都市 プロローグ6 村
小屋が建っている所からは二本の路があった。
一本目の路は歩けばそのまま山道へと出ることができる。
山道に出た後、下ればさっきの巫女が朝礼会をしていた広場へと向かうことができるし、上ればそのまま山を越えて、ここら一帯から抜けられるだろう。
つまり俺が広場で取り押さえられてこの小屋へと連れられた経路は、広場から山道を上って、その途中で小屋へと反れてきた路ということだ。
二本目の路に関しては、上り坂になっていたがその先がどうなっているのかは俺にもわかりようがなかった。
結局は二択だった。
山道に出て、この界隈から消え去るか、あるいは俺の知らない二本目の路の方へ進んでみるかということだ。
何故ならもし広場に出てしまえば、おそらく大勢の村人がいるだろうし、俺をふたたび小屋に入れようとしてくる連中に遭遇するかもしれないので、わざわざ近づくことはないと思った。
結局、俺は二本目の路の方を進むことにした。
この路は上り坂で、おそらく必要以上にぐねぐねと曲がっていた。
勿論、勾配は幾ばくか緩やかではあったが、ここまで酷く曲がられてしまうと必要以上に遠回りをしているようで損をした気分になってしまうし、何より気味が悪かった。
気味が悪いのは決してその曲がりようだけではなかった。
路の周りを囲む森全体から、人の気配が恐ろしいほどに感じ取れないのだ。
それどころか虫の鳴き声一つ聞こえなかった。
実際、すれ違う人間は一人としてみることができなかった。
無論、それは今の俺の立場からすれば幸運なことではあるのだが、気味が悪いことに変わりはなかった。
気味の悪い路を歩き始めてから一時間近く経過したように思われた。
この人気のない、曲がりくねった道は、時に下り坂になり、上り坂にもなった。
方向感覚もとうに無茶苦茶になっていた。
これでは一体どこに向かっているか見当もつかないので、一度小屋に引き返して山道へ抜けようとすら思ったほどだ。
しかし、ちょうどその時だった。
黒い闇の中、遠くにかすかな黄色い明かりがポツリと見えた。
その明かりは建物によるものかもしれないし、あるいは大勢の人間が暗闇のなか持ち歩いていた松明かもしれない。
いずれにせよ俺は、その明かりをみると妙に落ち着いてしまった。
本当に今日の俺はいつもと何から何まで違っていた。
俺という人間は普段なら他人に対して、多かれ少なかれ警戒心を抱くし、逆に暗闇の中、一人で歩くのは好きだった。
しかし、今日はまるで正反対だった。
人がいなければ苛立ちを覚えるし、明かりを見かけて安心感を覚えるのだ。
俺はあの幼女のせいで調子がくるってしまったのかもしれない。
十分程進むと、明かりはどんどん近づいてきて、それが建造物によるものだとわかった。
その建造物は寺院のようなものだろうと推測できた。
そして、もう馬鹿みたいに路が上下したり曲がったりせずに、まっすぐで、かつ平坦になると程なくして分岐点が訪れた。
気づけば至る所から虫の音色がジリジリと鳴り響いていた。
俺はゆっくり歩みを止めて、どちらに進もうか考え込んだ。
一つの路はそのまままっすぐ進む道であり、もう一方の路はここから垂直に生えていた。
おそらく後者を選べば寺院の方に到達できると思った。
なので、俺は垂直に曲がって寺院の方に足を運ぼうとした。
その時だった。
寺院の方から、こちらに向けて歩いてくる気配を察知した。
その数は五人から十人程度であると予測できた。
俺は素早く森の中に隠れて、その様子を見守ることにした。
しばらくすると、五人くらいの大人がジャリジャリと音を立てて、大きな荷を運びながら、こちらに向かってきた。
そして、分岐点に到達すると、一旦足を止めて、皆一斉に向きを変えて曲がると、俺が来なかった方の路を、ゆっくりと荷を運びながら歩いて行った。
推測だが、彼らは村人でなく兵士のように思われた。
服装が村人のように軽装でなかったし、歩き方がやや特徴的だった。
しかし、誰も俺の気配にはまるで気が付かなかった。




