誰かがいないこと”。
「……前だったら騙しきれたはずなんですけどね」
「残念。人類は時間と共に“進化”するのよ」
ラスティは苦笑を浮かべながら、『やっぱり本音を言うのは難しいことですね。気軽な関係性だからこそ』とこぼす。
思わずといった様子でこぼれたその言葉に、同意を示さざるを得ない。
普段からしっとりウェットで重々感情で殴りあってる間柄ならいいのよ。日常の延長線上ということで平然と話せる。
一方、いつもはバカやって遊んでいるような人に対して深いところの本音を言うっていうのは難しい。特に私達みたいな人はね。
重い話は苦手なんですよ、と愚痴のようにこぼしてから──人間味を見せてから、彼女は言う。
「“対等な関係”としての一目惚れ。悪いですか?」
「……え?」
「ああもう!本人に解説させないで下さい!出会った時、この人なら生涯相棒でいてくれるって思ったんですよ!救ってくれたから、とか容姿が、とかじゃないんです!その存在性に──私はっ、相棒として一目惚れしたんです!悪いですか!?」
「え、いや……悪くはないけれど……」
「だっていうのに花奈は酷いんですよ!私がいなくなった後のことを考えろ~って!」
ちょっと待ってね。嬉しさと困惑で脳の整理が追い付いてない。実質恋愛的告白と同じなのでは?とか考えてしまうのはアリスのせいなのか、それとも正常な思考なのかもわからない。
「花奈もアリスに言われてみてくださいよ。『私が死んだ後、どうにか生きられるように新しい好きを見つけて欲しい』って!」
あれ?うん?
本格的にわからなくなってきた。引き合いにアリスをだすってことは本当に恋愛感情的なお話?
ちょっと待ってね。その場合本気で政治的には面倒臭くなるし、アリス的には殺されかねないし、私的にはアリスを一端除外視すれば何か天運の巡りが異なれば悪くはない感じなんだけど……
アリスがいる以上無理なものは無理。アリス以外からの告白を全自動で却下するマシーンになってしまう。
「えっと、お付き合いの申し込みということでよろしい感じ……?」
「頭お花畑ですか?そういうのはアリスとやってください。私には寝取りとかいう性癖はありません!」
問題点、そこなの……?
「というかそもそもっ、恋愛感情じゃないんですよ!相棒としての親愛?というか……そっちなんです!ともかく!」
そこら辺、流石に勘違いしないで貰いたいです!と身振り手振りを使ってくるラスティ。
えーと、うん。それは重々前向きに検討していきたいんだけど……私の思考が追い付いてない。
喉元ギリギリまで『つまり、どういうこと?』という禁句が漏れかける。
いくら私でも、それを言ったら怒られるってことくらいは簡単に予期できる。
「花奈はまだ親しい距離感の人を見ると全て恋愛に結びつける中学高校生的精神レベルですからね、全く。仕方ないです……!」
どうも、16歳です。中学高校生的精神レベルで文句を言われる筋合いはあんまないはずだけど……
それに、精神年齢関係なく今の発言は恋人宣言か告白の類いだと思うんだけどなぁ……
このままだと『恋人になりたかったけど、先に枠が埋まってたから渋々相棒という立ち位置になった可哀想な人』なんだけど……
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!すぐ恋愛的に好きだと勘違いする非モテ人類ですか!いや違いますね!アリスっていう高嶺の花オブ高嶺の花みたいなのをゲットしてましたねこのマスター!」




