都市 プロローグ8 村
森の中に入り、数分ほど経過した。その間、さっき兵士たちから籠の運搬を引き継いだ謎の白い集団をみることはかなわなかった。もうずっと遠いところに行ってしまったのだろう。
彼らはどうにも急いでいるようだったし、ここら一帯を何もかも熟知しているのだとしたら無理もないと思った。
一方、俺はこの何から何までわからない夜の森を特にこれといった目印もつけずに、ただむやみに歩き回っていた。
兵士を気絶させてまで引き返すのも勿体ないような気がしたので、決して戻る気にはならなかった。
それにこの先が死者多数の危険な場所だと告げ、断固として俺を通さなかった兵士たちの言動も不可解だったからだ。
しかし、いまのところこの森には彼らの言うような何かがあるわけでもなかった。
少なくとも森そのものには何ら特殊性はない。もしあるとするなら、もっと別のところにたねがあるのだろうと思った。
それでも俺は今踏んでいる土の様子には進むたびに用心していた。
足場が突然なくなっていたり、崩れてしまうということがあればさすがに無事ではいられないだろうと思ったからだ。
逆に言えばそれ以外で気に留める要素はあまりなかった。
不快な点を挙げるとすれば少し蒸し暑いくらいだった。
気づくと俺はひどく汗をかいていることに気が付いた。
こんな夜に休憩一つ挟まずに、やみくもに歩き続けたからなのかもしれないが、やはりこの森は他のどこよりも幾分と暑い気がした。
そんなことを考えていると全身に夜風を受けた。
その風は冷ややかでもあったし、何やら得体のしれない熱気も含んでいた。
俺はこの得体のしれない熱気に何かたねがあるのだろうと思った。
正当な根拠は何一つなかったが、それ以外にこれといった特徴もない森であったので、そう結論づけることにした。
そうとなれば、ひとまず探索は打ち切って、どこか休まるところで一息したいと考えた。
どうせ籠を運ぶ連中はとうに見失ってしまったのだし、後ろからの人の気配もまるでないので、少し休んで体勢を立て直しても良いと思った。
無論、休まる所があればの話だが。
歩き進めていくと、得体のしれない熱気も感じなくなっていた。
それはもう俺がその環境に慣れてしまったからなのかもしれないが、とにかく蒸し暑さはこれといって感じなくなったのだ。
そして気づけば森を出てしまった。
森を出ると、足場はこれまで歩いてきた路のような堅い土壌や岩へと変わり、数メートル先は足場がなかった。
森の中を歩いている内に本当の袋小路に来てしまったのだ。
そこは崖の上のようになっていた。
そして涼しい夜風がしきりに吹いていて、心地良かった。
崖下の辺りを見てみると、視界の正面の近いところから、遥か遠いところにかけて、どこをみてもほとんど灯りは見受けられなかった。
一方で右手の崖下には赤い灯りがいくつも集まっていた。
それの正体はおそらく人だかりに違いなかったが、それがなんであろうと今の俺にはあまり関係がなかったので考えることはやめた。
むしろ俺はもう少し灯りが全体的にまばらに点在していた方が美しいだろうにと考えていた。
夜風を浴びながら、崖下の景色を見ると、俺は幾分と満足したのでまた森の中に入って探索を再開することにした。
俺はこのとりわけ各々の位置に特徴を感じられない森(それは今が暗い時間だからなのかもしれないが)の中で、唯一手がかりとなる指標を見つけた。
それは風のようなものであり、あるいは空気の質のようなものなのかもしれない。
それらはおそらく多くの人間には感知できないもので、俺のような特異な存在にのみ読み取れる芸当なのかもしれないと思った。
そのような俺に備わる何らかの特異性は、先天的に俺の中にあったのかもしれないが、俺はそれがこの世界で生きていくうちに俺の意志とは無関係に培われたものと考えている。
そういう風に考えてみると、やはり俺はこの森からしばらく出るべきではないと確信した。
話をもどすと、とにかくその指標は温度と考えてしまっても差し支えない。
俺は"あの得体のしれない熱気のようなもの"をより強く感じられるような場所へと進んでいくようにした。
それは辺りの温度を感知して、より温度の高そうなところへ向かうと言っても間違いではないのかもしれないが、より正確には森に漂う空気が持つ質のようなものを連続的に読んでいき、それがより濃い所へと進んでいくのだ。
それには結構集中する必要があったが、その分、闇雲に歩き続けていた時より数段、本質に近づいているような手ごたえがあった。
そして、それを繰り返していくうちに、突然森の中に瓦礫でできた小さな円筒状の構造物が目に入った。
それは木々の隙間に溶け込むように建っていたので、一瞬それが構造物だと認識できなかった。
その構造物は分かりやすく言うなら井戸のようなものだったが、背丈は俺よりも数メートルほど高かった。
俺はその井戸のような構造物に近づいてみた。
するとゴーゴー、ゴーゴーという、風が思いっきり吹いている音が聞こえた。
それはその内部から発せられた音に違いなかった。
つまりそれは上に行けば、穴がぽっかり開いているということを意味していたので、轟音がするという点以外ではまさに井戸そのものともいえた。
俺はいっそそこに上って、下の穴がどうなっているかを確かめてみようと思ったが、今すぐにはこの瓦礫を登る術を思いつかなかったので、とりあえずはこの辺りを集中的に探索してみる事にした。
俺はふと思いついたように、地面をみた。
すると手がかりとなる明確な指標を見つけた。それは間違いなく人の足跡だった。
それも複数人によるものだったので、さっきの籠を持った白い者達によるものだと確信した。
それから、唯一樹木が生えていない空白の領域が目に入った。
俺はその虚無の空間に入ると、突然何か悪い気配のようなものを感じた。
それは誰かの目線のようなものだったし、より強い熱気のようなものでもあった。
そして、さらにそこから地面が大きく沈下していて、その先には大きな穴があった。
それは洞窟の入り口のようなものだった。




