都市 プロローグ7 村
俺は、寺院の方へは向かわずに、彼らの後を追うように、そのまま真っ直ぐに進んでみることにした。
兵士と思える数名の人間が持ち運んでいる籠の中身が妙に気になっていたからだ。
あの籠の中には何やら高貴な人間--この界隈で言えばそれは巫女であろうか--が乗っているように思えた。
そう考える根拠としては、これまで俺が目にした、いかなる籠よりもとにかく大きかったからだ。
王宮の人間が乗るようなもの(俺は王宮においては籠を見たことがないので憶測で言っているに過ぎない)か、それ以上かもしれない。
勿論籠の大きさと中に入っている人間の身分には必ずしも正の相関はないだろうが、とにかくその籠は必要以上に大きく、ただ中におさまること以上の様々な設備がついているように感じた。
その時、俺はこの夜に祭儀が行われるという巫女や村人たちの言葉を思い出した。
もしかしたら、あの籠は広場へ向かうのではないかと推測した。
俺は兵士たちに気づかれぬように、後をつけた。
それと同時にあの籠を見失わないように注意を払った。
しかし、この手の動作は俺にとっては、大げさではなく呼吸することとなんら変わりはなかった。
人の気配を読むことと同等かそれ以上に、他人に気配を察知されないように動くことには長けていたし、
それで飯を食っていた時代があったからだ。
そして何よりあの兵士たちは、まったくといっていいほど後ろには警戒心を払わなかった。
ただ籠を運ぶことに最大限の注意を払っているように見えた。
路は基本的に平坦で直線的であったが、所々細くなったり太くなったりして少し鬱陶しかった。
実際、細い道のりでは幾度と小枝が頭に当たったり、生い茂った草が手や腕を突いたりで少し不愉快だった。
籠を運んでいる兵士たちはもっと大変であろうと少し同情した。
十分弱歩くと、兵士たちは歩みを止めて籠をそっと地面に降ろした。
彼らは一仕事終えたかのように、皆それぞればらばらにくつろいでいた。
中には地面にそのまま座り込むものもいたし、手についていた汚れを払うものや、大きく伸びをするものもいた。
それから五分ほど経過すると、待機している兵士たちとは全く違う身なりをした者たちが数名やってきた。
彼らは、顔以外の全身を分厚く白い防護服のようなもので覆っていた。
顔に関しても下半分は白く覆われており何も見えず、目の部分は透明なフィルターになっていた。
俺はこのような人間を生まれてこのかた見たことがなく、それは間違いなく異様だった。
中に入っている者ももしかしたら人間ではなく、何か別の生き物なのかもしれないと感じたほどだ。
兵士たちは、彼らが来たことに気付くと、ゆっくりと立ち上がりその白い得体のしれない防護服を来た者たちに何かしら声を発していたが、彼らはただそれに無言で頷き、地面に置かれていた籠を持ち上げた。
そして白い者達は、兵士たちを振り返ることなく籠を持ちながらスタスタと進んでいってしまった。
俺も彼らの後を追って先に進もうと思ったが、これ以上進めば必ずここに待機している兵士たちに気付かれてしまうだろうと思った。
俺はあきらめて兵士たちの前に姿を現すことにした。
「おい。誰かいるぞ」
視界に入るや否や、彼らの内の一人がそう言った。
「何者だ」
別の誰かがそう言った。
「俺はこの先に行きたいのだが。ちょっといいかな」
俺はそう言った。
「この先だと? あんた迷ったのか。ここで行き止まりだぞ」
「それでもかまわん。通してもらえないか?」
「だめだ」
「どうして行き止まりなのにだめなのだ」
「とにかくこの先は危険だ。死者も何人も出ている」
俺はそれを聞くと、心臓がドクンと脈打った。
何だかとてつもなく嫌な予感がした。
「俺が確かめにいってくる」
「おにいちゃんよ。悪いことは言わないからおとなしく引き返してくれ」
「そういわれるとかえって行きたくなるんだな」
俺は、彼らをどけてそのまま進もうとした。
それと同時に彼らのうちの何人かが互いに目を合わせて確認をとった。
すると、その中の一人が俺の首に剣の刃先を向けた。
「これは命令だ」
「さっき通ったやつらはいいのか?」
俺は笑いながらそう言うと、その中の二人は俺を取り押さえようとした。
俺は今、相手を傷付ける道具のようなものは何一つ持っていなかったので、かえって好都合だと思った。
間違って無為に人を殺してしまわなくて済むからだ。
俺は二人の手を思いっきり振り払い、二人に共通する身体の部位のある一点を叩いた。
そうすると案の定二人とも気絶した。
残った三人の内の二人は驚いてそのままじっと立ち尽くしていた。
長い剣で威嚇していた一人は、俺と距離をとりながら体勢を整えていた。
偏見だと言われるかもしれないが、このような長い剣を抱えている人間は普段から殺しには慣れていないであろうと考えている。
もし殺しに長けていたとしても、俺とは結構かけ離れた戦術を用いる人間であろう。
俺は剣を抱えた兵士の方へ直進すると、彼は己を守るかのように剣を定めた。
この期に及んで攻めの姿勢を感じないものには負けることがないだろうと思った。
正面に入ったが彼は依然として剣をふるう気力がなく俺は、あっさりと気絶させることができた。
残った二人は特に逃げるわけでもなくわなわなとふるえながら立ち尽くしていたが、
増援を呼ばれても面倒なので、一応二人とも気絶させておくことにした。
俺は彼らが倒れていることを確認すると、白い防護服を来た連中が向かった方へと急ぎ足で向かった。
兵士の言う様に確かに道は途切れていて、その先にはただ黒い森が広がっているだけだった。
ここは到底今朝訪れた広場とはいえないほど辺境であったので、俺の推測はえらく外れてしまっていた。




